その日、珍しく傑パイセンと任務が一緒だった。
山に囲われた盆地にひっそりと暮らす集落で、良くも悪くも閉鎖的な村だった。
漂う陰な雰囲気。
これは……嫌な予感がしますねぇ。
外から人を呼んでなさそうな獣道からして不吉である。村の看板、怪談に出そうな錆びれ具合いなんですけど…。
この村の重役に会って移動中、ジロジロひそひそとあからさまな忌避的なムード。嫌悪を越えて、何やら攻撃的な意思まで感じる。
この村人達の目を見ると疑心暗鬼になってるような、外部からの人間を信用しないというすり込みが入ってるような虚ろな目をしている。
やばい、人間関係終わってるタイプの村かもしれない。二人は同時にため息を吐く。経験上、この手の予感を外したタメシがない。
「よし!行こうか」
「了解っす」
ずいぶん誇張された被害届で来てみれば、予想通り大したことはなく、もう呪霊も倒したというのに話を聞けと騒ぐ話を聞かん有象無象。
傑パイセンがにこやかに対応する、がよく見ると頬が引きってますね。
話をまとめると、なんと何も知らんくせに自分たちで原因を捕まえているとか抜かして案内しだした。
そもそも見えてねぇだろ!ばーか!ばーか!
先導する村人二人が道案内に夢中でこっちが見えてないうちに変顔プラス中指立てて煽っておく。傑パイセンは止めなさいと一応止めるもののその力は弱い。
パイセンもやりましょうよ!ほらほら!
え?やらない?
そっすか、残念っすねぇ。
たどり着いた場所は昔ながらの家屋の中に木で作られた牢屋の前だった。
そういえば、昔の大きな商家の屋敷には座敷わらしを閉じ込めることでその家を強制的に繁栄させるまじないがあったそうな(伊地知調べ)。
そこにはどう見ても人影が…。
はーい、村人のパターン青でぇす!
「これは、なんですか?」
「…………」
そこにいたのは、閉じ込められた双子の少女だった。
うっわ出たよ!
おい村人コノヤロー!やっぱりこの手のやつじゃねぇか!こいつ等ゴミでぇす!
「なにとは?この二人が一連の事件の原因でしょう?」
「違います」
「この二人は頭がおかしい不思議な力で村人を度々襲うのです」
「事件の原因はもう私達が取り除きました」
「……………はぁ。パイセン、こんな連中に何言っても無駄じゃないすか?」
まだ幼い子供だ。
なのに、見るからに暴力を振るった痕跡が見られる。あからさまな恐怖と怯えと警戒心が見て取れる。
これまでに散々罵られ酷い目に遭わされたのだろう、二人ともお互いに庇うように身を寄せ合って震えていた。
「私の孫もこの二人に殺されかけたことがあります」
「それはあっちが―――」
「黙りなさい!化物め!」
「あなた達の親もそうだった!!やはり赤子の内に殺しておくべきだった!!」
その軟禁されている姿は俺のトラウマを刺激するには十分で、心のなかにカッと熱が灯る。心から溢れ出す不快感。そこから殺意に変わるのに時間はかからなかった。
よし、こいつ等を殺そう。漏れなく鏖殺しよう。
そうすれば、この苛立から開放されるし、ワンチャン俺のトラウマも消えそうじゃん?
それは良い。とてもとても気分が晴れそうだ。
最近忘れていたけど、俺、そういう人間だったわ。
「黙るのはお前らだよ。そのクセェ口、閉じろよ」
まず二匹。その首を落とそうとすると傑パイセンに腕を掴まれて止められる。同時に被害が及ぶ前に呪霊操術の呪霊が村人二人を気絶させて安全な位置まで運ぶ。
「崇。相手にしなくて良い。この子達を高専で保護するのが先だ。もう帰ろう。みんなのところに」
傑パイセンの口から出てきたのは、予想外にもそんな生優しい言葉だった。
ばっと振り向いて目が合うとまっすぐこちらを見ている。以前は常識的な正しさが中心にあって、少なからず呆れや若干の軽蔑のようなものがあったがそれがない。
「………はぁ。この前まで非術師を皆殺しにするとか言ってませんでしたっけ?」
「ゴメン。気が変わったんだ。沢山の人の話を聞いて、もう少し考えてみることにしたんだ。今は色んなことをもっと知ることから始めようと思ってる」
私はまだ何かを判断するには見ていないものが多すぎる、と。
ええ?
急に大人やんけ。
思わずこっちも冷静になっちゃった……。
そう言えば産土神事件の後、大人の俺がなにか言ったらしい。ふむ。流石俺。気を利かせて持ちうる善性を全面に出して、そういうロールプレイをしてくれたらしいな。グッチョブ俺。さぞまともな大人になっていることだろう!(フラグ)
おかげで体調もよく見えるし、陰りも減った。ただ以前より増してよく考え込む様になった。
それでも少しは余裕が生まれたのだろう。
術師の仕事を程々に実家に帰省してきたり、九十九さんと連絡も取っているらしい。
更に最近では悟パイセンと青春の殴り愛をしていた。互いの本音とか腹の底にためていた物をぶちまけたらしい。
まあ、引き換えに修練場が隕石が落ちた跡みたいになって使えなくなったけど。
「しゃーなしっすね。了解っす。この子達の怪我を治すほうが大切っすからね」
「ああ。そうしてくれると助かるよ」
牢屋を破壊して二人を助ける。
目線を合わせて敵じゃないよとパイセンとアピールすること数分。信頼を得ることが出来た。その傷を反転で治しつつ話を聞く。美々子と菜々子って名前らしい。
双子は俺が抱えて村人から守りながら出ていくための荷造り。傑パイセンはこの子達を引き取るために村長との交渉をしに行った。そう時間は掛からかった。むしろ喜ばれたくらいだ。
そして、とっとと退散。二度と来るかこんなとこ!
村の外に迎えに来ていた補助監督の車に乗りながら今日のことの愚痴を言い合う。ちなみにミコナコはぐっすりおやすみタイム突入である。ガチ寝だ。わかる。車の中って眠くなるよね。
「なぁんか、大人になっちゃいましたねぇ。あーあ、非術師皆殺し宣言してる傑パイセン、なかなか面白かったんですけどね〜」
「あー、そのことなんだけど、それみんなにはナイショにしてくれないかい?」
「つまり、何でもすると!?」
「言ってないね」
「つまり、世界の半分を!?」
「誰が魔王だ誰が」
「いや、能力的に魔王っすよ。本体が一番強いところまで完璧っす」
「フフフ、ああ、たしかに。今なら第二形態に成れそうだ」
「すんませんした!何でもありません!調子乗ってすんませんした!」
「それで、どうする?」
「ならコンビニでハーゲンダッチュパーチーで!」
「わかった」
みーこなーこが起きたとき、目の前に出現した宝箱を開けて幸せそうに頬張ってましたとさ。めでたしめでたし。
その後、その村はこちらが手を下すまでもなく、瞬く間に人口が減り、呪いすら産まれずに日本地図から消えた。
所詮その程度の存在だ。
俺も早く記憶から消そ。
それから数日後、五条家での出来事。
傑パイセンは大忙しだし、書類が必要な現実的問題もあるし、子供の美々子アンド菜々子を高専の寮に住まわせるなんてもっての外だろう。
夜蛾センは夜蛾センで色々抱えてるから頼みづらいのである。
結果、大親友五条悟に相談。
「あ?別にいいけど?」
と、二つ返事。
悟パイセン、そろそろ五条家の家老が泣くと思うんだ。流石に当事者本人の説明なしはアレだろうと五条家にみんなで帰ることに。
五条家は悟パイセンのワンマンチーム。
最近反転も習得して元々ダダ甘えだったのに更にゲロ甘に。
だがしかし!
今回の話を聞いて、流石の家老もキレ……ることはなく、何とか飲み込んで冷静に受け止めていた。
パイセンズが話し合いのために奥へ行ってる間に俺はミミンとナナンを伏黒一家に顔合わせである。
「その、私は伏黒津美紀って言います。よろしくね」
「私は枷場菜々子、よろしく」
「美々子です」
と最初はどっちもおずおずと会話していたもののすぐに打ち解けて、女三人寄れば姦しいとはまさにその通りでキャッキャッウフフと話ながら襖の奥へ消えて行った。
伏黒一家の中で恐らく最も精神的に強い存在、パッショニスト津美紀と村の悪意を跳ね返し戦い続けた不屈の双子、デュエリストミミナナ。
強い女三人、合わないはずがないのだ。
残った伏黒親子と俺の男三人はちょっとモンスターを狩りながらパイセンズを待つことにした。
パイセンズの方から話が漏れ聞こえてくる。
過労は…家老は二人に対して美辞麗句を並べたあとに本題に。要約すると、ここは託児所ではないと主張していた。
思わず筋肉が声を漏らす。
「それ、俺は入ってねぇよな」
「「入ってる」」
恵が聞いてくれ、親父が酷いんだ!と雑談開始。
少し前のことである。
天与の暴君が珍しく立派なくしゃみをした。
「おい恵。くしゃみが出た。ふっ、初めて風邪引いたかもな」
「なんで嬉しそうなんだ。そんなことよりクソ親父。これどうすんだよ。絶対姉さんにキレられんぞ」
フィジギフ、ただのくしゃみで五条家のふすまをぶっ壊す。
「あー。ああ!そーだ、ちょっと急用を思い出した」
「おい!ちょっと待て!逃げる気だな!ふざけんな!どうせ用事ってギャンブルだろ!!」
「なんだ、興味あんのか?しょうがねぇな。オマエも連れてってやるよ。そういや生姜焼き、好きだったろ。帰りに食わせてやる」
「ギャンブルになんて興味ねーよ!ちょっ!離せ!!俺は関係無いだろ!自分でなんとかしろよ!」
「そんなツレないこと言うなよ。共犯♪共犯♪」
と、二人でデートをしたあと津美紀ちゃんにしっかり叱られたそうな。
「ひどくないですか!!」
なんだかんだ仲の良い親子の一幕じゃねぇか!
「あれは不可抗力ってやつだ。最近、お前らの相手することになったろ」
この術師殺しはパイセンズ、時々俺に体術指南をしてくれている。いつもボッコボコである。
ちなみに天元様同化事件以降割と真面目に鍛え始めて、最近では天元様にも結界術を学ぶようになってますね。
「それで少し筋トレしただけだったんだがな。その成果ってやつだ」
「いや、戦闘力バク上げすぎん?フリーザかよ……。で?風邪引いたの?」
「残念だが死ぬほど元気だ。まっ、誰かに噂されてたんだろ。パツキンのネーちゃんとかにな!!」
はっ!?
(生きてますけど、黙っておこう)
(バリバリ生きてるぅ!でも教えなーい!)
なるほど!あんときだな。うん。間違ってないよ!
あっちも狙ってると思うよ………実験台として。
そんな馬鹿話をしているとパイセンズが帰ってきて、輪に加わる。あっという間に賑やかになって、そして何故かどこからか話の流れで他の高専メンバーも呼び出してみっみとなっなを紹介しながら五条家で大BBQの始まりである。
どんちゃん騒ぎをしながら、こうしてみんなと笑い合う。
そんな大切な時間を俺達は勝ち得たのだ。
その数週間後、夏油傑はみんなを高専に集めた。
伏黒一家に冥冥さん、勿論夜蛾先生も。中には九十九さんまで来ていた。そこで死んだ筈の天与の暴君と再会して悲鳴を上げてたのは御愛嬌。ミミナナは家入硝子と庵歌姫の膝の上に座って夏油傑を目で追っている。
集まったのを見計らって、夏油傑はみんなの前に立つのだった。
色んな人に相談して、いっぱい悩んで、考えに考え抜いて、遂にその答えを出した。
やらない選択肢だってある。何もしない道を選んだって誰も責めやしない。
それでも夏油傑は動かずにはいられない。
大切なものを守りたいという根底にある願いがその歩みを止めることを許さないからだ。
だから、覚悟を決めた。
「伊地知」
「は、はい!」
もしかしたら今より状況が悪くなるかもしれない。
「歌姫先輩」
「なによ」
見たくないようなものを見続けるかもしれない。
「七海」
「はい。どうしましたか?」
それでもきっと、みんなと一緒なら………。
「灰原」
「うっす!」
ジメついた空気を吹き飛ばすように爽やかな風が吹く。
「崇」
「うい!」
もうすぐ夏が終わる。
「硝子」
「ん!」
涼しい風が通り過ぎて、やがて木々が赤々と色づいていくだろう。
「悟」
「あいよ!」
たとえ、世界を真っ白に染め上げるような辛い別れの季節がやってきても。
「私の話を聞いてほしいんだ」
俺達の青はまだまだ続く。
次回、簡単なエピローグでIF編終了です。
ありがとうございました!(まだ早い)