状況は、私という凶悪ヴィランが、ビルを占拠。どこかの階層に核兵器を隠している。ヒーロー側のオールマイトは言わずもがなそれの処理。本来ならばどんなヴィラン、心理状態、目的などを細く決めるのだろうが今回は戦闘訓練。
核兵器を起動させるという方法を取れない上に制限時間まで核兵器を守るかオールマイトを捕まえるというどちらかを…まあどちらも無理な話で、つまり単純な負けイベント。
でも私は1歩でもプロヒーローに近づかなくてはならない。早く、何よりも早く。それはただ復讐のために。
「準備はいいかな!制限時間は少し短い5分!10秒後に状況開始だ!!」
準備に5分、実施で5分か…まぁ…そこまで準備することもないし。
5
こんなの死にゲーより酷い。在り来りな負け。プロヒーローによる蹂躙。まあ流石に手加減はしてくれるようだが。
4
まあ、少しだけ、真面目にやろう。
3
真面目に、敵をやろう。
2
私は元来よりヒーロー側の人間じゃない。綺麗事は嫌いだ。私が好きなのはヒミコと拒絶だけ。
1
大丈夫…「いつも」と同じだよ…さあやろうヒーロー…私を殺して見せろ。
「葵…大丈夫かな、オールマイトとなんて…」
「さ、さすがにオールマイトも手加減してくれるんじゃないかなぁ…」
「でもよ…実際すげぇじゃんアイツ、何処までやれるか気になるって言うか…」
上から響香、出久、上鳴。全員がモニターを穴が空くほど見ている中、声が漏れる。
「けっ…」
爆豪は自分以外に圧倒的差を見せられたことに、そして自分のオリジンであるオールマイトという光が、あの女に向けられていることに腹が立っていた。プライドなど等に捨てた。即ちそれは一人の人間としての嫉妬であり、一種の屈辱であった。
タイマーが3,2,1と減っていく。緊張が走る。誰かがごくりと生唾を飲み込んだ。瞬間、爆ぜる。爆音と、風圧で軽いパニック。そこに居たはずのオールマイトは、はるか上空の、最上階付近を浮遊していた。
「はっや?!」
「流石オールマイトやね…あんなのと戦うん?」
誰よりも早く反応した切島鋭児郎に、麗日が返す。そう、さすがトップヒーロー。目にも、と言うより音も置き去りにしたただの跳躍は、地面を割り、ソニックブームを生み出すほどである。
モニターは守衛葵を映し出す。困惑した様子も無く、ただただ、無表情で、不気味に窓の外を眺めている。
「ようこそ、ヒーロー。帰ってくれるとありがたいけど。」
「そうはいかないよヴィラン。こちらこそ投降してくれるとありがたいんだけど?」
演技のようには見えない声。そして演技とバレバレの声。どうにも彼女のそれは、演技とは思えない何かがあった。
「そう…ならここで死んで。」
背後に展開される幾つもの青白い半透明の板。六角形の中央には「衝撃」と、周りには読み辛いが、「瞬間的に大きな力を物体に加えること。また、その力。」と、広辞苑の内容そのままのような文章が回っている。
1、2...10、20と増えていくその板からは見えない衝撃波が飛ぶ。粉塵や空気のゆらぎがカメラ越しにもわかる。
オールマイトは焦った顔で上に跳ね退く。流石はプロヒーロー。眼前に拡がったのは壁と天井の半分が吹き飛んだ最上階だった。
「あんなことも出来るのかよ、なんだあれ…なんの個性だ?」
「分かりませんわ…」
やはり、個性把握テストから…いや、人によっては入試から彼女の謎の力は、己の劣等感を刺激する。確かに頑張ってきた。きっと誰しもが、誰よりも…と、口には出さないだけで血反吐を吐いて努力をしてきたはずだ。
しかしそこにあるのはあまりにも高い壁、超えるべき同級生、追いつくべきプロヒーロー。現実は余りにも残酷で、此方を見る事など無かったのだと、その冷酷な電子情報が目を塞いでも無理やり理解させられる。
「あ、危ないよ、一応授業だからね???」
「オールマイトなら、避けれるでしょ…じゃあ警告だけしてあげる。早く逃げた方がいいよ?」
「む…Shit?!」
オールマイトの死角から少しずつ完成させた、包囲攻撃。檻のように逃げるとこなど無いかのように見えたその板には「衝撃」と書かれていた。なぜそんな事が起こせるのか。それはあまりにも簡単で、向かわせたい方向の空間をほんの一瞬拒絶することによって空気の塊がそちらに膨大なエネルギーを持って流れ込む。
その結果衝撃波が生まれるのだ。その威力は0.1秒で約3万ジュール。約30トンのトラックが停止状態から時速約60キロで壁に衝突する際に発生する力と言えばわかりやすいか。
オールマイトは詳しくは分からなくとも危ないということを直感で理解した。六角形の球体というのは存在できないことは有名である。少しだけ開いた逃げ道に飛び込むしか無かった。
ちらりと彼女を見ると指鉄砲でこちらを狙っている。その目は殺意が篭もり、憎しみと、深い悲しみを感じた。今までの他の敵と同じような…
ばーん
口パクではあったかそう見えた瞬間、指先に小さな例の六角形。文字は読めない。然し確かな恐怖。首がちりちりと痛む。分からない。だが明らかな危険。
荷電粒子砲。ボールを飛ばしたあれの応用…と言うよりこちらが元である。
ほぼ無意識のことであった。体を捻り、射線を避ける。電撃のように細胞を光の速度で危険信号が巡る。かすったマントは、そこから軽く崩壊を起こしていた。
「あ、当てる気無かったんで大丈夫ですよ。」
冷や汗が伝う。手をヒラヒラとさせながら、挑発的にこちらを見る生徒に少しだけ本気を出そうと思うのは、悪いことでは無いはずだと自分に言い聞かせた。
空中を蹴って生徒には反応できない速度で近づく。驚きもしない少女は末恐ろしい。捕縛テープを握りしめて、しかし彼女の後ろにある核兵器も視野に入れながら拳をつきだす。
「デトロイト…スマッシュ!!」
風圧だけで、吹き飛ぶような馬鹿げた威力の、ただのパンチ。だがやはりと言うべきか、例の六角形の集合した壁に阻まれる。「防御」と「吸収」。その実、ただ拒絶しているだけなのだが…。
「守衛少女、君は一体…」
「ヒーロー、君の前にいるのは生徒ではなく、敵だと思うのだけれど。」
鋭い蹴り、地面を這うように、そして突き上げ。格闘技ではなく、どこか実践慣れした攻撃を手で受け止めるべく手を伸ばす。
その手に、捕縛テープが巻かれた。
無駄に計算こだわりました。ちなみに主人公のシールドは光をいい感じに拒絶して作ってます。ほぼハリボテなのでスカスカ。拒絶の壁を作ることで物理的に踏めたり…