目も開けていないのに、突然クリアに開けた視界に俺は激しく動揺した。何なら動揺しすぎて声も出てたと思うが、そんな事を気にしている余裕はなかった。
何だコレ!?と思いながら視界を動かすと、周囲の状況が良く見える。なんか不思議な感覚だ。
しかし、どうも自分の目で見える範囲と同じくらいにしか視界は動かなかった。これじゃあ意味がない。
せっかく何か超能力っぽいものに目覚めたと思ったのに、がっかりだった。
しかも、考えてみれば視界が広くなったところで、動けないんじゃあ、今のこの状況じゃ何の役にもたたない。
上げて落とされたような心境に気持ちがやさぐれてくるが、そこは瞑想の本領が発揮されて、すぐに落ち着いてきた。
いや、本当は落ち着いてる場合じゃないのかもしれないが……。
それからしばらくして、俺はその開けた視界に千里眼なんて御大層な名前を付けて遊んでいた。
こんなショボいのでも、なんか一応俺の異能みたいだし、使ってれば成長するかもしれないという淡い期待を込めてそう呼ぶことにした。
で、他にやれることもないので、その視界と肉眼の視界の差異を探していたんだ。
すると肉眼では見えない、うっすらとした金色の線みたいなのが木の壁に沿って埋まってるのを見つけた。
最初は見間違いかと思うくらい細くて薄い糸みたいなものだったが、良く観察してみると、何か水みたいに下から上に向かって流れているようだ。
何だこりゃ?と思いながら他の場所を見てみると、その線は何本も木の壁に埋まっていて、勢いや太さに差はあれど、みんな上に向かって流れて行っている。
内心首を捻りながら出所を探ろうと、今できる最大限で視界を動かすと、途中でわたわたと動かしていた自分の手が目に入る。
…………その手にも金色の細い線が流れていた。
「ほわっ!」
再び驚き、激しく動揺した俺は思わず叫んでしまい、慌てて口を閉じた。隣の子の安眠を妨害してしまったかと、耳をそばだてる。
「すぴ~、すぴ~」
懸念も何のその、隣からは安らかな寝息が聞こえて来た。
寝た子を起こさなかった事に安心した俺は、観察を続行することにした。
改めて手を見てみると、やっぱりうっすらと線が見える。かなり薄くて見えにくいその線は、どうやら呼吸と共に循環しているようで、息を吸う度に動いている。
この線がどこに向かって流れているのか探りたいもんだが、角度的に見ることが出来ない。
どうしたもんかと途方に暮れていると、坊主の話を思い出した。
「いいか?ガキんちょ。俺はな、今でこそこんな寂れた寺にいるが、昔は修行に行くつって周りから金ふんだくって色んな国に行ったもんだ」
「それ、金返したの?」
「あぁ? 皆様からのありがたいお布施だよ。お・ふ・せ」
「あんた今、ふんだくったって言っただろ! ただの詐欺じゃん。罰当たりだな、この破戒僧!」
「馬鹿野郎! んなこたぁどうでも良いんだよ! 遠い昔の事だからな! でだ、その行った国の一つに気功が盛んな国があってなぁ」
「いや、良くないだろ」
「うっせえな。黙って聞け。俺はそこで酒飲んで瞑想してた訳だ」
「寝てたんだな?」
「ちげぇよ! 起きてたわ! まあ、そんなんで集中してたらよ、突然意識が体から飛び出して浮き上がってな」
「ふ~ん」
「その胡散臭い物をみる目をやめろ……。見えたんだよ。大地に流れる金色の大河がよ」
「夕陽に照らされてたんじゃなくて?」
「物の例えだ。あそこには川なんざ無かったわ。……ありゃ、地脈だ。俺はそれ見て感動してなぁ」
「感動したなら心入れ換えろよ、不良坊主」
「うっさい。でだ、瞑想を続けた俺は知ったんだよ」
「何をだよ?」
「あの金色の力はどこにでも存在して、自分の中にもある。俺はそこら中に漂ってるそれを自分に取り込む事で、こうやって健康に暮らしてるわけさ。だからお前も頑張れよ? 人生楽しくなるぞ。うぃっひっひっひ!」
………………
…………
……
とまあ、こんなことを酒片手に語ってた。
改めて思い出すととんでもないジジイだったな、あの坊主。
まあ、一応恩人ではあるんだけど、どうにも尊敬できない。
結局、推定前世ではあの坊主の言ってた金色の力なんてものは、ついぞ感じられなかった。だけど今見えてるコレは、それなんじゃないか?
坊主は言ってた。力はどこにでも漂ってて、それを取り込めば健康になるって……。
本当かどうかなんてわからないけど、やってみる価値はあるのかもしれない。
…………でもなぁ、マジであの坊主信用ならないからなぁ。
そんな事を考えていると、気付けば日が暮れて来たようで、ウロの中も暗くなってきた。
眠気もかなり強くなってきて、全く抗えそうにもない。
体にかかっている葉っぱのお陰で寒さは感じないだろう。今どの季節なのかは知らないけど、この分なら多分凍死だけは避けられそうだな。
俺は何もかも全て明日にすることにして、深い眠りについた。