絶対強者、それ故の孤独。
反転がなくとも六眼と無下限呪術、その術式の順転と体術だけで他者を圧倒出来る五条悟を孤独から開放したのは夏油傑だったに違いない。
初めて対等に渡り合える存在。自分と同じ特別。競えるほどのただ一人現れた好敵手であり親友。
無味乾燥とした世界に一人ぼっちだった五条悟にどれほど救いを与えたかは、想像に容易い。
その領域に手を伸ばす人間がもう一人。
これは拝神崇が五条悟に出会ったときのお話。
行きはよいよいと順調に目標を達して、帰路に就こうとしたその時だった。
「なにしてんの、お前」
拝神は冷静に判断する。
今、万が一の最悪が起きている。こんなことが無いように慎重に進めた計画だったのに己の運の無さに絶望するが、それは後でいい。
この場をどう切り抜けるか!!!!
「…………に、ニャ~」
俺は猫だぁぁぁぁあ!!!
※想定外過ぎて自分が思う以上に拝神は混乱していた。
「いや誤魔化せねーよ!バッチリ見えてんだよ!」
「くっ……実は水道局の人間でしてね!」
「オマエみたいなガキが来るはずねーだろ!せめて作業服来てこい!」
「あー!もー!んだよーもー!じゃああれです!突撃隣の墓荒らし!」
「んな物騒な番組ねーから!」
舌打ちしながら、あばよとっつぁーんと拝神が瞬時に外へ向かって走る。
滑らかに体を伝う呪力。
ただの子供に似つかわしくない並外れた呪力操作。他の術師なら反応も出来ないだろうその動きに当たり前についていくのは、他の誰でもない名実ともに最強、その称号を生まれてから恐らく死ぬまで独り占めにする少年(現時点)、五条悟である。
「せっかく来たんだし!もっとゆっくりしてけよ?」
「お気遣いなくっ!すぐ帰りますんで!」
「そんなツレないこと言うな、よっ!」
五条悟から放たれる蹴りを避けて、拳を躱して投げ飛ばす。まずは互いに小手調べ。術式なしの体術の応酬。六眼の的確で無駄のない呪力操作からなる打撃を呪力の量と出力でカバーする。
「ただの雑魚にしちゃ、なかなかいい動きすんじゃん」
「あははー、まっ、まあ、自分、鍛えてますんでぇ〜」
「そんじゃもっと激しくいこうか!」
「ひぃぃ」
蒼が複数、拝神を目掛けて飛んでいく。
五条悟の蒼い瞳は眼の前にいる侵入者のクソガキの情報を暴いていく。見えた術式は二つ。降霊呪術ともう一つ。『重力を操作する術式』を宿しているのを見抜く。
降霊呪術で他人の術式を自らに降ろして操っているらしいな、と。
拝神はそれをすぐに察した。
こちらの手の内を見られた瞬間に見破られる。その理不尽さを身を以て理解する。
あの目がある限りこちらの小細工は一切通用しない。
だがそんなこと、百も承知だ。
ここに来る前に五条家、そして五条悟のことを調べに調べた。六眼、それは拝神崇が望むもの。
六眼から見た世界はきっと自身を更にステージにもたらしてくれるはず。そんな漠然としたものだったが五条悟という存在に相対して確信に変わった。
目標は既に手に入れている。
ならば後は、逃げて逃げて逃げのびて、生き延びるだけ。なんて無茶苦茶で絶望的で無理難題。だけどそれだけの価値がある。
そのためには……。
「もう戦うしかないじゃんか!!!」
眼の前に迫る蒼。
蒼を重力で撃ち落とす?
いやいや、それだけじゃイメージ不足だ。そんなんじゃ到底五条悟に叶わない。
術式の、解釈の拡大。
重力が及ぼす影響だってその術式の範疇だと。
重力とは未だ解明しきれていない力である。
宇宙を支配する四つの力の一つだとか、そもそも存在しない説まである未知の力。
だからこそ、そこに科学的にも呪術的にも解釈と想像の余地がある。
規模を大きくするほど呪力が足りないし地球が持たんときが来てしまうのを、拝神の想像の出来る範疇かつ呪術で精一杯再現出来る範囲での行使のみに事象をスケールダウンする縛りで呪力を軽くしながらも現象を再現する。
「イヒッ!重力のォ本質はァ!空間を曲げることォ!返すぜぇ!てめぇの無下限!」
放たれた蒼が拝神に迫る。
巧みな重力付与と操作で行う防御もカウンターにも出来る拡張術式、
太陽の重力に引かれた惑星がその周りを回り始めるように、拝神に到達することなくその周りを回ると五条に向かう方向で重力から解放する。
自分に返ってきた蒼。後ろには屋敷。避けるわけには行かず、さらに蒼をぶつけて消滅させる。
衝撃波。
それに臆することなく拝神は砂煙を割って五条悟に肉弾戦を挑む。その手のひらには螺旋丸程度の大きさの光を逃さなそうな黒光りする玉が浮かんでいる。
拡張術式、
通常の重力操作では無下限のニュートラルに阻まれて機能しない。
だから先程と同様、重力の空間を曲げることを攻撃の主軸におく。その球体の中には降天の技術を応用して作った、その名の通り湾曲してぐちゃぐちゃになった空間が広がっている。
そして通過した物体を同じようにぐちゃぐちゃする。
五条は咄嗟に手を合わせ、片方を握る。
それは蒼の高速移動の合図。瞬く間に背後に回るやいなや吸い込みを利用した強制カウンターパンチを殺意ヨロシク拝神の後頭部目掛けて振り下ろす。
だが、届かない。
体がぐにゃりと横に持ってかれる。だが痛みはない。
最初に見せた降天。
呪力の温存のため背後かつ呪力が宿っているものに限定してオートで発動するように設定している。
五条はその身を投げ出される。
慌てることなく無下限でふわっと着地すると拝神と向き合った。
「へー?最近見た中じゃ、一番面白いよ、オマエ」
「はぁ、今のやり取りで手の一つももげなかったの辛すぎやばたんなんですけど」
「んじゃこっちも少し本気出すけどすぐに音、あげんなよ」
「いひひっ、あんまカッコつけちゃうと!負けた時恥ずかしいんだ!」
「それなら心配いらないでしょ。それともオマエ、俺に勝てるとでも思ってんの?」
仕掛けたのは五条悟。
その六眼の性能に間違いはなく、それを十二分に使い切るセンスがある。
たった数秒で拝神が何しているかを見て理解して、蒼の性能を高めて空間の曲がりを元に戻してみせた。拝神が苦労して縛りと解釈の拡大で積み上げたものをいともたやすくぶち壊す。
あらゆる術式を嘲笑う無下限呪術。それを使いこなす六眼。針の穴を通すような神業を平然と当たり前のようにやってのけるセンス。
その総てが最強たる所以である。
伸ばした指の先に極小の蒼。
拝神の耳に右腕が壊れる音がする。
続けざま、蒼を纏った拳が迫る。
「いひっ!」
そんな危機的状況の中で拝神崇は笑って見せる。
痛みで思考が鈍ったり、恐怖に染まって動きが止まらないように痛みをトリガーにハイになってそいつら全部を飛ばすように自らに暗示をかけている。
高まるテンションと裏腹にただただ冷静に簡易領域を発動して、蒼を殺すとリーチのある足技で蹴り飛ばす。その間に反転を回すのを忘れない。
「一応聞いとくけど、こっち側になんなら手引きしてあげなくもねぇけど?」
「その言葉を信じて!降参できるほど!良い人生送ってねぇんだよ!」
五条悟は蹴られたところのホコリを払って構えを取る。
「ならしょーがない。反転に簡易領域とかちょっと面倒くせーけど、殺すか」
「いひひっ!いいっしょこれ!イヒヒヒヒ!なぁに?出来ねぇの?最強ってさ!どんなもんかと思ってたけどさ!意外と大したことないんじゃないの?」
「はっ!いいねぇ!この程度なワケねぇだろ!てめぇこそ他人の褌でイキがってんじゃねぇよザコ!」
「だったらさっさと殺してみせろよ五条悟!」
無下限の衝突と重力の奔流。
戦闘に集中すればするほど被害なんて二の次になる。屋敷が崩壊する。木々が剥がれて空中に舞い、大地が割れて周囲に漂う。
そこを足場に二人が踊る。
降天を抜けて放たれる五条悟の打撃。その衝撃には重力を軽くすることで軽減し、自身を重力制御で空中を移動する。
無下限の押し潰しを避けて瓦礫の投擲を重力で粉砕する。蒼のみ的確に降天で操りつつ、同時に湾曲球にて反撃を。
飛ばせ!飛ばせ!ぶっ飛ばせ!
痛みを!常識を!限界を!
狂って、踊って、笑って、喰らう。
己が求めるものがある。
踊り狂う二匹の怪物
その心が満たされるまでダンスホールは終わらない
戦闘描写のリハビリでした
上手く書けてるといいんだけど……
天内理子のルート分岐
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生きろ そなたは美しい
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定めならね 従うしかないんだよ