オガミ婆の孫(本物)   作:スターリー

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 陀艮が甚爾にボコボコにされている最中。

 伏黒恵の他に領域にさらなる侵入者が現れる。陀艮は必中対象を選択できるほど領域に関して長けている呪霊。その領域に壊すのではなく、すんなり受け入れられたことを見るに呪霊側の存在なのは間違いないだろう。

 

 そして、その影は瞬く間に甚爾を捉えて接近し、陀艮から引き剥がして投げ飛ばした。

 

 七海建人はつぶやく。

 

「あれは…………拝神崇?」

「まったく。今日はなんて日だ。酒が足りんな」

 

 空気が重くなる。

 向けられていないのにも関わらずただそこに居るだけで死を予感させるほどの殺意。

 それを真正面から受ける存在、自らが壊れるまで強者へと牙を剥くキリングマシンはその矛先を拝神崇へと定めた。

 

 過去最強の呪詛師と名高い術師殺しにして天与の暴君、禪院甚爾。

 現代最強格の呪詛師、拝神崇。

 

 その殺し合いが始まった。

 

 

「ウゥ……オ、ガミ?」

 

 陀艮はほぼ死に体ながら、今この状況が一気にこちらに傾いたことを理解する。

 勝つためにするべきは領域の必中効果を取り戻すこと。

 つまりは伏黒恵を殺すために陀艮もまた立ち上がった。

 

 それとほぼ同時に七海健人は即座に判断する。

 あれによる加勢はもう期待できないと見て良い、と。

 

「伏黒くん。領域の維持、もう少しだけ頑張ってくれますか。私はあの特級呪霊を祓います。真希さん、伏黒くんを頼みます」

 

 時間はない。あの呪霊がダメージから回復しきる前に動かなければ、全員死ぬ。

 二人の返事を聞くまでもなく、陀艮へと向かうのだった。その判断の正しさを証明するが如く、もう一人の特別一級術師が続く。

 

「オトモしよう。七海一級術師殿」

「感謝します」

 

 

 

 空気が弾けるような、つまり音速を超える音がする。

 

「拡張術式、英霊憑依」

 

 それは拝神がこれまでに降霊術で集めてまとめておいた膨大な戦闘経験をその身に宿す術式。戦時の感覚は鈍り、平和に塗りつぶされ、失っていくもの。だが、その精神的な衰えを殺し、闘争本能を強制的に叩き起こし、錆を一気に落とすことができるバフ技である。

 

 その発動の隙をつくように禪院甚爾が肉薄する。

 平然と水面を走り、当たり前のように空気を蹴り、瞬く間に音速を超える。その手には特級呪具、游雲。その有り様はまさに暴力の化身。まるで瞬間移動に見えるほどの速さで距離を詰め、目にも止まらぬ連撃が繰り出される。

 

 だが、拝神崇はそのすべてを完全に避けきって見せた。

 

 記憶とは経験。経験とは技術。技術とはそのまま強さである。

 魂と肉体に刻まれた戦闘経験を抽出し、その身に宿す。これまでに解析した術師の人数、術式を持たないシン陰流や呪力使い、呪具使いも合わせ千四百三十七名。個々に強弱の差はあれど積み上げられた経験と技術の結晶は戦闘経験より導き出す敵の動きを、その未来を予測する。

 

 国内外問わずかき集め狂ったように蒐集したデータは本人の資質も相成って余すことなく実力へと繋がった。

 拝神崇自身、データ分の遺物をほぼすべて使い切るほど厳しい戦場を何度も経験しているのだ。

 

 天与の暴君がどれほど速くとも動き、呼吸、クセ、狙い。禪院甚爾の動きの全ては手のひらの中にある。

 

 何千手。そのすべてを読み切ったうえで反撃に転ずる。

 

 

 

 迫りくる式神を斬り飛ばし、禪院直毘人と協力しながら陀艮へ迫る。獲物を握りなおし、息を吐いて無駄なチカラを抜く。思い出すのは拝神崇に手合わせを頼んだときの記憶。

 

『どいつもこいつも自分の技を指折り数えて、タイミング良く打ち出すことしか考えてない。音ゲーとか格ゲーでもしてんの? って感じ。戦うたびに常に新しい技を生み出すのが俺ら術師の戦いだよ』

 

 強者の理論。だがそれこそがこの先の戦いに必要な要素。特に七海建人には、尚更。

 

「拡張術式、十劃呪印」

 

 自身の呪力を陀艮へと打ち込む。その身体中に現れる線。それは全て身体の部位ごとに七対三の位置にある。つまりは味方への弱点の共有。敵にも視認できるそれはそこに呪力を集めて守る必要性が、呪力を防御に回さなければならない選択が生じる。

 

 仲間と共にある七海らしい拡張術式だった。

 

 戦闘経験の豊富さから陀艮よりも早く直毘人はその術式を理解する。すかさずスピードに乗り、迷わず弱点へと蹴りを入れた。速さは質量となり攻撃力に。

 陀艮をぶっ飛ばした上で腕をへし折る。意趣返しが出来て直毘人もニッコリである。

 

 ぐぬぅと痛みに耐えながら陀艮は叫ぶ。

 

「ならば接近させなければ良いだけのこと」

 

 弾丸のような小魚式神の群れ。拘束しようとするウミヘビ式神に巨大なウツボ式神が迫りくる。

 

 避けて、くぐって、弾いて陀艮を追いかける。

 

 縛り。

 

 敵一体に対して十劃呪法の使用を一度のみとする。回数制限による威力の底上げ。

 式神の巨体が両断される。

 だが、その次の瞬間足を捕まれ水中へと引き込まれる。酸素と圧力を気にしながら、更に思い出すのは拝神が大地を弱点としていたこと。ならば⋯。

 

 七海建人、海を割る。

 

「浮遊できるんだろう?」

 

 直毘人は割れた海の中に七海と陀艮を見つけると、瞬く間に下に走ると陀艮を上に蹴り上げる。

 

 陀艮は水上へと打ち上げられるのだった。

 

 

 

 本来の禪院甚爾なら渡り合えていただろう。

 だが、そこにいるのはただの影に過ぎない。天与の暴君の強み、それは肉体のみではない。瞬間的な戦闘IQ、全体を通しての戦略、広い視野、数多の手段。

 こんな状況では禪院甚爾の実力は半分も出せていない。

 

 なら、そんな状態で勝てるはずないのは当然だった。

 

 薙ぎ払い、突き、蹴り、地面を叩いて砂による目隠しからの振り回し。たった数秒の連撃。そのどれもが雲を掴むかのようにすり抜ける。

 

 

 

 当たり前だ。

 俺はお前を既に何年も前から解析済みなのだから。

 

 毎日。

 

 狂ったように。

 

 解析して、解析して、解析して。

 研究して、研究して、研究して。

 

 他の誰にも出来ない俺だけの強み。

 

 他者の世界を覗けること。自分と他者との違いを如実に体感する。思考、行動、発想。強者と弱者。勝者と敗者。生き残るものの共通点と死にゆくものの反省点。ありとあらゆる視点から新たな世界に触れ続けて、自分の世界を拡張していく。

 

 強者ほどその世界が広く高い位置にある。

 数ある強者のその一つ、禪院甚爾の解析はもう既に為尽くした。

 

 確かに強い。だがもう死んで何年経ってると思ってる。オガミ婆が手にしたときには俺の手にもあった。その動きはお前とその相手の記憶から見慣れている。

 

 もし生きていたならば予想外の行動もしたかもしれないが…………。

 

「所詮はただの生きていた頃の再現。不愉快なんだよ! 消え失せろ!」

 

 蹴りを放つ。距離を取らせたのは次への準備。

 肉体強度の高い相手にわざわざ肉弾戦を挑む馬鹿はいない。

 紙一重で避けながら心静かに拝神崇は拝む。

 

界層(かいそう)

 

 発したのは詠唱。

 

明けの明星(あけのみょうじょう)

 

 爆発的に強まる呪力。

 

曼珠沙華(まんじゅしゃげ)

 

 完全詠唱、出力最大。

 

「術式反転」

 

 そして右手を迫りくる禪院甚爾に向けた。

 

黄泉渡(よみわた)り」

 

 本来相手の魂に触れなければならない術式が対象は一人のみと変わらないものの遠距離攻撃へと変化する。

 

 溢れ出す光の柱。

 既に死した肉体との繋がりが薄い魂、呪霊のように物理的に肉体を持たぬ魂に絶大なる威力を発揮する。

 

 邪気を払い、穢を浄化し、その御霊を天へとお返しする。

 禪院甚爾は眩い光に包まれて、游雲を残しその身体ごと光の粒へと消えていった。

 

 

 

 陀艮はすべてをかけて伏黒へと全軍を差し向ける。

 

 七海は判断する。守るのではなく攻めるべきだと。

 ならばチャンスは一度きり。

 今この一撃に全てをかけること。

 その姿を見た直毘人は七海健人にこの戦いの行方を託すことに決めた。その先を走り、呪力を温存させる盾となり、一撃勝負のその瞬間まで先導する。

 

 覚悟、気迫、呪力。

 そのすべてが充実したその十劃呪法を黒い火花が祝福する。

 

 陀艮が最後に見たのは回転しながら離れていく自身の下半身だった。

 




盛りました。ええ、戦闘力盛りましたとも。
だってこれからのインフレ具合についていくためにはそうするしか………!術式基本的に戦闘向きじゃないからしょうがないじゃないか!
何だよ1437人って!!!!
主人公まじ研究職じゃんバーカバーカ!

あと視点コロコロかわって読みにくかったかも。
済まぬ………すまぬ………

感想読んでます。とても励みになってます。ありがてぇありがてぇ
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