試合開始のブザーと共に両陣営が挨拶代わりの魔法の砲撃戦を始めた。魔法による遠距離攻撃の応酬という如何にも“魔法師同士の勝負”と呼べる光景に、観客は興奮の歓声と共にそれを迎えた。
両陣地の距離は、およそ600メートル。実弾銃ならば狙撃銃の領域になる距離にて、三高からは一条が、一高からはのび太が、外見上は自動拳銃そのもののCADを互いに突きつけて撃ち合いながら、お互いに歩み寄っていた。
一条は準決勝に使っていた汎用型を特化型に切り替えている。つまりそれは、準決勝のときに披露していた絶対防御をあえて捨てたということを意味している。そしてのび太だが、ここまでの試合の中で見せたことのなかった二丁拳銃スタイルで迫っていた。
一条の攻撃は1発1発が決定的な打撃力を秘めているのに対し、右手のCADで一条の攻撃を撃ち落とし左手のCADで攻撃を仕掛けるのび太の射撃は、牽制以上のものにはなっていなかった。単に相手に届いているだけで、魔法師が無意識に展開している情報強化の防壁で防がれてしまう程度の振動魔法であった。
しかし、のび太のことを“二科生の新入生”という限られた情報でしか見ていなかった一高の上級生などは、総合的な魔法力が劣っている彼が、相手の攻撃に晒されながら肉眼で見ることも難しい距離を的確に狙えることに驚いていた。その胆力は、間違いなく新人離れしていると言えよう。
それは彼をよく知る一高生徒達も同様であった。のび太と一条が1歩1歩近づくごとに、普通なら防御に力を回すことを強いられ、その分攻撃の手数が減っていくのだが、彼にそんな事は関係なく防御を意識しながらも攻撃の手数を減らすことなく進み続けていたのだ。
(しかし、改めてのび太のサイオン保有量を調べたらとんでもない事が分かったが、今に限っては嬉しい誤算だったな)
本来グラム・デモリッションを発動させるには膨大なサイオンを使わなければならない、今回使っているグラム・デモリッションは達也のアレンジでサイオンを使う量が多少抑えられているがそれでも普通の魔法師の1日分のサイオンを使うが、のび太はそれを何発も使っている。それだけのび太のサイオン保有量がズバ抜けているという事だ。
「(まさかグラム・デモリッションを使ってくるなんて。それに出来杉が調整していたCADの魔法式も変えられているみたいだ、だがそれでもやる事は変わらない)打ち合わせ通り僕も出る」
「分かった」
一条が前に出て他2人がモノリスを守るといった形をとっていたが、このままでは時間がかかりすぎる可能性があった為吉祥寺が一高のモノリスを狙いに行くことに。
そして吉祥寺が動き出した事に気づいた達也達が吉祥寺の進む道を塞ぐように立ち塞がる。達也との距離が近くなった時、吉祥寺は得意魔法のインビシブル・ブリットを発動させようとした。しかしそれより早く達也が身につけていたマントに魔法をかけ、てバサバサとはためくマントが、鉄板のように皺1つ無くピンと広がった状態で固まり即席の防壁を作り出した。
(あのマントにはこんな使い方があったのか、これじゃあインビシブル・ブリットが使えない!)
“対象を視認しなければならない"という弱点をつかれ、若干動揺するも直ぐに切りかえ、達也の反撃、そして左から魔法による攻撃を移動術式で避ける。
誰が魔法を放ったのか確認すると達也の奥から幹比古が精霊魔法で攻撃していることが分かり吉祥寺は直ぐに狙いを幹比古に切り替え再びインビシブル・ブリットを仕掛けようとした瞬間、幹比古が何人にも見えた。これは幻術を使い自身を何人にも見せているのだ。しかしそのせいで吉祥寺は対象を絞ることが出来ず魔法を発動できなかった。そしてそれが隙となってしまい達也が吉祥寺に魔法を放とうとした瞬間、
ズドォォオン!!
「っ、将暉!」
達也は丁度すれ違いになっていた一条の砲撃を直に受けてしまい吹き飛ばされてしまった。
この援護を無駄にしまいと吉祥寺は幹比古に向けて魔法を発動、幹比古は後ろに引っ張られ、更に地面にも同じ魔法が発動されていて地面に引っ張られてしまい身動きが取れなくなってしまった。
一方、吉祥寺の無事を目視で確認した一条、それは一瞬とはいえのび太から視線を外してしまう行為だった。その一瞬を逃すまいとのび太は自己加速術式で走る速度を上げ一条に急接近、一条は視線を前に戻すと急激に距離を詰めるのび太に驚き、反射的に魔法を発動させてしまった。
(しまった、加減がっ!このままでは殺してしまう!)
一条は加減を間違え規定を超えた威力で魔法を発動、それものび太を取り囲み、絶対に逃さないとばかりの数の魔法が展開された。
しかしそんな状態になってものび太は焦らず1つ1つグラム・デモリッションで魔法陣を消していき、魔法陣が残り1つ、のび太の後方に展開されている魔法を破壊すればいいのだがのび太は破壊せずその魔法陣に背を向けたまま突き進んだ。
そして展開された魔法が放たれ、のび太の背後で爆発した。
(痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!でも!負けられないんだぁぁぁぁ!)
のび太はその爆風を利用し、一条との距離を一気に縮め、一条の背後にまで飛んだ。そして振り向き一条の頭に銃口を突き付け引き金を弾いた。至近距離で魔法を受けた一条はプロテクターを付けていてもその威力を殺す事は出来ず、脳震盪を起こしそのまま気絶し、のび太も遅れてダメージが来たのかその場で片膝を着いた。
「将暉が、負けた・・・・?」
吉祥寺はパニックに陥りかけていた。自分が目にしているものが、信じられなかった。
“将暉が地面に倒れている"
それはありえない光景だった。決して起こらないはずの出来事であって、チームとして負けることはあっても、一条が倒される確率はゼロのはずだった。
「吉祥寺君、避けてっ!」
守備に残した出来杉の声を間近に聞いて、ハッと我を取り戻した吉祥寺は反射的に『避雷針』と言う魔法を行使した。電気抵抗を改変された丈の短い草が放たれた電撃を吸い寄せ地面に流す。
吉祥寺は、加重魔法で押さえ込んでいたはずの敵選手が、荒い息に灰色のローブを揺らしながら立ち上がり彼を睨みつけているのにようやく気がついた。
加重魔法で抑え込まれていた幹比古には何が起こっていたのか理解するのに時間がかかった。ただ、彼を地面に押さえ込んでいた圧力が急に消え去って、急いで地面を転がり、距離を取って立ち上がる、反射的な避難行動を取っただけだった。
そこでようやく状況を理解した。“達也の姿が無く"、のび太は膝を着いている。倒れてはいないが戦闘続行は難しいコンディションに見える。
そしてその前に一条将暉が倒れている。
(やったんだね、のび太!)
作戦としてはのび太に一条の足止めをさせ、その間に他2人を倒し、3人で一条を倒す算段だった。
幹比古の正直な思いとしては3人でも一条を倒す事が出来るか分からず、不安であった。力も技術も何もかも上の相手にどうやったって勝てない。そんな思いが頭から離れなかった。しかし、そんな下馬評を覆し一条に勝って見せた。
そんな姿をその目で確かめた現実に奮い立つ。しかし今の幹比古のコンディションは良好とは言えず、むしろ最悪と言っていい。息をする度胸が悲鳴をあげ、視界もハッキリとせず長時間の胸部圧迫のせいで軽い酸欠状態になっている。倒された時に激しく打った背中が痛い。草が生えているくせにやたらと硬い地面だ、と幹比古は心の中で毒づいた。
しかし、ここでリタイアすることは出来ない。例えコンディションが最悪で、一対二になってしまったとしても。
のび太は“クリムゾン・プリンス"を正面から倒したのだ。ならば自分は、せめて“カーディナル・ジョージ"だけでも倒してみせる──そういう意地が、震える幹比古の脚を支えていた。
そしてローブに信号化されたサイオンを流し、自身の姿を何人にも見せる。
(また幻術かっ!)
しかしダメージが感じているよりきているのかふらついてしまう。が、唇を噛み切る事でふらつく足に活を入れた。
そして幹比古の手がCADに伸び、15回キーを操作するとその両手を地面に叩きつけた。
するとその手元を起点として、地響きを伴って地面が揺れた。
如何にも魔法使い然としたマントとローブを身に纏った人物によるアクションも相まって、吉祥寺は“掌で叩いたから地面が揺れた”という錯覚を引き起こした。いくら頭では単なる振動魔法であると理解していても、心の奥底での感情がそれを否定する。
すると今度は、幹比古の手元から吉祥寺の足元へ向けて地割れが走った。加重軽減と移動魔法を複合して空に逃れようとするが、まるで動物のように動く草が彼の足に絡みついているせいで地面から離れなかった。
その間にも地割れが足元に到達し、深い地中へと引きずり込まれるような感覚を味わった。それから逃れるために、吉祥寺は魔法力の大半を使って草を引き千切りながらむりやり高く跳び上がった。全ては状況が引き起こした錯覚で、本来大した力も必要とせずに逃れられる程度のものでしかないとも知らずに。
そうして不可思議な魔法から脱出できたことで、吉祥寺は安堵感に満たされた。
だからだろう、上空から活性化した独立情報体が自分を狙っていることに、彼は最後まで気づかなかった。
“地鳴り”、“地割れ”、“乱れ髪”、“蟻地獄”、そして“雷童子”。
5つの魔法を連続発動することによる幹比古の連撃に、真紅郎は地面へと撃ち落とされた。
「このっ!」
地面に手をついたままの姿勢で撃墜の成果を確認した幹比古へ、出来杉の魔法が展開され、ることは無かった。
パリンッ
「えっ?」
展開中の魔法陣が壊され、更に背後から衝撃を受け吹き飛ばされてしまいそのまま倒れてしまった。朦朧とする意識の中最後に視界に映ったのはなんと倒されたはずの達也がCADを構えている姿があった。
「・・・・勝った、わよね?」
「・・・・勝ちました、ね」
「やった勝ったんだ!」
「新人戦は
独り言のような真由美の問いかけに、独り言のような口調で市原が答え、それが合図となり、誰かが歓声を上げ、連鎖的に爆発して行った。
一高生の無秩序な叫び声が、渾然一体となり地響きと化してスタンドを揺らす。それは無邪気で、純粋すぎる、感情の発露。
やがてスタンド全員が敵味方の区別無く、激闘を終えた選手達を分け隔てなく讃える拍手へと変わっていった。
「2人ともぉ!やったね!」
「あぁ」
「それにしても、1番美味しいところを持って行ったね達也。まさか狙ってたり?」
「そんなつもりは無いさ、本当に偶然だよ」
試合が終わり、二人の元へ駆け寄るのび太、そして冗談が言えるくらいには回復した幹比古、そしてそのイジりをうける達也。
三人は暖かな拍手でスタンドにいる一高生とその関係者達に迎かえられており、それに答えるようにのび太は大きく両手を振る。
「でもこの試合の立役者はのび太だろうな。作戦自体はほぼ失敗と言ってもいいが、アイツが一条を倒した事で流れがこっちに来た」
「そうだね。・・・・所で達也」
「なんだ?」
「君、一条選手の砲撃もろ受けてたよね?なんでピンピンしてるんだい?」
「そう言えば、幹比古には言ってなかったか。俺は古式魔法師で忍術使いの九重八雲先生の元で体術を学んでいてな、その中で肉体の強度を上げる方法があってそれを実践したんだ」
「あの九重先生の弟子だったのか・・・・でも納得、他の人達より動きが違ってたからどんな修行してるんだろうって気になってたんだ」
幹比古の質問に答えた。(嘘は言ってないけど、本当でもない)
「うっ・・・・」
「どうした?」
「さっきの無理が今更来たのかも・・・・」
「そう言えば君も一条選手の攻撃を受けてたね。戻る時に医務室に行こうか」
先程までの試合でアドレナリンが大量に分泌されていたせいか痛みがそこまで酷くはなかったのだが。一条のオーバーアタックのダメージが遅れてやって来て、痛みを感じ始めたのび太。
勝利の余韻を程々に、3人はそのまま医務室へと向かって行った。
「まさか骨が折れていたなんて・・・・」
先程受けた検査で肋骨が折れていた事が分かった。他の臓器等には特に影響は無く、見えないギプスの様な魔法で骨同士を固定し治りを早くする処置を受けた。大体2〜3日程で治るとの事、だがのび太の出番は新人戦モノリス・コードで終わる為、特に困ることは無かった。
治療を終え、ゆっくりと自分の部屋に戻ってきて扉を開けようとドアノブに手をかけようとするが、その寸前で手を止めた。
(誰か、いる?)
ホテルの扉は基本的にオートロックであり鍵を持っているのび太かマスターキーを持っているホテルの従業員しか入れない。のび太自身は今ここにいて従業員が来ているなんて話も聞いていない。
もしやと思いながらCADに手をかけ、バンッと扉を開けた。
「えっ・・・・・」
まるで自分の時間だけが止まったかのような感覚に囚われた。目の前には
青いボディ、白い半円ポケット、黄色い鈴、丸い体をした、この世で最も大切な親友がいたのだから。
「やあ、久しぶりだね。のび太君!」
「ドラえもん・・・・・ドラえもぉん!!」
数年ぶりに再会した親友に怪我をしていることさえ忘れ、思いっきり抱きついた。
「どうして・・・・」
「ふふっ、これだよ」
ドラえもんが見せてきたのはのび太が使った『ウソ8OO』の空き瓶。
「これを飲んで、『
「・・・・・・・あっ!」
「やっぱり。僕もびっくりしたんだよ?一度未来に帰ったあと突然2095年の方に行ってくれって言われたから」
「グスン、そうなんだね。あっ、忘れてた。ドラえもん・・・・・おかえり」
「うん。ただいま」
「そうだ。皆にも連絡しないと!っ、痛ててててっ」
のび太が立ち上がり携帯を取ろうとした時、怪我をしたところが痛みだしその場に伏せってしまった。
「もう、さっきの試合で無茶するからだよ。ちょっと待ってて。ん〜と
テッテレー『タイム風呂敷〜』取り敢えずこれ巻いて」
四次元ポケットの中からひみつ道具『タイム風呂敷』を取り出し、のび太の胸の辺りを巻き、数十秒待って風呂敷を外した。のび太は軽く体を捻り怪我の具合を確認、痛みがなくなり間違いなく治ったことが分かった。
「そう言えばドラえもん、いつ帰ってきたの?」
「決勝戦の少し前にね。スタンドから応援してたんだ」
「全然気づかなかった・・・・」
「そりゃあ、あれだけ人がいるんだし何より君、試合に集中してたから」
「それもそっか、あっそうだ。ドラえもん、皆に会いたくない?」
「皆来てるの?」
「うん。僕の応援でね、お母さんも来てるし。あと高校の友達も呼んでいい?ドラえもんの事紹介したいんだ」
「うん!」
手に取った携帯で恐らくみんなと一緒にいるであろうエリカに連絡を取った。と言っても細かい内容は言わずとにかく部屋に来てくれとだけ伝えて皆が来るのをワクワクしながら待った。
「どうしたのかしら。のび太さん」
「やけに嬉しそうに連絡してきたけど。そんなに試合に勝ったことが嬉しいかな」
連絡を受けてその場に居たエリカ、静香、スネ夫、ジャイアン、美月、レオ、ほのか、雫、深雪。そして既に着替えを済ませた達也と幹比古もおり、みんな連れてきてくれと言うお願い通り、全員でのび太の部屋に向かっていた。
「のび太〜来たわよ〜」
「はーい」
ガチャリと扉が開き、のび太が出迎える。
一体何の様か、と聞こうと口を開きかけたその時のび太の後ろからひょっこりと顔を出したドラえもんが視界に入った。
「やあ皆。久しぶりだね!」
「「「「「・・・・・・」」」」」
「「「「?」」」」
再び止まる、時間。ドラえもんの事を知ってる組は本来居ないはずの彼がいることに驚き過ぎて固まってしまい、知らない一高メンバーは頭に?を浮かべていた。
「あ、あれ?おーい・・・・」
「「「「「ドラえもん(ドラちゃん)!!!!」」」」」
「うわわ、うげえっ!?」
感動のあまりドラえもんに飛びつく一同、しかし小学生の頃と違い体が大きくなった分勢いも体重も増えているわけでその頃と同じように構えてしまったドラえもんはその重さに耐えられず押しつぶされてしまった。
「く、苦しぃ・・・・」
「ああごめんごめん!」
「本当にあの頃のままだぁ」
「まぁ、未来に帰ってからそんなに経ってないから・・・・」
「のび太、そろそろ説明が欲しいのだが?」
ようやく思考が戻ってきた一高メンバーだがどこから突っ込めばいいのか分からず取り敢えずのび太に説明を求めたのだった。
取り敢えず書きたいところまでは書けた。