「厳正な抽選の結果、ハニーレインは躑躅咲と同室になることが決まった」
アリスが迎えられた数時間後、本部の一室でセイリアが言った。
「あたし?……構わないけど、今ちょっと散らかってるからせめて片付けるだけの時間が欲しいわ。ちょっと待ってて」
すぐ戻るから。桃代はそう付け足すと、車に乗り込み、寮へと向かった。しかし、そこに自室が散らかっているという事実はない。
「……こちらアザレア。応答願います」
自室のパソコンを起動し、『アザレア』と名乗ると、『先生』とだけ書かれた連絡先とのビデオ通話を始める。
『本部だよ。何かね桃代くん。いや、ここではアザレアくんと呼んだ方がいいかな』
「どちらでも。……先生、今回の仕事について、成果の報告があります」
桃代は声色を変え、『先生』に資料を送信した。そこには、アリスの顔写真も含まれていた。
「今送信した資料にある少女──『ギフト』を、霧核対策部で保護することになりました。そして、ここからは偶然になりますが、あたしの寮の部屋に彼女を住まわせることになりまして」
『ほう。それは面白い。存分に『ギフト』を観察し、その経過を我々に報告したまえ。ただし……』
報告を聞いた『先生』はニィと口角を上げると、声のトーンを落とし、
『……君が我々サルヴァドールと通じていることだけは何としても隠したまえ。それが知られれば、君は霧核対策部はおろかサルヴァドールでの居場所をも失うことになることだろう』
そう忠告した。
「はっ、肝に銘じます」
桃代はそう答え、ヘッドセットを外し、本部へと戻った。
「ただいま。ひとまず掃除は済ませたわ」
「おう、おかえり躑躅咲」
通話を終えた桃代は、部屋を片付けたという体で本部に帰還した。
「早速ですまんが、ハニーレインをあんたの部屋まで送ってくれ。あんたの今日の仕事はもう終わりってことでな」
「……了解したわ。そういうわけだから、着いてきなさい」
アリスの手を引き、桃代は再び駐車場に向かう。
「え、えっと……し、失礼、します……」
「そんなに畏まらなくて大丈夫よ。あたしはアンタの敵じゃない。アンタが余計なことをしなければ、具体的に言うとあたしの部屋に勝手に立ち入ったりしない限りは、アンタの味方よ」
キョロキョロと落ち着かない様子のアリスに、安心感を与えるために、思ってもいないことを口にした。
「そ、そうですか……ありがとう、ございます…………」
読み通り、アリスの表情が安心したものに変わったのを見ると、桃代は内心ほくそ笑んだ。
(ふっ……我ながら完璧な演技ね)
寮に到着した。桃代は鍵を開けると、アリスを上がらせた。
「今日からはここがアンタの帰る場所よ。もう誰にも怯えなくていい。アンタは、誰よりも自由に生きていていいの」
気取った言い回しで、アリスに合鍵を投げ渡す。
「好きな時にどこへでも出かければいいし、あんまり遅くならなければいつ帰ってきてもいい。危険な場所には近寄っちゃダメだけどね」
「い、いいん、ですか……?」
「当然でしょ?ここにはアンタを縛るものなんて何もない。好きに生きなさい。あたしも、可能な限りその手伝いをさせてもらうから」
にこり。桃代ははにかみ、アリスを寝室へと案内した。
「ここがアンタの部屋よ。散らかしさえしなければ好きに飾りつけていいわ。何か必要なものがあれば言いなさい。あたしが買ってきてあげる」
「いえ、そこまで迷惑かけるのも悪いですし……」
「そう言わずに世話くらい焼かせなさいよ。まぁ、どうしても嫌っていうならやめとくけど」
微妙な表情のアリスに、桃代は上目遣いで言う。自分を頼ることを覚えさせ、懐かせなければならない。そのために、手段は選ばない。
「じゃ、じゃあ、何か思いついたらお願いします……」
押しに負け、アリスは言った。
「……あぁ、それと、出かける時にはこのペンダントしていきなさい。それつけとけばアンタに魔物が寄ってくるのを防げるから」
「わ、わかりました……」
桃代はアリスに近寄ると、その首にネックレスをかけた。
「似合ってるじゃない。……今日何も用意できてないし、外食でも行こうかなって思ってるんだけど、どっか行きたいとことかあるかしら?」
「え、えっと……じゃ、じゃあ…………」
「あん?なんだあれ、演説かなんかか?」
翌日、月白と乙姫は、学校からの帰宅途中に、広場で演説をしているらしき男を目にした。内容までは聞こえないが、看板にはサルヴァドールとある。
「サルヴァドール……って、なんなんでしょうかね」
「さぁな。テメェのポッケに入ってる小せぇ箱は何のための道具だよ」
「はいはい調べますよ。そんなに嫌味ったらしく言う必要はないと思いますけどね」
月白は呆れたような視線を乙姫に向け、検索ボックスにサルヴァドールと入力した。
「サルヴァドールとは、共生派団体の一つである。総帥はバルザス=エクロ=パルミレアが務める。……らしいですよ」
百科事典サイトの「サルヴァドール」の記事の前文を読み上げる。
「……まず大前提であろうことについて聞きてぇんだが、共生派ってのはなんなんだ?」
「それも調べてみますね。……共生派とは、文字通り魔物との共生を望む人々のこと、だそうです」
乙姫の疑問に、携帯の画面を見つつ月白は答えた。
「へぇ。魔物との共生、ねぇ……」
月白の返事を聞き、乙姫は顎に手をかける。
「そんなことができりゃアタイらの仕事なんざねぇっつの。なぁ?」
「そうですかね?バレットや風刃乃、玉藻なんかを見てると、無理じゃないように思いますけどね、僕は」
「んなモン例外中の例外だろうが。魔物は基本人間の言葉は話さねぇんだろ?」
乙姫は悪態をつき、広場に背を向けた。直後、背後で悲鳴が上がり、反射的に振り向くと、そこには緑色の体に無数の棘が生えた、サボテンのような魔物──カクタス・ヴェイダーが佇んでいた。
「月白ォ!!」
「言われなくてもわかってますよ乙姫ッ!!」
乙姫が月白を呼ぶと同時に、月白は鞄からドライバーを取り出し、腰に装着した。
「変身ッ!!」
『Wilderness Sniper! Barrel XO!!』
XOに変身し、カクタスへと飛びかかるが、直後、演説を行なっていた初老の男が、それを片手で遮った。
「君が仮面ライダーくんか。噂はかねがね聞いているよ。だが、今は下がっていたまえ。無為に魔物を傷つける必要もあるまい」
「そんなこと言ってる場合じゃ……」
「まぁ見ていたまえよ少年。武器を使わずとも、魔物を無力化する術はあると教えてあげよう」
男は両手を上げたまま、カクタスへと近づいていく。
『aDnNaN、aHMSiK……!?』
「そう警戒しなくていい。私は君の敵ではない。君と友達になりたいとさえ思っている。戦いを終わらせるのは、いつだって協調であるのだから」
戸惑うカクタスに、男は怯えることなく突き進む。
『iT、aNuRoYaKiT!!』
「安心してくれたまえ、私は君の味方だ。もう一人で苦しむ必要はないのだよ、カクタス」
そして、身体中を棘で覆ったカクタスを、躊躇なく抱きしめた。だが、その身体に出血は一切ない。
「まさか……カクタスが自ら棘を引っ込めたということですか?」
「そう。そのまさかだよ少年。……見ただろう諸君!!我々人間と魔物は、言葉は違えど心で通じ合えるのです!!彼らが人を襲うのは、その外見に畏怖し、対話をしようともせずに迫害し続けた我々人類の怠慢!!しかし、誠心誠意を尽くして接することで、魔物と我々は友となることができるのです!!」
男が観衆たちにそう訴えかけると、大きな拍手が上がった。そして、変身を解いた月白と乙姫に名刺を手渡した。そこには、サルヴァドール総帥・バルザス=エクロ=パルミレアと記されていた。
「興味があれば、私の講演会に来るといい。魔物を考えなしに殺すことがいかに愚かか、君たちにもわかることだろう」
「……ということがあったんですけど、ベネディクトさんはどう思います?」
「あぁ、サルヴァドールの演説を聞いたのだね。彼らの思想に賛同はできないが……総帥のパルミレア氏の話術には心惹かれるものがある。あのように言葉を巧みに操って世界を動かしてしまうというのは、なかなか出来ることではないだろう」
基地に到着し、目の前でバルザスが行ったことについて、月白は居合わせたベネディクトに報告した。
「ベネディクトさんとしては、共生思想についてどうお考えですか?」
「そうだね。魔物との共生を図ること自体は悪ではないが、所詮は夢物語だろう。現実性に欠けるどころの話ではないね。それを理念として掲げるのは、あまりにも滑稽だとボクは思うよ」
髪をファサッと靡かせ、ベネディクトは言う。
「僕もそう思います。バレットとかを見てると分かり合えるような気もしますが、あれは例外ですしね。……ただ、バルザスさんは、暴れている魔物を沈静化させていました。あれは、何かからくりがあるんでしょうか」
「大方、事前に躾けてあるのだろう。ボクもサルヴァドールの内部事情についてのことは何も知らないからね。まぁ、それを知っている者がうちにいるとなると、相当な大問題になるがね」
「へっっっくし!!」
その頃、アリスとともに買い物に来ていた桃代は、原因不明の盛大なくしゃみをした。
「も、モモさん……風邪、ですか?」
「多分だけど、風邪とかではないわ。……花粉症かしら?」
鼻をこすりながら、桃代は呟く。
「それか、誰かがあたしの噂してるとか?セイリアあたりがしてそうじゃない?」
「そ、そんなことってあるんですかね……」
「自分でも非科学的だなって思ってて言ってるのよ。今のはギャグとして流してほしいところだったんだけど?」
冗談めかして言ってみたところ、真剣に捉えたアリスが真面目な顔をして言ったので、桃代はこめかみを掻きながら笑いかけた。
「ご、ごめんなさい…………」
「謝る必要もないわ。だからそんなに怯えないで。これまでがこれまでだけにそうなるのもわかるといえばそうなんだけど……あんまりビクビクされると、あたしもちょっと傷つくから」
「ようジャックちゃん。元気してたか?」
「はい。……先日の件、ありがとうございました」
「いいってことよ。オレ様とジャックちゃんの仲だろ?気にすんなって」
同時刻。ジャックはガブリエルに呼び出されていた。
「それじゃ、本題に移るとするか。今日キミを呼んだのは他でもない、ある武器の試験運用についての話だ」
ガブリエルは椅子に腰掛けたまま、机の引き出しから銃らしきものを取り出した。
「これは霧素を込めて銃弾として発射する武器。名前は……そうだ、インジェクトガンナーってのはどうだ?」
「……それを、おれに使えと?」
「そうそう。わかってんじゃんジャックちゃ〜ん!!」
そして、それを机に置き、スッとジャックに差し出した。
「どーしたよ。嫌だってのか?」
「嫌とかそういう問題ではなく……どうしておれに?おれよりも強いメンバーならいくらでも……」
「オレ様は、これはジャックちゃんが一番向いてるタイプの武器だと思ってるんだよ。だからジャックちゃんに頼んでる。任されてくれるな?」
ガブリエルの圧に負け、ジャックはその銃──インジェクトガンナーを手に取り、腰のホルスターに入れた。
「それじゃ、話はもう終わりだから帰っていいぜ」
「はい。……では、失礼します」
ジャックは一礼し、会長室を後にした。
(……会長が何を考えているのか、おれにはわからない。信頼できる人ではあるが、何の目的でおれにこれを渡したんだ?)
帰宅しようと出口に向かいながら、ジャックは思案する。
(ウチは優等生クン揃いだからなぁ、あと一歩でガチガチに固まった型から抜け出せるジャックちゃんが一番の適任なわけよ)
一方、ガブリエルは引き出しの中のバックルとジェクターを見下ろし、ほくそ笑む。
(キミがはっちゃける時まで、こいつは渡さないでおくぜ。だから……さっさと脱皮しな、ベイビー)
「やぁ、久しぶりだね諸君。カクタスの件については感謝するとしよう」
暗い地下室にて、バルザスが言った。その視界の先では、四人の男女がボードゲームに興じている。
「お気に召したようで光栄だジョイ☆にしても人間サマは業が深いねぇ。恐怖を植えつけた魔物をダシにシンパを増やすときた!!」
「そう人聞きの悪いことを言うんじゃあないよ、ジョーイ=B=オーガスくん」
ジョーイと呼ばれた青髪の男は、ヒューッと口笛を吹きながらバルザスを見据える。
「……にしても大問題だよなぁ。人間と魔物の共生を謳う身とはいえ、人を襲う魔物を育ててる俺ちゃん達と裏で繋がってるなんて知れたら、アンタらの印象最悪になっちまうぜ?」
「それを知った人間は全て消すさ。私の力でね」
「ヒューッ、おっかないねぇ!!」
バルザスは悪どい笑みで、ジョーイ以外の三人に視線を向けた。
「何でもいい。で、今日は何の用だ?感謝だけなら必要ねぇ。また何かオレ達に面倒ごとを押し付けにきたんだろ?」
そんなバルザスに、胸元を大きく開いた男──
「ジョーイくんが刀と契約させたというギフトの少女が、霧核対策部に保護された。その報告をしようと思ってね」
「……そのためだけにここまで来たってのか?アンタも変わってるなぁダンナ」
そう答えたバルザスに、赤髪の少女──イース=R=オーガスは笑いかけた。
『……そういえば、ジョーイ殿が面白いことを言っていたな。バルザス殿にも興味を持ってもらえる内容だと我は思うが、如何か』
「……ほう。面白いことか。ぜひ聞かせてもらいたいね」
フルフェイスヘルメットを装着した男──ヘラクレスが言うと、バルザスはそれに興味を示した。
「いいぜ?ただし……タダじゃあ教えられないんだジョイ☆報酬は弾んでもらうぜ?」
「……なるほど。何が欲しいね?」
「オレ達が求めるのは霧素の効率的な回収手段。ライダーが現れた以上、今までの様にはいかねぇ。だからジョーイにギフトに接触させた。……だが、ギフトは希少な存在だからな。それだけに連中も奴を守ろうとする。なら、有象無象の雑魚どもを大量に消費する方法がいい」
大牙は犬歯を剥き出しにして笑う。
「なるほど、君は実に面白い男だね大牙くん。それで良ければいくらでもしようじゃないか。……それで、ジョーイくんの面白い話とは何だね?」
大牙の提案を承諾し、バルザスはジョーイに問うた。
「俺ちゃんが霧核対策部の眼帯の姉御と戦った時なんだけど、蝙蝠ちゃんの音波攻撃で目を押さえて倒れたんだジョイッ」
ジョーイは、セイリアとの交戦の際に見たものを、バルザスにも教えた。
「寄生型霧核の蝙蝠ちゃんの音波は、霧核に強く反応する。未完成の蝙蝠ちゃんでは体内の霧核まで共鳴させることはできなかったが……眼帯の姉御は、あの時眼帯を外そうとして音波を受けたんだジョイ☆」
「……ほう。なるほど。魔人か。それは、とても面白いじゃないか」
報告を受け、バルザスは唇を裂いた。
「ジョーイくん。一刻も早く寄生型霧核を完成させるために、私の部下を貸そう。上手く役立ててくれたまえ」
「と言うと、あの眼帯の姉御にそれを使おうってのかい?」
「あぁそうだ。理解が早くて助かるよ」
バルザスが立ち上がった瞬間、携帯が鳴った。手を前に出して四人を抑え、電話に出る。
「私だ。どうしたね?」
『先生、大変です!!捕縛しておいた『ハンマー』と『音』の魔物が脱走しました!!』
「……ほう。すぐに向かう。君たちは魔物を使って彼らを追いたまえ」
バルザスは神妙な声色でそう言って、部下に指示を出した。
『何かあったか、バルザス殿』
「契約するため捕らえておいた魔物が脱走してね。彼らが人を襲えば我々の理念に賛同するものが減ってしまう。済まないが、帰らせてもらうよ」
そして、バルザスは悪党たちの溜まり場を後にした。
「B級とC級が一体ずつ出現した。月白、あんたは私と来い」
「了解しました。……最近、めちゃくちゃ多いですね?」
魔物の出現の報告を受け、セイリアは月白に出撃の指示を出した。
「あぁ、そうだな。……待て、B級がもう一体出現した。私はそちらに向かう。キングワーズ、月白と共にそちらへ向かってくれ」
「了解したよセイリア女史。さぁ行こうか月白くん。ボクたちの高貴さを卑しい魔物に見せつけてやろうじゃないか」
ベネディクトは気取ったような言い回しで、月白の肩に手を回した。
「はいはい……ベネディクトさん、詩涵さんみたいに事故秒読みの運転はしないでくださいよ?」
「……いくら完璧なボクでも、何でも彼女の運転の真似はできるまい。あれを完全にコピーできる人間がいるとすれば、それは最早人間ではないだろうね」
警戒しながら言った月白に、ベネディクトは複雑そうな笑みを返した。彼女と一緒にするな、とでも言わんばかりの表情だった。
「それで、魔物は何処に……んん?あれ、なんか妙ですね……?」
「あぁ。あれがB級の魔物だろう。だが、これだけの人がいて、怪我人の一人も見えないというのはやはり何かがズレている。というかあの魔物……なにやら逃げているように見えないかい?」
「はい。……しばらく様子を見ましょう」
現場に到着した二人だったが、C級の魔物の姿は見えず、B級の魔物は何かから逃げている様子だった。
『な、なんだって、ワタシがこのような目に……!!』
必死で走る、ハンマーのような頭をした魔物は、そう言葉を漏らした。
そんな時、例のサボテンの魔物が、ハンマーの魔物へと飛びかかるのが見えた。月白は反射的に飛び出し、XOへと変身する。
『Lightning Swordsman! Samurai XO!!』
「何があったか知りませんが……首輪もつけずに人里に降りてきた以上、あなたも僕たちの駆除対象です」
XOは長刀を抜き、カクタスへと突きつけた。
『君は、ハンターか……?なぜワタシを庇う?』
「あなたから殺意を感じないから、ですかね。僕の直感ですけど、どうしてもあなたを悪人だと思うことができないので」
ハンマーを庇うように立ち、XOはカクタスとの距離を詰める。
「詳しい状況は基地で聞きます。なので……ベネディクトさん!!その魔物連れて一旦戻ってください!!」
「……仕方ない。様子を見るのを容認したのはボクだ。こうなったら高貴に責任を持ってやろうじゃないか!!ハンマーの魔物!!早く乗れッ!!」
ベネディクトは声を荒げ、ハンマーを乗せると、霧核対策部の基地へと戻っていった。
「さぁ──宣告しましょう。あなたの未来は、ここで途絶……ってあれ!?いない!?くそ、逃がしましたか……」
改めてカクタスを撃破しようとするが、その姿が既に視界から消えていたため、XOは変身を解いた。
すると、間もなく携帯が着信を示す音を鳴らしたので、月白は応答のためボタンを押した。
『こちらゴールドリンク。月白、聞こえているか?』
「はい。追われていたB級・ハンマーを保護しましたが、追跡者側のB級・サボテンを取り逃がしました」
電話越しに、セイリアに状況を報告する。
『そうか。……だがそのサボテン、今こっちに来てるんだよ。可能であれば応援を頼みたい。人一人と魔物一匹を守りながら戦うのは流石の私でもきついんでな』
「了解しました。今すぐ向かいます」
通話を切ると、月白は携帯の画面に浮かんだ一つのアイコン──バイクの描かれた──をタップした。すると、一分もしないうちに、月白のもとまでワイバーンナイトXが到着した。月白はそれに跨り、セイリアのもとまで向かう。
「この空気の色……捕食猟域が開いてるみたいですね。でも、外から入るのは問題ないわけなんですよね?」
月白はワイバーンナイトXに跨ったまま、空気の色が変わっている地点に踏み込んだ。一瞬、肌を弾くような感覚を覚えたが、構わず捕食猟域に侵入する。
「セイリアさん!!」
「月白、私は弦巻とこの魔物を守るのに専念する。……さぁ、選手交代といこうか」
セイリアはニッと笑い、一歩下がった。それを見た月白は、ワイバーンナイトXを乱暴に駆り、カクタスを撥ね飛ばした。
「乙姫、何でこんなとこにいるんです……?」
「知るか月白、買い物来てたら巻き込まれたんだよ。この音符野郎のせいでよぉ!!」
バイクから降りた月白は、セイリアの後ろで、音符のような頭をした魔物を守っていた乙姫に問うた。すると、乙姫は唇を尖らせた。
「コイツが逃げてるとこに偶然居合わせて、んであのサボテン野郎の攻撃から勝手にアタイを守りやがったんだよ。そんで見捨てるわけにもいかねぇからこうしてたらあのクソ野郎いっちょ前に捕食猟域開きやがって、逃げられもしねぇからセイリアさんに大人しく守られてたってわけだ!!」
「わかりやすい説明ありがとうございます。それじゃ、遠慮なくこいつを狩らせてもらうとしましょうか。──変身ッ!!」
月白はドライバーを装着し、XO・サムライフォームに変身する。
「今度こそ……あなたの未来は、ここで途絶えるッ!!」
XOは刀を抜き、一瞬でカクタスとの距離を詰める。
『捕食猟域を閉じさせる方法──一つは、恐怖を植え付けて逃げる気にさせる。こちらの方法はあまり得策とはいえませんねー。魔物は恐怖よりも人を喰らいたい本能の方が強い生き物でしてー』
以前、虚坂から捕食猟域についての説明を受けた際の言葉が、脳裏に浮かんだ。
『やはり一番は、その場で狩って閉じさせることになりますねー。野蛮な解決策ですけど、下手に策を講じるよりもシンプルに叩き潰したほうが早いわけですー』
手っ取り早く捕食猟域を閉じさせるため、XOは刀を振り下ろした。カクタスはそれを回避するが、直後、切られた風が刃に変わり、その腕を切り裂いた。
『iK……aMS!!』
サボテンは腕の切り口に霧素を込め、再生させようと試みる。そうして生まれた刹那の隙をむざむざ見逃すほど、XOは温情ではない。
「再生はさせませんよ。……さぁ、腹ァ括ってもらいましょうか」
逃げようとするカクタスの背中に、XOは刀を投げつけた。その刃が深く突き刺さり、カクタスの動きを止める。
「死んでください」
『Re-Inject! Samurai-sword Crossing Overdrive!!』
それを見るなり、XOはドライバーを操作し、飛び上がる。緑色のオーラを両脚に纏わせ、カクタスの胸の中心を正確に射抜いた。
そこから爆発が起こり、捕食猟域の消滅とともに、カクタスの肉体が霧散した。だが、霧核はまだ破壊されていない。
「悪いですけど、念のために核も壊させてもらいますね」
「んー、それはできないんだジョイ☆」
XOが霧核を破壊しようと鞘を手に取った瞬間、ジョーイがその腹部を蹴飛ばし、霧核を奪い取った。
「あんたは……あの時の……ッ!!」
「おぉ眼帯の姉御。アンタともケリをつけたいとは思ってるが……今回の俺ちゃんの仕事はこいつの回収だけなんだジョイ☆」
ジョーイは自らを睨むセイリアを見据え、言う。
「あぁ、それと……あのハンマーが何か情報を吐くかもしれないけど、何をしても無駄だって理解しておいてほしいんだ……ジョイッ☆」
そう言って、ジョーイは姿を消した。
次回予告
桃代「花粉は本当に恐ろしいわよ。アリスも気をつけなさい?個人差があるとはいえ、かかってしまえば治療しない限り永遠の苦しみを味わうことになるから」
アリス「そ、そんなに辛いんですか……?」
桃代「そりゃあもう地獄よ?目は痒いし、かと言って擦ると腫れるし、鼻もめちゃくちゃ辛いしね。何より……くしゃみが出そうで出ない感覚を頻繁に味わう羽目になるから」
アリス「そ、そうなんですか……あの、治療受ければ治るんですよね?その、モモさんは治療は受けてないんですか?」
桃代「受けたいのは山々なんだけどね……結構長期的になるし、そんな時間は取れないのよ……」
アリス「な、なるほど……」
アリス「じ、次回、仮面ライダーO’!『PRESSURE IMPACT』!……よ、よかった。ちゃんとタイトル言えた…………」
桃代「うん、ちゃんと予告できて偉いわね。ご褒美に何か買ってあげよっか?」
アリス「え、えと……な、何が欲しいか考えておきます……」
墓脇です。
今回は桃代の裏や、共生派組織の闇、ジャックの強化フラグなど、いろんな情報が出てきましたね。
とはいえ、今回も前回と同様に2話完結の話なので、今はあまり多くを語ることはしません。次回をお楽しみに。墓脇でした。