オガミ婆の孫(本物)   作:スターリー

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IF4

五条パイセンのところに向かう途中に連絡を取ったらメイドさんが拐われたそうだ。

パイセンズが出し抜かれるなんて珍しいことあるもんだなぁ。

 

「はいこれ、分身の術式」

「おお!やったぜ!流石パイセン、わかってるぅ!」

「へへっだろっ」

「そんな事してる場合じゃないじゃろ!急がないと!」

「大丈夫だと思うよ。殺すならその場でいいわけだし、むしろ拐ったってことは…」

「これから取り引きだな。まっ、なんにせよコッチから動きようないし傑と合流してからでも遅くねーよ」

 

闇サイトの懸賞金目当てで集まった呪詛師に襲われている最中の出来事だったらしい。

犯人は盤星教の人間だろうとのことだ。

 

「すまない、私のミスだ。敵側にとっての黒井さんの価値を見誤っていた」

「そうか?ミスって程のミスでもねーだろ」

 

……それにしてもなんかおかしいなぁ。

 

盤星教、時の器の会は奈良時代から存在する宗教団体。その目的は五百年に一度の天元様の同化阻止。

その日のために存在する組織と言っていい。それにしてはやり方が稚拙すぎる。

 

「相手は次人質交換的な出方でくるだろ。天内と黒井さんのトレードとか天内を殺さないと黒井さんを殺すとか」

 

三千万円もあったら懸賞金かけるよりも有名な殺し屋雇ったほうが確実じゃん。しかもお金はちゃんと用意してるのに殺す手段の方にコネを作ってないなんてことあるんだろうか。奈良時代から存在するのに?

 

例えば既に依頼していてその殺し屋の作戦だったら筋が通るだろうか。

 

「でも交渉の主導権は天内のいるコッチ。取引の場さえ設けられれば後は俺達でどうにでもなる」

 

高専結界の中に引きこもられたら手出しできないのに同化数日前に堂々と懸賞金かける理由は?

 

高専結界内になにか仕込んでる?

でもそれなら天元様が気付かないはずないし、隠す結界だから中に人はいない。だから内通者の可能性もないハズ。

 

余程のバカか、パイセンズを相手に無理だと悟ってヤケになった?

いや、結界を通り抜ける何らかの手段を持っている可能性があるのかも?

思いつかないけど…。

 

「天内はこのまま高専に連れていく。硝子あたりに影武者やらせりゃいいだろ」

 

俺が狙う立場ならどうするだろう。

強いやつを複数人相手取る時の作戦は混乱のうちに目標を仕留めるか、分断していって目標が単独行動するように仕向けてそのうちに仕留めるか、消耗させて実力を出せなくしてから目標を仕留めるとかが有効な手段。

 

「ま、待て!取り引きには妾も行くぞ!まだオマエらは信用できん!」

 

さっきの混乱なら十分過ぎるほど隙があったはず。

でも狙ったのはメイドさん。

分断にしては弱い。メイドさんは護衛対象にない。最悪切り捨てれる。やっぱりただのアホ集団?

 

でも嫌な胸騒ぎするんだよなぁ。

 

なら狙いはパイセンズの消耗?

それなら時間制限付きなのも説明できる?

時間制限が同化当日の午前で諦めるのも、高専結界を越えられる手段があるなら、千載一遇のチャンスを作り出せる………んーでもどーやって?

 

「あぁ?このガキこの期に及んでまだ」

「助けられたとしても!同化までに黒井が帰ってこなかったら?」

 

とりあえず別行動することを反対しようと声を上げようとしたときだった。

 

「まだ、お別れも言ってないのに……。」

 

目に涙をためて、服を握しめる天内理子は間違いなく星漿体ではなく一人の家族を心配するただの少女だった。

 

三人は初めて天内理子の感情が揺れるのを見る。

出会ったときの生きることへの執着も欲のような引きずるものもなさげに振る舞っていた星漿体のもう一つの本音。

 

「「「…………。」」」

 

天元様に対する考え方も本当だが、その裏にある諦めや無意識に押し殺してきたものをその場にいた全員が何となく察する。その強がりをわかってしまう。

 

『幼い頃に両親を失っている』

 

『特別だから危険を避けてるように生かされている』

 

ここに来るまでに自分で調べた星漿体の情報やパイセンズからの情報共有にそんなのがあった。

拝神崇にあった星漿体へのほんの少しのささくれのような怒りが消えていく。

 

………なんだ。執着も何もないわけでも受け入れてるわけでもなく、自分の欲に気づいてないだけか。

そういう生き方しか出来なかったんなら、ちゃんと生きてちゃんと死ぬべきだ。

 

拝神崇は孤独も閉じられた世界も自分ではどうすることも出来ない無力も。

 

その理不尽をよく知っている。

だからこそ許せないし、見逃せない。

心の中で星漿体を助けるという方向性がカチリと定まった。

 

他の二人も認識が星漿体という存在からピントがズレて、ただの人間に、そしてきっとそのうち守るべき少女に変わっていくだろう。

 

「俺も今星漿体をパイセン達から離すのはナッシングで」

「理由は?」

「高専結界よりパイセン達の側のほうが安全だから」

 

五条パイセンと向かい合うけど、俺が声を上げる必要はなかったらしい。天内の方に向き直る。

 

「その内拉致犯から連絡がくる。もしアッチの頭が予想より回って天内を連れて行くことで黒井さんの生存率が下がるようならやっぱオマエは置いていく」

「分かった。それでいい」

「逆に言えば途中でビビって帰りたくなってもシカトするからな。覚悟しとけ」

 

もし、二人を消耗させることが狙いならそこをカバー出来る人を集めとこーっと。

五条パイセンの疲労回復に家入パイセンでしょー。

夏油パイセンの視野のカバーにはメイメイさんかな?

 

貯金で足りるといいんだけど………。

 

「崇、ずいぶん何か考え込んでたね。なんか気になることでもあった?」

「敵がなんか、気持ち悪いんすよ。噛み合わないんす。規模とやり方とタイミングが」

「そうかぁ?」

「私もそこら辺はわからないからね」

「えぇ?まじぃ?二人とも襲撃の計画とか立てたことないのぉ?」

「「ねぇよ!」」

「ホントに仲間かこいつ!」

「まったくこれだから素人は、はぁ」

「「いや崇がおかしい」」

 

一番楽なのは俺が盤星教の権力者を全員殺して依頼自体を無かったことにすること。次がないように魂から情報を抜いてお金の流れを完全に壊すこと。それだけでいい。

 

でも、それをしたらパイセン達悲しむからなぁ。

それに五条家の立場も揺らぐ原因になりかねないし………。

 

うん、恩は仇で返せないなぁ。あーメンドっちー!

 

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