DEAD OR ALIVE 【SAMUEL RODRIGUES】   作:eohane

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【第1章】動き出すジェットストリーム
お前の剣にも何かが足りん


「おぼ♯∇∀ろう√Åうげ%∞¥…………」

 

 サムは、吐いていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「あぁあぁ……ルフィと別の場所に漂着したみたいだな……」

 

 サムは今、心に決めていることがある。2度と絶対に、ルフィに船の舵を任せない、と。

 それは、今から数時間前のことだった。

 

 ──やっぱ漁船貰うべきだったんじゃないのか?

 ──いいんだって。俺はここから始めるんだ

 

 ボートで出航した2人は、海の上をのんびりと漂っていた(遭難ともいう)。海賊になると言いながらも、ルフィが航海術など学んでいたわけでもないので海の知識は皆無に等しく、元々サムがそれを持っているわけでもない。後先考えずルフィに着いてきてしまったことを、今頃になって後悔するサムであった。

 

 ──はぁ……ま、漕ぎ続けたらその内陸でも見えてくるだろ。おい、ルフィ、そろそろ代わってくれ

 ──おう!

 

 そんなわけがない。

 サムが居眠りを始めた隙に、ルフィが操るボートはあらぬ方向を向いて海上を滑り出す。そして、見えてきたのは陸ではなく“大渦”。

 

 ──なっはっは! おい、サム! おきた方がいいぞ!

 ──……なんだ、ルフィ……ってうおおぉぉ!!!?

 

 突然樽に押し込まれたサムは、数時間目を回し続けることとなった。

 

「さぁてこれからどうするか……」

 

 フーシャ村よりも断然大きい港町のようだ。恐らく、視界の先に聳え立つ「海軍基地」がならず者達を寄せ付けず、ここまで発展したのだろう。

 しかし、だからといって町に平和な雰囲気が漂っている、というわけでもない。道行く人々からは、ピリピリとした緊張感が感じられる。

 

「……まずは情報収集だな」

 

 適当な酒場を見つけ、中に入る。

 

「いらっしゃいま……せ……」

 

 満席というわけではなく、客席にはまばらに人が座っている。奥のカウンターには店員らしき中年の男が1人。新たな客、サムの入店に事務的に声を掛けようとするが、案の定、その声は途切れ途切れになった。全員がサムの姿を見て、口をあんぐりと開けている。

 初めてマキノの店「PARTYS BAR」に訪れた時のことを思いだし、くくく、とサムは笑った。

 

 

 

 ***

 

 

 

「……ふむ」

 

 カウンターの端でちびちびと酒を飲みながら、店内の客の話に耳を傾けたサムが知り得た情報は2つ。

 1つは、この町は海軍大佐“斧手”のモーガンという男が実質上支配しているということ(なにやら“貢ぎ”と称した莫大な税金を納金させているらしい)。

 2つ目は、というよりサムはこれが1番気になっていた。どうやらあの海軍基地に、“海賊狩り”という男が捕らわれているらしい。サムが聞いた限りでは、その男は賞金稼ぎのはずなのだが、なぜ海軍に捕らわれているのか、というのが気になっていた理由の1つ。もう1つの理由が、その男は刀を“3本”持っていた、ということだ。

 

(……まさか、な。……とりあえず行ってみるか)

 

 

 

 ***

 

 

 

「……誰だ? てめぇ……」

「……遭な……流離いの旅人ってとこだ」

「大丈夫か、おい」

 

 海軍基地の敷地の中にある広場で、磔にされている男がいた。頭に黒い手ぬぐいを巻き、腹巻きを着こんだその男は、相当痛め付けられたのか、身体の至る所に傷や痣ができている。

 ……と言うか、目付きが悪すぎる。この男。見たところかなり若いと思われるが、それも相まって妙な迫力を醸し出していた。

 

「……っ! てめぇ、剣士か?」

「……まあな。これでも一応、ある剣術の継承者だ」

 

 左手でムラサマの柄を弄りながら、サムは言った。

 

「刀を3本持っている、と聞いてやって来たんだが……まぁ取り上げられてるよな」

「ごちゃごちゃ言ってねぇで早く帰った方がいいぞ……“親父”に言われるぜ?」

「親父……?」

「ひえっひえっひえっ……おい、そこの男ぉ、磔場に不法侵入した奴は死刑って貼り紙が見えねぇのか?」

 

 その時、磔場の扉が開き2人海兵を伴った見るからに馬鹿そうな男がやって来た。笑い方があまりにも斬新過ぎて、ちょっとヒいてしまったのはここだけの秘密である。

 

「……おい、お前……こんな野郎に捕まったのか?」

「てめぇ無視しやがったな!? 俺はモーガン大佐の息子だぞ!?」

 

 この男の名前はヘルメッポ。どうやらこの男、俗に言う「七光り」という奴のようだ。まさに虎の威を借る狐、滅多にお目にかかれない珍種である。

 まあ見たからといって将来の役に立つとは思えないが。

 

「うるせぇよ……こっちにゃぁこっちの都合ってもんがあるんだ」

「……刀もこいつに?」

「……ああ」

 

 「ほぉう……」と顎をしゃくるサム。

 次の瞬間、ヘルメッポの左右に立つ海兵は地面に倒れ付していた。

 

「……んん!? おい、どうしたてめぇら! ……ひっ!?」

「安心しな、峰打ちだ」

 

 ムラサマをヘルメッポの首筋に押し付け、サムは言った。

 

「おい、お前……刀3本は取り返してやる」

「ああ?」

 

 にやり、とサムは笑った。

 

「お前の剣を見てみたくなった」

 

 本能故か、剣士は剣士と戦うことを求めるようだ。

 

 

 

 ***

 

 

 

「ほれ」

 

 泡を吹いて気絶しているヘルメッポを片手に、サムは取り返した刀3本を目の前の男へ手渡す。

 すでに男は、サムが解放していた。

 

「よく取り返せたな……」

 

 以外にもこれは簡単であった。ヘルメッポを脅し、彼の友人として海軍基地内部へ潜入。ヘルメッポの自室に置いてあるという刀を奪い、窓から磔場へダイビングした()()だ。

 

「ほら、“親父”が来る前にやろう」

 

 ニヤニヤと笑いながらサムは言った。男は刀を腰にさし、手拭いを締め直している。

 

「ああ……願ったり叶ったりだ」

 

 男は3本の中で、白い鞘に納められた刀を抜き放つ。陽の光が反射し、キラリと輝いた。

 “美しい”。その言葉がピッタリな刀身が露になる。それを、口に咥えた。そして残りの2本を抜き放つ。

 

「……ふむ」

 

 見たこともない剣術だった。少なくともサムが知る限りでは、サンダウナーのような二刀流までしか御目にかかったことはない。ましてや刀を口に咥えるなど論外だ。

 が、現実に目の前の男はそれをやってのけている。両腕を胸の前で交差し、まるで引き絞るかのように力を込め始める。ビキビキと血管が浮かび上がり、相当の力が込められているのがわかる。

 逆に刀の柄が握り潰されるほど……はない、はず。

 

(……こいつ()……か?)

 

 サムがこの世界来てからずっと考えていることがある。

 この世界には、“力”を持つ者と、そうでない者の区別がある、ということだ。

 サムが人のことを言えた義理ではないが、ルフィを始め、ガープ、エース、シャンクス……そして目の前のこの男。ただ強いだけではなく、人の域を超えた“力”を持っている人間がこの世界にはいることに、サムは気づいていた。

 

「てめぇが“剣士”を名乗るとなりゃぁ……俺はてめぇを倒すまでだ」

「ほぉう? ……そいつは面白い」

 

 顎をしゃくり、ニヤついた表情を顔に張り付けながらサムは言った。

 

「なんのために俺を倒す?」

 

 男は言う。その目は、確かな決意が宿っていることに、サムは気づく。だが、同時にその“剣”には……。

 

「……約束()のため、世界一の大剣豪になるため」

 

 やはり、とサムは確信した。

 この男は、“見えていない”。即答ではなく、一瞬開いた間がその証拠だ。どことなく昔のエースと、……奴に似ている。

 が、根っからの戦闘狂であるサムが、この男の申し出を断るはずがない。スチャッ、とムラサマを抜刀。高周波は流さない。そうでもしなければ、男の剣がスパッと斬られて即終了となってしまう。高周波を纏った刀とそうでないものとでは、その切れ味に差がつきすぎてしまうからだ。ならば、高周波を流したことで多少(?)変化してはいるが、ムラサマ本来の姿でこの男を受けて立つ。

 サムの、剣士としての本能がそう告げていた。

 

「……来な」

 

 頭上でゆっくりと回すようにムラサマを構える。

 

「……なめやがって」

 

 男が動く。3本の刀を構えながら、サムに向かって走り出す。

 

「鬼……斬り!」

 

 速い。到底人間に出し得る速度ではない。

 脚から胴、胴から腕へ“(パワー)”を無駄無く伝え、それを殺すこと無く刀へと導いている。一目で判る、相当の達人だ。

 だが甘い。

 

「……っ!?」

 

 一点で交差された3本の刀がサムの身体を捉えることはなく、ガッという鈍い金属音と共に1本の刀に軽々と受け止められる。

 

「……三刀流か…………筋は悪くないな」

 

 「だが……」とサムが呟く。鍔迫り合いの状態から受け止めるだけではなく逆に押し返し、強引に男の構えを崩す。

 

「ぬぐ……っ!?」

「────お前の剣に()何かが足りん」

 

 鍔で刀をかち上げ、おまけとばかりに柄頭で男の額に打撃。怯んだ隙に1歩後ろへ退いたサムは、ムラサマを納刀。

 ならば、と1本踏み込む男。その姿を見てにやり、と笑ったサムは、鞘のトリガーは引かずにサイボーグ化された右腕の腕力……通常の半分以下の出力でムラサマを抜刀した。

 

「うおっ!?」

 

 男の防御の構えを弾き飛ばすまでに“とどめて”おく。振り抜いたムラサマを両手で持ち直し、体ごと回転するかのように斬撃を放つ。あまりの勢いに、男はたまらず後ろへ飛び下がった。

 が、息をつく隙も与えずサムが追撃をしかける。

 

「どうした、三刀流……その程度か?」

 

 反射神経、身体能力、動作の先読み……おおよそ戦闘に必要な技術。

 数多の戦場を駆け抜け、数多の敵を斬り倒してきた者にしか得られない絶対的な経験。

 その剣士のすべてを表すと言っても過言ではない剣術。

 すべてにおいて、サムは男を圧倒していた。

 

「……っ! クソッ!」

 

 すでに防戦一方となってしまっている男。なんとか自分の流れに持っていこうとするが、サムがそれを許すはずがなく、まったく攻めることができない。

 

「がはっ!」

 

 そのとき、男の胸にサムの“掌底”が叩き込まれた。男の身体が宙を舞い、背後の壁に叩きつけられる。

 

「ぐ……っ!」

「……終わりだ」

 

 呟くと同時に大地を蹴る。

 サイボーグ達のそれと遜色ない、驚異的な脚力が生んだパワーはスーツの補助(アシスト)と相まって爆発する。サムは土煙を上げながら、まるで滑るように男に接近。

 ホドリゲス新陰流剣技の1つ、“烈風突(レップウヅキ)”を放つ。狙うは男の顔────の真横。

 この男は、今殺すには余りにも惜しい。あの男と、似た匂いがするのだ。

 

「……お前の剣からは“焦り”を感じる」

 

 ムラサマを壁から抜きながら、サムは言った。

 

「……んだと?」

 

 男はサムを睨み続ける。己の顔面にムラサマが迫ってくると言うのにも関わらず、男は瞬き1つせずにサムを見続けていた。

 まるでその目に灼き付けるかのように。

 

「“約束”、と言ってたな……おおかた死んだ家族、友人と交わした奴ってとこか。それにこだわり過ぎて周りが見えなくなってるぞ?」

「……黙れ。てめぇに何がわかるってんだよ」

 

 ギロリ、とサムを睨み付けながら、男は言った。

 

「俺はある男を探して海に出た……そいつを倒して、世界最強になるためにな。そのために強くなってきた……!」

「……世界最強、とな…………面白い」

 

 やはり、というべきか、世界最強に反応するサム。にやり、とその口角を釣り上げた。

 

「ああ……俺はそいつを倒して大剣豪に……ってなに馴れ馴れしく話してんだてめぇ!」

「突然語りだしたのはお前だろう?」

「うぐっ、確かにそうだが……そうなんだが……」

 

 なにやらぶつぶつと言い始める男。そのときサムは、あることに気づいた。

 

「……お前、名前は?」

「…………ロロノア・ゾロ」

 

 ゾロと名乗った男が「てめぇは?」と視線で問う。自身の人生で2人目の、敗北を喫した男の名前を。

 

「……サムエル・ホドリゲス。サムでいい」

 

 ムラサマを納刀し、右手をゾロに突き出した。その手を見て、ゾロも強く握り返す。

 

「サム、ね……よし、それじゃもう1度俺と──」

「ああ、ちょっと待った」

「あ?」

 

 くい、と顎で向こうを示すサム。

 見ると、海軍大佐“斧手”のモーガンを先頭に、海兵がこちらに向けて迫って来ていた。モーガンは冗談抜きでかなりお怒りのご様子。

 おお、怖い怖い。

 

「思ったより遅かったな」

 

 はっはっは、とサムは笑った。

 

「ゾロ、俺ともう1度殺り合いたいならアレをなんとかしてこい。ここで見ておいてやる」

 

 柵の上に飛び乗り、サムは言った。どうやら海兵と戦うつもりはないらしい。

 

「はっ!? んだとてめぇ! なんで俺がてめぇの命令を──」

「撃ち殺せぇ!!」

「ぬおおぉぉぉぉ!?」

 

 

 

 ***

 

 

 

「なんでこうなっちまったんだ……」

 

 ゾロは呻く。海上を漂流(遭難ともいう)している船の上で、2人の男に囲まれながら。

 

「なっはっは! まぁいいじゃねぇか。俺の夢が海賊王なんだから、その仲間は世界一の大剣豪くらいじゃないと困る」

「海軍相手にあれだけ暴れたんだから、晴れてお前も悪党ってわけだ」

 

 2人の男、ルフィとサムが笑いながら言った。

 結果的にモーガン諸共海兵達を薙ぎ倒したゾロ。モーガンの支配に苦しめられていた町民、さらには海兵達から逆に感謝されてしまい、サムと決着をつけることは叶わなかった。

 しかし、海軍を相手に大暴れしたことに変わりなく、町に留まることができなくなったサムとゾロは、奇跡的にこの町にやって来たルフィと、その友人コビーという海兵になることを夢見る少年と合流。コビーは町に残り、ルフィ、サム、ゾロは海軍に見送られながら出航した。

 

「何で仕方なさそうに言ってんだ、てめぇ……思いっきり確信犯だろうが」

「なぁんの話だぁ?」

 

 ビキビキと額に青筋を浮かべるゾロ。対してニヤニヤと笑っているサム。

 かくしてルフィ一行は“海賊狩り”のゾロを仲間に引き入れ(?)、海を渡って行くのであった。

 天気は快晴。風は西。絶好の船出(遭難)日和だ。

 

「……おい。どういうことだ」

「「はっはっは」」

 

 

 

 

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