第1話「ANOTHER HERO AWAKEN」
「──また、あなたはここにやってくるのでしょう」
薄暗闇の世界で、凛とした女性の声が響き渡る。
「それが、定められた理なのだから、いくらあなたのように力あるものでも抗えはしない」
女性はチェスのキングの駒を指先で弄ぶと、ポールハンガーにかけられていた白い上着を羽織り、その部屋を出て行った。
そして、空虚な静寂が、数秒前まで女性が座り込んでいた空間を包んでいた。
まるで、初めからそこに何もなかったかのように。
東京都に作られた、人工の孤島。そこには、
「色々と大変だなお前らも。アメリカだろ?最近色々とキナ臭ぇ噂聞くが、大丈夫か?」
空港で、銀髪の青年が呟いた。彼は
「大丈夫じゃないですか?ところでなんで急にそんなこと聞いたんですか颯斗?もしかして僕たちがいなくなるのが寂しいんですか?」
「いや、仕事増えんのが単純にクソだりぃってだけだが」
黒薙に聞き返した黒髪の彼は
「いや、そもそもアタイと月白はそっちにはつかねぇっつったのに、テメェが勝手にこき使ってただけだろうが。その分の給料払えやコラ」
顔の傷が目立つ彼女、
「誰がお前らに払うかよ。そもそもお前らがお上に従いたくねぇっつって
「ケッ!!ヘリクツ野郎がよぉ!!」
「あ?文句あんなら最初に大人しくこっちつかなかった自分に言いやがれパッパラパー女」
黒薙は、勝ち誇ったような顔で乙姫に言った。次の瞬間、乙姫の拳がその顔にめり込んだ。
「テメェ僕のご尊顔に何しやがる……ッ!!」
「自業自得だよバーカ!!なぁ月白〜?上にヘコヘコしてる首振り人形が偉そうだと思わねぇか?」
「思わないでもないですね……いえ、そこまで酷くは思ってませんよ?権力の犬に成り下がった颯斗のことを見下してるとはいえ、乙姫ほど酷くありませんからね?」
「いや具体的に言うだけお前の方が酷ぇよ」
さらっと人のことを権力の犬だなんだとのたまう月白に、黒薙は思わずため息を吐いた。
「……ま、達者でな。死なねぇ程度に頑張れよ」
そして、わずかに表情を柔らかなものに変えて、優しい声色で言った。
「誰に言ってるんですか?そっちこそ僕たちが帰ってくるまでに死なないでくださいよ?」
「テメェに心配されるほど堕ちちゃねぇよ黒薙。──ま、そんなに危ねぇってこたぁねぇだろうよ。ただの留学だぜ?」
不遜な笑みで、二人は返す。
「それじゃ、行きますよ乙姫。ほら急いで急いで」
「るっせぇな月白、そんな急かさなくてもわかってるってんだ」
そして、二人はゲートの先へと駆け出した。
「ふぃーっ、到着っと。いやぁ疲れたねぇ」
「ですね、乙姫。……で、今日はホテル取ってるんでしたっけ?」
それから数時間後、月白たちは無事アメリカに到着した。空港を出て、月白は問うた。
「だな。何ならアタイは同じ部屋で寝てやってもいいんだぜ?子守唄でも歌ってやろうか?」
「いりませんよそんなの、というかそもそも別室でしょ。……乙姫、そういうの本当にやめた方がいいですよ?勘違いされて何かされたとしても僕は責任取りませんからね?」
蠱惑的な笑みを浮かべる乙姫に、月白はため息を吐く。乙姫とは短い付き合いではないが、たびたび注意しているにもかかわらず、初対面からこのセクハラ癖は変わっていない。
「あ?なんだ?つまりテメェはセクハラを受けてアタイに性的欲求を抱きましたってか?」
しかし、毎度のことながら乙姫は反省の色を見せない。
「そういうとこです。……まったく。もし襲われても知りませんからね」
「あらあら拗ねてやんの。そんなにアタイが他のやつにセクハラすんのが許せねぇのかい?カワイイ奴め」
「いえ、僕がされるのも嫌なんですけども。僕以外がセクハラを笑って許してくれると思うなと言ってるんですけどね?」
月白は額をビキビキと強張らせて言った。
「おいおいキレんなって。カルシウム足りてんのか?そんなだから身長伸びねぇんじゃねぇの?」
「牛乳瓶で頭ぶん殴りますよ乙姫。栄養全部胸にいってるみたいな体型してるくせによく他人を揶揄できますね?」
「褒めてくれてありがとよ月白。体型いじりが通じんのは相手がそれをコンプレックスとして認識してる場合だけだぜ?つーかセクハラにセクハラで返すなよ。ミイラ取りがミイラになってんじゃねぇか。ウケる」
体を逸らして、おもむろに胸を見せつけるようにして、得意げに乙姫は言う。自分に自信のある人間というのは本当に厄介だ。月白は舌を巻いた。
「ほーれ着いたべ月白。アタイに論破されて涙目なってる暇あったらチェックインしてきな」
「いえ、屁理屈に答えるのが面倒で呆れてるだけですけど……はいはい。やればいいんでしょ」
月白はため息を吐きながらフロントまで向かった。
「はい、鍵ですよ。ありがたく受け取ってください」
「テメェの私物でもないくせによく言うよ」
「あ?なんか言いました?まさか自分から締め出される選択肢を選ぶようなバカはいませんよね?」
「チッ……何も言ってねぇよ。さっさとよこせ」
にやり。月白はほくそ笑んで鍵を渡した。これで今日は一勝一敗である。
「それじゃ、ご飯食べに行く時にまた会いましょうか」
「おーよ」
そして、二人は自分の部屋へと向かっていった。
夕餉を終え、ユニットバスに張った湯に浸かりながら、月白はここに来るまでの経緯を振り返っていた。
(単に留学ってだけなら苦でもないんですけどね……)
この留学の真の目的を思い出し、月白は大きなため息を吐く。
(実際、体よく誘宵学区の協力機関に売り払われただけなんですよね、僕ら)
そう。月白たちがアメリカまで来たのは、留学のためではない。
少し前、誘宵学区の裏側に蔓延っていた暗部──『路地裏』と呼ばれる彼らの中から、四つの大組織が誘宵学区に雇われることが決まった。その中には、月白や乙姫が所属していた『ランサー』も含まれている。
しかし、月白と乙姫は、その勧誘を蹴った。権力の首輪をつけるのは御免だと断ったのだ。無論、それでタダで済むわけはなく、二人はしばらくの間、黒薙たちにタダ働きさせられることとなり、最終的にはアメリカの協力機関にまで左遷されることとなった。
(まぁ、直接殺されないだけマシですけど……僕らをわざわざ派遣するのを見るに、相当危険なものなんでしょうね、その協力機関とやらも)
その協力機関についての説明がなされていないことと照らし合わせて、月白は考える。なるほど合理的だ。権力に従わない者の首を飛ばすならなるべく危険なところがいい。それによって刃向かう危険を減らすことができるのだから。
(──ま、なるようにしかならないでしょ。あとは流れに身を任せて、のらりくらりと生き延びましょうか)
明日、その機関の人間と合流し、ある程度の説明を受けることとなっている。細かい計画を立てるのはそれからでいい。かけておいたバスタオルで体の水分を拭き取り、月白は風呂から上がった。
「──いや、なんでいるんですか乙姫?鍵かけましたよね?」
ドライヤーで頭を乾かし、ユニットバスを出た月白は、我が物顔で居座ってテレビを見ている乙姫を見て心の底から呆れたような声を出した。
「あー?悪りー悪りー、隣の部屋でバカップルがズッコンバッコンヤり始めてよ。うるせぇってんで避難してきたんだよ。フロントで鍵借りてな」
「まぁ、それなら仕方ないかもしれませんけど……じゃあ連絡くらいしてくださいよ。僕が女の子引っ掛けて寝てたらどうする気だったんですか?」
本気で申し訳なさそうに頭を下げる乙姫を少し意外だと思いつつ、月白は冷静に言う。
「いや、そこは大丈夫だろ。お前そういう勇気ねぇだろ?」
「まぁ、ないですけど。言ってみただけですよ。……で、どうするんですか?このまま朝までこっちにいるのもちょっとアレじゃないですか?」
さらっと言ってのけた乙姫に内心少し傷つきつつも、平静を装って問うた。
「あ〜?いやぁ、その……多分あれ夜通しコースだろうし、戻りたくはねぇかな……」
「この部屋ベッド一つしかありませんけど?」
「……乱入しといてそれを奪うほどアタイも鬼じゃねぇよ」
珍しくシュンとして乙姫は言う。
「いえ、女の子にソファで寝かせるのは男としてダメでしょ。僕がソファで寝るので乙姫はベッド使ってください」
「これまでのアタイ見て女の子とか言えるお前すげぇよ……」
感心したような口ぶりで、乙姫は息を漏らした。しかし、次の瞬間、その感心は叩き潰される。
「どれだけ乙姫の性根が腐ってようと、生物として雄は雌より頑丈にできてますからね」
「あ?つまりなんだ、テメェはアタイより強ぇとでも言いてぇのか?言うじゃねぇかよ、組み手で一回もアタイに勝てなかった小僧が」
「別にそういう話してないでしょ。僕があなたにベッド譲りたいから譲るってだけですけど?」
「アタイのせめてもの良心に従ってベッドで寝てやろうって気はねぇのか?」
「ありませんよ。僕は頑固なので」
低レベルな口喧嘩が勃発した。一度始まったこれは互いが疲れきるまで終わることはない。二人の罵声は関係のないところまで飛び火していき、それが治まった頃には、すでに朝日が昇っていた。
「「やっちまった……」」
結局一睡もできていない。こんな状態で協力機関の人間と会わなければいけないのか、と二人は憂鬱なオーラに包まれるが、なってしまったものは仕方がない。ひとまず二人は朝食へと向かった。
それから数時間後、月白たちはホテルの前で協力機関の人間を待っていた。
「なぁ月白、どんなやつが来ると思う?」
「ん〜、少なくとも乙姫よりは性格がいい人でしょうね」
「んだとテメェこら〜」
乙姫の何気ない問いに、月白はおどけて答えた。次の瞬間、見た目によらず意外と筋肉質な乙姫の腕が、月白の首にかけられた。
「ぐぇっ」
「謝んなら今のうちだぜ月白。乙姫サマは心優しい女神ですと言え。言わねば……折る」
「言いませんよ……あっやめてほんとに死んじゃう……!!」
月白が両手で腕を叩く。乙姫はやれやれと拘束を緩めた。
「途中でやめてって言うくらいなら最初から喧嘩売んなよな」
「それに関してはそっくりそのままあなたに返したいですけどね。……はぁ、それでいつ来るんですかね、現地の方とやらは」
月白はため息を吐く。もう時間だと言うのに、協力機関の車は一向に現れない。業を煮やして、もうばっくれますかと言おうとしたその時だった。
「……あれー?もしかして遅れてましたー?」
キキーッという音と共に、左ハンドルの車が停車した。運転席に座っているオレンジ色の髪の女性は、気まずそうに頬を掻き、ドアを開けて車を降りる。
「えっと……月白飛鳥さんと、弦巻乙姫さんですよねー?」
「え、えぇ、まぁ。……あなたが、協力機関の方ですか?」
「ですー。……立ち話もなんですし、取り敢えず後ろ乗ってくださいー」
女性に間延びした声で促されるまま、二人は車に乗り込む。しかし、二人の意識は、遅れてやってきた彼女に向けられていない。
(いや、なんなんですかね助手席の……人……?)
(いや、あんな頭の『人』はいねぇだろ……)
それもそのはず。極めて珍妙な外見の──頭がリボルバー銃の形をした──男に、気を引かれない方がおかしなことであろう。
「まずは私たちの自己紹介からですねー。私は
「アメリカの協力機関ってのの奴なのに日本人なのな」
「まぁ、誘宵学区にも海外の方結構いますしそういうものなんじゃないですか?」
虚坂は後部座席で好き勝手話す二人に苦笑いしながら、助手席のリボルバー頭に代わるよう言った。
『──あぁ、オレか。オレはバレット。見ての通り人間ではないが、オマエ達人間の敵ではない。疑問があれば聞くが、どうする?』
バレットは、地の底から響くような低い声で言った。
「ハイ質問!その頭の銃って撃てんの!?」
『撃とうと思えば撃てる。ロクに狙いも定まらんし、使うことはまずないがな』
目を輝かせながら問うた乙姫に、バレットは冷静に返す。
「あっ、じゃあ僕からも質問です。バレットさん、人間じゃないんですよね?じゃあなんなんですか?」
「あー……そこも含めて、本部に着くまでにある程度説明しますー。前提がないとわかりづらい話になりますからねー」
月白の問いに対して、虚坂が言った。
「まずは私たちの組織について話しましょうかー。私たちはつい数年前に連邦捜査局──俗に言うFBIですねー、そこに設立された『
「聞き覚えはないですね……」
「まぁ、アメリカの外には情報が漏れないように国連の方でも厳重に言論統制されてますからねー。では、その『霧核』についてお話ししましょうかー」
車を走らせながら、虚坂は言う。
「『霧核』というのは、有り体に言えば、数年前から現れるようになった怪物──『魔物』の核のことですねー。破壊した時に霧みたいに消えることから名付けられたとかだったと思いますー。ちなみにバレットさんもその魔物の一人なんですよー」
「怪物、ねぇ。そりゃ危険だ。アタイらはどうやらそれと戦って殺されに行くらしいぜ」
『安心しろオトヒメ。余程の事情がない限りは、新人に高ランクの魔物の相手はさせんさ。それでも危険は残るが、オマエ達はそこそこ戦えると聞いている』
「その怪物サンに言われても説得力に欠けるって話よバレットさんよ」
虚坂の紹介に、乙姫はわざとらしく悪態をついた。
「話を戻しましょうかー。魔物は、人の体に流れる生体電気に含まれる特殊な成分を食らって成長しますー。これを私たちは『
虚坂は、後部座席で毒づく乙姫を気にもせずに続ける。
「魔物の中にも二種類のタイプがいるんですよー。一つは積極的に人を襲って霧素を得るタイプ。基本的にはこちらの魔物が大半ですねー」
僅かに視線をバレットに向ける。
「もう一つは、人と契約して霧素を供給させる魔物。バレットさんはこのタイプですねー。この手の魔物は、見返りとして自分の力をある程度契約者に使わせるんですよー。なので、これを悪用する人間も私たちの敵というわけですねー」
交差点にて止まり、傍に差していた水を抜いて僅かに飲み、虚坂は続ける。
「私たちは、後者の魔物と契約し、魔物による被害を最小限減らすために活動しますー。なので、お二人にも何かしらの魔物と契約していただくことになりますねー。相性とかありますし、組織に属している魔物に関しては一通り試してもらいますよー」
言い終えると、虚坂は大仰な組織とはまるで関係がなさそうな建物の駐車場に入った。
「なるほど、僕たちが何もすべきかとか、その話はよく分かりました。ところで質問なんですけど、霧核対策部ってこんなデパートにあるんですかね?」
「いえ、これは私がお狐様……上司にお土産を頼まれたので寄るだけですー」
デパートの駐車場に車を停めると、虚坂はさも当然のように言った。
『オレ達も行くとしよう。二人とも、さっさと降りろ』
「いや、バレットはダメじゃね……?魔物が外歩いてたら誤解されるんじゃねぇの?」
『それに関しては問題ない。組織に属している魔物だとわかる服装だ。わざわざオレに喧嘩を売るようなバカはいないさ』
「そういうモンかねぇ……」
釈然としない表情で、二人は車を降りた。
「さて、お土産も確保したことですし、そろそろ戻りましょうかー」
それから数十分後、両手に和菓子の袋を提げた虚坂が言った。
「わざわざアメリカまで来て和菓子の店に並ばされるとは思ってなかったぜ……風情ってモンがねぇ……」
「まぁ、いいじゃないですか乙姫。こういうのもたまには」
「たまにはっつーけどほぼ初日だぜ?幸先良いとは言えねぇな」
一行は駐車場へと歩いていく。しかし、店を出るための自動ドアの前に立っても、ドアは全く反応しなかった。
「んだこりゃ?故障か?」
乙姫がドアに触れようとすると、バチリと、弾けるような音が響いた。反射的に腕を引いた乙姫は、弾かれた右手を凝視する。
「今の感覚……あの時と同じような……」
「……これは、何が起こってるんですか?」
乙姫が感じたのは、彼女の顔に大きな傷痕を残した相手と同じ雰囲気。わずかに冷や汗を浮かべ、月白は虚坂に問う。
「開かずの扉、そしてこの空気の重さ……
深刻な表情で、虚坂は言った。
「ひとまず、私とバレットさんとで分かれましょうー。弦巻乙姫さんは私に、月白飛鳥さんはバレットさんについていってくださいー。絶対に孤立することがないようにー。一般人の被害を減らすことを大前提に行動してくださいー」
そう言うと、訳もわからぬまま固まる二人の腕を、それぞれが掴んだ。
『……いろいろと言いたいことがあるのはわかる。だが、まずは目の前の面倒ごとを片付けてからだ。文句はそれから受け付ける』
「……わかりました。死なない程度に頑張りますか」
月白は覚悟を決めて、バレットと共に走り出した。
『それにしても……捕食猟域が広すぎる。市街地に出る魔物でこれほどとなると……相当な手練れか。心してかか……ッ、待てアスカ。この重圧……間違いない、そこにいる』
月白たちは、デパート内を駆けずり回っている中、ふと、押し潰さんばかりの圧力を感じ、柱の裏に身を隠した。
『aSeA。iKP-AA。uAK。oReSaWuK!!』
その重圧を放つ主──蜘蛛を思わせる人型の魔物が口から糸を吐き出すと、それは月白たちとは関係のない方向に伸びていく。その先に視線を伸ばすと、逃げ遅れた少女が、足を糸に絡められ、身動きが取れなくなっていた。
「……バレット」
『分かっている。オレはあの魔物をやる。オマエはあの少女を助けろ』
「了解しました。──行きましょうッ!!」
月白の号令に合わせ、二人は駆け出す。少女の足と怪人を結ぶ糸を指先から放たれた光弾で千切り、バレットは『蜘蛛』の魔物──スパイダー・ヴェイダーへと飛びかかった。
『オレの目が黒いうちは、人間に手を出させはせんッ!!』
『……aKTKiM?aKuAaGiT。aBRN、eNiS』
『あぁ。オレがオマエなどの味方であるわけがないだろう。さぁ、かかってくるがいいッ!!』
バレットがスパイダーを挑発すると、スパイダーは標的をバレットに変え、四方に糸を吐き出した。だが、それは拘束のためのものではない。切り取られた糸は卵のように形を変え、次の瞬間、ミイラのような魔物の群れへと変貌した。
『その程度でオレを止められるとでも思ったか?甘い、あまりオレを舐めるなよ』
バレットは指先から光弾を射出し、襲い来るミイラ達を次々と撃ち抜いていく。
「こっちです、逃げてください!」
一方、月白は少女を逃げ道を作っていた。
「あ、ありが……」
しかし、少女が礼の言葉を口にしようとした瞬間、月白の体が横に吹き飛んだ。スパイダーが裏拳を放ったのだ。震える体をなんとか誤魔化し、首を動かして視線をバレットの方に向けると、バレットも同様の攻撃を受けていた。スパイダーは、逃げ遅れた少女へと、再び糸を吐き出した。
「やっ……やだ……っ!!やだぁぁぁぁぁっ!!」
少女の絶叫が響く。月白はそれを止めようと、なんとか体を起こそうとするが、上手く立ち上がることができない。そうしているうちに、スパイダーの肩から伸びた触腕が、少女を拘束していた。
「やめ、ろ。やめろォォォッッ!!」
月白の叫びも虚しく、スパイダーは口を開き、少女の頭蓋を噛み砕いた。鮮血が散る。もう動かなくなった少女を上から順に捕食していき、全て食い尽くすと、返り血に濡れた牙を煌めかせ、月白たちの方へと振り向いた。
『……アスカ。提案があるんだが……いいか?』
「なんでしょう……?」
ゆっくりと近付くスパイダーに震えながら、月白は聞き返す。
『このままじゃ、オレもオマエも奴に食われてお終いだ。だが、一つだけ、生き残れるかもしれない方法があると言ったら、オマエはどうする?』
「そりゃあ、やりますよ」
月白が即答すると、バレットは高らかに笑った。
『成程、一瞬の迷いもなく頷くか!!オマエはやはりイイ!!オレと契約しろ!!オレの力を以って奴を倒せ!!』
途端に声を荒げると、バレットは頭の銃口から一際大きな光弾を放ち、スパイダーを吹き飛ばした。
「分かりました。……無能力者のくせに、昔からホルスの量だけは多かったものでして」
蜘蛛の魔物がのそりと起き上がったのが見える。その眼は、怒りに煌めいていた。
『決まりだ。オマエはオレに霧素を供給し、オレはオマエに力を貸し与える。この陣に右の人差し指で触れろ。それで契約は終わる』
言われた通り、空中に浮かび上がった陣に触れた。すると、二人の体が光に包まれ、そしてその光がスゥと空気に溶けていった。
『これで契約は果たされた。……通常であればこれで戦えるが、奴は通常の魔物よりも強い。だから、これを使え、アスカ』
バレットが懐から取り出した重厚なそれに、月白は疑問符を浮かべる。
「なんですか、これ?」
『腰に巻きつける装備さ。ほら、早くしろ。奴に食い殺されても知らんぞ』
魔物が飛びかかる。だが、バレットと契約を果たした影響か、先ほどまで全く見えなかった魔物の動きが、今ではよく見えた。大振りな動きで引っ掻き攻撃を躱し、月白はそれを腰に押し当てた。右側から現れたベルトが、月白の腰に巻き付く。
『そして、この
続いてバレットが差し出した注射器のようなものを手に取り、側部のボタンを押した。溢れ出した霧素が流れ込み、小さな窓に銃のようなマークを生み出す。そして、それを腰のドライバーに挿し、45度ほど倒した。
『Barrel』
『そうだ。そして最後に左の装置を押し込んで叫べ!!オマエの力を引き出すための言葉を!!』
交差させた腕を解き、左手で備え付けられた装置──アクティベーターを押し込んだ。
(僕は弱い。そのことは誰よりもよく解ってる。だから、苦しんでいる人々全員を救おうなんて分不相応な望みは抱かない。現に、目の前で怪物に食い殺される女の子一人救えなかったんだから)
ドライバーが解き放った力が、全身に満ちていく。
(それでも、助けられる範囲にいる人だけは、全員まとめて助けたい。さっきみたいな悲劇を繰り返さないためにも。それが偽善なら、僕は偽善者で構わない。それを叶えるために──僕は、戦うッ!!)
「変身ッッ!!」
そして、全身に渡ったエネルギーは月白の肉体を変質させ、鎧として、変わり果てた躯体に張り付いた。
『Wilderness Sniper! Barrel XO!!』
青い装甲を身に纏い、二丁の銃を握った、仮面の戦士──仮面ライダー
「宣告しましょう。あなたの未来は、ここで途絶える」
『oAH。oWiSaTW、oTuSoRK?』
「何を言っているのか分かりません。対話を試みるのでしたら、まずは相手に伝わる言葉を使ってください」
何かを語りかけるスパイダーに、XOは呆れたような口ぶりで言った。そして、不意を突くように、銃の引き金を引く。
『aG……!?iRaN卑怯、aHiRoKH、aKoNiAaN!?』
「だから分からないですって。せめて英語で話してくださいよ。それができないなら喋らないでください。耳障りなので」
距離を詰めながら、XOは絶えず引き金を引き続ける。スパイダーが放つ粘性の高い糸も、当たらなければなんということはない。
『iASaKZoK……!!』
だが、やられてばかりのスパイダーではない。スパイダーはXOの死角に糸を吐くと、それを利用して飛び上がった。
『eNiS』
触腕が迫る。その先端には、妖しく光る毒針が。避けようとするが、回避は間に合わない。
『アスカ!!オマエは今は攻撃に専念しろ!!奴の攻撃は、できる限りオレが逸らすッ!!』
そして、その毒針は、バレットの放つ光弾によって弾かれる。
「了解ッ!!」
そして生まれた一瞬の隙を、XOの銃口は見逃さない。
『aMSiK……!!』
吹き飛ばされたスパイダーは、目を赤く光らせ、XOを睨みつける。
「そう怒らないでくださいよ。……怒りたいのは僕の方なんですから」
XOは、怒りを孕んだ声色で、放たれた糸の鎖を打ち返すと、スパイダーの右足にそれをぶつけた。口からの糸と足が結ばれ、一瞬、その動きを鈍らせる。その隙が、戦場においては大きなものとなる。
「これで、狩られる側の気持ちが分かりましたか?」
スパイダーが糸を噛み切ろうとした瞬間、XOはスパイダーに馬乗りになり、その複眼を右の拳で全力で殴打した。
『aG……!!』
「確かここは、あなたの出した『捕食猟域』ってやつの中なんですよね?まぁ、それの主はもうあなたじゃありませんけど」
嘲るように、XOは言う。
「分かりますか?あなたはもう捕食者の位置にいないんです。この場の支配者は僕で、あなたは被食者にすぎないんですから」
拳が複眼を突き破り、どす黒い血がその手を赤黒く染めても、なお、殴る手を止めない。
『oWiSaTW、aKoNuRS愚弄!?』
スパイダーは怒りと恐怖をないまぜにした声で叫ぶと、糸をXOの足に吐き出し、一瞬の隙を作り出した。その隙で、スパイダーは全速力で逃げ出した。
『まずい……奴は人を喰らいに行く気だ!!アスカ、今すぐ拘束を解けッ!!』
「無茶言わないでくださいよ……火事場の馬鹿力だかなんだか知りませんけど、この糸異様に絡まってるんですよ!!」
『霧素を脚に回せ!!それで弾き飛ばせる!!』
バレットの指示のままに、XOは両脚に霧素を込めた。すると、糸の拘束が弾け飛んだ。
『急げ!!早く奴を討たねば取り返しのつかんことになる!!』
「わかってますよ……あそこですね!?」
そして、二人は走る。天井に蜘蛛の巣を張り、餌を探していたスパイダーが、避難している少女を見て笑っているのが目に入った。スパイダーはさらに糸を吐き、少女を取り囲むようにしてドームを形成していく。そして、そこに目掛けて飛び降りた。
『アスカ!!銃を二つ合わせてインジェクターを刺せ!!奴は消耗している、それだけで奴は倒せる!!』
「了解ッ!!」
二つの銃を繋ぎ、ライフル型に組み替える。ドライバーから抜いたインジェクターを銃の持ち手より少し上の場所に装填すると、その銃口に霧素が集められていく。
「──言ったでしょう?あなたの未来はここで途絶えると」
『Shooting Overdrive!』
放たれた弾丸は、ドームへと飛びかかるスパイダーの脇腹に着弾すると、十字に炸裂し、その四肢を爆散させた。直後、少女を囲っていた糸のドームは崩れ去り、デパート全域を飲み込んでいた捕食猟域も同時に消滅した。
「──これで、一件落着ですね」
XOが変身を解き、襲われそうになっていた少女を親のもとまで送り届けたのちに、月白はそう呟いた。
「さて、着きましたよー」
それから一時間後、車に戻った一行は、ようやく霧核対策部の本部に到着した。
「お二人には、これからしばらくの間、うちで働いていただきますー。そのために必要なだけの戦力と情報はこちらから渡させていただきますよー」
どこか聞き心地のいい声で、虚坂は言う。その扉を開けると、四人の男女がトランプに興じていた。その後ろで、金髪の少女が漫画雑誌を読んでいる。扉の開く音に合わせ、一同は振り向いた。
「──ようこそ、霧核対策部へー。私達は、あなた達を歓迎しますー」
次回予告
月白「さぁ、ついに始まりました仮面ライダーO’。始まってしまいましたね。本日はゲストにこの方をお呼びしております。どうぞ」
黒薙「いやどうぞじゃないが。……第一部の主人公、黒薙颯斗だ。今回の最初にもちょっと出てきたな。僕の勇姿が気になったらこの作品についてる『仮面ライダーO』のタグから見に行ってくれ」
月白「僕の初登場も第一部のエピローグでしたね。まぁ、越境要素はその程度です。颯斗と僕の話は場所も違えば世界観も違うので、別に第一部を読まなくても楽しめる仕様になっていますね」
黒薙「いやぁ、僕にも直系の後輩ができる日が来るとはなぁ。ちょっと嬉しいぜ。それがお前ってのは少し複雑だがな」
月白「そんな僕と颯斗の関係性がわかるスピンオフ『Fang』の第14話も近日公開予定です」
黒薙「僕と亜矢が本格的にあっちにも絡んでくるようになるらしいな。全国二百万の黒薙ファンは待ってろよ」
月白「次回、仮面ライダーO’!『JUSTCE BULLET』!」
黒薙「まぁ、僕も色々と大変な目に遭ったが、主人公ならお前もそうなるかもしれねぇし、気ぃつけろよ」
月白「言われずともわかってますよ颯斗。それじゃ、『Fang』の方で会いましょう」
墓脇です!第二部始まっちゃいました!!
というわけでついに始まってしまいました仮面ライダーO’。本作の舞台は第一部とは違いアメリカになります。舞台が違えば話の雰囲気も大きく異なってきます。なのでOを読まずともこの作品は楽しんでいただけます!!初見の方もどんどん見ていってください!!でもOも読んで欲しい!!
ちなみに墓脇はアメリカ行ったことありません。想像でアメリカを書くな。
今回の第二部は第一部と違い、前世が存在しません。構想だけはありましたが、それは形にされずに今まで溜まってきた感じです。ようやっと世に放つことができました。ン年分グツグツと仕込まれ続けた世界観を、墓脇ワールドで上手く調理できることを願っております。
今回も頑張っていきますのでこれからもよろしくお願いします!!墓脇でした!!