雫からの誘いで1泊2日のお泊まりをする事になったのび太達は今、泊まる場所である雫の別荘へ行くために港へ来ていた。
「あ! ひょっとして、あのクルーザーがそうかな!」
「わぁ・・・・! 素敵なクルーザーですね!」
しかし他の面々はそう思っていないようで、ホットパンツから白い脚を惜しみなく露出させたエリカを筆頭に、女性陣達は我先にと太陽の光を反射して輝く真っ白なクルーザーへと駆けていった。
「エリカのお家ウチでも、クルーザーくらい持ってない?」
「船はあるけど、アレは“クルーザー”とは呼べない、というか呼びたくないわ。普段はスタビライザーをオフにしてるから乗り心地最悪だし」
「・・・・もしかして、訓練用? 徹底してるね」
「まぁね、だからこう言うちゃんとしたクルーザー自体ははじめてなのよね。船って名前の着く奴は沢山乗ってきたけど」
「もしかしてドラえもん関係?」
「えぇ、飛行船に潜水艦、海賊船に宇宙船って感じで」
「何それ、羨ましいんだけど」
ドラえもんと出会ってまだ数日しか経っていないが既に慣れ始めた雫、海賊船や宇宙船といった単語でも驚くよりも羨む姿を見せる。
エリカ達がそんな会話をしている脇でけっして走らずクルーザーの傍までやって来た達也が、メカニックの血が騒いだのか推進機関の部分をつぶさに観察していた。
「フレミング推進機関だが、エアダクトが見当たらないから電源はガスタービンではないな。光触媒の水素プラントに燃料電池をプラス、といったところか?」
「念のために、水素吸蔵タンクも積んでいるよ」
まさか単なる独り言に答えが返ってくると思っておらず、達也は若干の驚きと共に声のした方へと振り向いた。
そこにいたのは、“船長”だった。ギリシャ帽を目深に被り、飾りボタンのついたジャケットを着込み、ご丁寧にパイプまで咥えている。もう少し横幅に恰幅があれば、完璧な“船長”となれるに違いない。
どう反応して良いか達也たちが困惑していると、向こうの方から手を差し出してきた。
「君が司波達也くんだね? 私は北山潮、雫の父親だ」
「・・・・初めまして、司波達也です。お名前はかねがね伺っております。本日は大勢で押し掛けてしまい申し訳ございませんが、何とぞよろしくお願い致します」
予想よりも随分気さくな人柄に戸惑ったものの、達也は巧妙にそれを隠して彼の手を握った。
達也の“お名前はかねがね~”というのは、単なる社交辞令ではない。彼が総帥を務める“ホクザングループ”は、日本でも屈指の規模を誇る企業グループだ。
その知名度は、最初に雫から父親のことを聞いた達也がかなり驚いたくらいだ。もっとも、現代は企業経営層がプライバシー保護の観点から本名とは別のビジネスネームを使用するのが一般的なので、達也がそれに気づいたのはビジネスネームである“北方潮”の方を聞いてからなのだが。
と、達也の手を握る潮の手から力強い感触が伝わり、そして彼自身も達也をまっすぐ見つめてきた。値踏みするものでありながら不快感を感じさせないのは、人の上に立ち、そして同じように人の上に立つ者と渡り合う指導者たる所以だろうか。
「・・・・成程、ただの秀才ではなさそうだ。とはいえ、小手先の技に優れただけの技術者でもない。実に頼り甲斐のある風貌をしている。――どうやら、雫の目は確かなようだな。我が娘ながらなかなかしっかりしてるじゃないか」
潮はそう言って満足そうに笑っていた。晩婚だったせいですでに50歳を超えているはずなのだが、この気さくな雰囲気も手伝って40歳前後のような若々しさを覚える。
一通り挨拶を済ませた達也は、友人達とお喋りしていた深雪に呼び掛けた。彼女は兄の声に即座に反応し、上品さを損なわない程度の駆け足でやって来た。
「深雪、挨拶をすると良い」
「初めまして、司波深雪です。この度はお招きいただき、誠にありがとうございます」
「ご丁寧にありがとう、レディ。北山潮です。あなたのような美しいお嬢さんをお招きできるとは、この船にとっても当家のあばら屋にとっても望外の名誉となりましょう」
「あら、小父様。私のときには、そんなこと仰らなかったと思いますが」
「お父さん、みっともないから鼻の下を伸ばさないで」
胸に手を当てて芝居掛かった一礼をした潮に対して、ほのかと雫が横からそんな言葉を投げ掛けてきた。ほのかはからかいの意味合いが多分に含まれたものだが、雫の場合は割と本気のようにも聞こえる。これには流石の敏腕実業家である潮でも捌ききれないでおり、どうしようかと目を泳がせていると少し離れた所で話をしていたエリカ達を見つけると少々大袈裟な身振りを交えて話しかけた。
「おぉ!君達も娘の新しい友達だね?歓迎するよ。楽しんでいってくれたまえ。残念ながら私はもう行かなければならないが、自分の家だと思って寛いで下さい」
少し焦りもあったのか言葉遣いが変ではあったが周りは特に気にしてはいない。
そそくさと大型乗用車に乗り込んだ雫の父親が、車内で脱いだギリシャ帽子を未練げに眺めているのを見た達也は“せめて娘と一緒に船旅をした気分になりたかったんだろうな“と密かに思っていた。
のび太達を乗せて、今回の旅の付き添い人としてやって来たハウスキーパー黒沢の運転するクルーザーが目的地へと進んでいく。クルーザーはとても広いだけでなく、スタビライザーと揺動吸収システムのおかげで船酔いの心配が無い。さらには空気抵抗や過剰な光線をカットするために、甲板全体が流線型の透明なドームで覆われているのでかなり快適である。
優秀な操舵手のおかげで特に事故も起こらず、目的地の無人島・媒島なこうどじまに到着した。
そして一行は荷物を黒沢に任せると、早々にビーチへと繰り出した。
「そう言えばエリカちゃん、水着は持ってこなくても大丈夫って言ってたけど、どうするつもりなの?」
「決まってるじゃない。ドラちゃ〜ん?」
「はいはーい、んーと、テッテレー着せ替えカメラ〜」
「でた、ひみつ道具」
「それで一体どうするんだ?」
「これはね、カメラの中に服の写真や絵を入れてその状態のまま人を撮影すると、被写体となった人はカメラに入っている写真・絵の服を着せられた状態となるんだ。理屈としては積み木を分解したり組み合わせて色々な物を作る仕組みと同じなんだよ」
「そんなことも出来んのかよ。すげぇな未来の道具」
おぉ、と一同が驚く中達也だけは違った感想が浮かび上がっていた。
(このひみつ道具、“俺の魔法"と原理が似ているな。別の物に再構築までは出来んが、こんな使い方もできるのか)
そんな達也を横目に早速エリカがドラえもんの前に立つ、ドラえもんはカメラを構えると
「はいチーズ」パシャ!
カメラのシャッターを切ると一瞬でエリカの服が替わり、派手な原色のワンピース姿になっていた。
「こんな感じね」
「凄いねこの道具」
「たまに失敗するけどね〜」
「ちゃんとやってるんだよ!」
そんなやり取りをやっていると絵を完成させた女性陣がドラえもんに書いた絵を渡す。
深雪は、大きな花のデザインがプリントされたワンピースタイプ。女性らしさを増していくプロポーションを派手な絵柄で視覚的にぼかし、生々しさの無い妖精的な魅力を醸し出している。
意外なのが美月で、水玉模様のセパレートタイプはビキニほど露出は少ないものの、大胆に胸元がカットされているせいで豊かな胸が強調され、いつもの大人しいイメージからは想像できない艶めかしさがある。
そして彼女の隣にいるほのかは、同じくセパレートタイプながらワンショルダーにパレオでアシンメトリーに決めている。体のメリハリという観点からしたら、彼女が一番に挙げられるかもしれない。
雫はそれとは対照的に、フリルを多用した少女らしいワンピースタイプだった。こんな時でも表情に乏しい大人びた顔立ちの彼女がそれを着ると何やら倒錯的な、妖しい魅力があった。
ちなみに達也は七分袖のヨットパーカーに黒の海パン、レオが赤色、幹比古は水色、のび太はオレンジの水着を着ている。
「おっしゃー泳ぐぞ!」
「っと、その前に遠くの方まで泳ぐんだったらこれも使ってよ」
と、ドラえもんはポケットから何かの瓶とカプセル状の物を出た。
「これは?」
「こっちの瓶が深海クリーム、こっちのカプセルがエラチューブって言うんだ。深海クリームは全身に塗ると深海10000mの水圧にも耐えられるし体温も逃がさない。エラチューブは鼻に詰めると水中でも息が出来るようになる」
「へぇ、そんなのまであるのか」
「まぁこの周辺なら特に心配要らないだろうけど念の為にね?」
「ありがとう」
「サンキュー、それじゃあ行ってくるぜ!」
そう言うとレオは幹比古を連れて海へ向かって行った。
そして達也はどうしているかと言うと、持ってきていたパラソルの下で腰を下ろし、ぼんやりと海を眺めていた。その視界の中には先程紹介した女性陣が
仲睦まじく遊んでいるのが見える。
「達也くんは混ざらないの?」
「いや、流石にあの中に混ざるのは・・・・と言うかのび太はレオ達と一緒じゃなかったか?」
「レオくんと幹比古くんは遠泳しに行っちゃってさ、僕は残っちゃったの」
「泳がないのか?」
「泳がないんじゃなくて泳げないのよ」
二人の会話に割って入ってきたのはエリカだった。そしてその後ろには先程まで遊んでいた女性陣もいる。
「ちゃんと泳げるようにはなったじゃん!」
「あれは泳いでるんじゃなくて要救助者よ。傍から見たら」
「あれから5年経ってるのにそこらへんは変わらないんだ・・・・」
「浮けるようにはなったからいいんだよ!」
とプンスカ怒るのび太を尻目に深雪やほのかが一緒に泳ごうと誘い、達也もここまで来て泳がないのも変かと考え、着ていたパーカーを脱ぐが、達也はこの判断を間違えた事に気づいてしまった。
脱げたパーカーの下には達也の上半身が見えるのだが、そこには傷だらけの肌があり、一同は驚愕する。
「済まない、見せられて気持ちのいいものではないな・・・・」
そう言い達也はパーカーを着直そうとする。
「うわ、すっごい傷、ドラえもん何とかならない?」
「うん、これは酷い、ちょっと待っててね。んーとタイム風呂敷〜達也君、これを体に巻いて30秒くらい待って」
ドラえもんに言われるがままに体にタイム風呂敷を巻き、30秒ほど待った。
「そろそろいいかな。おぉ!綺麗に治ったじゃん!」
「本当、見違えるくらい綺麗」
「良かったですね達也さん!」
「お兄様の体が、こんなにも美しくなるなんて・・・・ありがとう、ドラちゃん」
「すまないな、ドラえもん」
「いいよいいよ、これで何も気にせず遊べるね!」
「あぁ、そうだな」
気まずい空気はなくなりいざ遊ぼうとなった時エリカがのび太の背中を見て再び驚いた。
「のび太、あんたその傷どうしたのよ?」
「え?あぁ、これ?ちょっとね」
のび太の背中にも達也ほどでは無いが左の肩甲骨から肩にかけて何かがかすったあとがあった。
「のび太君も?じゃあこれでまた治そうか」
ドラえもんはタイム風呂敷をのび太に渡し、それを体に巻いて傷痕を直し、それぞれで遊び尽くす。
レオと幹比古は遠泳をし、達也と深雪、雫とほのかで浅瀬を泳いでいたがその時ちょっとしたハプニングがありつつも楽しみ、のび太、ドラえもん、エリカ、美月はドラえもんのひみつ道具の『水加工用ふりかけ』を使って砂のお城ならぬ海水のお城を立てて遊んでいた。
今回は前半後半に分けます。最初は海で遊ぶパートで後半がちょっと思い出話(映画のダイジェスト)を書きます