Q、フル装備パパ黒にオトナ拝神は素手で勝てますか?
A、ヤ★ダ★無★理★
※ただし全快状態の場合の話とする。
「うおおぉぉぉ!あっぶね!それ逆鉾やんけ!初めて見た!すっげぇ!」
「そんな術式でよくやる!あの状況から五分まで持ってくるとは、なぁ!」
「いひっ!なら今日でショック死させてやんぜぇ!」
舌打ちする伏黒甚爾はその苛立ちを隠せていない。
それもそのはず、まったくと言っていいほど攻撃が当たらない。
まるで全て読まれているような、手のひらの上で転がされているような、実態のない影に無意味に拳を振り上げているような、そんな気持ち悪い感覚。
「つかその呪具売れよ!一生金に困らねぇ金額になるはずじゃんか!」
「ああ?三日も持たねぇよ!舐めんじゃねぇぞ!」
「それはガチなのネタなの!?ラスベガスにでも住んでんのん!?」
いくら仕切り直そうとしても先回りされる。
こちらのやろうとすることを先んじて潰してくる。罠もブラフもフェイクも通じない。
「だがそれはてめぇも同じだな?オマエには攻め手がねぇ!」
「いひひっ!それはどうでしょう!」
その時の状況、巡らした策略とそれぞれの情報、術式や呪具の持ち合わせ具合で勝敗は簡単に入れ替わる。
伏黒甚爾の強さの度合いは他と一線を画す、それこそ壁を超えた人間。相性で上下するにしても間違いなく特級クラス。
長引けば腕も再生していきデータが集まれば対策を講じてくるだろう。
「流石にアンタほどの人間でも、五条悟と夏油傑の二人相手じゃあ消耗するみたいだなぁ?」
「加えて小せぇのもチョロチョロしてやがったしな。もっと早くてめぇを潰しておくべきだった」
「想定外は俺の得意分野なもんで!だって俺にも分かんねぇし?」
ただ正直な話、伏黒甚爾は大分削られている。
今の拝神にとってあまり脅威とは言えない。
黒幕的な存在を含めた色んな知識と経験を身に着けた拝神崇は今ある情報だけである程度これから何が起きるのかの予想ができる。自分がやるべきは先を考えて、事がこちらの有利に運ぶように手を打つくこと。
横目に確認するのは、倒れてる五条悟と夏油傑。
いひひ!おもろっ!やりたい放題やんけ!
「わっとと!そう焦んなよ!これからお前をどうすべきかを考えてた。そんで決めたぜ!」
「そんなもんてめぇに決められる筋合いはねぇ!」
「いんや、アンタには俺達側についてもらう。いっひっひ!安心しろよ。報酬は前払いでぇ!しかもお金に変えられない体験させてやんぜぇ!」
拝神崇の動きが変わる。
天の逆鉾を避けずに掴み取る。術式の強制解除だろうが術式は術式。領域展延で術式を中和する。
「なっ!」
それは伏黒甚爾にとって見知らぬ技術。
避けるだけだった拝神が肉弾戦を始める。
六眼レベルの呪力操作による肉体強化でフィジカルギフテッドに三歩手前まで迫る。
膨大な戦闘データによる先読みと肉体の動きの予測で二歩手前まで迫る。
展延による攻防の能力上昇で一歩まで迫る。
そして、両面宿儺から吸収してきた戦闘技術による体術の向上により伏黒甚爾と並び立つ。
「あんまアンタに手こずって、宿儺の株下げるわけにもいかないし?」
未知数の敵、片腕が満足に使えず、領域展延のような見知らぬ技術に自分と同等の格闘術。
そんなの見せられたら。
「呪具も!武器庫呪霊も!手放せなくなっちゃうよなぁ!」
念には念を。
天の逆鉾を蹴り飛ばす。そのまま回転しながら腹に潜り込むと掌底を決める。
吹っ飛ばされた伏黒がすぐに体勢を整えて反撃するために拝神へ跳ぶ。だがその判断は間違いだった。
高まる呪力のおこり。
結ぶ印相。
ならばすることはただ一つだけ。
「領域展開」
伏黒甚爾が逃げられない速度、離れた位置に居る五条悟と夏油傑を巻き込むほどの大きさで展開する。
「
まだ幼い、オガミ婆に軟禁されていた頃。
小さな部屋いっぱいに呪力と術式で埋める遊びをしていたときに偶然出来てしまったのがこの領域の始まり。
環境によって作られた怪物の心の奥底。
子供だった拝神の悲哀の領域。
景色が変わる。
蛍のような空中に舞う光。
疎らに無造作に置かれた崩れた橋。
立つことができて沈み落ちることのない水面の上に、見渡す限りきれいに咲いている蓮華と彼岸花の絨毯。
安らぎと暖かさに満ちた幻想的な領域。
伏黒甚爾は冷静に身体に異常が無いことを確認する。
必殺ではないなら幾分やりようがある。だが、逃げるにはあまりに広すぎる。遮蔽物の少ないこの場で背中を向けるのは得策ではない。
なら、拝神を一秒でも早く殺すために行動する。手にするのは展延で中和されない游雲。
瞬く間に距離を詰め振り抜いた瞬間、壁に阻まれる。
「オマエ……!」
「アンタみたいな南向きな人間に俺の領域はよく効くんだよね。そんじゃ、しっかり叱られてくると良い」
目の前にいたはずの拝神も消えていく。
拝神の領域は、領域の中を更に結界で分断し、個人の空間に隔離する。
この結界に付与された術式はこの世にあの世を降ろすこと。生死の境界を塗りつぶし、死の世界の具現化させる。
だが、この領域は必中だが必殺ではない。
人は死ぬとき呪いを残す。
愛していれば愛しているほど、より深くより濃く刻まれる。
領域内にいる魂の、その呪いを自動的に読み取って遺物なしで降霊する。
たとえ伏黒甚爾自身に呪力がなくとも、伏黒甚爾に向けられた呪力を読み取り口寄せする。
呼び寄せるのは偽物やデータの再現、過去の投影などではない本物の魂。
『恵をお願いね』
伏黒甚爾の後ろに光の塊が現れる。
そして人のカタチに。
振り返って構えるが、後退って、力が抜けた手から呪具が滑り落ちる。
フィジカルギフテッドだからこそ五感すべてで感じ取る。
姿形、息遣い、心臓の鼓動、声、匂い、眼差し。
偽物ではないとあらゆる全てが懐かしさとともにその存在を肯定する。
溢れ出るのは押し留めていた存在する記憶。
失ってから最初はどこに居ても、誰と会っても、何をするにしても、思い出が溢れた。
そのたびに悔やんで、そのうち自分を見失って、抱えるべきものを投げ出して、忘れようとして打ちひしがれて。
それでも忘れられなかったはずなのに過ぎ去っていく時間は残酷にも記憶をうすめていく。
その声も、顔色も、温もりも色褪せていく。
どれほど思い出にしたくないと願っただろう。
何度これ以上消えてくれるなと願っただろう。
なかったことにならない事実にどれほど打ちのめされただろう。
今この瞬間、その全てがひっくり返る。
そこにいたのはもう二度と会えないはずの人。
簡易領域のときと同じように全てを手放せば領域から抜けることは出来る。
頭でどんなに分かっていても伏黒は動けない。
それはきっと愛するが故に。
遺物の降霊は一度きりの消耗品。
子どもたちの遺物のストックなんてあるはずもなく。
幾ら呪力で繋ぎ止めることが出来るとしても、維持するための呪力は日を追うごとに徐々に消費が大きくなる。
当然限界が来る。
子どもたちとの再会と再契約はこの領域の中だった。
そしてそれが外の世界に飛び出すきっかけとなる。
みんなを取り込んでしまいもう会えることはないが、それでもここは拝神にとっての青春の象徴。
それと同時にこんなことが出来てしまったから人を生き返らせることも出来るんじゃないかという幻想を抱いて、妄執に取り憑かれた原因でもあった。
「やっぱハガレンは神ってね。あれは教科書にすべきだよな。うん。帰ったらフルメタルアルケミストもう一周しよ………いや、これ覚えてるんか?」
この領域は決して戦うためでも、人を殺すためでもなく。
もう二度と会えないあの人に。
失ってしまった大切なあの人に。
星になってしまっても心から会いたいと望む愛するあの人に。
ただ会うための、たったそれだけの領域。