入学式が始まる前
プルルルル
「「っ!」」
司波達也、深雪の2人が暮らす一軒家(2人で住むには広すぎな気がするが)に突然通知音が鳴り響く。近年になって固定電話が殆どの家から無くなり大体の人は個人で持っているデバイスで連絡を取り合う為、家に連絡を入れることは無いのだが。2人が驚いたのはそれだけじゃなかった。
達也は通話をオンにして通話を開始した。
『お久しぶりですね、達也さん、深雪さん』
画面に映し出されたのはほとんど黒に近い色合いのロングドレスを身に纏い、異性を妖しく惹きつけずにおかない妖艶な魅力と、思春期の少女を連想させるような可愛らしさという相反した印象を同居させた女性だった。
「お久しぶりです。叔母上」
「お久しぶりです。叔母様」
通話の主は2人の叔母であり四葉家当主の『四葉真夜』だった。
『四葉』
魔法師の中で四葉の名を知らないものはいない。そう言われるほど世界で名が通っており、十師族の中でも最強格に数えられるほどの実力がある家柄なのである。
そんな彼女が何故、苗字が違うじゃないか、と思われるが達也達の母はこの四葉真夜の姉である司波深夜、旧姓四葉深夜なのだ。だから2人から見て真夜は叔母に当たる人であるが、2人はその事を周りに隠している。理由についてはいずれ話そう。
「本日はどの様なご用件でしょうか、叔母上」
達也はそう問掛ける。真夜は「親戚なのだから祝辞のひとつでも」と答える。
『お2人とも第一高校の受験合格、おめでとうございます。魔法師として非常に大事な3年間となると思いますが、2人にはそのことを頭から離して、純粋に学生生活を楽しんでくれたら嬉しいです』
「お気遣い、感謝致します」
深雪はそう言い、深々と頭を下げ、達也もそれに合わせるように頭を下げる。普通ならここで通話が終わるものだと考えるだろうが2人はそう思っていなかった。生まれてからの経験から真夜が祝辞のためだけに連絡してくるとは到底考えられなかったのだ。
『さて、そろそろ本題に移って欲しいとお二人の顔にでているので話すとしましょうかしら。実は2人に気にかけて欲しい子が居るの』
2人は訝しげな表情を浮かべた。先程も伝えたが彼女は世界からも注目される程の魔法師、そんな彼女が一目を置く人物となると余程の人物なのではないかと達也は考える。
『先に言っておくけど、彼は別に四葉に不利益をもたらすような人間ではないわ。だから彼が困ってる時は力を貸してあげて欲しいの』
「力に、ですか・・・」
『彼、色々頑張りすぎる所があるの、それこそ、自分の事は二の次に出来ちゃうくらいに』
自己犠牲の精神、それは達也自身とは似て非なる考え方であり、そして更に謎が深まる考え方だった。はっきり言って真夜、と言うより四葉はよそで起こったことは基本無関心、自分達に不利益が起きない限り関わることはまず無い。
「分かりました。それで、その人物の名前は?」
『野比のび太君よ』
それから時は現在
エリカ達と夕食を済ませ自宅へと帰ってきた達也と深雪。深雪は部屋着に着替え、達也は自室に籠り、調べ事の続きをしている。
「やはりダメか・・・」
その調べ事とは、のび太の事だ。真夜からの頼まれ事とはいえまだ顔を合わせてからそんなに経っていないが、それでも真夜が気にかけるほどの人物なのかと聞かれるとそうとは思えず、独自に調査をしている。が・・・
「目ぼしい情報は、なし」
どれだけ調べても真夜や、四葉との繋がりが出てこない。と、なると、彼は一体何者なんだ?達也の頭の中には更なる謎が増えていく一方だった。
「お兄様、コーヒーをお入れしましたので少し休まれては?」
「あぁ、ありがとう」
「また、のび太君の事をお調べになっていたのですか?」
「あぁ、まぁ、これと言って収穫はなかったがな・・・」
「そうですか。ですがお兄様、私はのび太君が怪しい人間とは考えにくいのですが・・・・」
深雪は基本的に誰に対しても当たり障りの無い対応をする。それは四葉本家内もそうだし分家との集まりの時もそうなのだがそういう場面では必ずと言っていいくらい深雪に擦り寄ってくる人間がいる。深雪は達也ほどでは無いがそう言う感情に触れてきているため少しはいい人悪い人の区別が付けられる。
そんな彼女がそう言ってくるという事は少なくとも敵意はない、と達也は考える。
「・・・・用心に越したことはない。それに俺も数日関わっただけだが、不思議な縁を感じたよ」
「縁、ですか?」
「あぁ、以前どこかで会ったことがあるような、そんな感じのヤツだ」
次の日
一日の授業が終わりクラブ活動勧誘の時間となり、風紀委員、生徒会はパトロールに駆り出されていた。
「段々落ち着いてきたね」
「そうね、でもまだ油断は出来ないわ」
「それもそっか」
昨日と同じく深雪はのび太と行動していた。すると2人の共通のデバイスに通信が入った。
『こちら生徒会です。第三小体育館で乱闘が発生、手の空いている人は現場に向かってください』
「っ、深雪ちゃん!」
「えぇ、こちら1年司波深雪、野比のび太です。直ぐに現場に向かいます」
通信で自分達が行くと伝え、深雪は現場に向かい走り出す。少し遅れてのび太も走り出す。しかし深雪に追いつけない。
(は、速いよ深雪ちゃん!)
その見た目からしてあまり運動は得意ではないと勘違いする人がいるがそれは間違いであった。深雪も達也同様、八雲の指南を受けているためそこら辺の人間より断然運動神経がいい。
のび太の場合、エリカの道場で特訓は受けたがあくまで魔法師の基礎的な動きを覚える過程で付いた体力のため根本的には運動が出来ないのだ。
そんなのび太だが深雪の後ろをついて行くのが精一杯なのだが、ふと右を見た瞬間、黒い服装で深雪に手をかざしていることに気がつき
「ッ!深雪ちゃん危ない!!」
バンッ!
ガキンッ!
「なっ!くそ!」
のび太は咄嗟に魔法を相手のCADに放ち魔法の発動を止めた。直ぐに捕らえようとするも、既にその場から立ち去られた。
「のび太君、今のって・・・」
「なんだったんだろ、って早く現場に行かないと!」
襲ってきた人の事も気になるが今は現場に向かうことを優先し、その場を後にする。
さらに次の日
「って事があってさぁ」
「他の部活からの刺客とか、でしょうか?」
「それは無いでしょ、コイツが今なんて言われてるか知ってる?」
「え、なになに!?なんかカッコイイ渾名とかあるの?」
「避雷針のび太」
「何その芸人みたいな名前!?」
エリカが言うには、どの現場でも当事者よりも魔法の被害に合い、のび太の居る所とは別の方向に撃っても何故か魔法がのび太の方へ向かって行くため、そう名付けられた、らしい。
「全く、誰だよそんな渾名付けたの」
「アタシ」
「ちょっと?!!」
「ま、まあまあ、落ち着いてください・・・・」
のび太はエリカを睨みつけるがそれよりも早く美月の後ろに隠れ、巻き込まれた美月はのび太を宥める。
そんなやり取りをしていると後ろから声を掛けられた。
「ちょっと、いいかしら?」
「え?」
のび太が振り向くとそこには長い黒髪を後ろで縛った凛々しい顔つきの少女が居た。
「野比、のび太で合ってるかしら?」
「は、はい。そうですけど・・・・」
「少しお話をしたいのだけれど、いいかしら?」
「えっと・・・」チラッ
「・・・・のび太、ちょっとアタシと美月で、用事が出来たから先帰るわね。行くわよ美月」
「ま、待って、エリカちゃん!」
のび太の考えを呼んだエリカは美月と一緒にその場を去った。
「ごめんなさいね、一緒の所を」
「いえ、それより話って?」
「そうね、ここじゃなんだから、カフェテラスにでも行きましょ?」
2人はカフェテラスへと向かった。
「何飲む?私が誘ったから奢るわよ」
「え、えっと、じゃあ、アイスコーヒーで・・・・」
「分かったわ」
選んだ飲み物を受け取り2人は窓際の席に座る。
「そう言えば自己紹介がまだだったわね。私は2ーEの壬生紗耶香、よろしくね」
「野比のび太です。あの・・・・」
「なんで声を掛けたのか、でしょ?」
「はい」
「単刀直入に言うけど。野比君、剣道部に入って貰えないかしら?」
「え?えぇ?!」
予想だにしていなかった発言にのび太は大声で驚いてしまった。それを聞いた周りの生徒たちが一斉に視線を向ける。それに気づいたのび太は恥ずかしそうに席に座り直した。
「そ、そこまで驚く?」
「そ、そりゃ、驚きますよ。僕、そんなに実績とか出てないんですよ?なのにいきなり部活に誘われるなんて」
「あら、意外と有名なのよ?君って」
「・・・・それって、避雷針がどうとか言うやつですか?」
「そ、それもあるけど、一部の生徒の間で司波達也君に模擬戦で勝ったって噂になってるのよ?」
その事を聞いたのび太は何故自分に声が掛かったのかようやく分かった。先日の勧誘週間に起こった剣道部と剣術部との騒ぎで達也が剣術部員、数人を1人で相手にしていた、と話を聞いた。そしてその達也に学校内で唯一勝った人間がのび太である事が何処からか広がったらしく、それだけのことが出来る達也より凄いなら是非とも剣道部に入部して欲しいと沙耶香はそう言っているのだ。
「あー、すみませんけど、お断りします」
「・・・理由を聞いても?」
「確かに達也君に勝ったのは事実ですけど、それは僕と達也との相性の問題であって単純な戦闘力は達也君の方が上だからです。僕自身、確かに体術とかは出来ますけどあくまで護身用なんですよ?」
「そっか、それは残念・・・・」
と、沙耶香は肩を落としながら言う。彼女的には部員が欲しいのは本当であった為余計にそう思っていた。
「──ねぇ、のび太君は今のこの学校の制度についてどう思う?」
突然話題を変えてきた。
「制度、ですか?」
「うん、魔法科高校では魔法の成績が最優先される。でも、それだけで全部決められちゃうのは間違ってると思わない?」
「はぁ・・・」
「二科生は魔法実技の指導を受けられない。でも、授業で差別されるのは仕方がない。私達に実力がないだけだから・・・・魔法が上手く使えないからって、私の剣まで侮られるのは我慢ならないっ、無視されるのが我慢ならないっ、魔法だけで私の全てを否定させやしないっ!」
「壬生、先輩?」
「はっ!だから私達は非魔法系のクラブで連帯することにしたの。今年中に部活連とは違う組織を作って学校側に私達の考えを伝えるつもり。その為に私達に協力して欲しいの」
壬生の話を聞いて考え込むのび太。正直に言えば共感できてしまう。
実際今までののび太は一般的な基準で見ると出来が悪い。テストの点数は0ばかりで運動も出来ない。その事をバカにされる事も多く、得意な事は勉強や運動とは関係ないものばかり。のび太自身も勉強だけが全部じゃないと散々言っていた為か今の沙耶香が昔の自分と姿が重なった。
「・・・・・う〜ん」
「どうしたの?」
「あぁ、いえ、その、その考えはいいと思うんですよ」
「分かってくれ「ただ・・・」?」
「僕には、その、壬生先輩が何をしたいのか分からないんです」
「ッ!!」
のび太の思いがけない発言に動揺を現す沙耶香、のび太は続けて沙耶香達が学校に訴えかけた後、どうしたいのかが分からないとも言った。
それは同じ立場になった事のあるのび太でさえ、
ジャイアンに殴られる。
↓
ドラえもんに泣きつく。
↓
どうしたいのか聞いてくる。
↓
やり返したい。
↓
道具を借りる。
↓
やり返す。
と言うように目的をちゃんとやり遂げるまで行動している。ちなみにその後は大抵痛い目に遭う。
「その辺、色々言えるならその運動を続けてもいいんじゃないですか?」
のび太はそう言って席を立った。
pixivだとあまり見られなかった