仮面ライダーO’   作:墓脇理世

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第7話「DARK CROWD」

「あ、そういえばふと思ったんですけど」

 ある日、霧核対策部の施設内の休憩室で、月白が言った。

「風刃乃って、あの青髪の男の命令でアリスと契約したんですよね?あの男について、何か知ってることってあります?」

『どうでしょう。……実は、アリスと契約して以降、彼についての記憶がだんだんと朧気になっていまして』

 風刃乃は申し訳なさそうな声色で月白の問いに答える。

「わかりました。ありがとうございます、風刃乃」

 月白はぺこりと頭を下げると、携帯の画面と向き合いながら休憩室を後にした。

(契約して以降、記憶が朧気に……ねぇ。そんなこと、あるんですかね?いや、嘘をついている風には見えませんでしたけどね)

 風刃乃の言葉に微かな疑念を抱きつつ、月白は自販機に小銭を投入し、缶コーヒーを購入する。

「……ま、魔物関連でわからないことはセイリアさんか時子さんあたりに聞けばいいでしょ」

 それを一気に飲み干すと、月白は缶を放り投げた。カランという音とともに、それはゴミ箱に吸い込まれるように落ちていった。

 


 

「契約に際して魔物の記憶が飛ぶ……という現象ですかー?すみませんー、私も聞いたことはないですねー」

 月白の質問に、虚坂はこめかみを掻きながら答えた。

「それ、風刃乃さんが言ったんですよねー?正直、私としては口からでまかせを言っただけに思えるんですけどー」

「でも、あんまり嘘言ってるって感じじゃなかったんですよね。なんとなくですけど、嘘ついてる人って目を見ればわかるじゃないですか」

「風刃乃さん、目ありませんけどー?」

「まぁそうかもしれないですけど、そうじゃなくてですね……」

 悪意を一切含まない表情で首を傾げる虚坂に、月白は僅かに汗を浮かべる。

『……おや、二人揃ってどうしたのかね?』

「あっ、ハマード。いいところに来ましたね。今暇ですよね?ちょっと気になることがあったんですけど、あなたも何か知ってることがあったら教えてください」

『構わんよ。ワタシもちょうど暇だったのでな』

 そんな中、偶然ハマードが通りがかったため、月白はハマードからも話を聞くことにした。質問の詳細を、ハマードに語る。

『……なるほど。契約後に記憶が薄まるといったことは、ワタシの知る限りでは存在しないがね』

「やっぱりですか。……あれ、そういえば風刃乃って例の青髪の男がアリスと契約させたんですよね?」

 ハマードの答えを聞き、わずかに肩を落とすが、直後、月白の脳に電流が走ったかのように、一つの仮説がよぎった。

「そして、あの赤髪の……イース=R=オーガス。現れたタイミングからして、彼女はサルヴァドールの関係者だと思うんですけど……彼女は例の青髪の男と繋がりがあるんですよね」

 その仮説を、月白は述べる。

「なるほどー。つまり、青髪の男もサルヴァドールに関わっている可能性が少なからずあるというわけですねー?」

「はい。……ハマード、サルヴァドールでは、魔物に何か細工をしている様子はありましたか?」

 それが正しいかどうか確認するために、月白はハマードに問うた。

『特に心当たりはないが……いや待て。ひとつだけある』

「本当ですか!?」

『あぁ、実際にそれをしているところを見たわけではないが……間違いなく、あれは連中が仕掛けたものだろうな』

 一つ、心当たりが浮かんだハマードが答える。

『というのも、カクタス……例のサボテンのことだが、奴のことは一度君が圧倒したはずだ。にも関わらず、ホワイトハウスで出会った時にはあそこまで強くなっていた。通常、魔物は短期間であそこまで成長はしないのにも関わらず、だ。君の言う、バルザス=エクロ=パルミレアが奴を沈静化させたという話も気になる。……思うに、サルヴァドールは魔物の霧核を生きたまま改造する術を持っているのではないかね?』

「はい、僕もそう睨んでいます。ところで質問なんですけど……魔物って、人間でいう心臓とか脳とかは全部霧核が担ってるんでしたよね?」

『あぁ。……つまり、霧核が宿す情報を改竄すれば、記憶を消すことも容易というわけだな』

 月白とハマードの考えが一致した。二人の考察を単純に言い表すと、次のようになる。風刃乃はサルヴァドールの霧核改竄術によってその内部情報を書き換えられたのだ。そして、アリスとの契約を果たした時点で、それが効力を発揮した。それがどのようにして行われたものかは知らないが、目的はおそらく、情報の漏洩を防ぐためだろう。

 そうなると、なぜハマードの記憶は消されなかったのかという疑問が新たに生じてくる。それをするだけの時間的余裕がなかったのか、あるいは──可能性こそ低いが、サルヴァドールの狙いは他にあり、暗殺計画自体は露呈してもさしたる問題はなかったのか。

(……いやいや、そんなわけないでしょ。国家を転覆させるような事態の優先順位が低いわけがないです。深読みするばかりネガティブに考えすぎるのはあまりにも愚かというものですよね)

 あまりにも飛躍した己の考察に、月白は苦笑する。本の読みすぎだと、この発想を切り捨てた。

「……とりあえず、桃代さんに風刃乃を見てもらいましょうか」

 


 

「……なるほど。サルヴァドールが、『刀』に何かした可能性がある、と。まぁ、検査するくらいなら構わないけど」

 月白は、ひと仕事終えて休憩室に戻ってきた桃代に、先の話を伝え、風刃乃の検査を頼んでいた。

「ふ、風刃乃がそんなことに……?こ、こわい、ですね……」

「まぁ、だからといって何もないとは思いますけどね。敵さんのやり方を知っておくためだけのことですから、アリスが怯えるようなことはありませんよ。……多分」

「その『多分』が怖いんです……」

「……それは、まぁ、確証が持てないことは僕も怖いですけど」

 桃代とともに入ってきたアリスが、その話を聞いて、少し怯えたような声で言う。それを少しでも拭うために月白は口を開いたが、結果としてその怯えをわずかに増やしてしまったようだ。

「……それで、当の『刀』はどこにいるのかしら?」

「あ、あれ?さっきまでいたはずなのに……風刃乃ー、どこー?」

 桃代は面倒そうに言うが、風刃乃がそこにいないことに気がつくと、大きなため息を吐いた。仕方がないのでアリスが呼ぶと、刀に手をかけた状態で現れる。

「……どうしてそんなに剣呑とした雰囲気で現れてるのかしら?」

『貴女のような信用できない人間に自らの体を見せるということに耐えきれないので。言っておきますが、私は貴女に検査させるつもりはありませんよ』

 今にも桃代を切り殺さんばかりに殺伐としたオーラを纏い、風刃乃は言う。

「風刃乃……もしかして、怖いの?」

『は?……いや別に、怖くなどありませんが?』

「で、でも……なんか今の風刃乃、注射が嫌な子供みたいだよ…………?」

 そんな風刃乃を見て、アリスが何気なく呟いた。すると、風刃乃は真っ赤になり、ぽかぽかとアリスの頭を叩き始めた。

「図星、ってわけですか……いや、魔物にもそういうのってあるものなんですね……?」

「……あたしも驚いたわ。こんなガキみたいな魔物、本当にいるのね」

 むくれる風刃乃に、月白と桃代は冷ややかな視線を向ける。

「ちゃ、ちゃんと検査受けないと、一生このことネタにされるよ……?バレットとかにもバラされちゃうかも…………」

『アレに知られるのだけは、なんとしても阻止しなければ…………仕方ありません。桃代、私を検査してください』

 バレットの名前を出されて、風刃乃は渋々ながら検査を受けることを了承した。

「……よくやったわ、アリス。あとでご褒美にスイーツ奢ってあげる」

「い、いいですよそんなの……悪いですし……」

「いいって言ったり悪いって言ったり忙しい人ですね……ありがとうございます、アリス。僕からも今度何かお礼させてくださいよ」

「だ、だから……気持ちだけで十分ですよ…………」

 事あるごとに何かを奢ろうとする桃代(と月白)に、アリスはびくびくしながら、やんわりと断った。無償で何かをしてもらえることに、まだ慣れていないのだ。

「……それじゃ、検査してくるわ」

 そう言って、桃代は研究室に向かい、風刃乃の体を機械でスキャンしていく。すると、確かに通常の霧核には見られない、人為的に書き換えられたものと思われる痕跡が残っていた。

(……あるにはある。でも、それを正直に打ち明けてもいいものかしら?それを外部に漏らすことで総帥が推し進める計画に支障をきたすのであれば、この件は「何もなかった」ことにしなければいけないわけだし)

 お手洗いに。現場から離れるため、桃代は虚言を吐いた。

「……アザレアです。総帥、質問なのですが、『刀』の霧核に細工か何かされましたか?」

 そして、携帯から通信を繋ぎ、バルザスに問うた。

『どうして、そのような質問をするのかね?』

「月白飛鳥……XOが、『刀』の霧核がサルヴァドールによって改竄されたのではないかと疑っています。検査を拒否すれば疑われるのはあたしだったので、仕方なく検査にかけたら、何者かの手が加わった痕跡がありました。もし総帥や組織が行ったのであれば、それをあいつらに教えていいのかどうか、確認しようと思いまして」

 質問の理由を問うバルザスに、それまでの経緯を話す。

『なるほど。月白飛鳥くんだったか、彼は随分と察しが良いようだね。……いかにも、私が……というよりは、私の協力者がサムライソードの霧核を改竄したことは事実だ。だが待ちたまえ桃代くん。それを連中に暴露していいものかどうか、少し考えよう』

 バルザスは首を捻り、わずかに思案する。

『……そうだね。仮に隠し通したとして、改竄されていたことが連中に知れ渡った場合、君は彼らから疑われることになるのは間違いないだろう。改竄されていたという事実だけは、伝えておきたまえ。ただし』

 そして、結論を出したバルザスは、悪意の笑みを孕んだ声で、桃代に告げた。

『その改竄で記憶を消されたが、他には何もされていない──そう伝えておきたまえ』

「……了解しました、総帥。では、任務に戻ります」

『ご苦労』

 そして、通話が切れる。

 


 

「……どうやら、霧核の編纂の件が彼らに知られたようだ。さて、どうするね?」

 数分後、バルザスは『巣穴』にて笑みを浮かべながら言った。

「どうするもこうするもねえよ。オレたちはオレたちの仕事を全うするだけ、邪魔する奴は全員殺すだけだ」

「ん〜流石の脳筋だねぇ大牙キュン☆」

「黙れジョーイ。オレが貴様を生かしてやっているのは貴様が役に立つからだ。その利益を貴様の存在という不利益が上回るなら、今ここで殺してやってもいいんだぞ」

「お〜怖っ。力だけの脳筋は言うことが物騒だジョイ☆」

 自分の言葉に茶々を入れるジョーイを睨み、大牙は拳を握る。

「──お陰で、こっちも殺意に火がついちゃったかなぁ」

 対するジョーイも、軽薄な笑みに冷酷の色を混ぜ、手袋を外した。一触即発の空気が『巣穴』を包む。

「あーーやめだやめ!!こんなとこで仲間割れしてどーすんのよアニキに大牙ちゃァん!!アンタら目的忘れたのかい!!」

 そんな空気を打ち破る声が響いた。イースが、二人の頭を叩きながら叫んだのだ。

『……その通りである。同士討ちは構わんが、それは我らの目的を果たしてからにしろ』

 ヘラクレスも、二人を諌めるように言った。ヘルメットの内側にストローを通し、冷やしたほうじ茶を啜りながら。

『ヘラクレス様ァ!!その飲み方何ですかァ!?それ取った方が飲みやすいですよォ!!取っちゃえ取っちゃえェ!!』

『……アトラス。誰にも超えられたくない一線というものが存在しているのだ。そこを踏み越えられた時、間違いなくその相手は怒りを示す。ゆめ忘れるな』

『……なるほどォ?肝に銘じますゥ!!』

 自らのメットに触れようとするアトラスの頭の角を鷲掴みにし、怒りを内包した声でアトラスは言う。

「……すまないが、本題に入っていいかね?私とて暇ではないのだよ。君たちの漫才に付き合っていては日が暮れてしまう」

『……これは、失礼した。では、成果の報告を始めるとしよう』

 目の前でいたずらに時間を浪費する面々に冷ややかな目を向け、バルザスが言うと、『巣穴』の空気が変わった。

『まずは我だな。見ての通り、我の生み出した成果物はここにいる。現状で魅力的なのはカクタスを遥かに上回る防御性能だが……それ以上に、成長速度に見込みがある』

 アトラスに視線を向け、ヘラクレスは言う。指されたアトラスは嬉しそうに飛び跳ねている。

『防御はもちろん、攻撃の成長も著しい。このままいけば、あと数日で我に並ぶだろう』

「へぇ、そりゃすげぇや。……生みの親目線の贔屓とか入ってねぇだろうな?」

『入っていない。我がそのような雑念を持たぬタチであることはイース殿も知っているだろう?』

 ヘラクレスによるアトラス評に、イースは目を細めた。

「なるほど、それは素晴らしい。では、次はジョーイくんかね?」

「俺ちゃんの成果物はコレ、寄生型霧核だジョイッ☆」

 バルザスに話を振られ、ジョーイは待ってましたと言わんばかりに懐から黒いジェクターを取り出した。

「標的に注射すればあっという間にソイツから霧素を吸い上げ、魔物に変えちまう。相手の霧素量にもよるが……眼帯の姉御なら十分ってとこかね」

 勝ち誇ったような笑みで、ジョーイは言う。

「よろしい。……では、それまで、各自パニックナイトの準備を進めておいてくれたまえ。決行は4月末日。その日に霧核対策部は堕ち──世界は、我々のものとなる」

 二人の報告を受け、満足したような表情で、バルザスは『巣穴』を去った。

 


 

「会長。……最近、あまりにも魔物の数が多いような気がするのですが」

『はは、だねぇ。オレ様も正直困ってんだよ。そんで、それ使いこなせてるかい?』

 魔物の対処に追われるジャックは、静かな怒りを湛えた声でガブリエルに連絡を取っていた。

「それなりには。以前よりは魔物を狩る効率も上がりました。……そんなことより、他にもハンターはいるはずなのに何故おればかりに仕事が振られるんですか?」

『そりゃあジャックちゃんにもその武器にもそれなりの経験を積ませるためさ。それ、ジャックちゃんがデータ集めてくれ次第量産するんだから、必然的に仕事も増えるってモンだろ?』

「……はぁ」

 悪びれもせず開き直るガブリエルに、ため息混じりの返事をする。

「そもそも、これは何故こんな奇抜な形をしてるんですか?ここの空洞とか、銃としては絶対にいらないと思いますが」

『おっ、いいところに目をつけたねぇジャックちゃん。そっちに関してはおいおい説明するからまぁ今はいいだろ』

 インジェクトガンナーの不可解な機構について質問するが、それははぐらかされた。

「説明と言いますが、具体的にはいつですか?」

『キミがガチガチに固まった型を抜け出したあとだな。だから、早く知りたきゃ頑張ることだ』

「……なるほど」

 不信感を隠そうともせず、ジャックは答え、通信を切った。

(わからない。会長は何を考えている?そこまでしておれに拘る理由がどこにある?……信頼のおける相手ではあるが、信用できるかどうかは別問題だ。最近の動きを見ていると、どうも怪しいところが目立つ)

 ガブリエルへの疑念を胸に秘めたまま、ジャックは当てもなくふらつく。

「……なんて思ってんだろうな。ま、オレ様がジャックちゃんに疑われんのも当然なんだが」

 対して、ガブリエルはあまり芳しくない表情で呟いた。

(今月中に目覚めないようなら、オレ様にも考えがある。……もう四月も残り短いんだ、いつまでも進級前のガキの気分じゃ足元掬われるぜ、ベイビー)

 そう心の中で言った瞬間、ジリリリ!!と、大音量のサイレンが鳴り響いた。ガブリエルは飛び上がり、なんとか携帯を掴むと、そのままジャックに繋いだ。

『今度はなんですか!?おれも忙しいんですがねぇ!?』

「そう言うなってジャックちゃん、また魔物が出た。C級が二体、今現場に一人向かってるから応援よろしくっ!!」

『えぇはいわかりましたよ!!やりゃあいいんでしょうやりゃあ!!』

 半ば自棄になりながら電話を切ったジャックに、ガブリエルは申し訳なさそうな苦笑を浮かべ、

「いや、やっぱ今月中じゃなくてもうちょい待った方がいいか……?」

 


 

「B級の魔物……確かに出たはずなのに、捕食猟域が開いていないようですね……」

「いつも開くとも限らないからな」

 月白とロバートも、同時に出現した魔物の撃破に向かっていた。B級・C級が一体ずつ。二人で分担して倒すよう命じられ、一人で済みそうなものだと思いつつも、二人は了承した。

「待て月白。……右側で木が揺れる音と足音がした。話し声も微妙に聞こえるが、俺の知る限りあんな言語はない。そっちにいる」

「ありがとうございます、ロバートさん。……それにしても、よく気付きましたね。契約している魔物の力か何かですか?」

「いや、そうじゃない。……耳がいいってよく言われるけど、俺からしたらこれが普通なんだけどな」

 ロバートは僅かに声のトーンを上げると、中腰になって魔物の背後まで迫る。

「行くぞ」

 月白にそう声をかけ、二人で魔物へと飛びかかった。

『aG!?』

「通りすがりに宣告しましょう。……あなたの未来は、ここで途絶える。変身」

『Cavern Destroyer! Hammer XO!!』

 ダンゴムシのような魔物──ロリポリー・ヴェイダーの頭部を出現させたハンマーで殴打し、そうして生まれた一瞬の隙を突くように、ドライバーを操作して変身する。

『aDeRaD、aHMSiK!?』

「お前の相手は俺だ。……ったく、あいつ一人でもこの程度なんとかできるだろ」

 ロバートも、目の前の魔物を睨みつけ、ホルスターのナイフを抜いた。

『oYaDnNiAaTiA!!』

「おっと、脳天ブチ抜いたと思ったんですけど、あんまり効いてないみたいですね?」

 ロリポリーは頭を殴られた怒りをぶつけるべく、体を丸めてXOへと飛びかかる。

「ッ、なるほど。これは中々に効きますね。……ですが、その程度。僕に超えられないハードルではないッ!!」

 その攻撃を受け、XOは僅かに後退する。だが、ハンマーフォームの装甲は、そう簡単には破れない。機動性を犠牲に、パワーだけを追求した姿。

 攻撃が効かなかったことに驚いたロリポリーを尻目に、XOの腕に、ハンマー型武器──ツインジェクトプレッサーが出現した。それを二つに分割し、ロリポリーの腹部に突きを叩き込む。

「吹き飛べッ!!」

 二つの衝撃が、ロリポリーを貫いた。黒い身体が宙を舞う。

(拳を振る予備動作の音……目には見えない程度の動きだが、ちゃんと音は鳴ってるんだよな。さて、右か左か……どっちだ?)

 一方、ロバートも魔物と対峙し、戦闘に移っていた。

(音の方向からして右だな)

 持ち前の聴力を利用し、相手の攻撃を巧みに躱していく。

『eZaN、iAaNRTA!?』

 攻撃を悉く回避され、魔物は困惑の叫びをあげる。

(霧核の鼓動の音を確認した。こいつの霧核の位置は下腹部。なら、そこをブチ抜けばいい)

 相手の弱点を見極め、ロバートは両手を交差させる。

「──氷柱、貫け」

 すると、空間に穴が開き──氷の槍が顔を見せた。それは瞬く間に投擲され、魔物の下腹部を貫き、霧核を破壊する。

『a、uG……!?』

 魔物の体が溶け、空気に溶けていく。ロバートは勝ち誇ったような顔でXOに視線を向けた。

「……ロバートさんは終わらせたみたいですね。なら、僕も……全力であなたを狩るとしましょうかッ!!」

 その視線を肌で感知し、XOも仕事を終わらせるべく、両手のトンファーを組み合わせ、ハンマーに変形させる。

「さぁ……生まれたことを後悔してくださいッ!!」

 ドライバーからジェクターを抜き、ツインジェクトプレッサーに装填し、XOは叫ぶ。

『Pressing Overdrive!!』

 直後、黄金色のオーラを纏った一撃が、ロリポリーに向けて放たれた。白い煙が上がる。

「やりました、か……ッ!?」

 しかし、狩った手応えもないというのに、攻撃の跡にロリポリーはいなかった。それもそのはず。体を丸め、全速力で逃げていたのだ。

「おい月白!!お前何やってんだ!!」

「ごめんなさいロバートさん!!バイク出して追います!!」

 ロバートに怒鳴られ、XOは申し訳なさそうにしながら、車に積まれていたバイク──ワイバーンナイトXに跨った。

「待ってくださいよコラァァァァァァ!!」

 逃げたロリポリーを追う。その背中を見て、呆れたようにして、ロバートも車の運転席に乗り込んだ。

「なんで、あんな詰めの甘いやつにドライバーなんて渡したんだよ……俺なら、もっとちゃんと使えるってのに……!!」

 怨嗟を呟きながら、ロバートはXOの後を追った。

 


 

「ブラザー月白、こんなところでどうした?」

「ブラザーじゃないですけどね、ジャックさん。今逃げた魔物追ってるんですよ」

 ロリポリーを追う中で、XOは仕事を終えて休憩していたジャックと偶然出くわした。

「……協力は必要か?」

「いえ、大丈夫です。あれはそれなりの攻撃力と速度があって危険なので、僕一人で倒してきます」

「そうか、気をつけろよ」

 ジャックの助けを断り、XOはロリポリーを追っていく。

『eGG!?』

「追いつきましたね。……もう、逃げられると思わないでくださいよ」

 そして、逃げ場のない狭い空間まで追い込んだ。ハンマーを構え、ロリポリーにジリジリと迫っていく。

 だが──振りかぶり、ロリポリーの頭を潰そうとした、瞬間。

 陰から現れた黒い影が、XOの横腹を切りつけた。

「がッ……!?」

『ダメだぞォロリポリー。きみもパニックナイトで活躍してもらうんだからさァ!!』

 その黒い影──アトラスは、ロリポリーに目配せし、何も言わずに逃走させる。

「あなたは……ホワイトハウスにいた……ッ!!」

『そうだよォ。ぼくはアトラス。どうせきみはここで死ぬんだし、名乗る必要もないと思うけどォ……念のため、覚えといてねェッ!!』

 叫び、二本の剣を構え、XOへと飛びかかる。

「くッ……重い……ッ!!」

 素早くも重い剣戟が、XOの回避を掻い潜り、着実にダメージを与えていく。

 だが、やられてばかりのXOではない。ハンマーを再びトンファー状に分離させ、アトラスの頭の角を突いた。発生した衝撃波が、その角の一方を吹き飛ばす。

『よくもやったなァ!?ぼくのチャームポイントをよくもォッ!!』

「知りませんよ。そんな目につきやすいところにバカみたいに角なんか付けてる方が悪いんです」

『なんだとォッ!?』

 そうは言うが、角を折られた怒りから威力を増したアトラスの攻撃に、確かにXOは苦戦していた。

(……力だけのバカなら、まだ対処のしようはある)

 トンファーでなんとか攻撃をいなしつつ、XOは思案する。

(話し方とか完全にバカなくせに、戦いの時はやけに頭が回る。本当に、厄介な相手です……ッ!!)

 一瞬の隙を見つけ、最大限の力を込めた打撃を叩き込んだ。しかし、致命傷には程遠く、アトラスはニヤリと笑い、

『ダメダメェ。そんなんじゃ……ぼくは倒せないよォッ!!』

 嘲るように言うと、同時にアトラスの脚が真っ直ぐに伸びる。それは強烈なキックに変わり、XOの腹部に突き刺さると、彼を大きく突き飛ばした。

「が、ァッ……!?」

 XOが地面を転がる。だが、アトラスの視線は、もはやそちらには向けられていない。

『あはッ。見つけたァッ!!』

 車で現場に到着したロバートを真っ直ぐ見据えると、アトラスは舌舐めずりをするように言った。

(コイツ……本当に、B級か……!?前に見た時と、威圧感がまるで違う……ッ!!)

 ホワイトハウスでアトラスと対峙した経験のあるロバートは、アトラスが放つオーラの以前との違いに圧倒されていた。以前は、乙姫の機転によってなんとか退けることができたが、XOが太刀打ちできない強さの魔物を、C級までしか倒したことのない自分が、どうにかできるはずがない。頭が真っ白になり、ロバートは運転席のドアを開け、乗り込もうとするが、アトラスがその髪を掴み、無理矢理引き摺り下ろす。

『きみは別に大したことないけどさァ……パニックナイトの前に一人でも多く減らしといた方がいいよねェ?そういうわけだからァ、今ここで死んでねェッ!!』

 剣が振り下ろされる。反射的に目を閉じるが、痛みが自らの体から発されていないことに気付き、ロバートは目を開けた。すると、

『あ、あは。アッハハハハッ!!人間ってやつはどこまでもバカで愚かだねェッ!!守る価値もない雑魚を見捨てもしないで、自分から殺されにきてくれるなんてさァッ!!』

 そこには、アトラスの剣を受け、変身を解除され、白い服を赤黒く染めた月白がいた。

『でも本当にバカだよねェッ!!雑魚を守ったところで、その雑魚もすぐに殺されるだけなんだからさァッ!!』

 重症の月白を蹴飛ばし、黒い脅威が、じりじりとロバートににじり寄り始めた。

 


 

次回予告

バルザス「大牙くんに、ジョーイくん。イースくん、ヘラクレスくん、そしてアトラスくん。『巣穴』は、いつ見ても個性的なメンバーが揃っているね」

大牙「だからどうした。他四人はともかく、オレはまだほとんど出番がねぇんだがな。嫌味か?」

バルザス「いや、そうではなく。……よし。ここはいっそ、どうしたら大牙くんのキャラが立つか『巣穴』のメンバーで話し合ってみようか」

大牙「却下」

ジョーイ「大牙ちゃんは脳筋バカってだけでキャラ立ってるんだジョイッ☆そのまま脳死で特攻して死ねばおバカキャラとして定着すると思うジョーイ☆」

大牙「却下。死ね」

イース「あっ、じゃあ私様は強さ以外でイマイチ威厳がないから、私様の後ろで威圧感だけだす係とかどーよ?」

大牙「却下。殺すぞ」

ヘラクレス『大牙殿もヘルメットを被って無言で相手を威圧する……というのは?』

大牙「却下。そもそもヘルメットは二人もいらねぇ」

アトラス『物思いに耽るときに白目剥くとかどうですゥ大牙様ァ!!』

大牙「却下。そもそもそれ他所の主人公じゃねえか」

バルザス「……ふむ。ままならないものだね」

 

バルザス「次回、仮面ライダーO’。『JUMPING HIGH』」

 

イース「真面目に考えると、そもそものキャラが立つ出番を待つのが一番じゃね?」

大牙「あぁ。オレもそう思っている。……それがいつになるかは知らんがな」




 墓脇です。主人公が切られて血塗れになっちゃったよ。どうすんだよこれ。

 というわけでO’ではOではあんまりなかった二話完結の話を増やしていきたいと思っています。
 毎度のことですが、二話完結の前編のあとがきってマジでなんも書くことないんですよね。下手なこと書いたら次回のネタバレになりかねないですし。
 なので、まぁ、次回をお楽しみにということで。墓脇でした。
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