「あァッ、やだッ、誰かッ、助けてくれェッ!!」
『aHA。aSeA。oMeTu-KK、aKiAA?』
裏路地で、黒い肌の男が魔物に襲われている。魔物は誰かに何かを問いかけると、醜悪な笑みで男へと飛びかかった。
「──ほう。私たちのシマで人を喰らおうとは、随分と肝の座った魔物もいたものだな」
しかし、その魔物は上方から飛び降りてきたセイリアのかかと落としを喰らい、頭部を欠損させた。
『iA……iAaT。iAaTiA、iAaTia!!』
「知るか。訳の分からん言葉で捲し立てるな。不愉快だ。お狐様のようにもう少し上品に喋れよ」
頭部を再生させた魔物の下顎部が、セイリアのハイキックで吹き飛ぶ。魔物は再生に力を回すが、そうして生まれた一瞬の隙を、セイリアは見逃さない。
「死ね」
魔物に掴みかかると、その胸部にナイフを押し当て、一切の躊躇もなくそれを振り下ろした。どす黒い血が吹き出し、ショートジャケットに赤黒いシミを残す。
「おっと、再生なんて無粋な真似をしようとするなよ。もっとも、しようとしたところで、させる気は毛頭ないが」
塞がり始めた傷口に、セイリアの右腕が挿入された。心臓部の核が抜き取られ、魔物の体がぐしゃりと崩れる。
「よし、死んだな。さて……あんた、怪我はないか?」
「ヒィッ……嫌ァァァァァァァァ!!」
返り血にまみれたまま、セイリアは男の方へ振り返った。男は腰を抜かして、ガクガクと震えながら逃げ出した。
「ハァ。助けてもらっておいて礼のひとつもなしか、まったく……バレット、あんたの餌だ。食いたきゃ食いな」
セイリアはやれやれとため息を吐くと、密かに同行させていたバレットに霧核を差し出した。
『あぁ、いただくとしよう。……不味いな。やはり霧素は人間のものに限る』
「そう言うなよバレット。霧核は高濃度の霧素の集合体。不味かろうと契約者からチマチマ霧素を吸うよりも何倍も効率的だ」
霧核を噛み砕き、味の悪さに不服を示すバレットを嗜める。
「さて、これで五件目か。最近の魔物の勢いは妙に活発だが……少し、調べてみるとするか」
《hr
「最近出現したBランク以上の魔物の残存霧素反応を検査したところ、その全てからある人物の霧素が検出されたわ」
霧核対策部本部にて、桃色の髪の女性が頬杖をつきながら言った。彼女は先日、顔合わせの際に、セイリアから「ラボに籠っている科学者」として紹介された人物で、
「それが彼女……アリス=ハニーレインね。調べてみたけど、彼女は生まれつきほぼ無限に近い霧素を持ってるらしいわ。そして、それは自分でも制御できない。だから、その子から漏れ出た霧素を魔物が取り込んで凶暴化していてもおかしくはない」
「あの、桃代さん。質問なんですけど、アリスさんって生まれつきホルス……霧素が多かったんですよね?ならどうして、それで強化される魔物が最近になって大量に出てきたんですか?」
桃代の説明に、月白は疑問を述べた。
「それをあたしに聞かれても困るわ。制御が効かないって言っても、多少は自分で抑えられたみたいだし、それの効きが悪くなってるとかじゃないかしら」
ため息とともに、桃代は言う。
「……そういうわけだ。ひとまず、月白・弦巻・周の三人には彼女の捜索を頼みたい。美少女二人侍らせられてよかったな月白。これも役得ってやつだ」
「ふざけてる暇あったら仕事しろよセイリアさん……」
「ん?あぁどうしたウィリアムズ。嫉妬か?男の嫉妬は醜いだけだぞ」
「そんなんじゃねぇよ……」
セイリアの軽口に、ロバートは苛立ちを隠そうともせずに本部を出て行った。
「なんか最近あの人の様子変じゃない?」
「元々あんなもんじゃろあやつ。根暗のくせして考えておることはぜ〜んぶ顔に出ておる。そういうとこがからかい甲斐があって面白いんじゃがのう!!」
「彼が短気なのは玉藻さんのせいって面もあると思いますけどね……」
ロバートの様子を見て、詩涵がふと呟いた。玉藻は豪快に笑いながら詩涵の肩を抱いて言う。
「ほ〜う言うではないか小童が。お主も人のこと言えたタマかのう?」
「僕が彼に何したって言うんですか……まぁ一回彼の静止振り切ってジャックさん助けたりしましたけど……」
「ほれ見たことか!!お主もあやつをイラつかせておる要因の一つじゃ!!わしとお揃いじゃな!!」
今度は月白に抱きつこうとする玉藻だったが、背後からセイリアに首根っこを掴まれ、無理矢理引き離された。
「なんじゃ、わしがツキに抱きつくのがそんなに許せなんだか?相も変わらず愛い奴よのう!!」
「違う。そんなんじゃない。勘違いするなよお狐様」
「おぉ、漫画で見た台詞じゃのう!!照れるな照れるなツンデレ娘〜!!」
月白から引き離された玉藻は、目を煌めかせてセイリアの両頬を引っ張る。
視界の隅で戯れる二人を置いて、三人は本部を後にして、車に乗り込んだ。運転席には詩涵が座っている。
「シートベルトはちゃんと締めといてね。わたし、ちょ〜〜〜っぴり運転荒いから」
「あ?運転荒いなら虚坂サンにでも代われや。事故って死にたくねぇぞアタイは」
「虚坂さんあれで結構忙しい人だからさ。どんな魔物と契約してるかも知らされてないけど、A級三体を単独で相手して全員狩ったって噂もあるくらいだし。……じゃ、シートベルト締めたね?」
目で確認することもなく、詩涵は車を発進させた。凄まじい速さで、詩涵は路上を爆走する。
「テメェこれでよく免許取れたなァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!!!」
「というか本当に免許持ってるんですか詩涵さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!????」
二人の絶叫が、アメリカの街に響いた。
「はぁ、はぁ……死ぬかと思った…………」
休憩のためと留まったデパートの駐車場で、月白と乙姫はゼェゼェと息を吐いていた。
「ごめんね、ハンドル握るとついストレスをそこにぶつけちゃうから……」
「だったら免許返納しろやクソが!!!!なんだテメェ、アタイらを殺す気か!!??」
真っ赤になって怒る乙姫を、月白が制止する。
「すみません。ちょっと電話するので二人とも静かにしていてください」
「お、おう……」
乙姫は大人しく食い下がり、自販機の方へ向かった。
『ジャックだ。ブラザー、急にどうした?』
「だから僕はあなたのブラザーになった覚えはありませんって。ところでジャックさん、ひとつ頼みがあるんですけど、聞いてくれます?」
『内容にもよる。何だ?』
月白はジャックに電話を繋ぎ、アリス捜索の協力を要請した。
『アリス=ハニーレイン、か。把握した。その名前に聞き覚えはないが、おれにもできる範囲で協力させてもらおう。切るぞ』
ジャックは、協力を認め、通話を切った。
「月白、誰に電話してたんだ?」
「ジャックさんです。ほら、カフェテリアで会った」
「あァ!?テメェマジで言ってんのか!?あんな感じ悪りぃ野郎とよくつるむ気になったな……すげぇよテメェ……尊敬するわ……」
乙姫はドン引きしたような表情で月白から距離をとった。
「……いや、それは、いくらなんでもジャックさんに失礼じゃないですか?」
「へぇ〜。面白いこと言うじゃんジャックちゃん。これは流石のオレ様も予想外。公安嫌いのキミが、どういう心境の変化かな?」
電話を終えた後、ジャックは自らが属する組織の長にその件を伝えに行っていた。
「おれは、今も公安は嫌いです。しかし、月白のことは信用できる。……あいつは、ブラザーは、そういう男なんです」
「はははっ!!キミにそこまで言わせるとは、そのツキシロって男はよっぽどのタマらしいねぇ!!」
一見すると中学生程度にも見えるその男──ガブリエル会のトップ、ガブリエル=グリーンロードは笑いながら言った。
「ま、ウチのモットーは自己責任だ。キミがそうしたいならそうすればいいと思うぜ。いちいちオレ様に許可取る必要なんてどこにもないと思うけど?」
「……おれは部下で、あなたは上司だ。勝手な行動は、いたずらに規律を乱すだけ。それでは弱者を守ることは叶わない」
「お堅いねぇ優等生クン。究極の指示待ち人間か〜?もっと柔軟にならないと、いざって時に痛い目見るぜ?」
ガブリエルはニヤリと笑い、ジャックの額を人差し指で弾いた。
「……では、おれは失礼します」
ジャックは口答えもせずに、組長室を出て行った。
「……ジャックちゃんは面白いんだけど、今ひとつインパクトに欠けるんだよねぇ」
その様を見送ったガブリエルは、こめかみを掻きながら唸る。
「……アリス=ハニーレイン。話を聞く限りギフトか。ジャックちゃんにいい影響を与えてくれるといいけど……どうかな」
そう呟くと、ガブリエルは自らの机に視線を落とした。その視界の隅には、猫のエンブレムが刻印されたジェクターが映っていた。
「すまん、待たせたな」
「はい、待たされました。ジャックさん、今回はあなたの力が必要なんです。『猫』の魔物の力で、路地裏とか暗いところを探って欲しいんですよ」
二十分後、月白たちはジャックと合流した。
「……公安の車に乗るのは不服だが、背に腹は替えられんか」
「あ?嫌なら乗るんじゃねぇよ帰って死ねクソ野郎が」
「まぁまぁ……ジャックさんは乙姫が思ってるほど悪い人じゃないですから……」
露骨に嫌そうな顔をするジャックに、乙姫は苛立ち全開で噛み付く。それを、月白がなんとか窘めた。
「あぁ、ジャックさん。ちゃんとシートベルト締めておかないと危ないですよ。放り出されたりフロントガラスに頭ぶつけて死なないようにも気をつけてください」
「いや、締めるが……車ってそこまで危険なものだったか……?」
「これから嫌でもわかりますよ。……詩涵さん、締めました。いつでもオーケーです」
さっさと車を出発させたそうにソワソワしている詩涵の姿を見た月白は、ジャックにシートベルトを早く締めるよう催促した。締めたのを確認するなり、詩涵は発進した。爆速で進む車の中で、三人は叫ぶ。
「だからテメェさっさと免許返納しろっつってんだろ躁鬱野郎ォォォッッ!!!!」
「運転を代われ無免許のおれの方が絶対にまだまともに運転できる!!!!」
「ストレス発散したいならどっか別でやってから運転してくださぁぁぁぁぁい!!!!」
しかし、詩涵は一切聞き入れずに爆走していく。
そんな中、本部からの着信を知らせるブザーが鳴った。詩涵は舌打ちの後に道の隅に停車した。
「詩涵です。飛鳥くん乙姫ちゃんと一緒にいます。なんでしょう?」
『あぁ、こちらセイリア。B級の魔物が一体確認された。位置情報をそちらに送る。早急に向かってくれ』
「了解しました。……よし、そういうわけだから、合法的に爆走するね♪」
魔物の出現の報告を受け、詩涵は満面の笑みでギアを入れる。
「いや、少しだけ待て。おれも上司に出撃の許可を取る。それまでは法定速度で走ってくれると助かる」
「チッ、わかったよ。なるべく早く終わらせて」
すると、許可を取るためとジャックがそれを制止した。少し不機嫌になりながらも、詩涵は頷く。
「おれです。B級の魔物が出現したらしいので、このまま公安と共同戦線を張ります。許可をください」
『だから許可なんていちいち取る必要ないんだってジャックちゃん。いい加減独り立ちしてくんないとオレ様困っちゃうよ』
出撃のたびに許可を求めるジャックに、ガブリエルは苦笑する。
「小言は後で聞きます。……それで、許可は?」
『はいはい、許可してやるよ。死なない程度に暴れてきなベイビー』
ガブリエルはやれやれと言わんばかりに肩をすくめると、ジャックに出撃の許可を出した。
「終わった?もう爆走していい??」
「あぁ。好きにぶっ放して貰って構わァァァァァァァァァッッッ!!??」
言い切る前に、詩涵が全力でアクセルを踏み、急加速させた。
「見た感じ、周囲に人はいませんよね?」
「うん。人が寄り付かなそうな雰囲気の場所だし、魔物が食い荒らしたってよりは元々じゃないかな。とはいえ、放っておくわけにもいかないしね」
「はい。それじゃ、変身するので少し下がっててください。あんまり近いと余波に巻き込みかねないので」
魔物が出たという路地裏にたどり着いた。周囲に人影はない。月白は三人を少し下がらせると、ドライバーを腰に巻きつけた。
「変身ッ!!」
『Wilderness Sniper! Barrel XO!!』
月白の体が白く変わり、そこに装甲が装着される。仮面ライダーXO。これで三度目の変身である。
「はーん。テメェが変身するとこ見んのは初めてだが、中々イカした格好じゃねぇか。普段のメスみてぇなツラよりよっぽどいいぜ」
「うるさいですよ乙姫。黙っててください。……特に痕跡らしきものは見つかりませんね」
からかう乙姫を無視して、XOは周囲に視線をやる。
「待て月白!!後ろに何かいるッ!!」
何も見当たらず、来た方をぼんやりと見ていたXOに、ジャックが叫んだ。次の瞬間、背後から魔物の攻撃が飛来する。ジャックの声で意識を背後にも向けていたXOは、背を向けたまま銃口だけを魔物に向け、引き金を引いた。
『aMSiK……eTiAuDiK、aKoNaTiA……!』
撃たれた魔物は少し吹き飛び、驚愕の表情で言った。外見から察するに、『蝙蝠』の魔物だろう。
「相変わらず何言ってんだか分からない怪物ですね。ま、構いません。元々何を言っていようが聞くつもりもありませんしね」
蝙蝠──バット・ヴェイダーに銃口を向け、XOはそのトリガーを引いた。放たれた光弾が、バットの肉体を剥いでいく。
『aG……iK、aMS!!』
バットは声を荒げ、その羽を広げると、地面を蹴ってXOへと飛びかかる。両足でXOの胴を拘束し、鉤爪で切りつけた。
「くっ……!!やっぱり一筋縄じゃ行きませんか……!!」
その衝撃で拘束から逃れたXOは、ナイフが刻印されたジェクターをドライバーに装填し、アクティベーターを押し込んだ。
『Weapon-ject! Crossing Knife!!』
それぞれの銃口の先に、一対のナイフが出現する。
「目には目を、歯には歯を。となると、斬撃には斬撃で対処するのが一番手っ取り早いですよね?」
バットとの距離を詰めると、トリガーを引かずに銃を振り下ろした。ナイフがバットの皮膚を裂き、火花を散らす。
「相変わらず不恰好な武器だ……華のヒーロー様とはとても思えん」
ジャックは口角を上げながら、バットに向かって走り出した。
「おいテメェ巻き込まれんぞ!!」
「いや、大丈夫。彼はそれを承知で行ったはず。ハンターってのは危険を覚悟の上で戦うものだからね」
乙姫が呼び戻そうとすると、詩涵がそれを止めた。
「わたしも行かないとね。乙姫ちゃんは下がってたほうがいいかも。まだ魔物と契約してないわけだし」
詩涵も同様に走り出し、両方の掌を地面に向けた。
「──鯨、潮」
すると、バットの真下に小さな穴が開いた。バットはそれに躓き、倒れ込んだ。そこから噴き出した水が、バットを高く打ち上げる。
「隙だらけだ蝙蝠野郎!!」
落ちてきたバットを、ジャックの猫の爪が上向きに切りつけた。
「今がチャンスですね。行きますよ……」
「いや待て月白!!ここでキックはまずい、別の技にしろ!!」
「はぁ!?なんでですかジャックさん!?」
「後で話す!!今はおれの言うことを聞け!!」
キックでトドメを刺そうとしたXOだったが、ジャックが別の技にするよう言ったため、急遽ナイフを取り外し、銃と銃を合体させた。
「わかりましたよ……!!」
『Shooting Overdrive!!』
高圧の霧素を含んだ光弾がバットを貫くと、その肉体は圧力に耐えきれずに蒸発した。
「ふぅ……それで、なんでさっき止めたんですかジャックさん?」
変身を解き、月白はジャックに問いかける。
「『猫』の目で見たが、その先にアリス=ハニーレインがいるようだったんでな。あのキックだと、アリス=ハニーレインを巻き込みかねなかった」
「……なるほど。でしたら納得です。……ということは、ここを進めば、本来の僕たちの目的も果たせるというわけですね?」
ジャックの返答を聞き、得心がいった月白たちは、アリスがいるという方へと進んでいった。
「……だ、誰ですか、あなたたち」
月白たちが近寄るなり、路地裏の隅で体育座りをしている少女は言った。
(写真と全く同じ顔……なるほど、このガキがアリス=ハニーレインか)
乙姫は顔を少女に近づけて凝視する。
「僕たちは連邦捜査局・霧核対策部所属のハンターです。アリス=ハニーレインさんですよね?お話を伺いたいんですけど、今お時間ありますか?」
邪魔だった乙姫を横にどけて、作り笑顔で月白は少女の肩を掴んだ。
「……ッ、触らないでっ!!……ごっ、ごめんなさい、取り乱しました。いかにもわたしはアリス=ハニーレインです。それで、話……ってなんですか?」
声を上げ、反射的に月白の頬を叩き、少し距離をとってアリスは言う。
「いてて……そうですね。最近、魔物の活動が活発になってきていますが、何か心当たりはありますか?」
「……な、いです」
「そう、ですか……ご協力、感謝します」
一瞬言葉に詰まったのを不思議に思いながらも、月白は引き下がった。
「いや、あんだろうがクソガキ。アタイの前で隠し事ができるとでも思ってんのか?」
直後、アリスの胸ぐらを掴んで乙姫が言った。
「わっ……わたしがっ!!わたしがっ、嘘をついてるって言うんですか!?そっ、そんな証拠がどこにあるんですかっ!!」
「ここにある。アタイのスマホん中にな。どうする?白状するなら消してやってもいいが、隠し通すなら……これをネットにばら撒いてやろうか?テメェの個人情報もオマケに付けてな」
スリープモードの携帯を見せびらかし、乙姫はアリスを脅迫する。
「……はぁ。確かに私は最近いろんな魔物と契約して力をあげてます。それが何か?何も悪くないですよね?あなたには迷惑をかけてないんですから」
「あ?逆に良いと思ってんのかよ。良いわけねぇだろ、バカじゃねぇのか?あぁ、どうせその汚ねぇ身なりじゃロクに学校も行ってねぇだろ?ならバカんなって当然か」
リスクを天秤にかけ、アリスは、魔物と契約し、霧素を与えていたことを暴露し、開き直った。それを嘲るように言った乙姫を、月白が制止する。
「さすがにそれは言い過ぎでしょ乙姫。あなたもう黙っててください。他人の私生活の事情をあげつらうのはあまり褒められたことじゃありませんよ」
「別に褒められようとやってねぇっつの。うるっせぇお小言だな?」
「うるさいお小言で結構です。あなたのやり方じゃ自白の強要にしかならないじゃないですか。それはダメです」
「ハッ、どの口が言うよ」
流石に度が過ぎると判断した月白が割って入り、乙姫をアリスから引き離した。
「すみません、僕の同僚が失礼な真似を。……ところで、どうしてあなたは魔物と契約して人を襲わせたんですか?」
「……別に、私が人を襲わせたわけじゃありません。放っておいたら勝手に人を襲っただけです」
月白が問うと、アリスはうんざりしたような表情で答えた。
「……なら、契約した目的は?何か理由がないとそんな真似はしないでしょう?」
「……復讐ですよ。私を虐待する両親へのね。もう、いいでしょう?人は襲わせないようにしますから。証拠写真とやら、ちゃんと消すとこまで見せてください」
アリスは月白を軽く押し除け、乙姫のすぐ近くまで歩き寄った。
「あぁ、悪りぃけど……あれ嘘だぜ?証拠写真なんざあるわけねぇだろ?そもそもテメェの動向が掴めなかったってんだから。ま、今のテメェの自白はちゃ〜んと録音済みだがな」
対する乙姫は、下卑た笑みを浮かべ、携帯をポケットに仕舞い込んだ。
「は、はは。ははははは。私はまんまと騙されてたってわけですね。……許さない。……そっか。ここで全員殺しちゃえば、私の考えが外に漏れることもありませんよね……?」
騙されていたことに気がついたアリスは、狂気的な笑みとともに、静かな怒りを解き放つ。
「ッ、伏せてください乙姫ッ!!」
次の瞬間、煌めく斬撃が、乙姫の頭上を掠めた。
「……
『……心得ました。申し訳ありません、人の子達よ。我が主の命ゆえ、致し方なく、貴方方を抹殺いたします』
風刃乃と呼ばれた、着物を着た魔物が、月白たちに襲いかかった。
「その腰の武器……『刀』の魔物ってところですか……ッ!!」
『ご明察。察しが良いですね、少年。……もっとも、察することができようができまいが、貴方がここで死ぬのは既に決まった運命ですが』
風刃乃は冷たく言い放つと、月白に飛びかかった。
「……ッ、変身ッ!!」
月白はそれを間一髪で躱すと、ドライバーを操作してXOに変身した。
『ほう。ではお手並み拝見といきましょうか、仮面の戦士よ』
腰の得物を抜き、風刃乃は臨戦態勢をとる。
(この雰囲気……間違いない。この魔物は強い。これまでに僕が戦った三体よりも、確実に。せめて彼らが巻き込まれないようにしないと)
「三人とも、ひとまず逃げてください!!ここは僕が食い止めます!!」
なんとなく相手の強さを肌で感じ取ったXOは、乙姫たちを避難させた。
『……なるほど。一人で私の相手をしますか。その根性だけは認めましょう。ただし』
それを見届けると、次の瞬間、風刃乃は一瞬でXOの懐に潜り込んだ。
『──貴方如きが単独で私を撃破できるとお思いなら、それは大いなる勘違いです』
斬撃が、XOの体を大きく吹き飛ばす。火花が散り、その意識が一瞬途絶えた。
『私は貴方を殺し、逃げた三人も殺さねばならないのです。無理に足掻けば余計に長く苦しむことになりますよ』
「はは……それは困りますね。なら、せめて全力で悪足掻きさせてもらいましょうッ!!」
XOは立ち上がるとすぐ、地面に向けて光弾を放った。飛び上がり、照準を風刃乃の顔に合わせる。
「吹き飛べッ!!」
『Shooting Overdrive!!』
青い軌跡を残し、大量の霧素を宿した光弾が、風刃乃へと伸びる。
『これは……受ければタダでは済みそうにない。こちらも全力で参りましょう』
その威力の高さを察した風刃乃は、手にした刀に霧素を込めた。刀身が、緑色に鈍く輝く。
光弾と刀身がぶつかり合う。だが、それを両断できるほどの力は、風刃乃にはなかった。
(ならばどうするか……答えは必然。刀ごと放り捨てれば良いだけ)
だから、風刃乃は力を緩め、刀を視界の外に放り投げた。カランカランと乾いた音が響き、刀が帯びた霧素と光弾の両方が空気に溶けていく。
「やるようですね。……でも、刀がなくて本当に僕と戦えますかね?」
『……あまり、図に乗らないことです。油断してくれる分には大いに構いませんが』
相手が得物を失くした好機に、XOは飛びついた。霧素を両手に集中させ、全力のボディブローを放つ。
『ぐふッ……残念、隙だらけですッ!!』
風刃乃はその腕を掴むと、指を刃に変えて握りしめた。徐々に腕に刺さっていく痛みから、XOは思わず腕を引いた。込められていた霧素も、既に消えている。
『真っ二つに千切れて死んでください』
次の瞬間、風刃乃は脚に霧素を込めた。大きな刀と化した脚に。
緑色の旋風が巻き起こる。それは真っ直ぐにXOへと伸び、無防備だった彼の変身を解くほどのダメージを与えた。
「が……ッ!!」
ドライバーが腰から外れ、月白は地面を転がる。
『では、まずは貴方から殺すとしましょう。恨まないでくださいね』
得物をその手に再び納めた風刃乃が、その切先を月白の首筋に突き立てる。少しずつ刃先が食い込んでいく。こんなところで死にたくない。そう叫ぼうとした瞬間、すぐ真横で空気を裂く音がした。オレンジ色の残像は、風刃乃の腹にその爪先を叩きつけ、彼女を大きく吹き飛ばす。
「……どうやら、私の部下が随分とお世話になったようですねー?大丈夫ですかー、月白さーん?」
蹴りを放った白スーツの女性──虚坂は、不敵な笑みで言った。
次回予告
詩涵「乙姫ちゃん、お腹空いたんだけど何かない?」
乙姫「ねぇよ。っつーか後輩にたかんな。あったとしても危険運転者にゃ何も渡さねぇよボケが」
詩涵「そこまで言わなくてもよくない?女の子なんだから、もっとお淑やかにしてた方がいいと……いや、別にモテるモテないは君には関係ないか」
乙姫「あん?」
詩涵「いや、だって乙姫ちゃん……ぶっちゃけ、飛鳥くんと付き合ってるでしょ?」
乙姫「は?……いや、そんなことねぇけどよ。悪りぃけど、照れる云々よりも先に嫌悪感が来たわ……気持ちわり……」
詩涵「……え?あれだけいっつも痴話喧嘩しておいて?」
乙姫「次回、仮面ライダーO’!『SHINING BLADE』!」
詩涵「ということがあったんだけど、ほんとのとこはどうなの飛鳥くん」
乙姫「ないです。僕があんなデリカシーない人と付き合うわけないじゃないですか。というか僕のタイプは小動物系の女の子ですし。詩涵さんってもしかしてバカなんですか?」
詩涵「ぴえん」
墓脇です。
今回は前回ちらっと登場していたアリスchangが登場しました。毒親に恨みを募らせる中学生のメンヘラ少女です。
彼女は今後の物語の鍵を握ることになるかもしれない人物なので、これから目が離せませんね。
今回の話は2話構成なので、今の段階で言えることは特にありません。来週の話がどうなるか楽しみにしていてください。墓脇でした。