オガミ婆の孫(本物)   作:スターリー

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 幼い頃、クソババアが目の前でどこからか攫ってきた子供を殺していた。その子供の一部を飲み込んで、ババアの降霊術でその子に成り代わって一日を過ごす。

 

「どうしたの? ■■。元気ないね」

「んーん。そんなことないよ」

「そっか、でも心配だから今日は早く休もうね」

 

 柔らかくて温かい手のひらが子どもの頭を撫でる。その愛情は決して拝神に向けられたものではない。その姿をした命に向けられたものだった。そこに何の感情も感じない。感じ取れなかった。そのアタタカサを知らなかった。

 

 ターゲットはこの子の両親だった。

 誰もが寝静まる深夜に起きて、キッチンから持ち出した包丁で滅多刺しにすること二人分。暗闇でも機能するように訓練したし、仕損じないように人の急所と力が足りるよう呪力の扱いは叩き込まれている。

 

 そんなことを一ヶ月に一回はやっていた。

 

 ことが終わり、外に出るとババアが待っていて良くやったねと褒めてくれた。その日は少しだけいいご飯が食えた。あとは基本的に軟禁されていた。

 

 教育は大切で、洗脳は恐ろしい。そういう簡単な話だ。

 

 その頃の俺は自分が何をしてるのか、それがどれだけ恐ろしく残虐なことで、最低なことをしているのか、知らなかった。分からなかった。判断する為の知識すら与えられていなかった。

 

 まあ、そんなことは都合の良い言い訳にしか聞こえないだろうが、でも、これが、本当に、その頃の俺の世界の全てで、当たり前だった。

 

 

 それが崩れたのは術式が身体に宿って程なくした時の事だった。

 暗い部屋の中で暇を持て余していた。もう考えうる空想も尽きて、遊びのつもりで暇をつぶすために術式を使おうと思った。術式の使い方はなんとなく分かるし、ババアの真似事をすればいい。

 

 子供部屋で見つけて隠して持って帰っていた子供の髪の毛を飲み込んで、術式を発動した。

 

「あ」

 

 ババアは上手く肉体だけの情報を俺に降ろしていた。だが、そんなことを知りもしない俺は子供の魂をおろしてしまう。

 

「ああ」

 

 子供の魂は無垢で、自我は薄い。乗っ取られるようなことは無かったが、その記憶を覗き見てしまう。

 

「あああ」

 

 それは、そこにあったのは、誰もが享受するはずの、ごく普通で。

 

「ああああっ」

 

 当たり前で、一般的で、良識的な。

 

「あああああああああああああああああああああ」

 

 温かい家庭の姿を。

 

 

 知ってしまった。

 

 

 

 

 

 何故か涙が止まらなかった。

 それから、それが不思議で理解できないものだったから理解しようとして、隠れて何度も何度も術式を使用した。その子達の記憶の中の勉強を通して知識を得ていった。そうして成長と共に自分の環境の異常さに気づいて、自分のしている過ちを理解して、ババアから呪術の基本を全て学び終わった瞬間に逃げ出した。

 

 そうすれば、何が変わると信じて。

 

 けどまあ、結局蛙の子は蛙だった。

 

 環境を変えればあるいは……とそんな甘っちょろい考えなんてすぐに否定された。ガキ一人で生きていけるほど世界は優しくない。ババアにさせられていた殺人を自分の意思ですることになった時、理解した。

 

 俺には最初から血に染まった道しか歩めなかった、と。

 

 だから、覚悟を決めた。

 そんな道しかないのなら、もういっそのこと突き抜けてしまおう。そして誰にも指図されないくらい強くなろう。

 

 そうすればいつかきっと自由に。

 

 

 数年して、ババアと再会した。

 思わず笑ってしまうくらい昔と何も変わらない姿で相変わらず飄々とした邪悪極まりない害悪ババアのままだった。その時にはもうババアへの恨みや憎しみなんて今更で、むしろ呪術を教えてくれたことに感謝すらしていた。

 

「おや、生きてたのかい? いっひっひ。逞しくなったねぇ」

 

 クソババアめ。

 

 最近、呪詛師の道に進もうとする人間を構ってしまう。

 悪い癖になってるなぁ。

 

 

 

 

 

 すやすやの真人を羂索に引き渡す。完全に気を失っていて振ればぷらんぷらんするくらい力なく伸びきっている。

 

「はい。もう取り込む?」

「いや、この調子なら真人がもっと術式を成長させてからでいいかな」

 

 うわぁ、もうそういう用途でしかみてねぇ……。

 

 今にも逃げようとして俺の巨大なムカデ型の式神に羽交い締めにされてる与幸吉くんとの交渉を始める。

 

「誰がアンタなんかの下につくか!」

「いや~、そんな悪い提案じゃないと思うんだけど?」

 

 真人に勝てない時点でその後に控える羂索になんて到底届かない。君の都合と俺の利害は一致してるように思えるけどなー。

 

「アンタ、夏油がこれからすることを知ってんだろ! 五条悟が封印されたら、どれだけの犠牲が」

「世界がどうなろうと知らんし、俺はそういうのに左右されないように頑張って生きるだけだよ」

 

 流石命がけでスパイを抜けようと覚悟した人間。

 自分の利益だけの交渉だと動きそうもない、か。

 

「じゃあ交渉の仕方を変えよう。今から京都校を襲撃して一人ずつ攫ってくる。君がうんと言うまで君の目の前で一人ずつ拷問して殺してく。なるべく被害が少ないうち頷いてくれると手間が減って助かるよ」

 

 与幸吉は考える。

 きっとブラフだ。そんなことしたら注目を浴びて動きづらくなるだけだ。

 

「…………分かった」

 

 だけど…………。

 与幸吉を真っ直ぐに見つめるのはあの羂索がひと目みて仲間に引き入れると決めた、まるで底なしの奈落を覗くような光すら閉じ込めるような真っ黒で真っ暗な瞳。

 

 そこに何をしでかすかわからない狂気が見えて、仲間が死んでいくイメージがよぎってしまう。

 

「分かったから、止めてくれ……アンタに従う」

 

 縛り。

 情報を漏らさない代わりに三輪霞の命を狙わない。

 術式の使用を禁止する代わりに新田新の命を狙わない。

 俺らから離れない代わりに禪院真依の命を狙わない。

 

 期限は五条悟封印まで。縛りを破り次第何よりも最優先で対象をころす。

 

 メカ丸で何をさせるつもりなのかを聞かれて五条悟封印後夏油一派の強制退避を頼むとめちゃくちゃ驚かれる。

 

「アンタにもそういう人の心があったんだな。……もしかして夏油一派の中に特別に気にしてる奴でもいるのか?」

「え? ははっ、まさか。夏油パイセンに義理立てしてるだけだよ。一回は助ける」

 

 なんなら口寄せして夏油パイセンの意思を聞かせても良い。

 

「でもその先敵対したら殺すよ?」

 

 

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