オガミ婆の孫(本物)   作:スターリー

29 / 38
IF6

額に縫い目のある女性が喫茶店で紅茶に砂糖を入れてかき混ぜていた。

 

総監部にいる人間の悪事。

その暴露による上から下までかき混ぜてるかのような大荒れの呪術界。この事件で幹部とその周辺の人間、合わせて八名が行方不明になっている。

 

長い時間の中で育てて忍び込ませていた者たちは問題ないが、家柄も血筋も併せ持っていたがそれ以上に愚かで自己中心的で周りが見えていない劣等感の塊。そんなつけ込みやすく操りやすい連中が今回足を引っ張る。

 

裏切ったのか、お前たちのせいなのではないか、と騒ぎ立てこっちに詰め寄ってくる前に対処した。

 

「やれやれあまり手広くやるのは良くないね」

 

紅茶を飲んで落ち着いていると携帯のバイブ機能による振動。一件のメールが入る。

 

『配置完了』

 

薨星宮に置かれた八つの死体袋。

呪力で殺されなかった術師はどうなるのか。あまりに有名な話だ。

 

本性を隠すように身体に見合う口調に戻す。

 

「フフフ。最後くらいは役に立ってもらいましょう」

 

懐に入れていた紐の結び目を解く。

それは彼らに施していた呪霊化を結界で無理やり遅めていた封印の解除。

 

「天元の同化が無くなったことは喜ばしい。ついでに天元を餌に五条悟を消せれば完璧なのですが、まっ無理でしょうね」

 

モゾモゾと動き始め死体袋を突き破ってその姿を現した。腐敗、盲信、強欲、愚慮の成れ果て。

 

「失敗したとしても元々死体処理の有効活用」

 

ちゃんと情報は抜いたし、痕跡も徹底的に消した。

呪霊にしてしまえば死体も残らないし、祓われてしまえば塵になるだけ。最悪、取り込まれたとしても彼らが持っているのは偽りの情報だ。

元より切り捨てる前提の連中。信用すらしていなかった。予定が早まっただけで大した痛手ではない。

 

「そこら辺はあっちに期待しましょうか」

 

だが、腐っても総監部とその近くの地位にいることのできた人間。中身はともかくその性能は厄介。一級相当の呪霊どもが出来上がる。

 

「上手く使ってくださいね。伏黒甚爾」

 

喫茶店を出てすぐに携帯を粉々に破壊して捨てた。

 

消える八名を都合良しとスケープゴートにするのは彼女だけではない。このトカゲの尻尾切りを利用して口裏合わせずとも示し合わせたように、消えゆく者たちに持たせられる荷物を全てを押し付けて総監部の騒動は落ち着きを取り戻すだろう。

 

そして、真相はいつものように闇の中へ。

 

 

 

 

 

 

高専メンバー一行は沖縄の空港への移動の途中、これまで集めた情報を共有する。

 

「伏黒甚爾。それが今回の敵っす」

 

黒井さん誘拐時にそれらしき人影の目撃情報があった。確かに実行犯が彼なら黒井さんが手も足も出なかった理由に辻褄が合う。

 

それに加えて今いる呪詛師の中で五条パイセンや夏油パイセンを殺せるとしたら、この人しかいない。これは断言出来る。

 

「旧姓禪院甚爾。名前の通り御三家出身の人間で天与の暴君と呼ばれる程のフィジカルギフテッドです。界隈では術師殺しとして有名な呪詛師っす」

「禪院家…ね」

「悟。何か知ってるかい?」

「いや、な〜んか引っかかるんだけど、全然出てこないんだよね。そういうの元々ニガテだし」

「それも無理ないんすよ。禪院家は彼の存在を疎んでいてあんま表に出してないっす。サンプルが少なすぎてフィジカルギフテッドの情報も、やはり筋肉!筋肉はすべてを解決する!みたいなことしかわかってないっす」

 

禪院家は彼のことになると誰もが口を閉ざす。

呪詛師界隈で生きていた拝神も伏黒になってからは呪詛師としての活動が減っていて噂は聞くが直接会うことはなかった。

ただ伝わるのは彼の絶対的な強さと狡猾さ。

 

「大丈夫だって!意外と大したことないんじゃないの?」

「悟。油断は禁物だよ。禪院家の人間なら悟の術式だって知ってるはずだ。それを承知の上で来るってことは」

「俺の無下限を突破する手段があるってことでしょ?そこんとこなんか情報あった?」

「残念っすけど奴のターゲットは全員もれなく皆殺しにされていて宛になる証言は何もなし、その人たちの遺品を集めるにも時間が足りなかったっすからお手上げっすね〜」

「つまり、対策しようがない…か」

「まあ、伏黒甚爾自身が意図してそういう情報を隠してるんだと思うっすよ。切り札の数は命綱の数っす。パイセンたちは出来るだけ休んで万全でいることが一番の対策っすね」

 

 

 

 

 

 

孔時雨は伏黒甚爾に呼ばれて会っていた。

世間話を交えながら最近の星漿体の動向を伝える。

 

「この高専連中と一緒にいるガキは拝神崇。お前と入れ替わるように出てきた呪詛師だ。まだまだ荒削りだが最近いる連中の中だと完全に頭一つ抜けてるだろうなっておい。聞いてんのか?」

 

呼びつけておきながら頬をつきながら競馬新聞に夢中の伏黒に確認を取る。

 

「あ?ああ。聞いてる聞いてる。そういやそいつ、五条家に喧嘩売って死んだって騒がれてなかったか?」

「なんだ知ってるじゃねーか。まさか誰も五条家の飼い犬になってるとは思わねーよな。それにしてもお前の正体勘づいてる節があるぜ。良いのかよ。お前の狙いも読まれてるんじゃねぇの?」

「構わねーよ。そうなりゃそれなりの動きをするだけだろ。それに油断も緩みも変わりはねぇ。人は状況に振り回されるほどすり減るもんだしな?」

「………ふーん。そんで呼びつけた理由は?これから何しようっての?」

「オマエの言う通り、削りって部分は少し足りねぇかもな。だから今から少しだけ動く」

「はあ?今からか?」

「盤星教の連中を集めろ。あと用意するもんはこの紙にまとめといた。ほらよ」

「へえ、いつになく本気じゃねぇの。えーとどれどれ………いやお前これって!おいおい大丈夫なのかよ!?」

「さあな。こっちが気づかれない内は隠密にやろうと思ってたんだがな。バレてんなら派手にやるさ。まっ要は緊張と緩和ってやつだ。神経をすり減らすんなら緩急をつけてやればいい」

「オメェはお笑いでもやってんのか?」

「はっ!まあ見てな。やんのは奴らが飛行機に乗ったあとだ」

 

フライト中の警戒に意識が持ってかれて外の情報が入りづらくなっている時に行動する。

 

 

悟たちが空港に到着して早々、走ってきた補助監督から緊急事態だと報告を受ける。

 

「「「む、筵山が燃えてるぅ!?!?!?」」」

 

山の近くで身を潜める孔時雨と伏黒甚爾。

信者共と徹底的にガソリンを撒いて火をつけてきた。術師は一般人に手出しできないという足枷に加えて現在高専は混乱の真っ最中。指示系統が上手く機能せず大勢で押し寄せられれば抑えきれるはずもなかった。

この燃え盛る炎の中で平気なのは熱に強く長い時間息を止めて行動できる伏黒甚爾ぐらいだろう。

 

そして何より呪力のないものは結界をすり抜ける。つまりこの炎は薨星宮を人には耐え難い熱と視界を遮る煙で満たす。火をつける前に確認した薨星宮内にいた嬉しい誤算には全く影響を与えずに、だ。

 

「まじかお前。てか、これじゃあ高専に戻らねぇんじゃ…?いや、そもそも近寄らせねー腹積もりか?」

「いいや、来る。奴らにとってあのメイドの誘拐はトラウマになってるはずだ。乱戦になれば隙が生まれるってな」

 

 

 

 

 

 

とりあえず近場の高専の関わりのある施設に移動しつつ、歌姫は提案をする。

 

「ね、ねぇ、流石にこの状態の高専に戻らない方が良いんじゃない?」

「いや、薨星宮の更に奥の結界まで行ってしまえば問題ない。他は侵入してくる呪詛師が増えるし、私達の戦いはどうしても規模が大きくなってしまうからね。一般人を巻き添えにする可能性がある。その中で理子ちゃん達を守るのは難しい」

 

高専結界の人よけの効果は絶大であの火事なら尚更誰も近寄れない。中に入ってしまえば守りには最適だろう。

 

「そう。それなら高専結界の内側で待ち構えた方が楽ってわけね」

「なら、どうやって高専まで行くつもりですか?まさかあの火事の中を突っ切るつもりで?」

「それなら俺の無下限の高速移動で上から行きゃあいい。ただそうなると四人が限界かな。どうする?」

「五条先輩と夏油先輩!理子ちゃんと黒井さんですね!」

「いや、黒井さんはみんなと待機でお願いするっす。護衛をもう一人プラスした方が良いっす」

「そんな、また黒井が狙われたら…?」

「その心配いらねーと思うよ。人質作戦は時間があるときにしか出来ない。今からそんな事するには遅すぎる。まっこっちだって二度も同じ手は食わねぇ。ちゃんと対策する。だから黒井さんは安心していい」

 

そうかと胸をなでおろす天内。七海は「では」と続ける。

 

「戦力的に冥さんでしょうか」

「すまないけど私は遠慮させてもらうよ。あの火の海のせいで高専結界の中に鴉たちが入れなくてね。もちろん体術だけでも活躍出来る自負はある。でも今回私としては拝神くんを推薦するよ。一級に劣らない実力に敵の情報を持っていて反転といったサポートもできる。この作戦において私より拝神くんが適任だと思うよ」

「いひひ、照れるっすね〜」

 

作戦会議は迅速に進められた。

家入パイセンに降霊呪術で天内理子に変身してもらう。パイセンなら頭を破壊されない限り回復できる。一番生存能力が高いと見た。

あとは二手に分かれて敵を撹乱しつつ移動を開始する。

 

「黒井さんは私達が命に替えても守るわ。だから心配しなくても大丈夫よ」

 

「歌姫さん。黒井のことお願いします。じゃあ黒井」

「……理子様」

「その……またね」

「はい、また」

 

そして抱きしめ合う。

そっと離れると黒井さんはこちらを向く。

 

「五条さん。夏油さん。拝神さん。どうか理子様のこと、よろしくお願いします」

 

そう言って深々と頭を下げる。

 

「「「応!」」」

 

四人は先を急ぐ。

「きゃああああ」と空を飛ぶ天内理子の悲鳴が聞こえたら行動開始である。

 

ちょうど叫び疲れた頃、薨星宮が見えてくる。

 

「悟。このまま薨星宮の中に突っ込もう。天元様から許可は貰ってる」

「いいねぇ!俺もそういうの一回やってみたかったんだよね!」

「山に突っ込んだでしょーが!対ショック体勢っ!」

「きゃあああ!なにそれぇ!!」

「いや、しても意味ないけどね」

 

激突して内部に侵入する。

宮内はすでに煙で視界が悪く、中間まで突き破ったところで何故か突然術が解ける。

三人は慌てることなく、夏油が呪霊でパクっと天内を確保。

その呪霊を守り囲うように集まる。

 

煙から姿を現す無数の蠅頭。その奥からそれなりの呪力を持った呪霊が現れる。

 

「なんで薨星宮の中に呪霊がいやがる!?」

「迷ってる暇はなさそうだ。崇、理子ちゃんを頼むよ」

「了解っす。先行ってるっすね。部分憑依、禪院直哉『投射呪法』」

 

抱える天内理子を含めて投射する。

術師は呪力で熱と煙をなんとか出来るが天内はそうじゃない。その二つがないところまで全力で逃げる。

 

蠅頭は無視していいと判断して襲ってきた一級相当呪霊のみを狙って、そいつの反応を見るまでもなく蒼で半分潰す。呪霊玉にでもして二人ですぐに拝神のあとに続こうしたその時だった。

 

「傑。とりあえずこいつを取り込んで」

 

フィジカルギフテッドの結界をすり抜ける特性を知っていれば話は違っただろう。

ここは高専結界の中で、五条悟には特別な目があり、これから来るであろう強敵に備えて脳を休めるという選択肢だって悪くはない。

 

ただただ相手が悪かった。

 

幾つも狙われるチャンスはあった。

それが過ぎ去ること数回。心の中に隙を作らされた。

 

勝利の後の致命的と言うには小さすぎる油断。

そこに迷いなく飛び込める度胸とセンス。

 

背後に迫る神速の影。

 

刀が五条悟から生えてくる。

 

「ア…ンタが、伏黒甚爾だな?」

 

「へえ?あの五条の坊っちゃんに俺の名前が知られてるなんて光栄だな」

 




婿入りしてから星漿体暗殺まで少なくとも孔時雨から仕事は請け負ってなさそうだし、ナマったとか勘が戻った発言からブランクがそこそこあるはずなのにパパ黒つっよ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。