オガミ婆の孫(本物)   作:スターリー

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雄パイセンは突然現れた美女の問いかけに間髪入れずに喜んで答える。ニッコニコである。傑パイセンに窘められながらも笑顔で会話を続けるその姿はマジの根明!

 

くっ、なんてコミュ力!なんてポジティブ!これが陽キャか!太陽過ぎて溶けそう!この人マジでムードメーカー!

 

こんな人が増えれば呪霊も減るだろうに。

 

なるほど。

人類陽キャ計画。呪霊はもう生まれない!!

 

………だめだぁ。先に俺が持たない!!

あと毎日お祭りやってそう。つらー。うん、無理だな。

 

んな馬鹿なこと考えているより、大切なのは目の前の特級。

情報がフィジギフくらい見つからないアンノウン。五条悟と夏油傑より先にそっち側にいた世界のバグ、あるいはチート。総監部でさえ彼女の情報を把握しきれていない。特級認定された術式の詳細が多分彼女が掛け合ったのか、力ずくで言うことをきかせたのか完全に消されている。どんな手段を使ったにせよ、それほど影響力がある人間とも言えるだろう。

 

そんな情報を脳内検索してて訝しんでるうちに雄パイセンは時間を見て「失礼しまーす」と元気よく言って明日に備えて居なくなるのだった。やっべ。

 

「俺は残るっすよ!特級二人の会話なんて見逃せないっすからね!」

「………特級?」

「そっちの君は拝神君かな?私の正体、バレてたか。………特級術師、九十九由基って言えばわかるかな?」

 

傑パイセンの口から思わず「アナタがあの…!?」と漏れる。「おっいいね!どのどの?」と嬉しそうに食い付く九十九さんに二人で口を揃える。

 

「「特級のくせに任務を全く受けず、海外をブラブラしてるろくでなしの…!」」

「私、高専ってきらーい」ハーア

(スネた…)

(スネたっすね)

 

「冗談。でも高専と方針が合わないのは本当。ここの人達がやってるのは対症療法。私は原因療法がしたいの」

「原因療法?」

 

その言葉はきっと傑パイセンにクリティカルな話題だろう。思わず目を細める。俺はしれっと九十九さんの隣に座って肘打ちの準備をしておく。

 

「呪霊を狩るんじゃなくて呪霊の生まれない世界を作ろうよってこと」

 

「!」

 

予想通り、傑パイセンはその話題に目を輝かせる。

 

「少し授業をしようか」

 

呪霊の成り立ちと生まれない方法。

全人類から呪力をなくす。全人類に呪力のコントロールを可能にさせる。

 

前者のサンプルとして挙げられたのは甚爾さん。

 

「彼を研究したかったが、フラれてしまってね。惜しい人を亡くしたよ」

(生きてますけど、黙っておこう)

(バリバリ生きてるぅ!でも教えなーい!)

 

甚爾さんの死(偽)によって九十九さんの計画は頓挫したようだった。九十九さんは話を続ける。

 

「知ってる?術師からは呪霊は生まれないんだよ。勿論、術師本人が死後呪いに転ずるのを除いてね」

 

その言葉の全てが傑パイセンの脳みそをギュルギュルと回転させる。

 

「大雑把に言ってしまうと、全人類が術師になれば呪いは生まれない」

 

駆け巡る記憶とこれまでに見てきた惨状、脳内に焼きついている地獄、嫌と言うほど分からされた人のドス黒い本性。

 

その口からこぼれ落ちたのは、本人ですら思ってもみないことだったはずだ。冗談のつもりで頭の隅に浮かんだことをそのまま発した。発してしまった。

 

「じゃあ、非術師を皆殺しにすればいいじゃないですか」

 

それに対する九十九由基の回答。

俺には分かる。そっち気質の人間だからだ。これはまさしく同族嫌悪。

 

恐らく九十九由基は肯定する。

感情や心情、あらゆる要素を抜きにして、事実としてある、思考実験の結果をありのままに伝える気だ。

 

夏油傑の心の状態など気にもせずに。

 

くらえ!エルボぉぉぉぉ!!

 

「夏油君。それはア、かはっ」

 

何をするんだ!とこちらを向いたときに一瞬のうちに九十九由基と交わしたアイコンタクトによる会話である!

 

「なに暗黒面に墜ちかけてる人に嬉々として奈落に蹴り落とそうとしてんすか!」

「私はただ思考実験の結果を!」

「俺が言うのもなんですけども!倫理観はどうした倫理観!」

 

と説得を試みたものの空振りに終わってしまう。

真実を捻じ曲げるのは彼女にとって許されない行為。絶対に譲れないところ。あり得ない選択肢なわけで………。

まあ、そのブレなさこそ特級になれる資質なわけだし。

 

「!?どうしました?」

「い、いや、何でも…ない。さっきの続きだけど非術師を皆殺しにするのは人道的な手段ではないけれど一番簡単な方法ではある…かな?」

 

ああ…オワッタ。

それ全然気遣ってねぇから!

 

「非術師を間引き続け生存戦略として術師に適応してもらう。要は進化を促すの。鳥達が翼を得たように。恐怖や危機感を使ってね」

 

人間関係が薄く、遠慮なく気遣うことなく、あけすけない。そんなある種一本筋の通った人間性を持った人だからこそ、夏油傑の心中を吐露させたのかもしれない。

 

「だが、残念ながら私はそこまでイカれてない。非術師が嫌いかい?夏油君」

 

誰にも言えなかった悩み。迷い。心の暗闇。

俺がここに居ても構わず話すのは、俺の呪詛師としての一面を理解しているからだ。それがなかったらここで緩むことは無かった筈だ。後輩が見ているから、と。

 

逆に言うとそれほど、追い詰められている。

 

「分からないんです。呪術は非術師を守るためにあると考えていました。でも最近私の中で非術師の…価値のようなものが揺らいでいます。弱者故の尊さ。弱者故の醜さ。その分別と許容ができなくなってしまっている」

 

先生、親友、先輩、仲間、後輩。

その、善意を、信頼を、裏切れない。

だけど、自分ではもう制御が効かないほどに、心が冷えて壊れて死んでいく。頭や心臓に響くような痛みを幻視するほどに。

 

「非術師を見下す自分。それを否定する自分。術師というマラソンゲーム。その果てのビジョンがあまりに曖昧で何が本音か分からない」

「どちらも本音じゃないよ。まだその段階じゃない。非術師を見下す君。それを否定する君。これらはただの思考された可能性だ。どちらを本音にするのかは君がこれから選択するんだよ」

 

改めて、終わった。

あー、闇落ちルート確定や。はいはい日本沈没、完。ワロエナイワロエナイ。

最強二人が国割りか〜、激アツじゃ~ん。どっちに賭けようかなぁ!

 

いひひ。もう、どうにでもな〜れ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、次は君の意見を聞こうか。拝神君」

「はえ?」

「君はどう思った?」

「まあ、そりゃあ二人の発想は俺にとっちゃぶっちゃけあり得ないっていうか、何言ってんって感じっすけど」

 

原因療法とかそういう話をしていたけど。

そもそも医者だけが頑張っても患者も頑張らないと意味が無い。医者と患者はセットで互いに努力があるからこそ未来があるのだ。

 

今はその段階ですらない。

医師は一部の人間しか治そうと考えず、患者は自分で自分の首を絞めてるのにその自覚すらしていない。むしろ医師が積極的にそれを隠蔽している。

 

今の状況はクリーンでもなければフェアでもない。

まさにクソだ。

 

そんな状態で二人が何かしたところで独り善がりのオ◯ニーだ。自分が気持ちよくなるだけで誰も救われないし報われない。

 

どれだけ大きな想いがあって、壮絶な覚悟を持って、他人には計り知れない使命にみちていても、結局シャアの反乱やルルーシュの反逆、エレンの暴走の二の舞いだ。

 

「あははっ!ぶった斬るねえ!じゃあ君はどうするべきだと思う?」

 

呪力を無くす、コントロールする。非術師を皆殺しにする。

 

「二人が言ってるのは可能性を殺すような話ばっかじゃあないですか。俺に言わせたら、ロマンにかけるってやつっす」

 

どうして未来で夏油傑の計画には乗り気でなく、羂索の計画にはがっつり乗ったのか。その答えは子供の頃から変わっていない。

 

夏油傑は術師だけの世界を作ろうとしていた。

羂索は人の可能性を押し広げることで人を次の段階に進めようとした。

 

拝神崇は、羂索の思想などどうでもいいが現状を破壊する部分に興味があった。

 

羂索は自らの手から離れた混沌から生まれるものにこそ価値を見出している。

拝神崇はその手前、混沌そのものに、その状況にこそ、価値があると判断した。

 

巻き込まれる犠牲は大きいだろう。宿儺や特級呪霊のような課題も尽きないだろう。

それでも、それを乗り越えた先に今よりもずっと多い選択肢が広がる。公に明かされた術師と非術師の関係。その未来をどうすべきか、本当の意味で公平に議論できる土台が作れる筈だ。

その可能性に賭けた。いや、その未来を信じている。

 

だから、拝神のあの時点での役割は目に見える拾えるものをすべて拾って未来に連れて行くことだった。漠然としたものだったが、無意識でそう動いていた。呪詛師だって大切な可能性なのだ。

 

「呪力というエネルギー。その悲劇を人類が生み出したなら、人類全体で考えるべき問題だと考えるっす。扱えるってだけで先輩方だけが抱え込んで考え込む事自体が間違いだって俺は勝手に思ってるっす」

 

エゴだよそれは!ってやつだ。

 

傑パイセンが大量殺戮の悪役になる必要も、九十九由基が導きの救世主になる必要もない。その重みは人類全体で抱えるべきものだ。

 

「呪力による人類の進化も衰退も、繁栄も滅びも人全体が考えて悩み抜いて選んだ先にある結果であるべきだ。誰もが選んだ未来であればそれでいい」

 

たとえそれが悲劇であっても。

 

たった一人の天才が導く世界なんて許さない。

考えもせず、周りに流されるままに責任をそいつ一人に押し付けるなんて、そんな無責任をしちゃいけない。

 

善良な一般人?無垢な市民?関わりのないその他大勢?

 

全員まとめて当事者にしてやる。思考停止なんてさせてやらない。見て見ぬ振りをしないし、させてもやらないのだ!

 

より具体的に、九十九由基は尋ねる。

 

「それは私達の存在を公に認めさせるってことかな?」

「そっすね。簡単に言えばそんな感じっす」

 

傑パイセンも真剣に考え始める。

 

「…だが、そうしてしまえば、呪霊の増加は避けられない。それにこれまで隠すことで守られていた術師への偏見や迫害、差別なんかも出てくるはず」

「最初だけっす。人は慣れる生き物っすから、慣れれば自然と呪霊の数は減るはずっす。それに科学が発展してる今なら大昔のような混乱にはならないはずでしょう」

 

今の災害だって、ネガティブでいると呪霊が発生してしまうからポジティブでいよう、なんて人が少しでもいてくれていれば呪霊の数はかなり違ったはずだ。

 

「それに術師だって、それを守るために俺達がいるんじゃないすか。逆に今まで他とは違うものが見えている、自分はおかしいと思い込んでいた子達には救いになるはずっす」

 

ただの答えの先延ばしかもしれない。

より悪い未来に、結果になるかもしれない。

でも、期待したって良いはずだ。人には自浄作用があることを。

 

「今の呪術界は臭いものに蓋をすればそれで解決したと思ってる。汚いものを誰かに押し付けてそれで良いと思ってる。星漿体や天元様のような犠牲を見て見ぬふりをして」

 

小さい頃から感じていたのは、圧倒的な異物感。

世界からの重圧と迫るような圧迫感。

血濡れの手を隠しながら裏路地から見る輝かしい外の世界を見るたびに、その世界を嫉妬せずには居られない。

 

「不公平だ」

 

呪術規定があることだっておかしい。

呪詛師も含めて術師にはまるで人権がない。

もしも、呪術師が公に認められていて、呪詛師を裁く法律があったなら、拝神崇は早いうちに保護されて誰かを殺さなくても良い世界だってあった筈だ。

 

そんな絵空事を瞼の裏に描かずにはイラレナイ。

 

「理不尽だろ」

 

どんなに不道徳で、非人道的で、倫理観に反していても、強くて強がって壊れていたってちゃんと心がある人間。

奥底にふつふつと溜め込んでいた怒りが爆発する。

 

「ふざけんなよ!」

 

俺はもう涙すらでて来ない。そんな奴らが一体どれほどいると思ってるんだ!

 

「なんでそんな零か百かみたいな呪力無くしたり、非術師ぶっ殺すとか、そんな極端に全部解決しようとするんですか!それより先にするべきことがまだたくさんあるはずでしょ!」

 

それはきっと拝神崇の悲鳴だった。

九十九由基と夏油傑は目の前にいる子供の、見てきたであろうその重さから目を離せない。

 

「俺は二人の思想なんて道端に落ちてるゴミほど価値を感じない。お前らが勝手に決める未来なんてクソ喰らえだ!未来は今生きる人間が、一人ひとり明日を思って決めるべきだ」

 

淘汰ではなく、互いに尊重と尊敬を。

否定ではなく、互いに許容と共有を。

排他ではなく、互いに区別と線引を。

 

その上で自分自身を信じること。

 

「とりあえずMGSやってザ・ボスの思想をインストールしてきてください。俺はその『ありのままの世界』がいい」

 

 





正直、うまく纏まりませんでした。

未来の拝神は「夜蛾んとこのパンダみたいなのが非術師のガキに混ざって普通の学校に行く世界って最高にクールじゃん?」って略します。

第三勢力を率いる上で、とりあえず掲げるもの的なやつです。

え?先送りとか先延ばしで呪力をどうするかの答えにはなってない?

まあまあまあ。まあまあまあまあ。

いやー、ね。そこはほら、頑張れ未来!的な?

そ、それより頑張れ拝神!夏油の思想をすげ替えるんだ!生存フラグぞ!
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