あれから一年が経った。
未来憑依の影響は縛りの十年寿命が短くなった以外で変わりはない。未来の技術を取り込めたり、超絶強くなれると思ったらそんなことはなかったらしい。
未来憑依をしていた時、あっちからはこちらの記憶を読み取っていたらしいが、こっちから何をしてどうしたのか、俺に受け継がれなかった。
未来の俺がパイセンズに話していたのは未熟な身体に色々詰め込んだら強くなる以前にただ壊れるだけだから封印するとのこと。
正直パイセンズでギリギリのラインだとか。
あと未来の俺は今の俺とは別ルートの俺らしく、フィジギフに素手で勝てる可能性がある俺を呼び出したらしい。その他にも色々なルールとかあったらしくてごちゃごちゃ言ってたけど、まるっと全て置いといて最終的にとりあえずシュタインズ・ゲートをやってねと布教された、とのこと。
まあまあ、いずれにせよ頑張り次第で俺もそっち側の力を手に入れられると確定した。十年命を燃やしたかいはあっただろう。
そう!然るべきときが来たら俺は覚醒するのだ!
そういうことにしておこう。
高専総監部は不気味なほど動きがない。
その中心にいた何か、恐らく名前を呼んではいけないあの人が跡形もなく姿を消したようだ。
見せていた尻尾も暗躍していた影どころか、僅かな塵一つまで全ての痕跡が消えていた。
俺がやったことがバレているのか、いないのか。
もうそれすらもわからない。なら今は置いておこうと思う。いずれ敵として現れるなら、それまでに強くなるのだ。
俺は無事呪術高専東京校に進学した。
共に入学を果たした同級生の伊地知くんことイジッチと任務に励む毎日である。
伊地知くんことイッチは戦力にこそならない(ごめんね)ものの調査、雑務、サポートにおいて優秀であり、その仕事ぶりはまさに堅実。にじみ出る苦労人の雰囲気は高校生どころか最早ブラックにお勤めな社会人(まじごめん)である。
その常識的で生真面目な性格、秀才で仕事をそつなくこなせて、俺や悟パイセンと上手く付き合える我慢強さとコミュニケーション能力。これほど信頼できる人間はいないだろう。
独断専行したり、アドリブで作戦を変えたり、巻き込まれた人間に対して人命救助や避難誘導よりドンマイ!とひと声かけて先に敵を倒すことを優先する俺と組ませると丁度いいと判断されたようだ。
いや、だってそっちの方が結果的に被害少なくなるんだよ!先手必勝!見敵必殺!攻撃こそ最大の防御なのぉ!
でもそのせいでいつも汗だくのイジチンが振り回される羽目に………すまぬすまぬ。後でなんか奢らせていただきます。
そんな感じの呪霊討伐や呪詛師の調査、特定の先輩からの無茶振りなんかをこなしているうちに高専で初めての夏が来た。
ただ期待していたようなキャッキャッウフフな夏にはなりそうに無い。
頻発する災害、後に失われた二十年と言われるほどの不況からくる不安感、宗教問題、詐欺増加、メディアやインターネットの普及と発達による情報伝達の高速化による恐怖の拡大。
不安で不信で不安定。まさに大後悔時代。
結果、呪霊が蛆のように湧いた。
だがしかし、パイセンズは最強になっている。
二人が各々に日本中を回って呪霊を祓ってくれてるおかげで被害は最小限に抑えられている。
甚爾さんが居てくれるのも大きい。
まだ潜っている最中で派手な動きはできないものの重要拠点の奥で座ってもらってるだけで安心感が半端ない。居るだけで拠点防衛なるエグい人である。
他の先輩達も自分たちが出来ることをできる限りやっている。
俺とイ・ジーチーもなんか力になれないかと任務の合間に日本各地の神話、伝説、伝承、風習、信仰、言い伝え、都市伝説を調べて呪霊発生の予測とその地域で生まれた呪霊の能力の予測を立てられないかと行動している。
ただ一つ大きな問題があるとすれば………。
傑パイセン病んできてることである。
呪霊は人間の負の感情の成れの果て。
そんなものが集まる場所は辛気臭くて陰気にも満ちていれば、その近くにいる人々もそれはもう関わりたくないイイ性格してるのが多い。
人身御供。村八分。口減らし。邪教。悪風。悪習。
人が多い都市部の他に地方で凶悪な呪霊が発生する場合、特級呪霊が封印されてるとかの特別な事情がなければ、呪いが溜まりやすく凝縮するような仕組みが出来ているところがほとんどだ。
個人にしても完璧な被害者の方々にはこっちも全力を尽くして対処するけど、被害者ズラした加害者とか珍しくない。
そのときはマジで虚無アンド虚無。正直放置してそのまま苦しめって吐き捨てて帰りたいけど、その他の善良な一般人様(笑)にご被害が拡大してはならないので仕方な〜く祓う。
こんなのを見せられ続けること無限回。
そして何より救いがないのは根本的な何かが変わらない限り永遠に終わりがないことだ。
まともな神経してる人なら人間不信待ったなしである。
悟パイセンみたいに天上天下唯我独尊がブレずに中心にあって基本的に人間という範疇にない人とか、俺みたいに善悪の区別も判断することもなく、他者に対して認識がぶっ壊れている人間だとか、甚爾さんのように御三家の呪術師として、その世界に生きれるように価値観から教育されている人間でもない。
術師としての責任を果たせ。
そんなもの俺達三人は鼻で笑うだろう。
呪術師は全。呪詛師は個。
呪術師は全体を生かすために戦い、呪詛師は己個人のために戦う。
それが俺の中での呪術師のカテゴリー分け。
だけど、皮肉にも呪術師の等級を上げれば上げるほど、その考え方が呪詛師に近くなって言ってるように思える。そういう感性の人間のほうが生き残るのかもしれない。
正しい人としての感覚を持ったまま怪物になってしまった存在。
それが夏油傑という男だ。
そりゃいつかはこんなときが来ますよ。むしろ予定調和ですよ。
いきなり特級として持ち上げられて、使命と責任を持たされた上で命がけの殺し合いをさせられ続ける。
今まで考える暇も無かったはずだ。
誰のために。
今更そんなことを考えるような人間らしい人間は等級を上げるごとにいなくなる。
傑パイセンは強くなった。
目をかけないと危ない悟パイセンも傑パイセンのおかげで一人で行動できるくらいは常識を身に着けつつある。
色々乗り越えて考える余裕が出来たのだろう。
元々高い視点を持ってる人だ。視野が広がってしまえば、そりゃあもう色んなものが見えてしまうだろう。
そこにあるのは終わりのない戦いを続けるしかない絶望的な未来。後ろを振り帰れば、こぼれ落とした死屍累々。足元を見れば死ぬかもしれない大切な仲間。
地獄のような道を歩めば夏油傑にはそれを変えてしまえる力がある。
そう。傑パイセンは今、人生の岐路に立っている。
自分自身の在り方。これから先の未来をどうしたいのか。どんな立ち位置で何をすべきなのか。
その答えを見つけようとしている。
俺がそれを多少なりとも理解のようなものができるのは、他者の世界に触れられる降霊呪術のおかげであの子達のおかげである。
「傑。ちょっと痩せた?大丈夫か?」
「………ただの夏バテさ。大丈夫」
「ソーメン食いすぎた?」
あのブルーアイズホワイト五条パイセン。
傑パイセンの様子がなんかおかしいことにほんの少しだけだけど気付いてはいるらしい。でも傑パイセンへの絶大すぎる信頼と対人サンプル少なすぎてこんな時どんな顔をすればいいかわからないのって感じである。乙女か!
かく言う俺も人でなしだし!どうしよう!なんて声かければいいのぉ!一肌脱ぎたいけどなんとかできる人間じゃないし傑パイセンに偉そうになんか言えないってぇ!
結論、うわーん!俺も乙女だったぁ!
そんな中、大きな転機が訪れる。
ばったりあった灰原雄パイセンと歩いていたら、先のベンチに傑パイセンが項垂れるように座っていた。
「あ!!夏油さん!!」
「灰原…崇」
「「お疲れ様です!!」」
コーラを奢ってもらいながら他愛もない会話をする。
「明日の任務、結構遠出なんですよ」
「俺もその任務に同行するんす」
「そうか。お土産頼むよ」
顔のやつれ具合い、無造作にまとめた髪、声色の低さ。
相当参ってるように見える。でも雄パイセンと話して少し元気が出たようだ。
「自分にできることを精一杯頑張るのは気持ちがいいです」
「そうか。そうだな」
やはり陽キャバワーか!
そうして現れたのは二人以外の特級。
「君が夏油君?どんな女が好みかな?」
九十九由基だった。
感想、高評価、お気に入り、誤字脱字報告等ありがとうございます。
IF編ももう少しで終わりそうですねぇ