迷いの森の引きこもり   作:曽良紫堂

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第5話

 俺は金色の線の流れを氣と名付けて、徐々に氣を吸収する壁の線を、細い物からより太い物へと変えようと操作していると、突如隣から大音量が響く。

 

「あ゛~!! あ゛ぁ゛~ん!! あ゛ぁ゛~ん!!」

「うぉっ!?」

 

 お隣さん目覚めたようで、空腹を感じたのか激しい勢いで泣き始めた。耳をつんざくような声量に、滲み出る必死さを感じるが、この声を聞く者は俺しか居ないようで、やはり誰も来ることはない。

 

 

 改めて酷い状況だな。俺もお隣さんも前世でどんな悪行をすればこんな目にあうんだよ? 少なくとも俺には心当たりありませんけど、誰に問い合わせれば良いんですかねぇ!

 

 

 ざわざわとした木々のざわめきと赤ちゃんの泣き声しか聞こえないウロの中で、俺は鬱々としながらそれでも操作と吸収に専念する。

 おいおい隣の子を見捨てる薄情者かよと思われるかもしれないが、俺には一つ考えがあった。

 

 一先ず腹減りも気になんなくなるし、体調も良くなるから、とりあえずこの氣をあの子にも分けてあげれば良いんじゃね?

 

 そう浅知恵を働かせた俺は、最初の操作の失敗を踏まえて隣の子に手探りで探す。相手に触れてないと分けようにも分けてあげられんだろうからな。

 しばらく手をわたわたと動かしていると、運良くお隣さんの手を握ることが出来たので、俺は自身を通してこの子に氣を流そうとした。木の壁から自分の指先まで達した金色の流れが相手の指先に触れた瞬間、何か反発を受けた感覚がした。

 

 しかも、それと同時に隣の子はもっと大きく泣きはじめ、手足をバタつかせて暴れだす。

 俺は直感的に、この手を離したら最悪な結果になるという予感がしたので、今出せる全力で隣の子の手を握って、決して離さないように耐える。

 しばらくすると落ち着いたのか暴れなくなり、相変わらず泣いてはいるものの、隣の子も俺の手を握り返してくれるようになった。

 ほっと胸を撫で下ろし、その泣き声をBGMに何が悪かったのか考えはじめる。

 

 まず、俺が壁にある線から氣を吸収した時は反発なんて感じなかった。

 いや、感じてたのかもしれないけど、あのとき空腹で若干正気を失ってたから、正直記憶があやふやだな。まあ、とりあえず無かったという事にしといておこう。

 

 次に、隣の子に氣を渡そうとしたら、相手に流れが触れた瞬間に反発を感じた。

 

 この違いは何だろうか?

 

 思い付く可能性としては、氣は俺にしか吸収出来ないものということ。これは前世の坊主が出来てたみたいだから、まぁ多分無いだろう。……無いと思いたい。そうじゃないと詰む。

 

 では、操作した線が細すぎて、相手まで通す勢いが足りなかった?

 いや、壁から俺自身に吸収するときの勢いは普通にもっと弱いぞ? じゃあ反対に強すぎるのかと言うとそうでもない。大体同じくらいになるように調節したからな。

 

 もしかして急によく分からないものが触れてきて、びっくりして拒んじゃったとか?

 これならあり得るんじゃないのか?

 俺が上手くいったのは氣を受け入れる意思を持ってたのと、若干正気を失ってたのも相まって反発を感じなかったからで、隣の子は流れの触れる感覚が危険なモノだと感じたのかもしれん。

 

 わからんから危険、危険だから拒み、拒んだから反発した。

 

 …………あ、ありそう。

 でも、もし本当にそうなら、まずは隣の子に慣れてもらわないといけないのかもしれない。

 

 ……言葉も通じないのに……どうやって?

 

 

 ……………………

 ………………

 …………

 ……

 

 

 あれからしばらく考えた結果、いい考えが浮かばなかった俺は、結局慣れるまでやるという脳筋戦法でいくことにした。

 しかし、氣を操作し流れに触れさせ、拒まれて暴れられるというセットを延々と繰り返すこととなり、一向に改善の兆しはない。

 

 これを行うために線から氣を頑張って吸い上げているので、一回一回休憩を挟み、その間により太い線を操作しようと練習をする。

 何度もやってるうちに最初の細い線は少しだけ太くなってる気もするが、それよりも太い線を操作した方が吸い上げられる量も多く、手っ取り早かったからだ。

 

 氣を吸い上げるのも結構精神的に疲れるんだよなぁ。身体はエネルギーが貯まった感あって元気だけど、何度もやると精神にぐったりとした疲れが貯まるわぁ。

 

 体感でも結構な時間が経っていて、俺が疲れで結構キている精神を立て直そうと休んでいると、隣の子の異変に気が付いた。

 

 

「……あ……ぅ……あぁ…………ぁ……」

 

 

 一番最初の元気な泣き声とはうって変わって、弱々しいうめき声と共に、段々と呼吸が浅くなっていく音が聞こえた。

 握っている手からも、かなりゆっくりとだが徐々に力が抜けて来ているのが感じられる。

 

 マズイ! 失敗の度に暴れてたせいで、隣の子の消耗も限界にきてる。このままじゃヤバい! マジでヤバい! この子、死んじまう!

 

 試行錯誤の失敗で隣の子に負担をかけてしまっていた事を悟った俺は、ひどく焦り始める。 一度死んだ俺が死ぬなら未だしも、隣の子が死んでしまえば悔やんでも悔やみきれない。

 

 そんな風に焦っている間にも、呼吸は弱くなっていき、握り返す力が段々弱くなってくる。

 俺は疲れきっていた精神に鞭打って、必死に線を操作し氣を吸い上げた。

 

 そして破れかぶれになって、吸い上げて貯めた氣をその子に流す。

 

 これは恐いモノじゃないよ! だから、どうか……どうか、受け入れて欲しい! お願いだから!

 

 そう強く強く願いながら流した氣の流れは、俺の全身の線を巡って、繋いだ手へと向かっていく。

 これを失敗してしまえば、隣の子は死んでしまうだろう。だから今回は絶対に失敗しないよう、頭の片隅で信じてもいない神やら仏やらに手当たり次第に願いながら、必死に流れを操作する。

 そうして遂に俺の掌まで到達した氣の流れを、慎重に隣の子の掌へと触れさせた。

 

 その瞬間、俺の中にあまりしっかりとした形になっていない、様々な感情と情景が流れ込んでくる。

 

 ……苦しい…………寂しい……恐い……怖い……誰か……助けて……お母さん……どこ?…………

 

 敢えて言語化するならば、こんな感じの苦痛、恐怖や寂しさといった純粋な感情が、津波のように押し寄せてきた。

 

 なので俺は苦痛や寂しさが和らぎ、安心できるようにと精一杯想いを込めて伝える。どうして、どうやって等と一切考えず、ただそれだけに集中した。

 

 すると俺の想いが届いたのか、氣の流れは反発を受けることなく隣の子の掌を通して相手に通って行き、吸収されはじめた。

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