迷いの森の引きこもり   作:曽良紫堂

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第10話

 圧倒的なエネルギーの奔流を前にして茫然としていると、突然コスプレ野郎(もうそうのおれ)どもから喝が飛んできて、俺は飛び上がるほど驚く。実際、驚いた拍子にピョンと地を蹴ってしまったみたいで、ちょっと頭上の方向に移動してた。

 少し驚かされた恥ずかしさを誤魔化すように、なんだなんだぁ!?なんて安っぽいチンピラみたくオラつきながら奴らに注意を向けると、俺の態度など全く意に介さず普通に注意をされる。

 

 

 オラッ!なんだってんだコラッ!…………えっ?……そんな所で気を抜いてはいけない?……いや、まぁその通りなんだけど……。

 ……言い訳すんな?……でも、その~……えっ?……ガラが悪すぎる?……隣の子も見てるんだからって?…………スッ~……えっと、そのぉ……スンマセンです……はい。

 

 

 冷静に諭されるように説教をされ、俺は冷や水をぶっかけられたみたいに興奮が覚めて冷静さを取り戻す。次いでバツが悪くなって平謝りをした。

 何で自分の妄想の産物に説教をされてるのか分からないが、全くの正論なのでぐうの音も出ない。普段なら正気を疑いたくなるような事態だった。いや、ホント何なんだろうかコイツらは。マジで。

 

 そんなコスプレ野郎(もうそうのおれ)たちが居るお隣さんの精神世界では、その主たるお隣の子が奴らが創ったのであろう大画面モニターに映る俺の視界を、ワクワクキャッキャしながら観戦してる。とても楽しそうでホッコリしますね!

 これを見るに、確かにさっきの俺の態度は教育上よろしくないわなと思う。奴らの事はどうにも謎だし癪だけど、注意は素直に受け止めて反省しよう。

 

  と言うわけで、お隣さんが見ている事を念頭に置いて、俺は再びあの大元と向き合った。

 多少距離のあるここからでも伝わってくるビリビリとした氣の圧力に、ビビり散らかしながらも意を決してゆっくりと近付いて行く。

 目の前に広がる光景や俺のビビり(ざま)に、お隣さんたちの楽しそうに昂っている感情が伝わってくるが、君らはこの場に居ないからそんなお気楽にしてられるんですよ?と内心で愚痴った。

 

 

 ひぃ~、とか情けなく音のない声を口から出しながら、掻き分け掴んだ氣を全力で吸収しつつ進む。ちょっとでも精神体が成長して圧力に耐えられれば御の字という判断だ。まあ、成果が出てるのかはなんとも微妙だけども。

 それでもなんとかプチッと潰れないで大元に着くことができたから、人間やればできるもんだな~なんて、目の前を流れる轟々(ごうごう)と音が鳴っていそうな、バカみたいに強大な氣の塊を見上げながら感心していると、お隣さんからお褒めの感情を頂いた。

 

 

 

 そういや、俺のこと褒めてくれたの不良坊主以外じゃ初めてだなぁ。前世じゃ何しても怒られたり(はた)かれたりする事はあっても、褒められた事なんてなかったから、何かくすぐったいわ……。

 

 

 

 なんかとても嬉しくなった俺は、浮かれながらやることをやろうと不用意にその金色の川へと手を伸ばしその表面に触れてしまった。

 

 その瞬間、俺は金色の激流の中に引き込まれて氣の圧力がグンと増し、精神体が悲鳴をあげる。全身を四方八方から万力で挟まれてるみたいに圧がかかり、慌てて外に出ようともがくのだけど、あまりの圧力に指一本動かせずその場から動くことも出来ない。意識を本体に戻そうとしても混乱状態故に上手くいかなかった。

 激流に流されるわけでもなく、ただただその場で圧力に全身を()され、深海に落ちちゃった空き缶みたく圧縮されそうになってる。

 これは死んだか?なんて頭の片隅で考え、半ば諦めながらも足掻き続けていると、お隣さんから俺へ、泣き出しそうな感情と共にエールが届く。

 

 

 

 ……あきらめないで……ひとりに……しないで……ぶじに……かえってきて……おねがい……がんばって!!……おねがい……!!

 

 

 

 かなりの心配と悲しさと恐怖、そしてそれを越える必死な程の応援と愛情の感情が流れ込んできた。

 

 

 ……そうだ、ここで俺が潰れたらあの子はどうなる? 一人であの穴蔵で死ぬのを待つ羽目になるんだぞ? あんな小さい子がだぞ? そんなの許せるか……? 

 ……そんなん無理だろうが! もう情が移っちまってんだ! もしここで俺が死んで、そのせいであの子を死なせちまったら、俺は死んでも死にきれねぇよ!! 

 

 

 そう思い至り、諦めを捨てて奮起した俺は決意を固めて、もがくのを止めた。

 

 

 ……ここでやることやりきって、俺は絶対に帰るんだ! 絶対にあの子を一人になんてさせねぇよ!

 

 

 全身を苛む(まばゆ)い光の中で、ただひたすらに氣の操作に集中する。金色の激流に揉まれる事によって五感は効かず、有るはの第六感とも言うべき感覚。それによって感じるのは激流の氣と、自分の精神体の輪郭のみ。

 覚悟を決めたお陰か、どうすれば良いのかは自然にわかった。

 周囲の氣に逆らわず、受け入れる。

 

 潰れそうな程圧縮された氣が、俺に流れ込んできて精神体の輪郭がボヤけていく。ボヤける毎に自己があやふやになって、魂が世界に解けていくような感覚。このままだと俺はこの激流に()けて消えてしまう。だけど、そうやってこれと一体にならないと操作なんて出来やしない。

 なら、ギリギリを狙うんだ。俺が()けるか()けないかのギリギリを。

 

 ただ一人、広大な金色の川に漂いながら世界へと解けていく。徐々に意識が拡散して拡がって薄くなっていく。自己が消えて氣と一つになっていく。

 けれども自身の核、魂の中心、それだけは決して手放さない。

 

 すると輪郭を失っていた精神体の額が輝き出し、そこに瞳が開かれた。それによって解けていた自己は再び形を成し、精神体は輪郭を取り戻す。

 

 

 ……今ならいける。……動け……動け……っ!

 

 

 第三の瞳を得た精神体が手を振るうと、周囲の氣がそれに沿って動き出す。それを確認した俺は、俺たちの居る大木へと繋がる氣の線に、この金色の川の氣の一部を慎重に流し入れた。

 すると氣はどんどんと流れ、吸い上げられていく。一部とはいえ、莫大な量の氣が動くことによって俺への負荷はとてつもないものとなり、それに歯を喰いしばって耐える。精神体に歯はないが。

 

 俺が細かく腕を振るって氣を操作すると、徐々に流れる量が増して金色の川の流れが変わり吸い上げられる勢いも増していく。その流れによって精神体がガクガクと震えて、発生する負荷はとてもじゃないが耐えられそうにない。

 

 

 それでも氣の操作を続けて最終的に流れが安定し、金色の川に大きな支流ができた所で、俺は意識を失った。

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