迷いの森の引きこもり   作:曽良紫堂

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第2話

「あ゛ぁ~! あ゛あ゛ぁ~ん!!」

 

 ……なんだ…………?

 ……なんか近くで赤ちゃんの泣く声が聞こえる。たくっ、どこの家だよ……赤ちゃんほったらかしてんのか?

 まあ、親が対処すんだろ……それよりスゲェ眠い……。

 

 

 ……寝るか…………。

 ………………。

 …………。

 ……。

 

「あ゛あ゛ぁ~ん!!」

 

 いや! ホントずっとうっさいなぁ! 

 寝れねぇじゃねえか!! まるで隣にいるみたいにうるっさいわ! 

 親は何やってんだよぉ!? 

 赤ちゃん腹減ってんじゃねぇのか!? パチンコでも行って放置してんのかぁ!? 

 通報すんぞ! あ゛ぁ?

 

 

 …………ん?

 ……ちょっと待て、隣だと? 

 俺の住んでる安アパートには、子供がいる夫婦も居なけりゃ、住人は老人ばっかで若い奴は俺しか居ない筈だぞ? 何で赤ちゃんの声がするんだ?

 

「あ゛ぁ~! あ゛ぁ~!」

 

 延々と聞こえてくる赤ちゃんの声に疑問を覚えた俺は、眠気に負けそうな目を開いて周りを見回そうとするも、上手く体が動かなかった。

 何か嫌な予感がしつつも、近くに誰かいないか声を出した。

 

あぁ~あ(誰か)ああぁんぁ(赤ちゃんが)~、ああうあぁ(泣いてますよ)~」

 

 すると自分の口から隣から聞こえてくる声とほぼ同じ声が飛び出し、しかもそれは言葉にならなかった。

 

「はあぁっ!?」

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛~!!」

 

 俺がそれに驚き、思わずびっくりした声を出すと、隣からさらに火のついたように赤ちゃんの泣き声が聞こえてくる。

 

 何が起こっているのか分からずに混乱する俺を他所に、事態は混迷を極めていった。

 

 

 

 

「すぅ~すぅ~」

あぁっあ(やっと)あぁあ(寝たか)……」

 

 それからしばらくの間、隣に居るであろう赤ちゃんは泣き続け、今しがたついに疲れて眠ったようで静かな寝息が聞こえてきた。

 宥める手段の無かった俺は赤ちゃんには悪いと思いながらもじっと耐えて、やっと落ち着いて自分に何が起きているのか調べる事が出来るようになる。

 

 まず始めに、なんとか手を動かして視界に入れてみると、その手は人形のように小さい。

 次に首を動かそうとするも、力が入らずに動かせない。

 勿論、立ち上がるなんて事は不可能だった。

 

 なら視界はと言えば、一面に広がるゴツゴツとした木目。まるで木のウロの中か何かのようだ。目を動かして見える範囲は全てそれだった。

 言葉は話せず、口から出るのは「あぁあぁ」という音のみ。

 

 ここから考えられるのは……どうやら俺は、赤ん坊になったらしい。

 

 

 

 …………何故?

 

 

 

 待って待って? もしかして俺……、死んだの? 死んだ理由とか、全く何も覚えてないんだけど……。生まれ変わったってこと?

 しかも、それで来世がこんな良く分からん所に、他の赤ちゃんと一緒に放置ってこと?

 嘘ぉ~ん。つーか俺なんか悪いことした? もししてたとして、どんな悪いことしたらこんな事になるんだ? なんも心当たりないんですけどぉ!?

 

 状況を理解すると共に混乱が増したが、良く良く考えてみると推定前世には身内も碌な思い入れもない事を思い出してどうでも良くなった。

 どうせ天涯孤独で、バイト以外やることもなかったから未練は全くなかった。

 

 暇すぎて日々瞑想に励んでいたくらいだ。ひょんな事からどっかの寺の坊主に教わったけど、あれは金がかからんし、なんとなく空腹感も減るから貧乏人の趣味としては良かった。

 もうちょっとでなんか掴めそうだったから惜しいといえば惜しいが、すぐに諦めがつく程度のものだった。

 

 そんなどうしようもない推定前世の事よりも、今どうすべきなのか、それが問題だった。

 見知らぬ赤ちゃんと二人、木のウロの中に放置。幸いにして、今のところ暑さ寒さは問題ない。

 しかし、これだけ泣いていたのに誰も様子を見に来ないと言うことは、最悪周辺に誰もいないということも考えられる。

 そうなると一番問題なのは食事だ。

 このまま何の栄養も得られないとなると死に直結する問題だった。

 

 タイムリミットはおそらく2日。

 ……いや、俺は未だしも隣の子は泣きまくって体力を使っただろうから、同い年だと仮定するともっと短いかもしれない。

 兎に角、動けない俺達はそれまでに誰かに食事を貰わなければゲームオーバーだった。

 

 

 とはいえ、そう思ってもこの体が劇的に成長するわけもなく動けない俺は早々に諦めた。自分で動けず、人も居ない以上、何をしても無駄に体力を消費するしかない。

 死にたくはないなぁと思いつつも既に自分の知らない所で賽は振られてしまっていて、なるようにしかならないのだ。

 

 となると途端に暇になる。

 眠気もどっかに飛んで行ってしまった俺は、いつも通り推定前世からの趣味兼暇潰しに没頭することにした。

 

 目を閉じて呼吸を深くする。

 ゆっくりと息を吸い、止めて、細く長く吐き出す。

 

 基本的にはこれを繰り返すだけだ。

 全身に酸素が行き渡るイメージをしていくと、やがて体が活性化してくる。次に想像するのは、世界に漂う力を取り込むというイメージ。

 

 以前の俺はここでつまづいていた。

 

 軽く教えてくれた生臭坊主曰く、極限まで噛み砕いて言えば考えるな感じろって事らしいが、感じもできない力の事を考えるなと言われても無理だった。

 考えないようにしても次々と疑問が浮かんで来るわ、それ以外にもあれがしたいこれがしたいと言った煩悩が浮かんで来る。

 最近は何となく分かってきた気もしていたが、気付いたら赤ん坊だ。

 

 だから俺は大した期待もせずに集中すると途端に視界がクリアになった。

 

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