仮面ライダーO’   作:墓脇理世

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第4話「SHINING BLADE」

「大丈夫ですかー、月白さーん?」

 風刃乃を蹴り飛ばし、虚坂は問う。

「あ、ありがとうございます……助かりました……」

「危なかったですねー。これからは緊急時には一に逃走・二に報告を徹底するようにしてくださいよー」

 軽快に言いながらも、鋭い視線はアリスと風刃乃から逸らさない。

「あなたが、アリス=ハニーレインさんですねー?」

「……っだ、だったらどうするっていうんですか?お説教なら聞きませんよ?」

「お説教ー?そんな一時凌ぎ、私がするわけないですよねー?私は問題は根から解決しないと満足できない性格でしてー」

 動揺するアリスの背後に迫り、虚坂は笑った。直後、その首に打撃が加えられた。がくりと倒れたアリスの胴を、虚坂が担ぐ。

『ッ、汚い手で我が主に触れるなッ!!』

「あなたも重要参考人ですー。……ですので、遠慮なく確保させていただきますよー」

 怒りを露わにして、風刃乃は飛びかかった。瞬間、風を貫くような音が響く。反射的に月白は目を閉じ──開けた時には、風刃乃の右肩から下が無くなっていた。

「おっとー。ごめんなさいねー。ついやりすぎちゃいましたー。反省反省ーっと」

 鮮血を噴き出しながらも、まだ虚坂への敵意に満ちた風刃乃の腹に打撃を叩き込み、気絶させて、虚坂は言った。

「さーて、それじゃ帰りましょうかーっと」

 


 

「……それで、虚坂サンがあのガキと魔物確保したと。かーっ、おっそろしい人だねぇ。下手に喧嘩売らねぇようにしよっと」

 月白が本部に戻ると、一足先に帰還していた乙姫が言った。

「大丈夫ですよー。私は魔物以外に本気を出す気はありませんからねー」

「ま、あんたの場合は手加減してても人死にが出かねんがな」

「セイリアさんー?そんな新人さんたちを怖がらせるようなこと言う悪い子はメッ!ですよー?」

「ほら見ろ、オーラが殺意に満ちてる。あんたの「メッ!」は「滅ッ!!」だろ?」

 こめかみを掻きながら言う虚坂に、セイリアが横槍を入れた。

「……駄目だな。ボクが尋問してみたが、飛鳥くんたちの報告にあったことしか言わなかった。おそらく、アレが彼女の行動原理の全てなのだろうね」

 直後、扉が開き、そこから現れたベネディクトが言う。

「だから無駄だって言ったんだ。あんな魔物の力を悪用するようなガキ、まともな感覚なんてあるわけないだろ……」

「相手をよく知らずに決めつけてかかるのは美しくないよロバートくん。それはボクの主義に反する。何か事情があるのなら、それを真っ先に解決した方がスマートかつビューティフルに物事が進むのだから」

 悪態をつくロバートを、ベネディクトが諌めた。

「……あれ?そういえば詩涵さんどこ行きました?」

「……言われてみればいないな。お前らが帰ってきてからは見てないけど」

 それから、数秒間の沈黙が訪れた。その微妙な空気を打破するため、月白が口を開く。

「また何か食いに行っておるのじゃろう。あやつが席を外すときは便所か飯かの二択じゃ」

「どっちにしろ長くねぇか?どっちでもこんなかからねぇだろ」

 漫画雑誌を読んでいた玉藻が、視線だけを上げて言うと、乙姫は首を捻った。

「……まさか彼女、アリス=ハニーレインのもとに行っているのではないかね?」

「と言うと、なんだキングワーズ?」

 そんな中、ベネディクトはいち早く真相らしきものに気がついたらしく、立ち上がった。

「セイリアさん。あなたも詩涵くんの家庭環境に問題があることは知っているだろう?」

「……なるほど、そういうことだったか。だとすれば、あいつの行った場所は一択だな」

 確かに、と月白は首肯する。アリスが自らの意思で魔物を従えるようになったのは両親への復讐のためだという。詩涵の家庭環境がどうかは知らないが、ベネディクトの言っていることが事実であれば、彼女がアリスと接触してもおかしくはない。そして、付き合いこそ短いが、ベネディクトがこういった際に嘘をつくような人物でないことは、月白もよく理解していた。

「……一応、見に行きますか?」

「周の性格はよく知ってるし、特に大きな問題もないとは思うが……念のため、様子見……行っとくか」

 詩涵がアリスのところにいるとして、何を話しているかが気になった月白たちは、こっそり覗きに行くことにした。

 


 

「あなたは……もう、これ以上話すことなんてありませんよ」

「そう冷たいこと言わずに、仲良くしよ?同じ境遇の人間同士、傷口ぺろぺろ合戦でもしようか」

「やだ。……なにが同じ境遇ですか。どうせ恵まれてるんでしょう、あなたも。親から愛されてない私の気持ちなんて、あなたにはわかりませんよ」

 その頃、詩涵は一同の予想通り、アリスのもとを訪ねていた。

「……いや、そんなことはないかな。だって、わたしも親との仲あんまり良くないから」

「……仲が良くない親子なんて、いくらでもいますよ。でも、日常的に親から殴られるなんてまずないでしょう?……ごめんなさい、不幸自慢なんてみっともないですよね」

 アリスは突き放すように言って、詩涵から目を逸らす。

「……わたしはね、それが嫌だったからここに来たんだよ」

「え……?」

 しかし、詩涵はアリスの肩を叩いて言った。

「わたしのママ、早くに死んじゃってね。わたしの家にはわたしとギャンブル狂いのパパと妹二人しかいなかったんだ。勝ってるときはいいけど、負けた日なんか最悪。何でもかんでも物を投げられて、流血沙汰なんて日常茶飯事だったかな」

 遠い目をして、詩涵は語る。

「だから、わたしは妹を連れて家を出たんだ。そしてここに来た。昔から運動はできたほうだし、魔物を殺すことも大した苦痛じゃなかったから、楽と言えば楽だったよ。少なくとも、家にいるときよりは」

 そして、苦笑しながら言った。

「別にわたしみたいになれとは言わないけどさ……君さえよければ、相談なら乗るよ?」

「……あなたは、優しいんですね」

「優しいだなんて、恥ずかしいこと言ってくれるね。わたしはただ、今の問題を解決したいだけだから」

 アリスは、上目遣いで詩涵を見上げる。少し照れたように、詩涵は鼻の頭を擦った。

「……私の両親は、頭がいい人でして。それに比例するように、プライドも人一倍大きいんです。だからでしょうね。昔から鈍臭い私は、何か失敗するごとに両親に怒られました」

 観念したように、アリスは言う。

「昔は、期待に応えられない私が悪いんだと思ってました。親っていうのは、みんなそうなんだって。……でも、違った。だから、やめてくださいって言ってしまったんです。それが、全ての始まりだったんです」

 自らのスカートを鷲掴みにして、言葉を紡ぐ。

「くっ、口答えをしてしまった私への罰は、今までの口頭で行われるものから、次第に肉体的なものに変わっていきましたっ。出来損ないのくせに文句を言うのか。そもそも私たちの血を引いていながらお前のような出来損ないが生まれたのはおかしい。お前なんか産まなければよかった。そ……そんな言葉とともに、両親は私のお腹を殴りました。傷が目立たない場所を、狙って殴られたんです……!!」

 アリスの目からは、既にハイライトが消え去っていた。

「それでも、私は耐えました。何年も、何年も、耐え続けました!!でも……もう限界だったんです。いっそこの世から消えてしまえればいいと思って、高いところから飛び降りようとしたときでした。なんだか、不思議な雰囲気の男の人が、私を呼び止めたんです」

 虚ろな目で、アリスは続ける。

「彼は、魔物をいくらか連れてました。そして、両親を殺すために力を貸せって、私はそのうちの一体と契約しました」

「それが……あの刀の?」

「はい。……それから、私の周りに魔物が現れるようになりました。両親を殺すために、私はその魔物たち全員と契約しました。でも、言葉も通じないし、命令も聞いてくれないしで困ってたんですよね。で、仕方がないので野放しにしてました」

 アリスは全てに絶望したような目で言った。

「最終的に両親を殺せれば、なんでもいいんです。……私は、あなたみたいに強くないんですよ。軽蔑、しましたよね」

「いや、そうは思わないよ。……よく、そこまで耐えたね」

 そんなアリスを抱きしめ、詩涵は優しい声色で言った。

「アリスちゃん。あなたをうちで保護したいんだけど……大丈夫、かな?」

「い……いいん、ですか?」

 そんな詩涵の言葉に、アリスの目は光を取り戻した。

 しかし、次の瞬間。

 本部に響いた金切り声が、その光を奪い去る。

 


 

「お、おかあ、さま……?なん、で…………?」

 その金切り声を放った主──アリスの母を見て、震えながら、アリスは呆然と呟いた。

「離れてください、施設内は部外者立ち入り禁止です!!」

「娘がここにいるのよ、子供のくせになにが部外者よ!!」

 月白とロバートがなんとか止めようと試みるが、アリスの母はその静止を振り払い、アリスへと歩み寄る。

「い、いやです……わたっ、わっ、私はっ、帰りたくありません……っ!!」

「帰りたくない、ですって?……まさかとは思いますがらそこのアジア人(グック)にたぶらかされたわけじゃあありませんねアリスさん?」

 アリスの母は、別の何かから貼り付けたような作り物の笑顔で、アリスに問うた。

「……すみません、あなたは彼女の親御様という認識でよろしいでしょうか」

「えぇ。娘が行方不明になって、心配だから捜査をお願いしていましたが、見つかったそうなので連れ戻しに来たんですよ」

「……彼女の体質についてはどの程度理解されていますか?」

 詩涵は、アリスを庇うような位置に立ち、アリスの母に問いかける。

「えぇ。魔物を寄せ付ける体質なんでしょう?知ってますわ」

「アリスさんは、最近はそれをあまり抑えられていないようです。ですので、それが収まるまでは私たちが保護……」

 言い切る前に、鋭い音が言葉を遮った。アリスの母が、詩涵の頬を平手で叩いたのだ。

「不法侵入に暴行ですか。人を呼びますよ、マダム?」

 不意打ちの一撃に倒れ込んだ詩涵を起こし、月白はアリスの母を睨みつける。

「よせ、月白。……申し訳ない、うちの新入りが無礼な真似を。とはいえ、アリス=ハニーレインは今錯乱状態にあるようだ。少し落ち着いてから、話し合うのは……」

 敵意を剥き出しにした月白を諌めるセイリアだったが、言い切るまでもなく、アリスの母の金切り声がそれをかき消した。

「アンタたちワタシから娘を奪う気!?ワタシが腹を痛めて産んだ娘を!!アンタたちみたいな魔物を殺して笑っているような倫理観のない下等な人間どもに娘を預ける!?笑わせないで!!」

 アリスの母はアリスの手を無理矢理掴むと、そのまま出口へと歩き出した。

「い、やです……わたっ、私は、帰りたく……」

「あの連中に何を言われたのアリスさん!!ワタシはアナタをそんな子に育てた覚えはありません!!」

 アリスの母が、アリスの頬を叩く。涙を浮かべたアリスは、項垂れながら母と共に歩いていく。

「セイリアさんよぉ。あのババアぶん殴ってきてもいいか?あのガキはいけ好かねぇが、ババアの方はもっとムカつくんだよ」

「ダメに決まってるだろ。馬鹿か弦巻?ま、私もあの女に思うところがないわけではないが……アリス=ハニーレインが未成年であるうちは、親が頷かない限りうちで保護することはできないんだよ。面倒なことにな」

 嵐のように現れてその場を去ったアリスの母を見送り、手の骨をポキポキと鳴らす乙姫に、セイリアは呆れながら言った。

「……しっかし、これはまっこと面倒なことになるじゃろうなぁ!!あやつ、親からこっ酷く虐められておったのじゃろう?であれば、あやつが魔物を引き寄せるのを抑えられん今、何よりあやつの親の命が危ないのう!!なぁ、セイリア?」

「……あぁ。間違いなく、近いうちにコトが起こるだろう。厳重な警戒が必要だな」

 玉藻は手を叩いて心底愉快そうに笑って、セイリアに警戒を促した。

 


 

「アリスさん、わかっていますよね?今日のダンスパーティーはあなたが真っ当な人間に戻るための最後のチャンスなんだから、頑張りなさい。もちろんできるわよね?」

「ぁ、はい…………」

 その夜、ドレスを着せられたアリスは、パーティーへと連れて行かれていた。これこそが、アリスの母がアリスを一刻も早く連れ戻そうとした最大の原因である。

「なるほど、この方がアリスさんですか。麗しい女性(ひと)だ」

「えぇそうでしょう。ワタシの自慢の娘ですのよ。ワタシたちに似て、なんでもできてしまう優秀な子なんです」

「はは、それは素晴らしいことだ。ご両親のご教育の賜物でしょうね」

 人の好さそうな青年が、アリスに声をかけた。彼は上流階級の出で、アリスの両親がアリスとの縁談を結ばせようとしている相手だった。

「アリスさん、今宵は、僕と楽しみましょう」

 そんな言葉を投げかけられて、アリスはただ頷くことしかできなかった。青年の手を取り、彼の動きに合わせて必死に踊ることしか、許されていなかった。

「あっ……!!」

 青年に合わせてステップを踏もうとした瞬間、何かに躓いたアリスは、そのまま青年を巻き込んで転倒してしまった。その拍子に、額を打ったアリスの血が、青年のタキシードを赤く染めた。

「……ッ!?もっ、申し訳ございませんッ!!ウチのバカ娘が!!クリーニング代と慰謝料は払いますので……!!」

「い、いえ、私は構いませんが……私より、アリスさんの方が……」

「あれはウチのバカ娘の出来の悪さが起こしたもので自業自得です!!あなたのような方のお召し物を汚らしい血で汚すなど……アリスさん、あなたはワタシたちの娘ではありません!!出ていきなさい!!」

 青年に平謝りしたのち、アリスの母は、アリスの頬を全力で叩き、勘当を言い渡した。倒れたアリスの目に、怒りの涙が浮かぶ。

「は、はは、はははははっ。着たくもないドレスを着て、踊りたくもない相手と組んで、やりたくもないダンスなんてやらされて、それで失敗して、娘じゃない…………?わ、私も、あなたを母親だと思ったことなんて一度もありませんよ……!!」

 そして、周囲の空気が、どす黒く染まった。

「許さない。絶対に許さない。他の誰を巻き込んでも、あなたをここで殺す。そのために、手段なんて選ばないッ!!」

 アリスが叫ぶと、どす黒い空気が、ヒトに近い形に変化した。それはモヤのかかった状態から段々とくっきりした輪郭を象っていき、骸骨のような外見の、無数の魔物となった。

「ひっ……ひィッ!?」

「全員、死ねばいいんです。もうこの薄汚れた世界には飽きました。消えてください」

 アリスが掌を前にかざすと、それに合わせて魔物たちも人々を襲い始める。だが、その魔物たちは、ダンスパーティーのある参加者ペアによって迎撃された。

「……ダンスの心得などないままここに侵入するのは少し気が引けたが、ま、当たりを引けたからよしとするか」

「そうだね、セイリアさん。……アリスちゃん、もうやめようよこんなこと」

 それは、変装したセイリアと詩涵だった。

「あ、アナタ達は……!?」

「よっ。数時間ぶりだなマダム。どうだい?現実を直視した感想は」

 セイリアは軽口を叩きながらも、魔物を次々と蹴り殺していく。

「……ふ、ざけないで。あなたは、私の気持ちが分かるって言った!!なら、止めようとしないでよ!!」

「……ダメだよ、アリスちゃん。そんなことをしても、君は幸せにはなれない」

「そんなことない!!みんなが死ねば、私の心を脅かす人間がいなくなれば、私は絶対に幸せになれます!!」

 詩涵の説得も虚しく、アリスは差し伸べられた手を弾いた。直後、アリスの指先から大量の霧素が放出され──先ほど月白が撃破したはずのバットが、再び現れた。

「……霧核を破壊しなければ魔物は死なない。霧素を蓄え、必ず蘇る。……なるほど、そういうわけか」

 セイリアはぺろりと舌舐めずりをし、蝙蝠を睨みつける。

「周、雑魚の相手は任せた。こいつは私が狩る」

「了解っ。……アリスちゃん。絶対に、助けるから」

 そして、二人は魔物へと向かっていった。

 


 

「いやぁ、それをされたら俺ちゃん困っちゃうのよね」

 セイリアがバットに蹴りかかろうとした瞬間、青髪の男が割って入り、セイリアの攻撃を阻んだ。

「……何者だ?」

「あのガキンチョに刀ちゃんあげたナゾの色男……ってことでここは一つ。今邪魔されちゃあ困っちゃうわけよ。あのガキンチョは使える器なんだからさ!!」

 セイリアが問いかけると、男はクネクネと動きながら答えた。そして、その拳が、セイリアの頬を掠めた。

「おいおい、今の避けるかフツー?」

「あんたの方も、私に攻撃を掠らせるとは中々やるようだな。……だが、邪魔だ。何者か知らんが、私の狩りを妨げるな」

「それはできない相談だ……ジョイっ☆」

 男は飛び上がると、セイリアの肩を踏み台にして大きく後退した。

「……仕方ない。ここは一つ、助っ人頼みと洒落込むか」

 対するセイリアは、ポケットから取り出した携帯で、月白に電話をかける。

「こちらゴールドリンク。手が足りない。月白、今すぐ来い!!」

『い、今ですか!?移動手段ないので無理です!!』

「調整終わってるだろうし、躑躅咲からマシン受け取れ!!一秒でも早く動けッ!?」

 言い切った直後、男の拳が迫ったため、セイリアはなんとか上体を反らしてそれを回避した。

「余所見は禁物だジョイ☆俺ちゃんから目を逸らすんじゃねぇ!」

「チッ、ナルシスト野郎が……!!」

 

 

「マシンね。一応、完成してはいるけど、アンタに使いこなせるかしらね。まぁ、使いこなせなくても使いこなしてもらうけど」

 その頃桃代は、気怠そうにバイクを月白に見せていた。白を基調としたスタイリッシュでいぶし銀なカラーリングが、月白の少年の心に火をつける。目を輝かせてマシンを隅から隅まで見ていく月白だったが、ふと、その形に既視感を抱いた。

「あの、桃代さん。これって、もしかして何かの改造品だったりします?」

「どうでもいいでしょ、そんなこと。……そうよ、誘宵学区からセイリアが個人的に輸入したバイク──ワイバーンナイトとかって呼ばれてた暴れ馬を、あたしが安全に使えるよう改造したってわけ」

「なるほど、道理で。ワイバーンナイト、いつか乗ってみたいって思ってたんですよね……いつの間にかオークションに出ててギリギリで落札できなかった子にこんなところで出会えるなんて“運命”感じます……よーしよしよしいい子いい子……」

 猫撫で声で車体を撫で回す月白にゴミを見るような視線を向けつつ、桃代は鍵を月白に渡した。

「そんなバカなことやってる暇あったらさっさと向かいな。セイリア怒らすと怖いわよ」

「ハッ!!すみません、つい我を忘れて……じゃあ、行ってきますね」

 月白が焦りながらエンジンをかけ、出発しようとすると、背後から誰かが月白を呼び止めた。視線を声のする方へ向けると、その主は風刃乃だった。

「あなたは……『刀』の魔物、風刃乃さんでしたっけ?」

『はい。……貴方に頼みがあります。私を乗せてはくれませんか?』

「……僕としては構いませんけど、理由を教えていただくまでは頷くわけにはいきませんね」

 風刃乃の頼みに、月白はあえて突き放すように言った。アリスが暴走していることを知って、わざわざアリスと契約している魔物を現場に連れていくほど、月白も愚かではない。

『……私は、正直なところ、アリスが誰を殺そうと、それを止める気はありません。……が、彼女が自らを傷つける選択をすることだけは、この身を呈しても止めなければならないのです』

「……本気、みたいですね。わかりました。急ぐので早く乗ってください!!」

 風刃乃の目が──眼球がないにもかかわらず──真剣な光を帯びていたことから、その言葉は本心からのものだと確信し、月白は後ろに乗せた。

「──行きますよ」

 改めてエンジンをつけ、月白はダンスパーティーの会場へと走り出した。

 


 

「君もしぶといねぇ眼帯の姉御。いい加減くたばってくれていいんじゃないか?」

「ほざけ。私を止めたければ、あんたをあと三人は連れてこいッ!!」

 セイリアと男の戦いは、互角のまま長引いていた。

「このマルチタスクをわたしだけで対処しろって無理じゃない?……なんて、泣き言も言ってらんないか」

 詩涵も、なんとか持ち堪えてはいるものの、じき限界を迎えることであろう。それでも、月白の到着を待つことしか、今の二人にはできない。

「ごめんなさい、遅れました!!」

 そんなことを思っていたら、月白が扉を突き破って侵入してきた。骸骨の魔物たちを蹴散らし、月白は叫ぶ。

「チッ、遅いんだよ……月白ォ!!」

「だから謝ったじゃないですかセイリアさん。お説教は後でお願いしますね。……さてアリスさん。あなたと話したいって人を連れてきました。少しだけ、時間をくれませんか?」

 月白は専用マシン──ワイバーンナイトX(カイ)を降り、ヘルメットを脱ぐと、一人立ちすくんでいたアリスの肩を叩いた。

「──まぁ、人じゃないですけど」

 そして、背後に控えていた風刃乃に代わり、詩涵が足止めしていたバットに飛び蹴りを叩き込んだ。

「……ごめんなさい詩涵さん。持ち堪えてくれて、ありがとうございます。さて、ここからは僕の仕事です。人を脅かす魔物に未来などありません。──変身」

 XOに変身し、バットへと飛びかかると、霧素を拳に集めて殴打した。

『……アリス。もうやめましょう。そんなことをしても、貴女は救われない』

「そんなことないです、風刃乃。私は、私を虐げる両親さえ殺せれば、あとは……」

『今はそうかもしれません。けれど、終わってから、貴女は自分の罪の重さを知り、苦しむでしょう。今ならまだ引き返せます。あの魔物との契約を解いてください』

 風刃乃は、アリスを必死で説得する。最初はただの契約だった。アリスの望みを叶えるために、自らの力を貸す。代償として霧素を貰い受ける。それだけの関係だと思っていた。けれど、風刃乃は知ってしまった。アリスが心の底から両親を殺したいと思っていても、その過程で大勢を巻き込んでしまえば、それに耐えられるほど、彼女は図太くなれない人種であると。

(この子を守れるのは、私しかいない。両親を殺すことは許しても、この子が自らこの子の良心を殺すことは、許してはならないのです)

 アリスは俯く。そして、涙ながらに、怨嗟の呪詛を吐き出した。

「……そんな綺麗事、いらない。私は、両親を殺せさえすれば、自分の心が死んでも構わないから」

 差し伸べられた手を跳ね除ける。小さな体から溢れ出した霧素が、施設内を満たした。それを喰らうべく、バットはアリスの方に飛んでいった。直後、歴戦の兵士であるセイリアですら信じられない事象が発生した。

「うッ、あッ、あァァァァァァァッッッ!!!!」

 バットの身体が霧素に溶け、アリスの体を包んだのだ。

「ふふっ。はっははは!!寄生霧核の実験は成功したみたいだジョイッ☆それじゃ俺ちゃんはこの辺で!!アデュー☆」

 青髪の男はクネクネした動きで飛び上がると、姿を消した。しかし、それを気にしていられる余裕は、今のXOたちにはない。

『uSoRK。eTBuS、uRS抹殺』

 バットと一体化したアリスが、人間には部分的にしか知覚できない言葉で呟くと、その瞬間、セイリアを除く三人が吹き飛ばされた。

「……なるほど。この力、Bランクでも上位といったところか。しかも、まだ強くなるポテンシャルを秘めているときた。恐ろしいことだ。であれば、こちらも──」

 セイリアは何か策を思いついたらしく、眼帯に指をかけたが、一瞬生まれた気の緩みにつけ込むように放たれた霧素の波動が、彼女の眼帯の奥の目に絶大なダメージを与えた。

「がッ、あァァッ……!?」

 そしてバットは蹲るセイリアの腹を蹴り、彼女を大きく突き飛ばした。

「アリスさん……目を覚ましてくださいッ!!」

『絶対に、助ける……ッ!!』

 XOと風刃乃はなんとか立ち上がり、バットに立ち向かう。だが、バットが放った超音波で、再び吹き飛ばされた。地面を転がり、XOの変身が解かれる。

(バレルフォームじゃ勝てない……セイリアさんは気絶、詩涵さんにも無理はさせられない……こうなったら、最後の可能性に賭けてみるしかないか)

 朦朧とする意識の中、月白は思案すると、風刃乃の胸ぐらを掴んだ。

『な、何を……!?』

「風刃乃さん。……人生賭かってる状態でするギャンブルって、勝つといつも以上にリターンが大きいって知ってました?」

 月白は、確かな決意を孕んだ眼差しで風刃乃を見据える。

『……まさか、私と契約するつもりで?』

「はい。そうするしか、ここを切り抜けられる方法は無さそうなので。……応えてくれますか?」

『アリスを救うためです。そのためならば、私は藁にすら縋りましょう』

「……決まり、ですね」

 二人は立ち上がると、霧素を掌に込めた。すると、風刃乃のそれに、小さな陣が浮かび上がる。月白は、躊躇うことなくその陣に触れた。

『契約は果たされた。これより、私は貴方の剣となりましょう』

「上等です。……僕も、全力であなたという剣を振るわせてもらいます」

 月白の右手には、空のジェクターが握られている。桃代から非常時のためと渡されたものだ。その側部のボタンを押すと、小さな窓に刀のエンブレムが刻まれた。

『Samurai-sword』

 それをドライバーに装填し、スロットを倒す。

「アリスさん。あなたの未来が途絶える場所はここじゃない。絶対に、助けてみせます。──変身ッッ!!」

 そして、アクティベーターを押し込んだ。

『Lightning Swordsman! Samurai XO!!』

 月白の体を、緑色の装甲が包む。長刀を手に、仮面ライダーXO・サムライフォームは走り出した。

 


 

『邪魔、aNuRS……!!』

 バットは叫ぶと、再び音波攻撃を放った。

「くっ……!!相変わらずひどい音です、これじゃ近付けもしない……!!」

 耳部分の装甲を両手で押さえながら、XOは言う。

『……いえ、対抗手段ならあるではありませんか。そこに倒れている娘という、特大の対抗手段が』

「えぇ!?この状態の詩涵さんに何を頼むって……いや、待ってください。詩涵さんの契約してる魔物は確か『鯨』の魔物ですよね?」

『気がつきましたか。元となった動物の習性を考えれば、対策は必然と見えてくるでしょう』

 風刃乃の助言を受け、XOは詩涵の肩を揺すった。

「飛鳥くん……?」

「詩涵さん、一つお願いがあります。奴の音波攻撃をかき消すために、鯨の力を借りたいんです」

「……あぁ、そういうことか。わかったよ。存分に使ってやろうじゃん」

 目覚めた詩涵は瞬時に状況を把握し、両手を地面に向けた。開いた穴から、『鯨』の魔物が頭を出す。鯨は、バットに対抗するように音波を放ち、敵の音波攻撃を相殺した。

『aN……!?』

 困惑のこもったバットの声が響く。すでに、視界にXOと風刃乃の姿はない。

「『ハァッ!!』」

 次の瞬間、緑色のオーラを纏った斬撃が、バットの両翼を切り裂いた。

「確かにあなたに羽は必要かもしれません。高く飛び立つための羽が。ですが──」

 腰に装着されていた鞘を引き抜き、それを短刀に変形させ、XOは言う。

「──それは、そんな歪な翼じゃないはずでしょ」

 爪による迎撃を短刀で受け流しつつ、XOはハイキックを放った。霧素のこもった一撃をまともに喰らい、バットは吹き飛ぶ。

『aZuH、aNuReK……!!aWiSaTW、aDM……!!』

『いえ。そのまま続ければ、貴女は自らの心を殺すことになる。……その前に、あなたをその苦しみから解放するッ!!』

 風刃乃は立ち上がるバットに飛びかかると、全力で刀を振り下ろした。その傷口から、アリスの皮膚が一瞬だけ露出する。

『……どうやら、まだ完全にアレに取り込まれてはいないようです。どういう原理かは知りませんが、侵食が進む前に助けましょう』

「はい。……行きますよ」

 XOは長刀を鞘に納めると、鞘のスロットにジェクターを装填した。緑色のオーラが、刀身に満ちていく。腰を落として構えるXOに、バットが飛びかかるが、

『Slashing Overdrive!!』

 目にも止まらぬ速さの居合が、バットを二つに両断した。倒れたアリスを、風刃乃が抱きとめた。

『……アリス。貴女は、私が守り抜いてみせますから』

 そして、XOは、アリスの体から飛び出た小さな球体を見据えて、足をそれにかけた。

「……これが霧核ですね。念入りに破壊しましょう」

 体重をかけていき、霧核を完全に破壊すると、それは霧となって消えていった。

「……ま、これで一件落着ですかね」

 


 

「……寄生型霧核。調べてみたけど、結局何もわからなかったわ」

 数日後、桃代が申し訳なさそうに言った。

「いや、構わん。そもそも、奴の攻撃を防げていれば私が手がかりを掴めていたかもしれんわけだからな。あんたに責任はないさ」

「責任云々じゃなくて、技術者としての矜持の話よ。訳の分からないものの存在は許せないから」

 セイリアの言葉に、桃代はため息をつく。

「はーい。皆さん注目ですー。手続きとか諸々終わったんで連れてきましたよー」

 すると、扉が開き、アリスを連れた虚坂が本部に入ってきた。

「無事にご両親の承諾も得られたことですし、アリスさんの身はこちらで預かることになりましたー」

 アリスの肩をポンと叩き、虚坂は微笑む。

「その……たくさん迷惑かけちゃいましたけど、これから、頑張って挽回しますから……よっ、よろしくお願いしますっ!!」

 

 

「寄生型霧核、中々上手くいかないよなぁ」

 歪に形の崩れた魔物から霧核を抜き取りながら、青髪の男が呟く。

「……アニキ。こんなジメジメした場所で何やってんだよ?集会の時間だぜ」

 すると、その後ろで岩に腰掛けていた赤髪の少女が起き上がり、男に声をかけた。

「……おっと、すまんすまん。俺ちゃんとしたことがすっかり忘れてたぜ。それじゃ、ちょっと急ぐんだジョイ☆」

 声を聞くなり、男は霧核を咀嚼し、飲み込み、少女の方に小走りで向かった。

 


 

《b》次回予告《/b」

桃代「そういえばセイリア、アンタなんでワイバーンナイトなんて買ったんだっけ?」

セイリア「そりゃ、ライダーシステムなんてものを作るなら、バイクもあったほうがいいだろって思うだろ?」

桃代「……それは妙ね。本気でそう思うなら、スペックのいいバイクは他にもあったはず。にもかかわらず、わざわざ誘宵学区にしかないあの暴れ馬を選んだ理由があるはずでしょ?」

セイリア「ま、まさか躑躅咲、あんた気付いて──ッ!?」

桃代「えぇ。あったはずよ。アンタの心のどこかに、あの暴れ馬バイクに振り回されてみたいという願望がねぇ!!」

セイリア「あァーーやめろ!!言うな!!そんなでかい声で騒いでお狐様にでも聞かれたら……」

玉藻「わしに聞かれたら、なんじゃ?のう、セイリア?」

 

桃代「次回、仮面ライダーO’。『TO LIVE TOGETHER』」

 

玉藻「まったく、大人ぶっておるくせに随分と子供じみた欲を持っておるもんじゃのうお主も!!がっははは!!」

セイリア「別にいいだろ!?私だってたまには周みたいに暴れてみたいんだよォォォッ!!」




 墓脇です。

 というわけで今回は新フォームのお披露目回でした。サムライソードミストジェクターを用いて変身するサムライフォームです。サムライソードフォームだとちょっと長いからね。かといってカタナフォームもダサいのでこうなりました。
 サムライフォームはスピードに特化したフォームです。特に必殺技の「スラッシングオーバードライブ(居合)」は、溜めの時間が必要な代わりに凄まじい速度で相手を斬りつける、第一部のライダー含めても最速の技になります。アルテマジェスティックより速いよ。
 そしてサムライフォームの武器、短刀になる鞘と長刀を組み合わせて使う「ツインジェクトブレーダー」も登場しましたね。バレルフォームもそうであったように、XOの武器のコンセプトは「ニコイチ」となっています。

 閑話休題。

 アリスが霧核対策部の仲間に加わりました。が、彼女は体質的にも身体能力的にも戦場に連れ出せるタイプの子じゃないので、アジトの方で色々と活躍してくれると思います。セイバーのそら君みたいになれるといいね。

 鯨で蝙蝠の音波攻撃をかき消す展開は、コウモリについて調べてたら思いつきました。超音波を扱えるのは知ってましたが、あれってエコーロケーションだったんですね。聞き覚えのある名前だったので調べてみたら鯨も同じ能力を持っていたので使ってみました。

 寄生型の霧核に謎の青髪の青年、彼をアニキと呼ぶ少女など、これからのお話を盛り上げていく要素が少しずつ出てきました。これからも楽しんでいただけると嬉しいです。墓脇でした。
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