夏油傑が飛び起きる。
辺りを見渡すと見知らぬ領域。隣にいた悟と目が合う。
「お!傑ぅ!」
「悟!?崇は?ここは?一体どうなって……?」
悟がニヤつきながら、そこ見てみ?と指を指した先を見ると成長した拝神崇が崩れかけた橋の上で仁王立ちしていた。
起きたようだなっ!とうっ!と着地すると不思議な踊りを始める。
「うぇ〜〜い!いっき!いっき!皆バイブス上げてこぉ〜↑おにーさんテキーラ追加ぁ!」
あっ、そういやぼざろ伝わらんか。
固まる二人。反応待ちとガチ困惑である。そして指さしながらアヒャヒャと腹を抱えて笑っている五条悟。
やったぜ!マジカオス!
「………悟。あれ誰だかわかるかい?」
あ、あれ?夏油傑さん?
「ひぃひぃ、はぁぁぁ〜、やっっっと落ち着いた。誰ってどう見たって崇じゃん」
頭を抱えた夏油がまっすぐこっちを見つめて宣言する。
「分かりました。今のうちに崇をちゃんと教育しときますね」
「あれぇ!そうなるぅ?あっは!やっべ!ごめん俺、余計なことしちまったかもしれねぇ!」
二人とも無事?目を覚ましたところで状況説明開始である。
まずひと〜つ!
「お前ら二人仲良く筋肉にボコられて窮地に立たされた俺が術式拡張して未来の俺サマーを降ろして助けたってわけよ!やーい!雑ぁ魚ぉ二ぃ匹ぃ!」
「ああん!?お前からリベンジかましてやろうか!」
「悟落ち着くんだ悟。まず私がぶん殴るからその後に続くんだ!」
「オマエが落ち着け」
ハイ!状況説明に〜!
「オレコウリン!リョウイキテンカイ!ヒッチュウノミ!オマエラマキコム!ハンテンカイフク!オマエラゲンキ!オレノオカゲ!イェア!反転も使えん雑魚どもめ!」
「いちいち煽らねぇと先進めねぇのか!」
「なんでカタコトなんだ。………あー、なんかもう一周まわって冷静になってきたな」
一応領域の説明もしておく。
ちなみにこっち側の必中と分断はオフってます。
だって二人のじっちゃんばっちゃんとか死に別れた誰かに会っても俺反応困るし……。
絶対「あっ…ども、あはは」みたいになって気まずいし!
「まあ、色々置いておきますけど、まずその伏黒甚爾は今何処に?」
「降霊した対象が帰れば結界壊れてそこら辺に出てくるよ」
「んなテキトーな……」
領域効果として降霊した対象と一緒に逝くこともできるけど、まあ、今回はあり得ないだろう。
伏黒甚爾の嫁さんは伏黒甚爾がまともになるくらいしっかりしてるらしい。教育者レベル特級じゃん。
そんな彼女なら伏黒甚爾に生きろと言うだろう。
魔物が生み出した勇者ヒンメルの幻でさえフリーレンに「僕を撃て」って言ったんだし、同じくらいの善性があると見たね。
………いや、ほとんどがそんな感じだからこの副次効果意味ないんだよなぁ。
「んで?これからどうすんの?」
「私達をわざわざ助けた意味が何かあるんでしょう?」
「まあ、ぶっちゃけ殺すだけならお前らいらん」
「「オイ!」」
「お前らだって今回の騒動、色々おかしいことくらい勘づいてんじゃないの?強い味方を増やしておこーぜ!そんでそこに強いやつがいるじゃん?ピッタシじゃんね?備えあれば憂いなしでしょ」
呪詛師狩りで有名な禪院家に潰されてない呪詛師集団Q。呪術は基本的に秘匿されているにも関わらず非術師で構成された盤星教の存在。特級クラス実力があるとはいえ下手すれば日本が滅ぶ案件に高専生二人に丸投げする呪術界の方針。
今回は拝神の介入で呪霊も配置されたしね。珍しく尻尾見せる形になってるなぁ。
「何かしら裏があるって言いてぇんだろ?なら……」
「貴方はその黒幕を知ってるんじゃないですか?」
「うわぁゲロりてぇけど言えねぇ!他者間の縛りがどこでどこまで影響するか俺も分からんのよ。こっちの俺にまで影響したら困るじゃん」
特に五条悟に正体バレするのはより強力な縛りを結んで喋るなってされてるし。
確実にこの世界の羂索もなんかするだろうけど、俺程度が出来ることなんて高が知れてる。まっ、そんな一からよちよちしてあげなくてもいいだろ。こっちの世界のことはこっちの人に任せりゃいい。
「いひひっ。まっ殺して終わりだとか死んで終わりだとかそういうのに飽きただけってことで許してよ!」
納得がいかなそうな二人をハイハイ切り替え切り替え!と強引に話を持っていく。
「それじゃ作戦会議始めますよっと。皆様ご存知の通り伏黒甚爾は殺し屋としてプロなんだよね。可能性がある限り隙を狙い続けるって感じ?今は尚更自暴自棄になって死ぬまで戦うモードになってるだろうし」
魂を解析してる俺にはわかるその精神状況。
この領域で少しは正気に戻るはず。
「今の状況はチェスで言うチェックとか将棋で言う王手って感じなんだけど。あとは可能性を殺してやるだけなんだよね。完膚なきまでに。その為には…」
もしも、伏黒甚爾にまだ交戦の意思があった場合、領域が解ければ俺の術式は焼き切れて未来憑依も終わる。そこを狙うだろう。
雇うと約束しても、その時に裏切られてしまえばおしまい。そこをどうにかすれば良いわけで……。殺す以外の選択肢を用意するならやっぱ強い奴を用意する必要がある。
五条悟だけ覚醒させたところで、未熟な精神性とその力を手にしたばかりの状態じゃあ殺すだけで手一杯で生かす余裕はないだろう。
なら答えは一つ。
「お前ら二人には今から覚醒してもらう」
「いやどうやって!?」
「まあまあまあ、任せなって!どんとこーい!どんとこーい!」
「不安しかねぇんだけど!」
今から修行編!って行きたいところだが流石に時間がありませんことよ。
こんなときもあろうかとぉ!(特に想定はしてない)
俺にしかできない。裏技があるのです。
テレレレッテレー!
『英〜霊〜憑〜依ぃぃぃ』
これが非常に役に立つ。
俺の降霊呪術の拡張術式『英霊憑依』は研究ばっかして鈍った身体に戦闘の全てを叩き込む拡張術式。
マジな戦闘するときに誰でもある最初の不安定な実力を安定アンド底上げできる。黒閃後のゾーン状況が120%なら英霊憑依は90〜100%まで実力を引き出せる。
ほら、テスト前の勉強ノートを見るとかプレゼン前のリハとか試合前のほぐすための運動とか、それの超強化版みたいな、そんな感じである。
だがしかぁし!
これを他者に施した場合、違う結果を生むのである!
戦闘の経験値はもちろん、施した対象に適正ある技、例えば簡易領域から落花の情、反転術式に領域展延までその使い方を脳にインストール出来るすぐれものである!
ポケモンで例えるなら、ふしぎなアメ数十個とそいつの適正あるわざマシンを全部一気に覚えさせるようなものである。
まあ、デメリットはある。
俺自身に使う時には思い出すみたいなもんだから大丈夫なんだけど、膨大な情報の塊を脳にぶち込むわけだから無量空処みたいな脳へのダメージが発生する心配があった。
だから今まで他人に使うには躊躇してたんだけど……。
それを六眼で情報を精査して無駄の削ぎ落としが出来たおかげで心配いらなくなりました。イェーイ!ハイ拍手!まさにアップデートされた最新バージョン。俺って敵に回すと厄介じゃねー?オッソロシー!
つか、また六眼ほしいんですけど!
各技の最小運用呪力量とか最大効果呪力量とか各術式の呪力消費量に縛りを用いた場合の変化量と内容を変えた場合にはどうなるとか!色々調べんのめっちゃ楽だし面白かったわ!そういう研究したり情報を扱う人間には便利すぎんのよあれ!
「っとこんな感じ何だけど……さて。やっちゃう?ねぇ?やっちゃう?」
「おい!六眼ってど………もういいや。つーか、分かってんでしょ。そいつをやるかどうかなんて」
「そうだね。私達の答えは決まってる」
手痛い敗北を経験した二人は迷わない。
その答えは当然。
「「やる」」
「いっひっひ。即断即決いいね!求めよ!さらば与えられん!尋ねよ!さらば見出さん!門をたたけ!さらば開かれん!世の中はそういうもんだよな!」
手順をこなして二人の肩に手を置く。
「降霊呪術、拡張術式『英霊憑依』」
英霊憑依の影響で二人が立ったまま硬直する。
恐らく失敗はない。
そこそこ時間はかかるだろうけど無量空処のように処理を強制させ続けるわけではない。更に六眼のおかげで英霊憑依における余分なデータをカット出来たのはあまりにも大きい。他にもいくつかあった懸念点を限りなく少なくできている。
まっ若干疲れるだろうけど、その程度の疲労なら復活後反転も覚えるだろうから脳を癒やすようレクチャーすれば良い。最悪俺やればいいし。
彼ら次第で時期に目覚める。
その時には別人のような強さになってるはず。絶対強者が二人になって、はてさて、この先のこの世界はどうなることやら。
とりあえず、これで俺が今できることは全てかな?
ようやく一息つけるぜい。
少し離れて橋に腰掛ける。そして、高校生姿の二人を見る。
「まさに青春真っ只中って感じじゃん。ほーんと、こんなん子供にやらせる任務じゃねぇよな?」
強かろうが賢かろうがどんなに特別だろうがガキはガキ。
こいつらはまだ守られる側だろうに。理不尽とはなが~い付き合いだから二人の大変さはよく分かる。
大いなる力にはそれ相応の責任が付きまとう。
とか言う割にはそれをまっとうしてる奴をあんま見かけない。まったく、どいつもこいつも大人は何やってんだか。情けないねぇ。
とか言いつつ俺も人のこと言えないんですけどねぇ!自分のことは棚上げ!棚上げ!ってな!
憶測だけど俺の世界でも五条悟はこの辺りの時期に反転を習得したはず。その後夏油傑が離脱する。そこに何があったのか。どんな理由があったのか。
な〜んか答え合わせ見せられてる気分だなぁ。
「まっ頑張れよ俺。こんな面白い状況なんだ。なんとかしてみせろよ。そんくらい俺なら出来るだろ。クソみたいな理不尽を変えるために、そのために強くなったんだから」
自分の人生に後悔はしない。
だけど、もしもこんな生き方を出来たなら、なんて考えることぐらいはある。
「………しっかしまあ、こんな世界線もあんだなぁ」
分断していた結界が砕ける。
伏黒甚爾が虚ろに立ち尽くす。その頭の中をうるさいくらいに反復するのは彼女との約束。目蓋の裏に焼き付くのはさっきまでの出来事。
まだ夢うつつに目の前を見る。
そこには倒すべき敵。だけど、身体が、心が動かない。
それを拝神崇は感じ取る。
もう戦意がない。
「俺の領域良いっしょ。みんな揃いも揃って殺意高ぇってなんの。そんなんつまんないし、呪術ってもっと自由でいいはずじゃん。だから俺、この領域お気に入りなんだよね」
「……そうだな。驚きすぎてショック死するところだった」
「いひひ!そんでどうだったよ。嫁さんとの再会は。一緒に逝くって選択肢があるの気付いてたろ?」
「ああ。そういう。そんな暇もねぇよ。あいつ、俺の顔見たら思いっきりビンタしやがって、そっからずっと説教だ」
触れた頬の温かさも。
抱きしめたときの柔らかさとふわりと抜ける香りも。
よく見た怒った顔も。させるつもりは無かった泣き顔も。最後に見た穏やかな笑顔も。
声も喋り方もその仕草も。
なにもかもが……。
「ただ泣かれるとは思わなかった。あんな顔させるつもりは………いや、なんでもねぇ…忘れろ」
「いひひ。なんだ。あんたにピッタリの良い嫁さんじゃんか」
伏黒は静かに噛みしめるように目を閉じて、自嘲的に笑いながら「ああ、そうかもな」と答える。
「んじゃ、こっちも紹介したい奴らがいてな。勝てるやつを用意するって言ったろ?」
英霊憑依を終えた二人が歩いてくる。明らかにギンッギンにキマっている。
「「よう、久しぶり」」
「まじか」
伏黒甚爾は目の前の三人を見て、もうどうしようと勝ち目がないことを理解する。
「さて、そんじゃ答えを聞こうか」
「まだまだこっからだろって言いたいところだったんだがな」
少し前ならそうしていた。
死んでもいい。そんな気分だった。だが、今の伏黒にはそれができない。新しく刻まれた暖かな呪い。その歪んだ呪いは、もう死なせてはくれないだろう。
「癪だがてめぇの話、のってやる。もうこれ以上ただ働きはごめんだ」
これにて天元様同化の案件は誰一人失うことなく幕を閉じる。
領域が光の粒となり解けると拝神崇は憑依も終わり、眠るように倒れる。
その後、夏油の拘束に特化した呪霊に大人しく拘束された伏黒甚爾と力を使い果たした拝神崇、同化の際に近くにいると影響があるかもしれない天内理子は、遅れながらもやってきた夜蛾正道に色々説明し、上の高専に保護される。
ことが終わり次第、伏黒は五条家に子供ともども匿われることになる。
五条悟と夏油傑の両名はその場に残り、天元様の変化を見届ける。
人の姿では無くなるものの、想定していたような人の脅威とはならず最悪の事態は免れた。
伏黒甚爾は呪詛師として有名すぎる。
これから拝神崇と同じように地下に潜る必要がある。それも二年以上は必要だろう。
それでも陽の光の下で生きることができる。
数年後、伏黒津美紀に叱られながら、ちんたら歩く甚爾と不機嫌そうにでもちゃんとついていく恵の伏黒一家三人仲良く墓参りに行く姿が目撃されましたとさ。