「な、何やってるんですかのび太君!?」
その場にいたあずさやほのかはのび太の奇怪な行動に驚いた。しかしこれだけではなかった。床に倒れた検査員に紗羅が飛びつきそれに続くようにのび太も押さえ込みに行った。
「は、離せ!」
「一校のCADに何をしたの!?」
「っ!な、何もしていない!言いがかりはよせ!」
「だったら別の機械でもう一度CADを検査しても問題ないわよね!」
「そ、それは・・・・」
紗羅の勢いに押され、CADを調べさせろと言うと表情が固まった。それを見たのび太も何かあると思ったのか追撃、しかしそれでも口を割らない。そこで最後の手段で紗羅が検査員の顔に触れようとしたその時。
「何事かね」
「───!」
決して大きな声では無かった。それにもかかわらずこの騒ぎの中、確かな存在感を出す人達がそこにいた。
「九島閣下・・・・!」
「一体何があったのかね?」
「・・・・一校のCADに不正工作が行われたので、取り押さえ、背後関係を尋問しようとしていました」
「不正工作・・・・」チラッ
「(。_。`)コク」
烈は一緒に来ていた英一にアイコンタクトをすると、英一は機械にセットされたCADを取り出す。そした、数秒じっと見つめると何かに驚き、CADを烈に見せる。
「烈、これを見てくれ」
「これは・・・・電子金蚕か」
「電子金蚕?」
「なんですか、それ?」
「こいつは、僕達が現役の頃東シナ海諸島部戦域において広東軍が使用していた魔法だ。プログラムそのものではなく、出力される電気信号を改竄する能力を持つ。OSの種類やアンチウイルスプログラムの有無に関わらず電子機器の動作を狂わせるSB魔法の一種だ。僕達はこいつの正体を突き止めるのに随分苦労させられたよ」
説明を終えると烈と英一は検査員に視線を向ける。彼は小刻みに震え、顔面蒼白となっていた。
「これを仕掛けたのは君だな?」
「あ、その───」
「七校の選手が波乗りで初歩的なミスをしたのも電子金蚕を使い、CADを改竄し魔法を狂わせた。しかしこれと一校の選手がバランスを崩した水面の操作はこの魔法では不可能だ」
「・・・・・」
「いずれにしても、君から話を聞く必要がある。連れて行け」
後ろに控えていた人達に指示を出し、男の両脇を抱え外へ連れて行った。
そして烈はあずさの方に振り向き
「君が一校のエンジニアかな?」
「は、はい!」
「CADは予備のものを使いなさい。こんな事態だ、改めてチェックは必要あるまい。運営委員に不正工作を行う者がいるなどかつてない不祥事、言い訳は後でじっくり聞かせてもらおうか」ギロッ
「は、はい・・・・」
「さて、君がCADの異常に気がついたのかな?」
「い、いえ、僕じゃなくて・・・・」チラッ
「・・・・異変に気がついたのは私です。詳細は、申し訳ありませんが言えません。人か多すぎます」
「ふむ、確かに魔法師なら知られたくないことの一つや二つはあるだろう。無粋だったかな」
これは烈の様な十師族だけではなく、自身が得意とする魔法や扱うCAD、能力を知られることは弱点を晒されるも同じ事。故に通常は自身のことは話さないのだ。
「あぁ後このCADを借りてもいいかな?中身の異物を調べたいんだ。終わったら綺麗にして返すから」
「はい、大丈夫です」
「では、我々はこれで。本番楽しみにしているよ」
烈達はそう言い、テントを出ていった。
その後、のび太達は一校のテントに戻ると変な視線に晒され、真由美に詰められた。
「もう、びっくりしたわよ。ウチの生徒が突然発砲したなんて言われたんだから!」
「す、すみませんでした・・・・・」
「まあまあ会長、のび太君達のおかげで光井さんが怪我をせずに済んだんですから」
「あははは・・・・」
「でもよく分かったわよね西九条選手。何をやったの?」
「私も分からないんです。九島閣下も聞いていたんですけど、言えないとだけ」
「ふーん、のび太君は知ってるの?」
「ま、まぁ、一応。でも言えませんからね、少なくとも九校戦が終わるまでは」
「えぇ〜気になるじゃない」
真由美はごねたがが次の競技の時間になってしまった為のび太は観客席、ほのか達は控え室へと向かっていった。
そして、バトルボード本番、最初のレースでは予選での作戦の対策としてほのか以外の選手もサングラスをかけていたが、ここまでも達也の作戦の内で、光波振動系の魔法でコースに明暗を作って実際よりも道幅を狭く見せる錯覚を生み出した。頭ではこんなに狭くないと分かっていても人間は目からの情報になかなか逆らえず、よってコース中央をゆっくりカーブする対戦相手を尻目にインコースぎりぎりを攻めたほのかの圧勝だった。
決勝戦、相手は検査の件で知り合った紗羅だった。紗羅も他の選手同様サングラスをかけていて前の作戦も混ぜながらあの手この手で紗羅に対抗するが“何故か"使う魔法が分かっているかのような動きをしてほのかを困惑させるが、最後、ギリギリの所でほのかに負けてしまった。
一方、バトルボードの裏では女子アイス・ピラーズ・ブレイクの決勝トーナメントが行われ、上位を一校が独占した。これは大会が始まって以来の快挙となり運営委員から合計獲得ポイントを変えずに3人を同率優勝させてはどうかと言う打診があり、参加メンバーの明智エイミが前の試合で死力を尽くしきった為に限界が来てしまい試合を棄権、雫は深雪と戦いたいと言う意志をだし深雪もそれに同意した。
試合が始まると深雪は予選でも見せた“氷炎地獄”によって攻めと守りを同時に行う深雪に対し、雫は達也から伝授されたCADの複数同時操作を駆使し、自陣を守りつつ熱線化した超音波を射撃する“フォノン・メーザー”という魔法によって、これまで無傷だった深雪の氷柱に初めて穴を空けた。しかし深雪がすかさず“ニブルヘイム”というこれまた高難度な大規模冷却魔法で対抗、液体化した窒素が雫の氷柱にびっしりと付着したタイミングで再び“氷炎地獄”を発動、窒素が急激に気化したことによる膨張で雫の氷柱を根こそぎ破壊し、一気に決着となった。
そして、新人戦4日目。
モノリス・コードには、戦いの舞台となる専用のフィールドが全部で5つある。遮蔽物の多いフィールドに高低差の大きいフィールド、そして逆に遮蔽物も高低差も一切無いフィールドなど、どれが選ばれるかで戦略にも大きく影響が出るほどに多種多様だ。
第一高校vs第六高校の対戦で選ばれたのは、岩場のフィールド。所々に大きな岩が幾つも設置されているが高低差は少なく、どちらかというと直接ぶつかり合う試合展開になりやすい。
「ぐぅ・・・・、このっ! さっきからちょこまかと動きやがって・・・!」
自陣のモノリスを背に立つ守備担当の六高選手が圧縮した空気弾をいくつも飛ばしながら苛立しげに声を荒らげていた。
彼の視線の先には岩から岩へと素早く移動し、相手の魔法を避けながら少しずつモノリスに近づいていく。
モノリスコードの勝敗を決める方法は相手のモノリスの中にある512文字のコードを選手が持つデバイスに打ち込み運営委員に送るか相手チームを戦闘不能状態にする事、この2つである。前者での勝利をするためにはモノリスに専用の魔法式を打ち込みモノリスのコードを晒さないと行けないのだがその専用の魔法式の射程距離は10mでありかなり近づかないとモノリスに届かない。
だからこそ守備担当の役目はモノリスの半径10m以内に相手選手を近づけない事、モノリスが開いても中のコードを読み取られないように邪魔をすることなのだ。
「どこだ!」
しかしのび太はモノリスへ向かわず、岩陰に隠れながら相手選手をかく乱する。そして、六高選手がのび太に背を向けた瞬間にのび太は魔法を放ち、相手選手の後頭部へ当てた。頭部に強い衝撃を受けた六高選手はその場に倒れる、辛うじて意識はあるが体に力が入らずそのままリタイアとなった。
ウーーーーーーーッ!
のび太が六高選手を倒した瞬間に試合終了のブザーが鳴り響いた。このブザーが響いたという事は他2名の選手達も森崎や左江内が倒したのだろうと考え、2人の元へと向かっていった。
「やったね、まずは1勝!」
「難なく突破出来て良かったです」
「始まりにしては上出来だったな」
試合後控え室に戻ってきたのび太達、先程の試合の勝利の余韻に浸っている。しかしずっとそのままの訳にも行かず試合の反省点や次の試合の作戦会議を行うことに。
「次の試合って何処だっけ?」
「次は第四高校とで、市街地ステージだったかな。多分廃ビルの中とかじゃないかな」
「なら、次は────」
他の高校の試合が終わりいよいよ第一高校と第四高校との試合が行われる。
のび太達は廃ビルの中へ移動しどう動くかを相談していた。
「作戦の確認な。今回は俺が守備担当、のび太と左江内が攻撃担当。モノリスを見つけるもいいが、今回は相手の殲滅がメインな」
「うん」
「分かりました」
「そろそろかな」
作戦の確認を済ませそれぞれが動く為にポジションに付く。それから数十秒後、試合開始のブザーが鳴る。
ゴゴゴゴゴッ!
「な、何?!」
スタートのブザーが鳴ると同時にのび太達がいるビルが大きく揺れ始め、それが徐々に大きくなっていった。
「こ、これは?!」
一校テント
「一体どうなってる?!」
「選手は無事なの?!」
「何があったんだ?」
夕方から始まるミラージュ・バットの準備の為一校のテントにやってきた達也だったが、なにやらテント内で他メンバーが慌ただしくしていた。
そこへ血相を変えてやって来た深雪と雫
「お兄様!」
「深雪、どうしたんだ?」
「それが、事故と言いますか・・・・」
「深雪、あれは事故なんかじゃない。故意のオーバーアタック、明確なルール違反だよ」
「雫、今の状況で滅多なことを言うものでは無いわ」
雫の話を聞き、モニターに映ったビルの規模を見てこの場にいる全員が慌てているのに納得がいった。かなり酷い状態だったのもありのび太の安否が気になった達也は真由美に聞くと
「のび太君はかすり傷だけだったんだけど、左江内君と森崎君がね・・・・左江内君は右足と左腕の骨折で済んでいるわ。でも、森崎君がかなり危ないらしいの。今は軍の病院で緊急手術をしているわ」
「一体何故こんな事に?」
「市街地フィールドだったんだけど、廃ビルの中で『破城槌』を受けてしまったの・・・・」
破城槌とは加重系の系統魔法であり、対象物の「一つの面」に加重がかかるようにエイドスを書き換える魔法。
「屋内に人がいる状況で破城槌を使用した場合、殺傷性ランクがAに格上げされます。バトルボードの危険走行所ではない、明確なレギュレーション違反だと思いますが?」
「そうね、しかも森崎君の方が、下手したら魔法師生命どころか今後の生活にも支障をきたす恐れがあるらしいわ」
「3人とも怪我の度合いが違うのは何故ですか?」
「のび太君の話ではのび太君自身は窓から身を乗り出した状態でスタート準備してたらしいのと森崎君が咄嗟に魔法で外まで飛ばしたらしくてかすり傷で済んだみたい。それで森崎君は重症、左江内君は硬化魔法を使ったみたいだけど、それでも」
「・・・・しかし状況がよく分かりませんね。3人が固まって同じビルにいたんですか?」
達也が気にすることではないのかもしれないが、オフェンス1人とディフェンス2人、あるいはオフェンス2人とディフェンス1人に別れる戦法が定石となっているモノリス・コードで、チームの3人が同一の攻撃を受けるなど、どのような状況だったのか少し理解しにくかった。
「スタートの直後に奇襲を受けたんだよ、試合開始前に索敵してないとこんなこと出来ない。破城槌はともかく索敵は故意だと断言出来る!」
答えをくれたのは、憤懣やる方ないといった雫の声だった。
「なるほど・・・・そりゃあ、大会委員も慌てているだろうね」
「フライングを防げなかったから、ですか?」
「それは大した問題じゃないよ。それより、崩れやすい廃ビルをスタート地点に設定したことが、今回の事故の間接的な原因だと言えるからね。大会委員としてはこのまま新人戦モノリス・コードを中止にしたいんじゃないかな?」
「確かに中止の声もあったけど、結局うちと四校を除く形で予選は続行中よ。最悪の場合、当校は予選2試合で棄権でしょうね」
真由美の言葉に、達也が首を傾げた。
「最悪の場合も何も、棄権するしかないと思いますが・・・・」
「それについては、十文字君が大会委員本部で折衝中よ」
「そうですか・・・・・そう言えばのび太は?」
「怪我の手当を終えて、今は自室で待機しているわ。一応千葉さん達に一緒にいてもらっています」
────付き合いの短い俺が行った所で出来ることは少ない、ここはエリカ達に任せる方が得策か。
達也自身心配していない訳では無いが下手のことを言って余計メンタルを沈める可能性もあるのとのび太1人のために次の競技の調整を疎かにする訳にもいかない為にかつてからの友人達に任せるほかなかったのだ。
体は治せても、心までは治せないのだから・・・・