オガミ婆の孫(本物)   作:スターリー

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IF8

野外と違って比較的制限のある屋内。

逃げ場がない代わりにやり合うには希望がある。だが身を隠せと言わんばかりにごちゃごちゃと入り組んでいる上に外並みに空間が広すぎる。

 

伏黒甚爾がここにたどり着くまでに行った奇襲。

その最中に交わした会話に混ぜて五条悟と夏油傑にこれまでの種明かしと手の内を明かす縛りで肉体のさらなる強度と呪具の威力を底上げしていた。

 

「悟、崇」

「あいよ」

「はいっす」

 

フィジカルギフテッドにも通る火力を持つ五条は前衛、巻き込んでも問題ない呪霊を操りながら全体を見る夏油は後衛。拝神は臨機応変に合わせて遊撃に回る。

 

先に仕掛けるのは五条悟。

その姿が手を合わせる動作とともに突然消える。これまでの単純な高速移動ではない座標と空間の圧縮による瞬間移動。

 

伏黒の頭上に現れ、無下限で下方向へ押しつぶす。同時に夏油の側面からの呪霊による一斉射撃。無限を纏う五条悟に遠慮は必要なく全力で撃ちまくる。

 

伏黒はすぐさま察して這うように屈むと迷いなく夏油に向かって天の逆鉾を投げつけた。

 

夏油傑の呪霊操術はその強さの半面、死ねばどうなるのかわからない。最悪の場合、取り込んでいた呪霊全てが暴走する。現状、間違いなく狙い目。

 

それを拝神も予測する。

自身の役割は最高戦力二人のサポート。攻めるよりも守りを重視すべきだと。

 

弾丸を超えるスピードで投擲された天の逆鉾を拝神が捨て身で割り込み夏油を庇う。投射呪法でなければ間に合わなかった。なんとか天の逆鉾を逸らすことに成功する。だが両手と肩を切り裂かれた上で投射呪法が解除される。

 

それでも最悪は避けられた。

 

五条悟は無意識に意識するよりも多くあの呪具に釘付けにされていた。自身の天敵のような術式。あれは自身に向けるはず、と警戒を寄せていただけに予想外の矛先に一瞬意識が夏油へ向いてしまう。

 

その隙に安全な範囲まで逃げ出すと鎖を引いて逸れた天の逆鉾を上手く操り五条に向かわせる。自身は釈魂刀で夏油の首を狙う。

 

夏油傑は敵の狙いを理解する。

ならばそれを利用するまで。自身に近づいてきた瞬間に合わせて口裂け女を出現させる。刃が届く手前で切り裂きの簡易領域に閉じ込めさせて自身はそこを抜け出る。

 

「崇!助かった。ありがとう。大丈夫か?」

「大丈夫っす…!役目っすからね」

 

天の逆鉾を避けた五条は口裂け女の簡易領域ごと蒼で潰そうとしたその瞬間、上から耳をつんざく奇声。

 

半殺しにしていた最初の呪霊が降ってきていた。

 

「追いついて来たってのかよ!!」

「虹龍!」

 

いや、違う。

伏黒が連れてきたそいつにはたくさんの爆弾を食わせてある。瀕死のそいつはそれを消化できないし、虹龍の一噛みだけで死ぬだろう。

 

死んで塵とかしたそいつがばら撒くのは腹に溜まった食わせておいたもの。

 

空中にいてより近い位置にいた六眼が降ってくるものを捉える。五条は二人を守るために動く。夏油の呪霊で守っても良いが視界が塞がる状況を作り出すわけにはいかない。五条が動き出すのを見て二人は防御態勢に入る。

 

爆風が三人襲う。

不幸中の幸い、下で爆発せずに夏油が虹龍で素早く反応、処理したおかげで爆発はかなり高い位置で起こる。その分五条が動ける時間が増えて、無事無傷で守ることができた。

 

「タイミングがハマったな」

 

だが幸運だったのはこちらも同じ。

伏黒は武器庫呪霊と釈魂刀を手放すと簡易領域から抜け出して万里ノ鎖を手繰り寄せる。簡易領域の外から投擲した天の逆鉾で口裂け女の脳天を串刺しにする。同時に反対の鎖を引いて武器庫呪霊を回収。鎖で地面を叩きつけて浮き上がった釈魂刀を天の逆鉾を引き戻す勢いに巻き込んで二つとも空中でキャッチする。

 

両者、初期位置へ。

伏黒は拝神を見る。

 

「オマエ、確か他人の術式を降ろせるんだったか。その術式…」

「知ってんすね俺の術式。どうりで…。そっす。投射呪法っすね。もうアンタの逆鉾で使えないっすけど。あんたんとこの禪院直哉から使わせてもらってるっすよ?」

「禪院直哉。………………?誰だそいつ。なんだ、ジジイじゃねぇのか」

「えぇ?しらねぇのぉ?めちゃくちゃ次期当主つってイキってたんだけど!?」

「あ?知ってるつーの。まて、今思い出す。禪院…ガキ…ああ!恵って俺が名付けたんだった」

「え?なにそのシンプルドクズ発言!つか、恵って誰だよ!てか、どんなタイミングで思い出してんだよ!!!」

 

と、呪詛師二人が馬鹿無駄話しているうちに最強二人は次なる作戦を決める。

 

次は俺の番だ、と動き出したのは伏黒甚爾。

退避しながら呪具を全てしまうと投げつけたのはスモークグレネードともう一つ。

拝神は気づく。

 

「パイセン!毒っす!」

 

巻かれたのは毒ガス。

全員空中へ跳ぶ。夏油の空を飛べる呪霊だけでなく浮遊出来る小さな呪霊を撒き散らしてそれを拝神が足場にする。さらに夏油は念を入れる。下に毒を食らう術式の呪霊と落ちた時衝撃を和らげてくれる呪霊も配置しておく。

 

「コソコソすんのはやめたんじゃねぇのかよ!!」

「気が変わったんだよ」

 

スモークから抜けるまでの途中、挑発を止めた五条はこっちに合図する。

その意味は罠を仕掛けんぞ、というもの。拝神はその合図を見て次の術式を降霊する。

 

スモークを抜けきるとその空中を飛び回るのは夏油の呪霊だけではない。ついさっきどこかで見たばかりの蠅頭たちで溢れていた。

 

出た瞬間、間髪入れずに凶刃が夏油傑の首を落とす。

 

「気ぃ、抜いたな?」

 

落ちる首が笑う。

 

「あんたがなぁ!!」

 

伏黒が刺した夏油が溶ける。

そいつは拝神が分身術式に降霊呪術で外見だけ被せたデコイ。本物は呪霊の口の中に身を潜めている。

拝神の残り二人の分身が上半身と下半身を的確に筋力を使わせない関節技を使って拘束する。

 

「五条パイセン!!!」

「蒼!」

 

最大出力の蒼。今出せる最高威力技。

それが見事に決まる。これで終わるとも仕留めたとも思ってない。必ず反撃してくる。それがわかっているから気を抜いてはいなかった。

 

それでも捉えきれない影が移動する。

 

均衡が崩れた。

 

「なっ………!」

 

拝神が斬られる。胴を横一閃。明らかに致命傷。

斬られる瞬間、夏油が機転を利かせて呪霊で僅かに伏黒の動きを阻害していなければ今頃拝神は上半身と下半身がバイバイして真っ二つになるところだった。

 

伏黒のその動きを見るに想定するより蒼のダメージを負っていない。

 

落ちていく拝神の向こう、二人の視界に目が入ったのは伏黒のボロボロになった左腕。

 

天与呪縛は縛りによって成り立っている。

そこから浮かび上がる答えは一つ。伏黒は左腕にダメージを集中させる代わりにそれ以外を守る縛りを結んでしのいだのだろう。

 

拝神を心配する余裕はない。

その動揺を、隙を利用されないよう優先順位を見間違うなと二人は心を強く持つ。左腕だけでも使えなくしたのは大きい。畳み掛けるべきタイミングは今しかない。

 

勝機はある。

フィジカルギフテッドには呪力がない。それならあの呪具さえどうにかしてしてしまえば呪霊操術に対抗する手段はない。

 

こちら側が狙うべきはあの武器庫呪霊。

 

夏油が動く。五条もそのサポートに。

だがその狙いは失敗する。呪霊操術の主従関係が成立している呪霊は取り込めないというルール。そのことを知らない夏油は弾かれ斬られる。

斬られるときに五条は蒼による吸い込みで踏み込みを弱らせるも深い傷を追う。

 

ニュートラルの無下限で自分の左手で掴んだ伏黒の右腕を拘束する。右手に最大出力の蒼をこぶし大まで縮めて心臓に打ち込んでエグリ殺そうとする。

 

伏黒に焦りはない。

武器庫呪霊が何かを吐き出した。五条の目前に飛び出たのはピンの抜いてあるスタングレネード。

五条の視界が真っ白に染まる。それでもたった数秒の硬直。だが天与の暴君にはそれで十分過ぎた。

 

罠を張っていたのは五条たちだけではない。

左腕はダメージを集めたが犠牲にした訳では無い。まだ動くし再生しつつある。天の逆鉾を抜く。手を伸ばす五条より先に寸分差で天の逆鉾が五条の首を捉えたのだった。

 

「終わりだな」

 

追撃にトドメを刺そうとする瞬間、無数の刃の濁流に襲われる。

 

「しつけぇな。まっどうせ虫の息だろうが……」

 

返す言葉を出す余裕もない。冷や汗をかきながらなんとか立っている拝神崇がそこにいた。

 

呪詛師集団Qのバイエルの術式。

拝神は五条家に生かされている条件の一つに脅威にならないよう持てる遺物に制限がある。

これが最後の術式。

 

状況は最悪。

拝神は反転を上手く扱えていない。使えば制御しきれず勝手に大回復して必要以上に呪力を大きく消費してしまう。さっきの負傷をあらかた治したもののその分の呪力も消費した。

 

単身、伏黒に挑むもその力の差は歴然。

剣戟に耐えられずに脇腹を斬られて術式を解除された後蹴っ飛ばされる。

 

 

 

 

 

 

 

互いに目を見る。

命のやり取りの中で生きてきた人殺しの目。目的完遂のためにクレバーにならざる得なかった者たち。

 

拝神崇は考える。

この先は天内が逃げた天元様の住まう場所。もうこれ以上の逃げ場はない。退いてしまえばゲームオーバー。

 

高専側の最高戦力の二人が敗れた。

あの二人との戦闘だ。伏黒甚爾の戦力を五割、いや、六割は削ったはず。

 

それでも俺が挑んだところで勝率は盛って二割。特に天の逆鉾との相性が悪すぎる。

 

だけど、俺の術式でわかる。夏油パイセンは気を失っているだけ、五条パイセンは意識がギリギリあるが無下限で血を抑えるのが限界で回復待ち。

 

二人は死んでいない。なら二人が起きるまで時間稼ぎ……いや、ムリだ。

 

 

 

 

 

勝てるイメージが沸かない。

 

 

 

 

 

「お子様は家に帰んな。見逃してやる。わざわざ相手をしてやんのもメンドーだしな」

 

トドメとしてのその言葉に拝神崇は軽くブチギレる。腹の底から湧き出るのは笑い。

 

ああいいね。やってやろうじゃん。

 

「いひひっ!イヒヒヒヒッ!そうだなぁ。今の俺じゃァ、あんたに勝てないなぁ!」

 

うつむいていた拝神が顔上げる。

その笑みは、目は、声は、諦めたものの顔をしていない。

 

「だったら勝てるやつを用意することにするよ」

 

タガが外れた。

狂気に満ちた。

覚悟を決めた奴の顔。

 

「イヒッ!知ってるかぁ?Fateの主人公は未来の自分が降霊した姿と戦ってその技術を手にしたんだって!」

「あ?追い詰めすぎて気でも狂ったか?」

「ハンターハンターのゴンは制約と誓約で完成した未来の自分になって敵をぶっ倒した!」

「………オマエ、何考えてやがる?」

「イヒッ!つまり、最強形態は王道にしてロマンって奴だよ!」

 

出来ないなんて思わない。

拝神崇は諦めを知らない。誰が相手でも、何度倒れても、どんなに追い詰められても、たとえ死んだとしても前に進むことを止めようとしない。

 

ただ、前へ前へ。

 

 

縛り。

十年寿命を縮める代わりに呪力を一時的に増加させる。

 

「降霊呪術」

 

目の前のガキの危うさに気づく。

 

「拡張術式」

 

鳥肌が立つ。悪寒が走る。その変化を待ってやる必要はない。

 

「未来憑依」

 

踏み込み、振り下ろした刃。

だが一足遅かった。浮遊感。視界が回転する。ものの見事に投げ飛ばされていた。空中で身体を捻って着地する。

 

そこに立っているのは………。

 

「いやぁ、ガキの俺って何するか分かんなくて怖ぇ怖ぇ」

 

その姿はあらゆる並行世界の可能性の一つ。

 

「しかもフル装備の伏黒甚爾相手にノープランでノー術式でお相手しろとかいう無茶振り。やばすぎでしょ」

 

呪詛師として完成した未来の姿。

 

「でもまあ?こんな形でお呼ばれしたんだし?」

 

圧倒的な強者としてここに立つ。

 

「せっかくだし目茶苦茶やってくか」




やめて!天の逆鉾の術式解除で一刺しされたら、それだけで終わっちゃう!

お願い、死なないで拝神!

あんたが今ここで倒れたら、黒井さんや理子ちゃんとの約束はどうなっちゃうの?

ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、トージに勝てるんだから!

次回 拝神死す デュエルスタンバイ!

誤字脱字報告をしてくださる皆様方。
いつも本当にありがとうございます。
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