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―――某月某日。東京都南区にある巨大倉庫の内部にて。
『こちらアルファ1。ゴースト、聴こえているか? 状況を報告しろ』
「こちらゴースト。聴こえている…状況は最悪だ」
『…お前程の男がそう言うか。なら援軍の要請を』
「ねぇーねぇー、マスク取ってよー! 顔見せてー!」
「勘弁しろよ、レディ…アルファ1、錦木千束と鉢合わせした。どうやらリコリスの仕事と被ったらしい」
『何だと…』
「目的の物は手に入れたが…チッ、錦木の所為で居場所がバレた。これより交戦に入る、アウト」
『…必ず戻れ。アウト』
通信は途切れ、スカルマスクを被り、目元にサングラスを掛けた武装した男―――リリベルの中でも特別視されるリリベル「ゴースト」―――は、重たい溜め息を吐いて、アサルトライフルを構える。
今回の任務は、テロリスト集団の情報が詰まった書類の奪取。
この書類が手に入れば、少なくとも此処ら辺りにのさばるテロリスト達の計画全てが破綻するとされる重要なものだ。
無駄な戦闘はせずに、書類だけ持って帰ればそれだけで良かった筈なのだが…
「レディ、君のお陰で楽しいパーティーに参加出来そうだ」
「ほんと? じゃあ良い事したね、私!」
「……そうだな。全く、子供の相手は勘弁したいな」
皮肉の訳も分からず、ありのままに受け入れて笑う少女に、再び溜め息が出る。
スライドを引き、プレスチェックを行って部屋に弾丸が装填されているかを確認する。
装填の確認。深呼吸。残りの問題は―――この少女と共闘出来るかどうか。
「錦木。お前は前線と援護、どちらが得意だ」
「えーと…前線かな。私の弾、特殊だから」
「なら、俺が合図を出したらイケ。お前に合わせて援護する」
「オッケイ。優しいね、ゴーストさん」
「…生き抜く為に必要な役割に着く、それだけだ」
「えー?」
「無駄話は終わりだ。…数えるぞ」
中指と人差し指と親指を立て、数える時間を三秒だと伝える。
中指を折る。僅かな緊張が走る。
人差し指を折る。赤い瞳とサングラス越しの目が合う。
親指を折る。―――行け。思う存分に遊んでやれ。
幼い猟犬が、銃という鋭い牙を構えて駆け出した。
バンッ、バンバンバンッッッ!!!!
発砲。銃声と、薬莢が落ちる音が広い空間に鳴り渡り、虚しく消え失せる。
赤い煙が漂う。傍から見れば血に見えるそれは、決して流血などではなかった。ゴーストは、それを確かに見破った。
だが、それをどうと言う暇はない。今は、あの猟犬の援護をしなけらばならない。
サイトを覗き、標的へと狙いを定める。狙う場所は未定。トドメを刺さずとも、それは彼女が済ませる。
息を吐いて―――引き金へと指を掛ける。
ドドッッ、ドドドドドッッッッ!!!!!!
小銃が唸りを上げる。放たれる無数の弾丸が、標的の体へと撃ち込まれ鮮血を解き放つ。
一人、ダウン。標的変更。発砲。
二人、ダウン。標的変更。標準調整。発砲。
三人、キル。標的変更。標的調整。発砲。
四人、ダウン。標的変更。発砲。
五人、ダウン。標的変更。標準調整。発砲。
六人、キル。標準変更―――
ドンッ! と、轟音が鳴る。
ヒュンッ、カシュッッ。
障害物の端が掠れる。コンクリートの破片がマスクに当たる。問題無い、怪我も負っていない。
バンッ! 銃声と共に、煙が覆う。七人目、ダウン。彼女がやってくれた様だ。
彼女が四人。ゴーストが六人。計十人。殲滅完了だ。
銃口を下げ、アサルトライフルを抱えて立ち上がる。
「凄まじいな、レディ。司令が警戒する訳だ」
「あんまし嬉しくないよー、その褒め方。でも、ゴーストさんも凄かったよ。援護上手いね」
「リリベルは皆こうさ。…しかし、君のソレは本当なんだな」
「あー…やっぱり気になる?」
「あぁ―――それだけの力があるのに、何故『不殺』を志すのか。理解に苦しむ」
錦木千束。旧電波塔事件をたった一人で解決してみせた、最強のリコリスとして名高い少女。
何より驚くべきは―――その旧電波塔をジャックしたテロリスト達が、全員揃って生きているという事だ。
誰一人として殺さずに、テロリストを全滅させた。それを為したのが、未だ一桁の歳の少女であるという事実。
ゴーストは驚愕した。だが、同時に疑問にも思った。思わずにはいられなかったのだ。
それだけの実力を持っていながら、不殺などという戦場に不要な志を持っているのか、と。
「それは、ただの枷だ。戦場には不要だ」
「かもね。でも、私には必要なものだよ。人を殺すのは、気分が良くない」
「なら、直ぐにこの世界から失せろ。お前は此処では生き難い」
「え、なにー? もしかして心配してくれるのー?」
「……」
「やっぱり優しいよ、ゴーストさん。良い人だよ」
「馬鹿を抜かす…」
良い人間が、こんな世界で生きるものか。
善人は決して、こんな世界では生きない。生きてはいけない。生きていい訳がない。
ゴーストは兵士だ。リリベルとして生き、これまでも多くの人間を殺してきた。そんな人間が、兵士が、善人と言われる筋合いはない。
「それよりさ、マスク取ってよマスク!」
「冗談を言うな」
「なんでー? あ、さては顔に自信ないんでしょー?」
「逆さ。だから外さない」
「じゃあやっぱり気になる!」
「さて、そろそろ帰らないとな。さようなら、レディ。もう会わない事を願うよ」
次会う時は―――きっと、殺し合いだ。