懲りずに絡ませようとする俺をどうか許さないでくれ……
――依頼内容を確認するわ。
依頼主は、反スペーシアン組織“フォルドの夜明け”。
目標は彼らの拠点の一つ、廃工場の防衛よ。
……知っての通り、現在、反スペーシアン組織はベネリット治安維持部隊に対して敗走を繰り返しており、このままでは非戦闘員に甚大な被害が出かねない。
この辺りで一度、連中の気勢を削いでおきたいのでしょうね。
これまでの記録から敵MSはザウォート・ヘヴィ及びハインドリー・シュトルムの混成部隊が予想されるわ。
対して、友軍はプロドロス四機。武装も旧式実弾兵器と実体剣くらいしか無い。基本的には彼らを守る方向性で動いてちょうだい。
……そろそろ作戦領域に到達するわ。
――幸運を、
――焼けるほどに恋焦がれる戦場にいた。
――地下世界で自由を求める“夢”を見た。
――火星で管理を望む者を滅ぼす“夢”を見た。
――地下世界で管理から巣立つ“夢”を見た。
――汚染された地上で戦い続ける“夢”を見た。
――荒廃した世界で全てを破壊する“夢”を見た。
……されど、それらは全て“夢”であり今この場に在る自分の世界とは異なる歴史と未来があった。
或いは――
……物思いに耽っていた意識は、機体を揺らす振動によって現実に連れ戻された。
モニターを見れば既に地上に立っており、先の揺れはおそらく輸送ヘリからの投下による着地の衝撃だ。
どうあれ、今は目の前の仕事に集中すべきだろう。
俺はコンソールを弾いてシステムを切り替える。
直後、コクピット内に無機質な音声が響く。
『メインシステム、戦闘モードを起動します』
地球駐留部隊の面々にとってはなんて事はない仕事のはずだった。
反スペーシアンを掲げ、過激なテロ行為を繰り返す武装組織。
ベネリット他スペーシアン企業が齎した秩序を脅かす薄汚いテロリストども。
搾取される側でしかないアーシアン風情が、生意気にもMSを持ち出して選ばれた民たるスペーシアンに牙を剥いている。
彼らの認識はそんなものだった。
無論、中にはアーシアンに差別的でない隊員もいるであろうが。それらが圧倒的マイノリティに分類されるのは明らかであった。
とはいえ、彼らも戦闘を生業とする兵士には違いない。作戦に臨むにあたって多くの者たちが気を引き締め、敵勢力への警戒を怠ってはいなかった。
……彼らにとって誤算だったのは、この戦闘において敵方には“より優れた戦士”が付いていたことだ。
『攻撃目標を確認、これより作戦を開始する。各機、フォーメーションを組め』
MSフライトシステムたるティックバランに搭乗した“七機”はそれぞれの配置へと移動する。その直後――
『うわっ!?』
声と共に一機のハインドリー・シュトルムが爆発した。
「何があった!?」と声をかける前に、今度は鋭い金属音と共に傍のザウォート・ヘヴィがコクピットに歪な風穴を空けていた。
それを見た指揮官はすぐさま“空中での不利”を悟り、各機へと指示を飛ばし地上へと降下する。
「くそっ、どこにいやがる――」
廃工場手前に位置する森林地帯へと降下したザウォート・ヘヴィのパイロットの一人が、レーダーに目を向けながら周囲を索敵したその刹那――
――目の前まで迫った“機体”を視認した。
不明機体は、ザウォート・ヘヴィのコクピット辺りへ
“電撃”を迸らせた銃身から高速弾が撃ち出されパイロットは即座に肉塊と化した。
脱力して地に倒れ伏す同僚の機体を見てようやく“敵”を捉えたベネリット部隊は、不明機体へと攻撃を開始した。
ザウォート・ヘヴィは手持ちのビームガンと背部ビームキャノンで、ハインドリー・シュトルムも同様に手持ちと背部ビームキャノンを併用する。
圧倒的弾幕を前に、いつもの旧式MSであれば即座にスクラップとなるはずであった。ともすれば過剰なほどの火力であると。
しかし。
「っ、なんだこの機体!?」
不明機体は降り注ぐビーム弾幕を前に、一歩も怯むことなくそれらを掻い潜ってきた。機体を僅か逸らすことで躱し、それでも避けきれない場合で左右前後に高速移動する。
そうして一番前に出ていたシュトルムの腹部へライフルを押し付けようとして、
「舐めるな!」
左腕で振り払われた。その隙にシュトルムは右腕のビームライフルを構えようとして、
見ればその腕には重厚な盾のような装備の隙間から
「は?」
その行動に疑問を感じた直後、パイロットは“激しい爆発”と“鉄杭”に粉微塵になり、機体上半身は爆発四散した。
おかしい、と指揮官は訝しんだ。
事前の情報では敵MSは旧式の装備しか所持しておらず、実体剣にさえ気をつけていれば容易に制圧可能な戦力しかなかったはずだ。
まず、敵武装は情報より遥かに強力だ。
いくら零距離とはいえ、ザウォート・ヘヴィが実弾の一撃でコクピットを撃ち抜かれるなどあり得ない。
次いで、“精密射撃”。
こちらがロックできない距離からバズーカのような一撃を正確に叩き込んだ。幸い、シュトルムを全壊させるほどの火力ではなく、半壊した機体で既に立て直して今は不明機体の迎撃にあたっている――
――いや、今しがた零距離射撃でコクピットを撃ち抜かれた。
これでこちらは後四機。まだ十分に勝機はある、なにせ相手はたった一機だ。
流石に不明機体の撃破後に廃工場を制圧するのは危険だが、撤退するにしてもまずこの不明機体を墜とさないことにはままならんだろう。
そこまで考えたところで、不明機体からミサイルが放たれた。
「っ!!」
だが、ただのミサイルではない。左右から回り込むような軌道で二対のミサイルが部下のザウォート・ヘヴィに向かう。
『くっ!』
しかし部下もそれなりの戦場を経た勇士だ。
前進することでミサイルを回避、接近して不明機体を叩こうとして――
――先んじて前進していた不明機体によってあの“鉄杭”を撃ち込まれた。
『ふざけやがって!』
残った部下二人が、シュトルム、ザウォート・ヘヴィでそれぞれに必死で迎撃する。無論、私もビームライフルで迎撃しているのだが。
なぜ、当たらない?
曲芸のような動きはまだいい、あのくらいならできるやつもいるにはいる。
だが、あの変態的な回避行動は解せない。
ブースト移動から逆方向へと高速で移動するあの動きは並みのMSの動きではない、或いはデータで見たGUND-ARM……なによりあんな動きをしてパイロットが無事でいられるわけが――
突如、不明機体がこちらに向けて背部のキャノンを放った。着弾と共に発生した凄まじい衝撃と爆発からして最初の一撃はあれだったのかと理解する。
『なんだ、なんなんだよコイツは!?』
爆発によって発生した煙で視界を塞がれた状況にパニックとなったシュトルムが武装を乱射するが、すぐに静かになる。レーダーを見れば機体反応が消失している。おそらくあの零距離射撃で墜とされたのだ。
私はすぐに煙から抜け出し盾を前面に構えて敵機を待つ。
……一、二秒ほどして煙の中からザウォートが現れた。
『た、たいちょ――』
言葉は最後まで紡がれることなく、激しい爆発と共にコクピット付近から鉄杭が生えた。
爆炎を背に、串刺しにした機体を掲げて佇むその姿は――
「悪魔……」
重厚なバイザーを装着した頭部、薄汚れた白い機体はよく見れば“スクラップの寄せ集め”にも見える。
だが、間違いなく“高性能機”だ。
いったいどこからあんな機体を?
いったい誰があんな機体に?
疑問は数多浮かぶがそれらは今考えることではない。
ベネリットグループ御三家に数えられる大手企業が手掛けた正規のMSが、それらで組まれた七機の部隊が、アレ一機に壊滅させられた。
異常事態どころの話ではない。
「急ぎ報告を――」
本部へデータを送信しようとしたところで不明機体が動いた。
「くそっ!」
すぐさま愛機ハインドリー・シュトルムのビームライフルを撃つ。
対して不明機体は、あろうことかザウォートの残骸をこちらに投げてきた。
ブースト移動でこれを回避、すぐに不明機体を探す。
「っ!」
敵は空中にいた。すぐにライフルとキャノンを構える、だがこちらが撃つよりも先に相手の二連装キャノンが火を噴いた。
「ぐわっ!」
慌ててシールドで塞いだものの、その衝撃は凄まじくシールドと共に左半身は吹き飛び、機体は大きく後ろによろめく。
なんとか転倒を防ぎながら冷静に頭を働かせる。
敵は空中にいた、軌道からしてこちらに接近するつもりだ。
ならば迎撃するのみ。
爆煙に視界を奪われながらビームサーベルを引き抜いて、見えないままに前方に振り抜いた。
……空振り。
直後、ガチャンという音と共に背中へ何かが押しつけられた。
「ば、化け物め……!」
その言葉を最期に、彼の意識は衝撃に呑まれた。
『目標の全滅を確認。お疲れ様、レイヴン』
オペレーターの通信を聞き届けながらも俺はまだ昂りの中にいた。
……まあ、
あのビーム兵器も脅威だ。
直線だけでなく薙ぎ払うように照射可能なのは純粋に羨ましい。
……などと考えを巡らせてみるが、未だ興奮が治らない。
血と硝煙、命を削り合う闘争の中にあってこそ俺は俺でいられる。
幾度も“戦場”を経験してようやく悟った自分の本質。
俺は、闘争を求めている。
『メインシステム、通常モードに移行します』
戦闘を終え、システムを切り替える。
そこでようやく気持ちも落ち着いてきた。
『……レイヴン、先方から暗号通信が入ってるわ。どうする?』
俺は首肯した。既に敵影はなく、増援が確認できていないことから今日は打ち止めだろう。
『わかったわ、ちょっと待っててね』
その言葉の後、少し間を置いて通信が切り替わる。
『独立傭兵レイヴン、噂に違わぬ見事な戦いぶりだった。まさかベネリット部隊を相手に一方的に勝ってしまうとはな、想定以上の実力だ。護衛対象も無傷、報酬にも色を付けておこう』
随分と太っ腹だな。反体制組織がどこからそんな資金を持ってきたのか。
まあ、報酬が増えるなら文句はない。
『……ついては、一つ提案なのだが。こちらの専属傭兵になる気はないか?』
その言葉に思わずピクリと反応する。
『独立傭兵の立場は私も理解しているつもりだ。スペーシアン企業の殆どが私兵として強力なMS部隊を抱える昨今、奴らからの雇用は皆無と言っていい。加えて、ベネリットグループにはカテドラルもある。
……対して、こちら。アーシアンには需要しかない現状だ。また、出どころはまだ明かせないが金払いのいいスポンサーも付いている。
……そちらもアーシアンなのだろう?
ふむ、一理ある。
傭兵たる俺は無論のことこれまで様々な勢力から依頼を受けてきた。
だがその全てが“ベネリット”に敵対する者たちだ。
ベネリットグループに属さない企業、別のグループに属する企業たちからベネリットの妨害に雇用されてきた。それらスペーシアンの中にはあからさまにこちらを舐めた態度と依頼を送ってくる奴もいた。仕事と割り切っているが、気分が良くないのも確かだ。依頼内容の虚偽を行った企業に対しては恨みさえある。
他の反スペーシアン組織に雇われることもあった。
だが、彼らは総じて資金不足であり、依頼の難易度に対して報酬が心許ないことが殆どだった。
ではどうするか――
そちらの報酬を見てから決めよう、と返答する。
『まあそうなるな。なに、すぐに決める必要はない。だがこちらには十分な報酬を払う手段があることを覚えておいてくれ、ではまた味方として会えることを期待する、レイヴン』
再び通信が切り替わり、オペレーターの声が聞こえてきた。
『フォルドの夜明けからの誘いは後で考えることにして、今はひとまず帰還してちょうだい』
首肯しつつ機体を反転、回収地点まで機体を発進させた。
俺には記憶がない。
……いや、“夢”と認識している不思議な記憶はあるが。今この世界における記憶が欠落しているのだ。
気づけば“彼女”と共におり、言われるがままに用意された『AC』に搭乗し依頼として数多の戦場を駆けてきた。
無論のこと、この事について“彼女”へ聞いたこともあった。しかし、“彼女”は答えることなくいつものらりくらりとはぐらかされてきた。
……まあ、俺も戦場以外に興味はないのでいつしか疑問を抱くこともなくなっていたが。
俺にあるのはACの操作技術、そしてこの“闘争心”だけだ。
「レイヴン、そろそろ落ち着いた?」
拠点のソファで寛ぐ俺に、長い黒髪の女性が声をかける。
彼女こそ俺の“オペレーター”、そして俺がこの世界で生きていくための全てを用意してくれた人だ。
彼女の問いに首肯しつつ手に持っていたカップを置いた。
「ならさっきの誘いについて、話し合いましょう」
言って対面に座る彼女。
……ただ、まあ。話し合うと言っても俺には政治がわからぬ。
“俺にできるのはACで敵を殺す事だけだ”、そう告げる。
「そんなこと言わないで。貴方が依頼をこなしてくれるおかげで私も暮らしていけてるのよ」
そんなことはないだろう。
俺が買っているACパーツだって、彼女が持つ独自のパイプから横流ししてもらっているものだ。
ざっと確認できるだけでもジオ・マトリクス、エムロード、ミラージュ、クレスト……いったいどれだけの人脈を持っているというのか。
ちなみにどれもベネリットに属さない、それなりの規模を持つ企業たちだ。彼らからの依頼ももちろん受けてきた。
話が逸れた。
つまり、彼女には複数企業へのパイプがありそこから依頼なりACパーツなりを買い取れるほどの力があるということ。
また、彼女はハッキング能力がずば抜けている。オペレーターよりもハッカーとしての腕の方が優秀なくらいだ。
過去にはベネリットグループから機密情報を引っこ抜いて他所に売っぱらったりもしてた。流石に最近はベネリットもセキュリティを強化しているためにそんなことはしていないが。
あと、ポエムが上手い。
これだけ優秀な人物だ、どの企業にも引く手数多なはず。
そんな彼女がなぜ俺と共に独立傭兵などという割に合わない仕事をしているのか?
……一応、彼女の“目的”については過去に聞いている。だが、俺の足りない脳みそでは表面上の意味しか分からず。たぶん、彼女の真意には一ミリも辿り着けていない自覚はある。
ハクティビズムによって齎される“自由”。
それが彼女の行動理念らしい。
ふむ、まったくもってわからん。
ぼんやりとそんなことを考える俺を他所に、彼女は真剣な表情で先のスカウトの件について話し始めた。
「……私は、乗ってみてもいいと思うわ。
これまで私たちはそれなりに活動してきたつもりよ、でも世界は……現実は何も変わらなかった。結局は私たちも企業の駒でしかない。
なら、一度。一つの組織に属してみてもいいと思うの。私の調べた限りでは彼らは身内を騙し討ちするような連中じゃないわ。それなりに信頼できる」
意外だ。彼女のことだからやんわりと反対してくると思ったのだが。
「ああでも、安心して。あくまで“専属傭兵”になるだけ、交渉は私がなんとかしてみせる。反スペーシアン組織に属してもこれまで通りパーツを売ってくれる企業も見繕ってあるから、修理も問題ないわ」
もはや至れり尽くせりだ、しかしこれまでの彼女を見てきた俺としては“まあ、できるのだろう”という思いしかない。それだけ信頼している。
「でも……決めるのは貴方よ、レイヴン。あくまで戦いの舞台を整えるのが私の役目。私は貴方の決定について行くわ。
貴方は“自由の表象”、レイヴンなのだから」
自由の表象。
以前より彼女が口にする言葉だが、未だその意味は分からない。
まあ、戦い以外の全てを揃えてくれる彼女の“庇護”を受けている現状は自由以外の何者でもないが。
さて、ではどうするか。
フォルドの夜明けに付けばこれまで以上に厳しい戦いが待ち受けているであろうことは確かだ。いつの時代も世界でも、革命とは試練の連続である。
これについては特に気にしていない。なによりも俺自身が“戦い”を求めている。むしろウェルカムだ。
……それに、彼らアーシアンの武装組織に付けば“彼女”が今抱えている悩みや葛藤も少しは和らげることができると思う。まあ俺が上手くやれればの話だが。
もちろん、誘いを蹴ってこれまで通り“自由”な傭兵として戦場を渡り歩くのもいい。
長期的に見ればこちらの方が彼女が望む“自由”に貢献できるとも思う。
どちらか一方に肩入れすることが彼女の求める“自由”でないことくらいは分かっているつもりだから。
「……」
綺麗な黒色の双眸に見つめられる。
俺の願いと彼女の願い、それらを加味した俺の選択は――
【あとがき】
本SSではACは超兵器ではなく、あくまでMSとは同列かつ別系統の通常兵器として設定しております。
なので通常ACよりもガンダムの方が普通に強いです。
念のため、念のためね!