ヒミコは制服にコルセットのような戦闘コスチュームを仕立てあげていた。
「葵ちゃん、私の武器を選んで欲しくて… 」
「前どんなの使ってたの?」
「んー…カッターとか、折りたたみナイフが多かったですかね?」
確かに、最初にあった時持っていたのは長めのフォールディングナイフだった。壁や、ボックスに納められたナイフを触りながら考える。
「いま支給してもらったナイフは折りたたみの奴なのです。」
取り出したナイフを手に取って見てみる。ヒンジが少しグラつく、柔らかめの金属で刃こぼれしても突き刺したり叩ききったり出来るタイプのナイフ。グリップはステンレス…すぐに真ん中から折れて使い物にならなさそうだ。
ヒミコは血を吸う個性だ。打ち合うより闇討ちで傷を付けることが最優先だと思う。機動力と、斬れ味…重くない方がいいだろうか…
「なんです?」
ヒミコの指や腕を触って、指を絡めて握る。細い。でも筋肉が無いわけじゃない。重すぎなくて、鋭くて…あぁ…これがいい…
もう片手で壁に掛かっていた少し長めのナイフをヒミコに渡す。
「メインはこれがいいと思う。キクナイフ。」
「ほぁー…かっこいいナイフなのです…」
フルタング、鋼材は硬めで叩き斬ることより、掠めて肌を切り裂くことに特化した方が絶対にいい。少しだけ長いのはリーチを補うためだ。グリップはG10素材で確りと手に食い込む。痛いぐらい、滑らない。
ヒルトより少し手前のバランスは、突き出した時に良く力が良く乗る。
「あれ…1本です?5、6本無いといつも不安で… 」
「んー…ヒミコはナイフをいっぱい持つと機動力が落ちて戦いにくいと思う。メインと…ギリでサブかな…」
「でもナイフ投げたい…かっこいいーじゃないですか?ナイフ投げるの。」
投げナイフ、確かに不意を着いて攻撃出来るかもしれないが…実用性に掛けるのだ。
「毒付きのスローイングナイフなら有り得なくないけど、ナイフ投げるぐらいなら銃撃った方が強いし…それにドライバーとか、鉄パイプとか、ある物投げた方が良いと思うなぁ…」
「うぐぅ…皆そう言うのです…かっこいいのに…」
撫でながらもう片方の手でスローイングナイフと普通のナイフを握り込む。
「こういう使い方なら、あるかもね…っ!」
ナイフを振ったと同時にスローイングナイフを投げて的に当てる。まあ曲芸としては面白い。
「おー!!でも難しいと思うのです。」
「私もそう思う。手数増やして隙を着くのは悪くないとは思うけど、それよりも確実性を…取るべきだと私は思うかな…いわゆる必殺技だよ。」
「葵ちゃんは…必殺技あるのです?」
「あるよ、必ず殺す技。」
近いうちに、見ることになるだろう。私の必殺を。
結局私は、両腰に葵ちゃんから貰ったナイフを差すことに落ち着いた。何時も投げていたナイフがないというのは落ち着かないが、この人がその方がいいと言うのだから、きっとそうなのだろう。
「で、葵ちゃん、なんで普段着なんですか…?」
「え…うーん…何となく…別に戦闘服とか着なくても大概のものは拒絶できるし…」
特別おめかししている訳でも無く、武器も防具も持たない恋人を見て気が抜ける。
「はぁ…いっつもオシャレさんなのになんでこういう時は…もう、次はもっとおめかしさせますからね!!!」
「えぇ…だって…」
「だってじゃない!今の時代、ヒーローもヴィランもおめかしするもんです!」
そういえば、弔くんも手を沢山付けるのみでオシャレしていないことを思い出す。どうしてか力がある人達は見た目を気にしない。
「まぁ…いいけど…じゃあ準備もできたし行こっか。」
「ひゃ…もう、いきなりです…」
「ごめんごめん、急がないと寝れなくなっちゃうからさ。」
手を引かれて、バランスを崩したところをお姫様抱っこされ、外に連れ出される。何をどうしてるかは何度聴いても分からなかったが、物凄いスピードで空を駆ける事が出来るらしい。夜の空中散歩を楽しんでるうちに、港横の倉庫に着いた。
地面に降ろされ、撫でられながら聞く。
「誰を、殺すんですか。」
「今日はなんてことないただのチンピラ集団。でもアイツの手を借りて最近武装して銀行襲ったりしてる。」
少しだけ希薄になった気配にゾッとする。まだこの人は私を拒絶することが出来るのか…嫌だ、もう1人は嫌だ。
「大丈夫…居るから…」
手を握られてようやく認識がちゃんと出来るぐらい周りの全てを拒絶させたという事実に、恐怖を感じた。
「もう誰も私達を認識出来ない。見えても、聞こえても、触られたとしても、認識することが出来ない。」
倉庫の扉を開けても、目を合わせても、誰もこちらに気付くことは無かった。正確には見えなくなるわけじゃないらしいけど、よく分からなかった。時々この人の話すことは難しい。
いわゆる廃工業施設の倉庫なのだが、中は綺麗とは言えないにしても、人が暮らせるような電気やソファー、テレビなどが所々に置かれている。
ドラム缶に火を炊いて五、六人がたむろしてタバコを吸って談笑をしている。この人の吸う煙草とはまるで違う下品な匂い。女の人を侍らせた典型的なチンピラといった風貌の男が、倉庫の奥に鎮座していた。女の人は派手な格好をしている。赤いギラギラしたドレスは、買い与えられたのだろう。
「あー、見つけた。あいつがリーダーっぽいな。」
ゆっくりと手を離され、でもその手を離されたのも、事が起こるまで気付けないぐらい当たり前のように、手に極彩色の細長い何かを持った葵ちゃんは、そのリーダー格の手にそれを突き刺した。
「ぐぁっ?!?!」
「はい注目、動いたら殺す。」
「な、なんだてめぇ…」
拒絶するのを辞めた葵ちゃんの声は、初めて聞く声で、鳥肌が立つ程、格好いい。そこにいる誰もが、葵ちゃんを見る。女の人も、悲鳴をあげることも出来ない。
何人かいるチンピラのうち、1番葵ちゃんに近かった奴が手に持っていたロシア製の曲がったマガジンが刺さったアサルトライフルを向けようとしている。
「許可なく喋ったやつも殺す。」
「ぼ、ボスを離っ...」
地面から透明な鋭い刃が出たように、真ん中から左右に離れていくチンピラその1。糸を引くことも無く、銃ごと綺麗な半分。
「殺すって言ったじゃん。冗談だと思った?」
誰も動くことが出来ない。
「ね、質問にしっかり答えてくれたらそれでいいんだ。」
「な、何が聞きたい…」
「ここの武器を誰から仕入れた。」
「し、知らない…っぁぁああっ!?」
もう一本極彩色の棒を作り出し足に突き刺す。戦うことも許されない、既に拷問は始まっているようで、私はその光景を少し離れた位置から見ていた。
「そんな訳ないだろ。」
「ほ、ほんとだぁ!ほんとに知らないんだ…ある日突然送られてきて…」
「どうやって。」
「わ、分からない……最初からその場にあったように現れたんだ…!!」
少し考える素振りをする葵ちゃん。隣の女の人が銃をどこからか取り出して葵ちゃんに向けようとしている。
「あぶな...」
葵ちゃんに伝えようとした時には、女の人は一瞬でその場から消えていた。
「あれ…別に殺すつもり無かったのに攻撃しようとするから…まあいいや、欲しい情報はなかったし、もういいよ。」
逃げ出そうと、銃を構えようと、泣き叫ぼうと、各々何かをしようとするが、動いた瞬間に消えていく。理屈は分からない。使い終わったあとのティッシュを丸めて捨てるような、そんな力の加え方で消していく。
あぁ…その眼が、素敵で…カァイイいくて…なんて、なんて素晴らしいのだろう…
身体に興奮が満ちていく。その空っぽで何も映していない瞳が、冷たい瞳が余りにも美しくて、どうしようも無くなる。
葵ちゃんに飛びつき、首に手を回して頬擦りする。身体が熱い、内側から愛が湧いて出てくる。
「あは、あははっ…」
「ヒミコ?どうした?」
こちらをいつもと変わらない優しい瞳で見つめながら、リーダー格の残った手足に極彩色で飾っていく。
「素敵…その目始めて見た…凄くカァイイ…あははっ…うふっ…」
耳元で愛を沢山囁く。男の声がうるさい。でもいいBGM…この狂った人が、私は、私は…
「だぁいすき…!♡」
今回上手くいかなかったな…