「葵ちゃん、行ってらっしゃい。」
玄関までトコトコ着いてきてハグとキスをしてくれるヒミコの頬を撫で、行ってきます頑張ってねと伝える。
案の定合格、首席だったわけで、恐らく入学式では答辞でも読まされるのだろう。考えておくようにと、通達があった。
今日から高校生、キラキラした生活が〜なんて、そんな綺麗事はなく、1歩ずつ着実に復讐への道を進むだけでしかなく、あまり楽しみとも言えない。
それよりも、ヒミコと一緒に居たい…
「はぁ…」
「なぁに、朝から溜息?アンタも雄英の1年でしょ?」
背中を軽く叩かれる。私の拒絶はオートで発動するが、それが発動しない程度の軽いスキンシップ。声の主を見ると耳たぶがイヤホンジャックになっている。同じ雄英高校の制服を着ていた女子生徒。
「そうだよ。ただ朝に弱いだけ。」
「あはは、アンタギャルっぽいもんね。」
それは関係あるのだろうか?
「ウチは耳郎響香。アンタは?」
「私は守衛葵。よろしくね。」
「おっけー葵、よろしく!」
朝から元気のいいことで…溜息も出ると言うものだ。昨日の夜はあまりヒミコの事を愛せなかった。ヒミコから明日は入学式だからと言われてしまって、その心配する目に負けてしまった。
「てかそんなバチバチに耳開けていいの?怒られねー?」
「あー…忘れてた…響香、内緒にしてね。」
指を口に当ててシーと、個性を少しだけ強くして些細な事に目がいかないようにする。突然イヤリングが見えなくなったように感じた響香は驚いたように目を見開いたが
「まぁ、そういうこともあるか…」
なんて首をすくめて忘れてくれるようで助かる。それにしても顔が少し赤いけど大丈夫か?そんなに私可愛い?
「そーだよ、あんた綺麗すぎんだよ…調子狂うなぁ…また今度メイク教えて。」
「ふふん、そうでしょ、めっちゃ可愛いの教えてあげるよ。」
目を覗き込みながら揶揄うと更に顔を赤くして面白い。そうやって響香を弄っていると気付かないうちに学校に着いた。
「ごめん、そこ私の席かもしれない。」
「マジか、ごめん。」
教室について自分の席を探していると腕が多い男子生徒が1列ズレて座っていた。
「お、ウチの前じゃん、よろしくね!」
「ん、よろしく。あー…君もよろしくね。」
「あ、ああ。障子目蔵だ。よろしく。」
「私は守衛 葵。」
「ウチは耳郎響香、なんて呼んでもいいよ。」
どいてもらった机に鞄を置いて机に腰かけながらクラスメイトになる他の人物を横目に観察しながら、会話を続ける。
「結構早かったんだね。私達も早く来たと思ったんだけど。」
チラリと時計を見ながら話す。始まるまでまだまだ時間はある。
「緊張して…」
「あー、分かる〜…天下の雄英、門のデカさも半端無かったね。」
他愛も無い会話をしていると教室に入ってきたピシッとした男子生徒がこちらに歩いてきた。眼鏡をクイッと直した直後。
「君、机に腰かけるのはやめたまえ。あと制服を着崩すのもだ!」
「…開口一番それ?まず挨拶からじゃないかな。」
「む…それもそうだな。ぼ…俺は飯田天哉。」
「私は守衛…葵。今日何回自己紹介するんだろ…まあいいや、直しとくよイインチョー。」
「僕はまだ委員長では無いぞ!」
「んー…君は委員長になるよ。ぽいし。」
悪い人ではなさそう、真面目過ぎていつか失敗するタイプだと直感する。口うるさく言われるのも、初日からいざこざを起こす気もない。どの道答辞を読む時にはしっかり着るのだから、今のうちに直しておいて損は無い。
「厳しい口調ですまなかったな…っておい君!机に足をかけるな!」
「あぁ?!」
新しく入ってきたヤンチャしてる風の男子生徒に気づいた彼はパッパと注意しに行ってしまった。
「…難儀だなぁ。」
「大丈夫?怒られちゃったね。」
「大丈夫、慣れてる。」
机の高さがちょうど良かったのに…まぁ、椅子に座り直せば良いだけの話なのだけど。
「ずっと気になってたんだけどさ。」
「なに?」
「アレなんだろう。」
寝袋に入ってこちらを眠たそうに見ていた男を指さす。入口に寝ているということは後から這いずって来たのだろうか…?
「アレってな…うぇっ?!」
「それはウケる。」
驚いた響香は素っ頓狂な声を上げていた。
「気付いたか。ちょうど全員だな…時間前集合で結構。時間は有限、君達には最低限の合理性はあるようだな。」
立ち上がり、寝袋から這い出ながらゼリー飲料を飲み干すと、寝袋の中から体操服のようなものを引きずり出した。
「担任の相澤だ、よろしくね。全員グラウンド集合。」
「入学式は?私答辞なんですけど。」
当然の質問をなげかける。クラス全員がこちらを向いて彼の登場より驚いた顔をして居るが、私が首席合格だとそんなに不思議だろうか?
「入学式も、ガイダンスも、そんなものはヒーローには悠長すぎる。個性把握テストをやる。」
「…なるほど?答辞考えてきたのに…」
「守衛葵、出席番号11番、ぶっちぎりのトップで合格…ね…じゃあ答辞だけ出てこい。」
え…マジ??
誰もクラスの人間が居ない中、私一人が壇上にあがり、答辞を朗らかに読み上げ、そそくさと出ていく。まあいいのだが、釈然としない。注目されてて拒絶するにも不自然すぎるし…。
他の人より幾分か遅れて着くと担任相澤が、雄英の「自由」とは何たると、語っていた。着いたと同時に話が終わり、ボールを投げ渡される。
「ちょうど始めるところだ。守衛、中学のボール投げ何mだ。」
「30mぐらい?」
「個性使っていいぞ。というか、円からでなければ何してもいいよ。」
指の上でソフトボール状の測定器具を回す。さてどうしたものか。落ちるという事実を拒絶すればどこまでも飛んでいく。投げることじゃなくて、個性がどのように使えるか、持続時間や強度を測るものだとすれば、問題は無いはずだ。
まあ無難に∞とでも書いたシールドを通過させればいいか…ついでに加速も通しておこう、ゆっくり飛んで行って時間かかっても困る。
「よっ……おー、飛んだ飛んだ。」
「…記録無限。運動エネルギーの低下が見られない。回収できるか?」
「何時でも。」
「じゃあ回収しとけ。」
おおーだの、面白そうだの声が上がる。ここは雄英高校1年A組。ヒーローの卵として、甘ったれた非合理的思想を、担任は排他する。
「面白そう…まあそういう意見が出るのも無理はない。今まで思いっきり個性が使えることなど無かっただろうからな。でもな、3年間そんな腹積もりで居られたら困るんだ。」
少しイラつきを抑えたような声で、低く唸る。彼は相澤消太。このクラスの担任である。見られると個性を使えなくなる面白い個性。まだ拒絶できているが…いずれ彼は敵になるのだろうか。
「トータル成績最下位のものは見込みなしとして、除籍処分としよう。今年は一人多い。減れば合理的だろう?」
ヒーローとは思えない顔で薄ら笑みを浮かべる。対して生徒たちは唾液を飲み込み、雄英高校の厳しさにか、相澤消太への恐怖かは分からないが少し震え始めていた。
「生徒の如何は先生の自由。ようこそこれが、雄英高校ヒーロー科だ。」
面白く、なってきた。
全体的に少し強化を入れるつもりです。そして、主人公が万能ではないということも、説明していくつもりです。