DEAD OR ALIVE 【SAMUEL RODRIGUES】   作:eohane

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人様のモノを勝手に取ってはいけない

「あんた、こいつぁ……」

「……“海ウサギ”だ」

 

 ここはとある島。ルフィ一行が、航海士ナミの言う通り帆を進めた結果行き着いた島である。

 

「この辺りの海じゃ見ない奴だな。……あんた、どこから獲って来たんだ?」

「企業秘密だな。ところで、いくらで買う? 味は保障するぜ?」

 

 現在、沖合いで捕らえた謎の海洋生物を3頭(3匹ではない)、島の村にある肉屋(魚屋に持っていったらさばききれないと突き返された)にサムは売りに来ていた。

 この生き物、サムは海ウサギと呼んでいるが勿論名前など知らない。ただ単にウサギの顔をした魚(のはず)だったというだけだ。

 顔だけ見れば少々大きめ(?)のウサギの顔をした可愛らしい魚(この時点でおかしい)と、無理矢理納得することもできるが、断じて言う。

 こいつは可愛くなんてない。

 胴体が鮫のそれ、ヒレの代わりに鱗と羽毛がある始祖鳥を連想させる“羽”が着いたウサギなど、世界広しといえど誰が可愛いなど言うだろう。ご丁寧に牙まであり、己が獰猛な肉食獣(魚)であることを雄弁に物語っている。まさか人間の生態系の破壊による影響でこの合成獣(キメラ)のような生き物が……などとサムは思わない。

 

(コルボ山に比べりゃまだまだだな)

 

 この一言で片付いてしまう。コルボ山恐るべし。

 がしかし、その身は極めて美味であった。バギー一味から拝借した小舟に据え付けられていた小型のキッチンで、切り身を使って焼肉にし食べてみたところ、やはりというべきかルフィは大歓喜。ゾロは酒の肴にあう、と積まれていた酒をほぼ飲み干し、案の定ナミはゾロを殴り飛ばしたものの珍しく焼肉に夢中になるほどだった。

 舟の食糧備蓄は完璧、なおかつ海ウサギが3頭余ったので今に至る、という訳である。

 

「うぅむ……1頭7万ベリーでどうだ?」

「ま、そんなもんかね」

 

 金に煩いナミが納得するかはわからないが、合計が2桁を超えれば上出来、と1人勝手に判断し店のおやじから金を受け取る。

 

「さて、と」

 

 海ウサギをサムに任せ、あわよくば“船”を手に入れると別行動中の3人を探すため、肉屋のおやじに別れを告げようとしたとき、サムの横に立った羊……いや、人間がいた。

 

「すいません、いつものお肉、頂けますか?」

「ぬぉっ!?」

 

 何者、と思わずムラサマを抜刀しかけ、サムは慌てて腕を引っ込める。

 

「あぁ、メリーさん。いつもの奴だね? ちょっと待っててもらえるかい……今久々に滾ってるんだ……」

「な、何やら物凄い大物ですね……」

「だろ? そこの兄ちゃんが取っ捕まえたんだとよ! ……えぇと、これとこれと……あとこれな。いつも大変だねぇ」

「いえいえ……? ……あ、どうもこんにちは。私、メリーと申します。あまり見かけないお方ですね?」

「……あ、あぁ。サムだ。よろしく」

 

 これは地毛か? 地毛なのか? 聞いたら悪いか? 悪いよな? ……と自問自答するサムを置いて、羊……メリーは肉をさっさと購入し、では、と礼儀正しく去っていった。

 

「なんだ、ありゃ?」

「彼かい? ありゃ執事さんだよ。この村の大富豪の屋敷のな」

 

 ほぉう? とサムが「大富豪」に反応する。もともと話し好きな人なのか、サムが関心を持ったことを知るや肉屋のおやじはサムに話し出した。いわく、大富豪と言っても病気で両親を亡くしたまだまだ若い少女、カヤが主であり、しかも当の本人は病弱であるらしい。クラハドールという執事を筆頭に10数人の執事達が彼女を支えているが、財産があれどかなり不幸な生活を送っているようだ。

 

「ふぅむ。大富豪ねぇ……」

「本当、かわいそうな子だよ。……ところであんた、何者なんだい?」

 

 サムの出で立ちを見て、先ほどから気になっていたのであろう質問をおやじはした。この村に入ったときから奇異の視線を浴び続けていたサムは、はぁと1つ溜め息をつく。

 

「おやじ、客のことをいちいち詮索するもんじゃないぞ」

「う……そりゃそうだが……」

「わかってりゃいいんだ。ソレ、ありがとうな。少し食ってみるといい」

 

 じゃあな、とまだ何か言いたそうな顔をしている肉屋のおやじを置いて、サムはあてもなくぶらぶらと歩き出した。

 

(しまったな……ルフィ達と落ち合う場所、決めとくべきだったか)

 

 予想以上に大きかったこの村の中から、彼らを探し出すことがひどく面倒に思えてきたサム。先ほどからずっと続いている奇異の視線もそろそろ煩わしくなってきたところだった。

 

(……屋敷、行ってみるか。案外あいつらも行ってるかもしれん)

 

 物は試し、とサムは1人歩き出した。

 

(服……考えとくか)

 

 

 

 ***

 

 

 

「ん?」

 

 カヤ嬢の屋敷は、やはり大富豪の屋敷らしく高い柵に囲われており、お邪魔(侵入)するのは困難を極め────ない。何のその、軽々と飛び越えて屋敷の敷地内に入ったサム。罪悪感など微塵も見せず、悠々自適に敷地内を闊歩していると、耳に入ってきたのは、

 

「俺は親父が海賊であることを誇りに思ってる!」

 

 島に上陸したとき、サム達をたった1人で勇敢(?)に迎え撃とうとした大海賊団(笑)を率いるウソップという少年の叫び声であった。

 見ると、ルフィ達3人、そして彼と共にいた子供3人までいる。窓から青褪めた表情で彼らを見ているのが恐らくカヤ嬢、そしてウソップの目の前で尻餅をついている、とてもおしゃれで独創的な模様(うんこ)のついた服を着用した執事、彼がクラハドールという男だろう。とても素敵なファッションセンスをお持ちのようだ。

 一先ず航海士ナミのもとへ、頂戴した金を預けようとサムは歩く。

 

「ナミ。21万ベリーだ」

「え? ……ああ、サムか。お疲れ様。あと、やっぱり船は無理そうよ」

「だろうな」

 

 珍しく、すぐに金額を数えようとしないナミを訝しく思いながらも、サムはくくくと肩を震わせる。

 札束を持ったまま、ナミはウソップ達へ視線を戻した。

 

「遅かったな、サム」

「そう思うなら少しくらい手伝え」

 

 へっ、とゾロが鼻で笑うのを聞き流し、サムはルフィの横へ並ぶ。

 

「あ、サム。あいつ、誰かに似てねぇか?」

 

 ルフィが、視線は逸らさず声のみでサムに問いかける。あいつ、というのはウソップのことだ。サムも、初めて見たときから何か引っ掛かるものを感じておりもしやと思っていたのだが、父親が海賊と聞いてそれは確信に変わった。

 

「ああ。ヤソップだろう?」

「やっぱり!」

 

 ヤソップとは、シャンクスの仲間の1人である。狙撃の腕は超がつくほどの一流で、文字通り百発百中、本人は蟻の眉間に弾丸をブチ込めると豪語する男だ。サムとは酒宴で何度も酒を酌み交わした仲であり、ルフィ同様、よく息子のことを聞かされたものである。

 

「こんなところにいたんだなぁ……」

 

 懐かしそうにルフィが呟く。

 そうだな、と感慨に耽ようとしたところでフルフルと首を振り、目の前の現実に意識を戻す。どうもクラハドールとか言う執事がウソップの父親を侮辱しそれに彼が激怒。殴り倒したところにサムが到着し、再びウソップが殴ろうとしたところをカヤ嬢に止められた、といったところのようである。

 

「…………」

 

 サムの()が告げていた。

 このうん……じゃない執事、何かある。

 

「2度とこの屋敷へは近づくな!」

 

 臭う。臭うのだ。

 決してうん……模様が臭うとかそういう意味ではなくて。

 

「ああ……わかったよ。言われなくても出てってやる」

 

 「もう2度とここへはこねぇ!」ってと、少年ウソップは鼻息荒く去っていった。相当興奮していたようで、ルフィの隣に立つサムに気づかなかったようだ。

 

「行きましょ……船は別のところで探そ?」

 

 ナミが若干クラハドールを睨み付けながらも言った。

 子供3人組が悔しそうにプルプルと震えているが、ギロリとクラハドールの1睨みで恐れをなしたのか、今度はガタガタと震えだした。それを見てゾロがはは、と笑う。ビビるなら最初からイキがらなくても……と思う反面、サムは苦笑を堪えられなかった。

 

「さて、行くかねぇ……ん? ルフィ?」

 

 キョロキョロと辺りを見回すゾロ。どうやらルフィがいつの間にかいなくなったようだ。恐らく、ウソップを追ったのだろう。

 

「はぁ、あいつ……サム?」

 

 額に手を当てたナミが、いつまでも動こうとしないサムに声をかける。彼は、左手でムラサマの柄を弄る以外、微動だにしない。その瞳は、目の前の執事クラハドールを見ていた。

 見て(探って)いた。

 

「……出て行けと言ったはずだが?」

 

 クイッ

 

 これだ。

 この眼鏡を掌で上げる仕草。臭う。臭うのだ。

 

「……おい、うんこ……じゃない、あんた」

「サム、言っちゃってるから。誤魔化せてないから。みんな我慢してたの無駄にしてるから」

 

 ナミの突っ込みを無視し、サムは言う。

 

「……何者だ?」

「何を訳のわからないことを。私はクラハドール。カヤお嬢様に仕える執事の──」

「あぁあぁ……そんなことを聞いてるんじゃないんだ」

 

 ?

 その“2人”を除いたすべての者達の頭に、疑問符が浮かぶ。

 

「……“()臭”がするぞ?」

 

 クイッ

 

 クラハドールは答えない。また独特な眼鏡のかけ直しを披露したあと、サムを睨み付けながら彼は言った。

 

「出て行きたまえ。これ以上はお嬢様のお体に関わる」

 

 

 

 ***

 

 

 

「死臭って…………突然どうしたの、サム?」

「簡単だ。死臭がした、ただそれだけ。お分かり?」

「分かるか!」

 

 屋敷を去った後ルフィとウソップを除いたサム達は、のんびりと歩きながら道草を食っていた。

 地を照らす暖かな太陽、両脇に広がる広々とした牧場にゆっくりと草を食べる牛。港村であるフーシャ村とはまた別の、穏やかな空気が辺りに漂っている。

 だと言うのに、サムの表情は晴れない。というより、何か考え事をしているようだ。

 

「ギャァギャァ煩えな……んで? これからどうすんだ、俺達」

「そうね……船は無理そうだし、ルフィが帰ってきてから決めましょ」

「…………。ははっ……お前、手を組むだけって言いながらけっこう“仲間”らしいこと言うのな」

「……煩いわよ」

 

 ん? とゾロはナミを見やる。てっきり拳骨だの罵倒の言葉だのを浴びせてくるかと思いきや、似つかわしくないしおらしい声で、ただ一言だけ返してきたことに(失礼ながら)疑問を感じたからだ。ゾロが振り向いた直後ナミはいつもの表情に戻っていたが、その直前の、なんとも言えない悲愴感漂う悲しげな表情を、彼が見逃すはずがなかった。

 

「……おい。てめぇ何隠し──」

「人は秘密の1つや2つ、持ってるものでしょ? ましてや私みたいないい女ならなおさら」

 

 ゾロが言い終わる前に、ナミが遮るように話し出す。ニコッと作られた笑みに隠されたナミの本心を、ゾロは見抜くことができなかった。

 

「……あぁ……2人仲良くイチャつくのは構わんが、お2人さん?」

「「イチャついてない!!」」

「…………まあいい。俺は突っ込まないからな。んで、俺はこれから舟に戻る。もうこの町に用はないし、お前ら2人でルフィを連れて来てくれ。焼肉しながら待ってる」

 

 よいしょ、とどこに隠し持っていたのか、サムは酒樽を軽々と担ぎ上げ、舟を停泊させている北の海岸へ向けて歩き出した。

 

「……酒樽……? ……あぁっ! あんた勝手にお金使ったでしょ!?」

「当たり前だ。俺をパシリに使ってタダで済むと思ったのか?」

 

 してやったり、とサムが笑う。

 

「おいサム。俺の分も残しとけよ」

「はいはい」

 

 そのやり取りを見ていたピーマンとにんじんの子供2人は、顔を寄せあってコソコソと呟く。

 

「なあ……お酒って美味しいのかな」

「さあ……今度飲んでみ──っ!?」

「おぉい、お前ら……酒はちゃんと大人になってかゴフッ!?」

「あんたも未成年でしょうが!!」

「いや、ナミ。お前も人のことは言えんぞ?」

 

 

 

 ***

 

 

 

 今この瞬間、町とカヤ嬢に危機が迫っていることが発覚したことなど露知らず、サムは宣言通り焼肉を突いていた。

 

「まぁ、メインは酒だがな」

 

 「誰に言ってんだ、俺……」と呟き、肉の焼ける、食欲そそる薫りがしてきたのを見計らってサムは肉を裏返す。ジュワジュワ……と肉汁が溢れ、サムは己の口内に涎が満ちてくるのを感じた。

 

「…………~~、ア~……そして自由の太陽は (エゥ ソ ダ リ ベル ダヂ ハイオス ソォシャ )この瞬間に明るき(ドゥス ブリ ヨンノ セウタ )光を導いて(バッタ ネッスィス ダン チ)ん~ん~…………ダメだ……もう寝ちまいそうだ……」

 

 多少(ほぼ)あやふやに、故郷ブラジルの国歌を口遊む。と、言うよりサムは、国歌をほとんど覚えて居なかった。

 ブラジルの国歌は長い。長すぎる。

 

「“自由の太陽”……ね」

 

 すでにもといた世界の言葉を話していないことなどまったく気にせず、サムは肉を皿に盛る。そこで、サムは酒の次に楽しみにしていた秘蔵アイテムを取り出した。

 

「“旨いタレ”……もう少し名前凝れよ」

 

 だがしかし、このタレの味はすでに確認済みである。海ウサギを売った肉屋のおやじにぜひ、とおすすめされたものだ。あの町で採れた玉ねぎ、にんじん、ピーマンなどなどたくさんの野菜を使ったコクのあるタレである。

 前回の焼肉では、調味料が塩のみという寂しい食事であったため(それでも十分美味い)、酒の次いでにサムが購入したものだ。

 肉を1切れタレにつけ、パクリと頬張る。

 

「…………うん。美味い」

 

 グイッ、と酒を煽り、ふぅと一息つく。

 

「……そういやサイボーグってのは味覚のオンオフ機能があるんだったな。……もったいねぇなぁ……」

 

 まだ赤い血が流れている自身の身体がある(残っている)ことに深く感謝するサムであった。

 しかし、サムは知らない。実はその機能、ある(好敵手)には重宝されていることを。

 

「三日月か……」

 

 気がつくと、夜は明けていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「ウギャアアァァアァァ!?」

「喋るな……二日酔いの頭にゃ響く」

 

 ムラサマを右肩に担ぎ、突如襲撃してきた「クロネコ海賊団」船の番人ブチの頭を、左手で岩壁に押し付けながらサムは言う。

 また力を込め、さらに押し付けた瞬間バキバキ、と岩壁に裂け目が入った。

 

「痛ぇ……痛ぇよおぉ!!」

 

 そう叫びながら地面を転げ回っているのは同じく船の番人シャム。その右腕は、肘から先が無くなっていた。勿論のこと、サムがお仕置きしただけだ。

 

「人様のものは取ったらいけないって教えられなかったか? んん?」

「ギィヤアアァァァァ!! ……────」

 

 只々耳障りでしかない悲鳴が、止む。

 言わずもがな、猫ババはいけない、やったら痛い目に遭いますよ、お仕置きしちゃいますよ、ということだ。サムの場合、その痛い目の次元が違うというだけである。

 

「……そら、返すぞ」

 

 ぽいっ、とサムが、茫然と立ち尽くしているクロネコ海賊団船長ジャンゴの元に、(恐らく)気絶したブチの巨体を放り投げた。彼の周りには、(恐らく)気絶し倒れ付してい、船員達の姿。

 

「て、てめぇはいったい……」

「……なんだ、お前もやるのか?」

 

 ムラサマを一振りし、刀身にこびりついた(汚れ)を払う。

 チャッと納刀しギロリ、とジャンゴを睨み付けた。

 

「い、いや! あの──っ!?」

「ん? ……お、やっとお出ましか」

 

 振り返ったサムの視線の先、目の前の坂の上には、 額に青筋を浮かべ、指先に1本ずつ刀がある妙な手袋を両手に着けたクラハドールが立っていた。

 

「……まさかとは思っていたが……案の定、だな。ええ? ジャンゴ」

 

 サムが屋敷で耳にした声とは“冷たさ”が違うそれを聞いて、ジャンゴの背に嫌な汗が流れ落ちる。

 それもそうだろう。彼らの元船長、“百計”の異名を取るキャプテン クロは自身の計画通りに進まないことを極度に嫌う。そうならなければ、いや、自分達がその通りに動かなければ、待っているのは“死”。

 

「は、はは……終わりだ…………」

 

 ガクッと膝を着き、項垂れるジャンゴ。自暴自棄に陥ったか、何やらブツブツと呟き始めている。

 

「とても慕われているんだな」

 

 「ええ?」と、顎をしゃくりながらクラハドール、いや、クロを見やる。皮肉たっぷりなその物言いに、クロはさして反応を示さず冷淡な声で言い放つ。

 

「ふん……安心しろ。貴様は真っ先に殺してやる」

「はっはっは……そりゃ怖いことで」

 

 両手を広げ、肩を竦めるサム。

 

「本物の海賊を敵に回す恐怖を教えてやる……」

 

 文字通りダラン、と腕の力を抜く。一見やる気の無さそうに見えるこの体勢だが、クロが纏う“殺気”は半端ではない。

 

「ほぉう? お前()本物の海賊か……なら海賊ってのも大したことないな」

「……ほざけ!」

 

 直後、クロの姿が消える。

 一瞬にして静寂に包まれる空気。

 

「…………」

「……“杓死”だ……」

 

 ジャンゴの力なき呟きが聞こえた直後、

 

「っ!」

 

 岩を削る音、地面を抉る音、そして“肉”を断つ音と共に、とにかくサムの周りにあるものが斬られていった。

 見境なく、情け容赦なく斬り刻まれていく。

 

「……ほぉう……」

 

 が、サムは大して気にする素振りも見せず、ムラサマのトリガーに指をかける。

 久しき“抜刀”だ。

 

「…………」

 

 右手をムラサマの柄の射線上に置く。呼吸を止め、感覚を研ぎ澄ませる。

 “速度”だけならば、この杓死同等、いやそれ以上の弾丸(モノ)を相手にしてきたサムである。ぶっちゃけて言うと、余裕でクロの動きをその目に捉えていた。ただ、相手が意志を持った人間であることを考慮し、ギリギリまでトリガーは引かない。

 

(……そういや弾倉(マガジン)……調達しなきゃな)

 

 ────ここだ。

 

 そう脳が判断するほぼ同一の瞬間、脊椎反射でサムはトリガーを引いていた。

 誤差は限り無くゼロに近い。

 

「……っつおらっ!!」

 

 音速を超えた、弾丸の如き居合い斬りが放たれた。

 

「っ!?」

 

 鞘本体とムラサマの赤い刀身が擦れ合い、細かな火花を散らす。柄が右手に収まり勢いを殺すことなく振り抜いた。

 居合い斬りがクロの左手の刀を砕き、同時に彼の顔を斜めに“浅く”斬り裂く。バランスを崩し、クロは岩壁に激突した。

 排莢された薬莢が弧を描き、地面に落下。小気味良い金属音を奏でる。

 

「……てめぇ、少しはやるようだな」

「負け惜しみ言っちゃって……」

 

 陽の光で赤く────妖しく輝くムラサマをクルクルと弄びそれを右肩に担ぐと、サムははぁ、と溜め息を溢す。

 

「諦めな。武器を捨てて降参しろ────とか言ってみたけど嘘だ。1回こういうの言ってみたかっただけさ」

 

 口はニヤリ、と弧を描いているが、目は笑っていない。眼光は鋭く、それはまさに獲物を狩る獅子を思わせる。ムラサマを肩から自身の目の前へ、左手を添え、その切っ先をクロへと向けた。

 ────すでにお前は、(獅子)の餌だ、とでも言うが如く。

 

「……来な」

 

 無言で立ち上がったクロが走り出す。しかし、所詮は“猫”止まり。百獣の王たる獅子に挑むには、あまりにも貧弱過ぎた。

 が。その特徴的な刀付き手袋が、憐れムラサマに粉微塵へとされるその瞬間、突如、ドゴォォンと爆発にも似た音が響き渡り、2人の間に砂塵が舞う。

 

「ぐおっ!?」

「サアァムウゥ……肉俺も食いてえぇ!!」

 

 突如2人の間に隕石の如く飛び込んできたのは、まだ舟から微かに漂う焼肉の薫りに釣られてやって来たルフィだった。飢えた狼のように、その瞳は血走っている。まさに捕食者、冗談抜きで怖い。

 

「てめぇは死んだはずじゃ……」

「……っ! ……よおしルフィ、コレが終わったら焼肉パーティーだ」

 

 にやり、と口角を釣り上げたサム。ゲスい。ただひたすらにゲスい。やはり、“煽る”ことに関してはこの男の右に出る者はそうそういないだろう。

 

「うおおああぁぁぁぁ! ……肉ぅぅぅ!!」

「うおっ!?」

 

 

 

 ***

 

 

 

「肉だああぁぁ!!」

「酒が美味ぇ」

「食料がみるみる減っていく……」

「ぬお!? おいルフィ、今のは俺の肉だぞ!? 返せ! てめぇ返せぇ!!」

「……また賑やかになったな」

 

 “船”の上でルフィ一行は盛大(過ぎる)な焼肉パーティーを開催していた。新たな仲間、ウソップとゴーイング メリー号を加えて。

 

「“そろそろ”か……なぁ、メリー…………」

 

 船首の羊を模した像に背を預け、グイッ……と酒を煽るサム。もちろん、“メリー”がそれに応えることはない。

 

「はっはっは……」

 

 かくしてルフィ一行は仲間に狙撃手を加え、舟から船へとさらにランクアップ(?)し今日も海を進む。

 天気はやや快晴。風は北。

 今日も絶好の船出日和だ。

 

「ぬぅわにぃぃ!? 偉大なる航路(グランドライン)を目指すぅ!?」

 

 

 

 

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