DEAD OR ALIVE 【SAMUEL RODRIGUES】   作:eohane

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リアルモンスーン

「つきました、ゾロのだんな、サムのだんな!」

 

 船着き場にボートを寄せる。

 右手に、「サーカス」という単語がぴったり当てはまる海賊船が見える。船首にはピエロ風の象。甲板上にはサーカス用のパイプテントらしきもの。至る所にこれでもかというほど大砲が備え付けられている。

 船尾に掲げられた旗には、赤っ鼻の海賊旗。白、赤をメインとしたしましまのデザインが施された海賊船だ。はっきり言って、あまり格好良くはない。

 自称“道化”のバギー海賊団の男3人組が真っ先に飛び降り、ロープでボートを固定する。食料にするはずの鳥に、逆に食料にされてしまったルフィを追ってボートを進めている途中、偶然海で溺れていたこの3人組は、サムとゾロに丁寧(?)に引き上げられた者達である。当初は、サムとゾロを脅しボートを奪おうと挑んできたが、案の定2人に返り討ち。死なない程度にフルボッコにされ、今や2人の言うことは何でも聞く使用人に等しい。

 

「お疲れさん、お前ら」

「へ、へい!」

 

 船着き場に足を下ろし、久し振りに感じる陸の感触に思わずんん、と背伸びをするサム。波に揺られる船の上とは違い、しっかりと踏みしめられる大地に慣れることができなかったようで、ふらりと体をよろめかせた。

 

「おっと……」

「なんだ、がらんとした町だな……人気がねぇじゃねぇか」

 

 同じく船着き場に降り立ったゾロが言った。さすがは“海賊狩り”と言われるだけあって船には慣れているようで、サムのようによろめいてはいない。

 

「実はこの町、我々バギー一味が襲撃中でして……」

「なるほどねぇ……」

 

 顎をしゃくりながら、サムが男に意味ありげな視線を向ける。冷や汗を流しながら、男は引き攣った笑みを浮かべた。

 

「どうする、バギー船長になんて言う?」

「そりゃあった事をそのまま話すしかねぇだろ! どうせあの女は海の彼方だ」

 

 “あの女”とは、この3人組が海で溺れていた原因の人物である。3人組いわく、自分達が襲った商船から奪った金品を、漂流者を装おって騙し取った挙げ句、始めから計算されていたかのようなタイミングで現れた嵐に巻き込まれ云々…………。

 要するにドジを踏んだわけである。そこで、刀を3本腰にさしたゾロが言った。

 

「じゃあとりあえず、そのバギーってのに会わせてくれ。ルフィの情報が聞けるかも知れねぇ」

「厄介事に巻き込まれてなきゃい……無理か」

 

 お互いにはぁ、と溜め息をついた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「本当に静かだな」

 

 1人町の中を歩くサム。バギー一味船長“道化”のバギーにルフィの情報を聞きに行く役をゾロに任せ、適当にその辺でルフィを探す、と理由をつけてぶらぶらと探索中だ。やはりバギー一味が襲撃中とだけあって、町中には人影はおろか猫の子1匹見えない…………わけでもないようだ。

 

「……犬?」

 

 猫ではないが、ちょこんとお座りをしている犬の姿があった。まるで置物と見間違えるほど身じろぎせず、かろうじて確認できる、呼吸のために腹や舌が動いていることから生きていると認識できる。

 

「んん?」

 

 人がまったくいないこの町に、礼儀正しく(?)お座りをしている犬。

 自然と興味をそそられたサムは、その犬の元へと歩き出した。どうやら犬の背後の店は、ペットフード店のようで、この犬は番犬のようだ。近づくにつれて、犬の身体にたくさんの傷跡があることにサムは気づく。まるで、何かからこの店を守ってきたかのような、そんな傷跡だった。

 

「……よう、こんなところで何してる」

 

 犬の目の前にしゃがみ込み、声をかける。

 

「…………」

「…………反応なしか」

 

 吠えようとも、噛みつこうとも、爪で引っ掻こうともしない犬を見て、何かしらのリアクションを求めていたサムはガクッと肩を落とす。

 モンスーンが雷電に「すべては、自然の成り行きだ……」云々話している時、傍らにいた警備兵が猫とじゃれあっていた時のような展開を期待していたのだが、そううまくはいかないようだ。

 ふと、破滅を呼ぶ風(ウィンズ・オブ・デストラクション)の3人を思い出す。

 アブハジアに派遣されドルザエフの首都占拠に助力していたが、雷電に“理想(戦う理由)”を説き、彼との戦闘により殉死したミストラル。

 デスペラード本社で雷電に“心の遺伝子(ミーム)”を唱え、彼の人斬りの本性(ジャック・ザ・リッパー)を呼び覚まし、彼に“虐殺のミーム”を受け継がせ殉死したモンスーン。

 本社屋上にて、雷電に“争い(人間の本質)”を語り、純粋に死力を尽くして戦った後、果てたサンダウナー。

 一般人から見れば異常としか思えない思想の持ち主達ではあったがしかし、全員がそれぞれ掲げた信念に従って戦っていた。完全に仲間(心を許せる者達)と呼べるわけではなかったが、それまで1匹狼だったサムに、少なからず影響を与えていたのもまた事実。何とも言えない気分になってしまったサムであった。

 

(……まさか、な)

 

 一瞬脳裏をよぎった可能性を振り払い、先ほどからゾロが向かった方角が騒がしくなってきていることに苦笑しつつ立ち上がる。

 その時だった。

 

 ガブッ

 

「……おい、今ごろ反応しても嬉しくないんだよ」

 

 先ほどまで大人しかった犬が突然サムに襲いかかり、その左腕に噛みついた。鋭い牙が彼のパワーアシストスーツを貫通し、生身の肉体に食い込み────はしないが、ブラーン、とぶら下がられ、非常に邪魔なことこの上ない。左腕をグルグルと振り回しながらサムは叫んだ。

 

「は・な・せこのっ、おい!」

 

 

 

 ***

 

 

 

「……っ!?」

 

 腹部に激痛が走り、思わずゾロは崩れ落ちた。見ると、ナイフが脇腹を貫通している。ドクドク、と血が溢れだし、腹巻きが朱に染まっていく。

 ナイフを握っているのは、宙に浮いた“手”。

 

「ゾロ!?」

 

 檻の中でルフィが叫ぶ。突然の出来事に理解が追い付いていないようだ。

 

「なに、あの手!?」

 

 その横で同じように叫ぶこの女の名前はナミ。ゾロとサムの使用人の男達が言っていた例の女である。

 ルフィをバギーに差し出し、バギー一味に取り入り隙を見て宝と偉大なる航路(グランドライン)の海図を盗んで脱出、としていたのだが、つい先ほどその計画は自分自身の手でぶち壊してしまった。

 しかし、嫌いな海賊と同レベルになるよりはいい、とあまり後悔はしていない。むしろ清々しい────わけでもない。やはり。やっちまった感は否めない。流石に。

 

「バラバラの実……」

 

 ゾロに斬られたはずのバギーが、それぞれのパーツごとふわりと浮き上がる。そのまま傷跡も残さず、元通りの身体へと合体した。

 

「それが俺の食った悪魔の実の名だ! 俺は斬っても斬れないバラバラ人間なのさ!」

 

 ドーンと背景に文字が見えそうなほどのドヤ顔でバギーが言う。

 それに合わせてわいわいとバギー一味が騒ぎ立てる。やはり船長のバギーが大砲(ハデ)好きなだけあり、その子分も戦闘をハデに行うのが好みのようだ。

 

「ひゃあぁぁ、船長痺れるぅ!」

「やっちまえぇ!」

「斬りきざ──」

 

 しかし、今日はそのやかましい叫び声が長く続くことはなかった。

 

「どうした、野郎共ぉ! もっとハデに騒ぎ……ん?」

 

 突然止んだ声援に活を入れようとバギーは振り返るが、そこに広がる光景に鼻水を垂らしながら思わず呟く。そこには、左右に控える副船長モージ、参謀長カバジを除いたすべての子分達が倒れ伏す光景があった。

 そして、折り重なる子分の体を押し退け、ゆらりと立ち上がる人影。

 

「……驚いた……リアル(?)モンスーンを拝めるとは……」

 

 ムラサマを右肩に担ぎ、左腕に犬をぶら下げたサムである。

 

「? ……おうルフィ、その檻から出してやる代わりに、この犬取ってくれ……」

 

 実に締まらない光景である。

 

「て、てめぇ! 何してくれとんのじゃコルァ!」

「俺達の仲間を……」

「死にたいようだな……」

 

 額に青筋を浮かべ、血走った目でサムを睨み付けながらバギー、モージ、カバジは言った。

 

「ああ、峰打ちだ。無益な殺生は好まんのでな……死んじゃいない」

「そういう問題ではない!」

 

 剣を引き抜いたカバジがサムに襲いかかる。

 

「おっと」

 

 軽く(?)5mほどジャンプし、サムは対面のルフィが入れられている檻の上に着地。相変わらず犬も一緒である。

 

「んな!?」

「ん? ……ああ、お前があの女か。みっともないぞ、いい女が台無しだ」

 

 あんぐりと口を広げ、驚くナミを他所に「ちょっと退いてろ、ルフィ」とサムが言った瞬間、鉄製の檻はいとも簡単にバラバラになった。

 

「マジか……」

「うっしゃあぁ、ありがとうサム! ……あ、次いでに縄も」

「なんで鉄の檻が……!?」

「はっはっは……秘密だ」

 

 高周波ブレードとは、その刀身に高周波を流し細かく振動させることで斬れ味を増大させたものである。基礎となるブレードの性能を向上させる特徴もあり、もともとホドリゲス新陰流に伝わる名刀“ムラサマ”の斬れ味が、高周波を流したことで…………と、今ここで彼らに説明してもわかるはずがなく、適当にサムは誤魔化した。

 

「さて、と……」

 

 腕をグルグルと回し、鼻息荒くルフィが言う。

 

「あの“デカッ鼻”は俺がやる」

「だぁれがデカッ鼻だクルァ!!」

 

 相当お怒りなのか、バギーが白目を剥きながら叫ぶ。どうやらコンプレックスのようだ。

 

「どうする、ゾロ? ……俺が2人共やってやろうか?」

 

 ニヤニヤと笑いながら、ゾロに向けてサムは言う。

 

「黙れてめぇ……あの剣士は俺がやる。てめぇはあのモフモフ野郎だ」

「はっはっは……了解」

 

 それと、と傷口を押さえながらゾロは言った。

 

「俺とてめぇの勝負はまだ終わっちゃいねぇ。それを忘れんな」

「……いいねぇ」

 

 それぞれの標的が決まったところでルフィが叫ぶ。

 

「よし、ナミ。俺があいつから海図を奪ったら仲間になってくれ! ────行くぞ!」

「……はは……はははは……もうどうでもいいわよ……」

 

 

 

 ***

 

 

 

「ほらほらどうした……お前ライオンだろう? そんなんじゃただの猫以下だな……」

「き、貴様! リッチーを馬鹿にしやがって……」

「ガルルルルル……」

 

 サム、絶賛挑発中である(犬と共に)。

 どうもサムは昔から相手を挑発する能力が長けており、戦闘においてかなり重宝している。そしてどうやらこの能力、動物にも効くようだ。

 挑発にまんまとのり、我を忘れて突っ込んでくる敵ほど斬りやすい者はいない。デスペラード社に殴り込みをかけたときもそうだった。

 それにしても、やたらと巨大なライオンである。

 この世界で最初に倒した虎も然り、ルフィの祖父、ガープも然り、コルボ山で出会った動物達も然り…………やたらと巨大な動物(バカ)(?)達がこの世界には多い。

 

 ブエックショイッ!

 

 その日、海軍本部に盛大なくしゃみが轟いた。

 

(ルフィとゾロは、と……)

 

 モージとリッチーの攻撃を躱しながら、2人の様子を伺う。

 まずゾロ。

 どうやら腹をナイフで貫通された(なぜそれで死なないのかが不思議である)らしく、かなり劣勢のようだ。が、だからといってサムは手助けをしようとは思わない。そもそも手助けをしたらゾロが激怒すること間違いなしだ。

 次にルフィ。

 どうやらバギーに斬撃は効かないが打撃は効くようで、拮抗しているように見える。バギーもルフィのゴムゴムの実の弱点である斬撃(ナイフ)で攻撃していた。

 

「ぬう……貴様、なぜ剣を抜かない! 馬鹿にしていると痛い目を見るぞ!」

 

 冗談ではない。馬鹿にしているのである。

 サムとしては目の前の敵に対し、まったくもって命の危機を感じない。むしろエースの方がよっぽど迫力がある。はっきり言って、ムラサマの出番は無い。

 だが、サムの頭の中に、どこからともなく声がする(気がする)のだ。「あ、空気読んでここはルフィとゾロに合わせてね」と言う声が。故に、ムラサマの出番はまだ、無い。

 

「バ~ラ~バ~ラ~フェスティバル!」

「……?」

「貴様ぁ! 無視するな!!」

 

 降り下ろされたリッチーの右足を片手で受け止めながらも、サムの目はルフィ達の方向を向いていた。

 

(ほぉう……)

 

 あのサイボーグ化されたモンスーンの、特殊な義体以上に細かく分断したバギーの身体(パーツ)がふわふわと宙を舞うというなんとも奇妙な光景だった。

 ルフィのゴムゴムの実の能力を見てきたサムだからこそ驚きはそこまでないが、やはりおかしい。悪魔の実を食べると、完全に人間の身体ではなくなるようだ。

 ────世界は広い。そう痛感するサムであった。

 が、しかし……。

 

「トリャ!」

「あ、テメェ……ヌアッ!」

「…………」

 

 どうやら足だけは浮くことが出来ないようである。

 そこを狙い(そんな訳がない)、ルフィがバギーの足を殴り付ける。

 

「……おい、お前らの船長……大丈夫か?」

「……タブン」

「ガルッ」

 

 どう見ても大丈夫ではないだろう。一味を立ち上げるほどの実力はあるようだが、いろいろとヌけているところがあるようだ。

 

「アアッ! テメェナミ! 俺のパーツを……」

「ナイスナミ!」

 

 …………うむ。ヌけすぎだ。いろいろと。

 

「あぁあぁ……なぁおい、この犬どうすればいいと思う?」

「ガルッ」

「おぉいリッチー!? 突然そいつと仲良くなったな!? って勝手に和むな!」

 

 どうやらナミがルフィのアシストをしたようだ。バギーが怯んだ隙に残りのパーツをすべて縛り上げ、なんとバギー、頭、“手”、“足”のみという完璧な2頭身人間の体現者となったのである。

 

「おっ、ゾロも来たか」

 

 ルフィとゾロが2人して、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「行くぞぉ!」

「そろそろ終わらせてやるよ……」

 

 よいしょ、とサムも立ち上げる。リッチーの頭を撫で、それからムラサマを抜き放った。

 

「……っ! やっとやる気になったか……今だやれ、リッチー!」

「……お前もしかし……なくてもかなり弱いな?」

 

 ビヨーンとルフィが両腕を伸ばし、ゾロがあの時のように3本の刀を構える。

 

「懐かしいな……バズーカ、だったか」

 

 眼光鋭く、サムもムラサマを構えた。

 

「ゴムゴムのぉ……バズーカアァ!」

「鬼……斬り!」

「……俺もなんか言わなきゃ……だったか?」

 

 恥ずかしすぎる。そんなこと言えるわけがない。そこまで空気を読むことはできない。

 どこぞの真っ黒バイ菌よろしく空の彼方へお星さまとなったバギーの心地良い叫び声を残しながら、ルフィ達vsバギー一味の勝負は幕を閉じた。

 

「……ってか犬、そろそろ離れろ」

「ワン」

「ガルッ」

 

 

 

 ***

 

 

 

「航海する気あんの? あんた達……」

「「「はっはっは」」」

 

 ついに笑って誤魔化す側に回ったゾロ。

 天気はやや曇り。風は南。自称海賊専門泥棒ナミを仲間に引き入れ────

 

「てない!」

 

 ……た訳ではなく、手を組み航海士をしてもらうこととなったルフィ達は、なんと遭難していない。ナミは海図通りにすすんでいるだけ、と言っているが、ぶっちゃけ残りの3人には意味がわからない。

 

「よぉし、あとは“コック”と“音楽家”と──」

「あとでいいわそんなもん!」

 

 くわっ! と目を剥いて突っ込むナミ。また一段と賑やかになったようだ。

 

「……くそ、あの犬……あとが残っちまった」

「そういやてめぇ、その服どうなってんだ?」

 

 あの犬、名前をシュシュというらしいが、彼に噛みつかれたパワーアシストスーツの左腕の部分にくっきりと歯形が残っていた。サムが船に乗り込む寸前にようやくその牙を納め、ワン! と一声、サム達を送り出したのである。

 

「男の身体に興味を持つとは……ゾロ、お前そっち側の人間だったか……」

「違うわこの野郎! なんでそうなる!」

「なっはっは……でもサム、そもそもそれ、脱げるのか?」

 

 かれこれ10年近くサムと共に過ごしてきたルフィも、彼の身体を見たことはない。

 

「当たり前だ。まぁ、その内見せてやるよ……少々刺激が強いがな」

 

 はっはっは、と笑い合うサムとルフィ。

 額に青筋を浮かべるゾロ。なんでもない風を装って入るが、気になるのかそわそわとしているナミ。

 かくしてルフィ一行は泥棒ナミ────

 

「海賊専門!」

 

 ……海賊専門泥棒ナミを仲間────

 

「…………」

 

 ……ではなく手を組み、今日も大海原を行く。

 

 

 

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