DEAD OR ALIVE 【SAMUEL RODRIGUES】   作:eohane

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答え無き自由

 雨が顔を打つ。

 吹き付ける風と共に、雨は、どんどん体に纏わり付いてくる。いや、纏っている、と言うべきか。まるでその哀しみを隠すかのように、雨は覆っていく……。

 

「…………」

 

 だからこそ、そんな雨が、サムは好きだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「はてさて……どうしたもんかねぇ……」

 

 レービンドから頂いた弾薬箱を肩に担ぎ、サムは人っ子一人いない大通りを歩く。先ほどから降り続いている雨は一向に止む気配を見せず、地面に数cm水の層ができてしまうほどに天の神様はお嘆きのようだ。

 生憎とサムは、神なるものを信じたことは無い。

 

「……っ! ……っ!……だあぁっ! くそっ……くしゃみが出ねぇ……」

 

 出そうだけれども出なぁい、そこだっ、今、今……あぁ……、的な内なる葛藤を繰り返しながら、サムはゴーイング・メリー号が停泊している港を目指す。

 ちなみに雨で彼の顔に張り付いている、何本か纏まって垂れた髪の毛が、どう見てもワカメにしか見えないのはここだけの秘密である。

 

「────へっくしっ!」

 

 まさにディスイズくしゃみなくしゃみ。体を震わせ、震動で僅かに体中の雨粒が水飛沫となって周囲に飛び散る。がすぐに新たな雨粒が体を覆い、既に吸収量の許容範囲を越えた着流しの上を伝っていく。

 雨を吸った着流しは重い────久々にそう実感する。

 

「はぁ……しかしまぁ、あいつがねぇ…………世の中狭いもんだ」

 

 サムが今思い出しているのは、10年前のあの日、あの時の出来事。

 

 ──うわあぁぁん! お父さあぁぁん、お母さあぁぁん……

 ──……あぁあぁ……いつから俺はこんな善人になっちまったんだ?

 

 いやはやあの時のごみ溜め(不確かな物)の中にいた、サムの気まぐれで生き延びたあのガキが、まさか革命軍兵士とは…………。

 

「リジー・ウィリアムズ……“ジャック”ねぇ……」

 

 とても兵士とは思えない、あの曇り無き瞳。たかだか貧n……小ぶりな胸のことでムキー! と子供のように騒ぐ、あの無邪気さ。自分の信じるものを信じて疑わない、あの誠実さ。

 まったく“穢れ”を知らない、純粋な赤子そのものだ。

 そんな彼女が、10年の歳月を経て、あの世界最悪の犯罪者を連れて現れるとは、いったいどういう運命のイタズラだろうか。

 

「しかしジャックの顔を一瞬思い出せなかったとは……ボケてきたか?」

 

 似すぎているのだ。自分にも、あの男にも。

 無垢な心の内側に眠る本性、子供故に純粋過ぎる残虐性。

 人格形成期における悲劇、それによる人格の混乱────心の迷い。

 他者との関わりを好まない、決して他者を本心(心の奥)まで受け入れない心の壁────それを可能にする薄っぺらい仮面。

 誰もがその仮面をその人自身と信じて疑わず、誰もがその本心に到達することは無い。

 恐らく本人に自覚は無い。自身の本性にさえ、気付いていない。本能的にそれを押さえ込んでいる、危うい状況。

 ────どうやら“同類”だったようだ。

 

「……面白そうだな。()()()あいつがどう受け入れるのか……」

 

 奴のような一殺多生“活人剣”そのものとなるのか、サムのような多殺零生“殺人剣”そのものとなるのか────はたまた彼ですら知らない新たな“道”を見出だすのか。

 とにもかくにも彼女は化ける────そう予感するサム。

 

「胸も化ければ良いけどな」

 

 何やら失礼なことを考えている内に、気付けば港に到着。雨のせいかはっきりとは見えないが、甲板上にナミとウソップがいるのが見えた。ルフィ、ゾロ、サンジはまだ帰って来ていないらしい。

 

「……ん? ……お前、リッチーか?」

「? ……! ガルッ!」

 

 メリー号の隣で何故かお座りをしている巨大ライオン、リッチーを発見。懐かしさ次いでに頭を撫でようとしたら大口を開けてジャレついてきたリッチーを、ご褒美にグーでなでなでしてあげたサムだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ──そうか……それは残念だ

 ──そもそも本気じゃなかっただろう?

 ──ふふっ。“組織”は嫌いか?

 ──……まあ、な。俺には1人か……“一味”くらいがちょうどいい

 ──……1つ、聞かせてくれ

 ──ん?

 

 

 ──お前が想い描く“自由(ゆめ)”とは……なんだ?

 

 

「……始めから相容れぬ存在(ゆめ)だった、ということか」

 

 そう呟くドラゴンの顔は、どことなく楽しげだ。彼はこの大雨の中、颯爽と歩を進めている。まるで、自身が歩むべき、定められた道が見えているかのように。

 フードで覆われたその顔からは、彼の真意を読むことはできない。

 

「お前達は先に合流地点へ行っておけ。俺も後から行く」

「了解です」

 

 ん? と彼は後ろを振り返る。視界に、背を向けて“彼”が去った方向をじっと見つめるリジーと、それを見ておどおどしているコアラの姿を捉えた。

 やはり、良い刺激になったようだ。奴と接触させたのは正解だった。

 彼女を本当の意味で解放────自由にするためには、彼ら────“ここ”では不可能。

 彼女を本当の意味で“理解”するためには、彼女と同じ、同類でなければ意味がない。

 彼女の“居場所”は、ここではない。

 

「……どうだ、リジー。あれが“強き者”だ」

「…………」

 

 リジーは、瞬き1つしない。

 

「そして同時に……“哀しき者”でもある」

 

 コクン、と彼女は頷いた。

 それを見て、ドラゴンはまたニヤリと笑う。コアラだけ状況を呑み込めておらず、完全に置いてけぼりを食らっていた。

 

「今……お前がしたいと思っていることはなんだ?」

 

 刹那、辺りが閃光に包まれ、同時に腹の底から響くような轟音が轟いた。どうやら、(へび)が牙を剥いたようである。

 

「……ドラゴンさん、しばらくお暇を下さい」

 

 そう言ってドラゴンを見つめるその瞳には、確かな“意志”が宿っていた。

 

「私なりの方法で……“自由”とは何か、その答えを見つけたいと思います」

 

 

 

 “自由”ってのはその時々によって“歴史”が決める。俺達の意志に関係無く、な。……知ったことじゃないが。何にせよ、悔いが無ければそれでいい。

 

 

 

 

 

 

 ────俺はただ……気に入らない奴を斬るだけだ

 

 

 

 

 

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