仮面ライダーW×リリカルなのは ~Oの願い事~   作:アズッサ

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だいたい五話で終わると言ったな


第四話 Dから来た者たち/ターニングポイント

 ハードタービュラーに乗り込み、大嵐に真正面から突っ込む形となるダブルは即座に己のベルトのメモリスロットからジョーカーメモリを抜き取り、Mの文字が刻まれた灰色のメモリを差し込む。

 

《サイクロン・メタル!》

 

 ガイアウィスパーのささやきと共にダブルの左半身が鉄のような色へと変化する。ダブルの形態の一つ、サイクロンメタルであった。メタルメモリを使った形態においては、ダブルには専用の棒術武器であるメタルシャフトが装備される。ダブルは背部にかけられたメタルシャフトを引きぬくと、手始めに目の前の進路を妨害する竜巻を殴りつける。

 瞬間、メタルシャフトは先端に旋風を纏い、竜巻の力をも吸収して、容易に叩き伏せる。

 

『気をつけたまえ翔太郎。いくらハードタービュラーでもこの竜巻に巻き込まれれば脱出は簡単ではない』

「わかってるよ! だから! こうして! 必死に弾いて動かして、やってるんだろ!」

 

 ダブルは薙ぎ払うようにしながら竜巻を弾く。最初の一撃は勢いの籠ったパワーのある一撃だったが、竜巻の密集地帯に侵入すると次は竜巻からも逃れる必要がある。サイクロンの力を宿したメタルシャフトの旋風によって、竜巻を相殺し、弾く事は可能だが、気を抜けば巻き込まれて海の底に沈むか天高く巻き上げられ、その膨大なエネルギーの渦に砕かれる事になるだろう。

 

「ったく! 飛んだ面倒を引き起こしてくれるぜ! 相当なお転婆娘だ!」

 

 そんな愚痴を吐きながらもダブルはこの嵐を引き起こした少女、フェイトの姿を探す。

 

『いた、翔太郎!』

 

 フィリップ側の視界が、フェイトを捕える。

 一見軽やかに舞う黒衣の少女だったが、実際は竜巻とその周囲に発生する電光を避けるのに精いっぱいの様子であった。その様子は少女の顔色からして判別が出来る。ダブルはフェイトを援護しようとマシンを操縦するが、その進路をふさぐ形で、巨大な狼が姿を見せる。ファーストコンタクトの際にフェイトと共にフィリップを襲った狼であった。狼は牙をむき出しにして顎を開けながらダブルへと接近する。

 

「フェイトの邪魔をするんじゃぁない!」

 

 女の声を発しながら、狼が唸る。だが、その瞬間、緑色の障壁が展開され、狼を防ぐ。

 

「今は僕たちが争ってる場合じゃない!」

 

 現れたのはユーノであった。ユーノは障壁を解き、ダブルと肩を並べるようにして飛ぶ。

 

「アルフさん、ここは協力してジュエルシードを封印しましょう。この現状はお互いにとってよくない!」

「そういう事だ。前の一件、チャラにしてやっからよ!」

 

 唖然とする狼、アルフをしり目にダブルはマシンを操作して竜巻へと突っ込む。ユーノはそれをサポートするように巨大な魔法陣を展開し、無数の光の鎖を射出する。鎖は竜巻を結び、一瞬にして締め上げる。そこへダブルがメタルシャフトを振り払い、打ち砕く。

 

「翔太郎さん!」

 

 頭上からなのはの声が聞こえる。ほんの少し遅れての合流だが、これで役者はそろった事になる。

 

「翔太郎さん、お願いします! フェイトちゃんと一緒に!」

「あぁ、俺たちがお前のサポートをする」

『毎度の事だけど、今回も本当無茶をしてくれるね』

 

 そういうフィリップの口調は現状に不満を持っている様子ではなかった。

 

「だったらもう少し付き合ってもらうぜ!」

 

 ダブルは旋風を纏ったメタルシャフトを振り回しながら、周囲から飛び出す電光を弾いてなのはの道を作る。なのはは、ダブルの作った道を突っ切る形でフェイトへと肉薄した。

 

「あの人たち……!」

 

 フェイトもまた、彼らの存在に意識が向く事余裕が出来た。その直後には、目の前になのはが到達していた。

 

「フェイトちゃん!」

 

 フェイトを目の前にしたなのは言いたい事はたくさんあるが、まずは暴走を続けるジュエルシードを止めるという事を優先した。

 

「フェイトちゃん、みんなが協力してくれている。だから、一緒に封印しよう!」

 

 言って、なのはは竜巻の群れにレイジングハートを向ける。

 

「……!」

 

 そんなフェイトもまた複雑な思いであった。彼女らは敵である。敵ではあるが今は自分を助け、そして同じ目的の元に協力をしようというのだ。目の前の白衣の少女も、二色の戦士も少年も、以前までは刃を向け、蹴散らすだけの障害物でしかなかったはずの人たちが、なぜこんな行動に出られるのか、彼女が理解するには少し時間が必要だった。

 だが、彼女の相棒であるデバイス『バルディッシュ』はそれを悟ったように戦闘形態から封印形態へとフォルムを変化させる。

 

「バルディッシュ?」

 

 相棒は答えない。だが、その意図は伝わる。今は損得抜きに協力すべき状況であると。それに呼応するようにアルフもまたユーノと同じく光の鎖を射出して竜巻の動きを止めるように行動した。

 そしてユーノ、アルフによって動きを止められた竜巻をダブルが砕き、その力を弱める。だが、連続して暴走を続けるジュエルシードのエネルギーの放流は止まらず潰していく先からまた新たな竜巻を発生させる。まるでいたちごっこであった。元を叩かなければならないのである。

 

「……!」

 

 フェイトはバルディッシュを強く握りしめる。意を決したようにバルディッシュを大きく振り下ろすと同時に彼女の足下に魔法陣が出現する。刹那、金色の閃光が走り、フェイトの周囲を放電が包む。

 

「せーのいくよ!」

 

 それを見たなのはも微笑しながら、レイジングハートを構える。桃色の魔法陣と閃光がなのはを包み込む。

 

「レイジングハート! フルパワーで!」

 

 マスターに答えるようにレイジングハートもその輝きを増す。周囲に拡散する二人の魔力は膨大なエネルギーを生み出そうとしていた。その余波による衝撃波は竜巻すらも揺るがす程のものである。

 

「でかいのぶちかますつもりか!」

『翔太郎、彼女たちのチャージの時間を!』

「あぁ!」

 

 既にユーノ、アルフによる鎖で竜巻の動きは大きく制限されている。ならばこそ、駄目押しでさらに成功率を上げようと考えるのである。ダブルはクモ型のガジェット『スパイダーショック』を取りだし、メタルシャフトへと装着させる。ついで、スロットからメタルメモリを取りだし、メタルシャフトのスロットへと差し込む。

 

《メタル・マキシマムドライブ!》

 

 ガイアウィスパーの囁きと共にメタルシャフトは緑色の風を纏う。ダブルがそれを振り回すと同時に緑色の旋風は次第に大きくなり、ダブルはそれが最大までチャージされたことを確認すると、メタルシャフトを薙ぎ払うようにして振り下ろす。

 

『メタルスパイダーホールド!』

 

 メタルシャフトの先端から無数の風が飛び散る。それらは蜘蛛の糸のように幾何学的な陣形を形成しながら竜巻の群れを包囲していく。これにより三重の鎖に縛られる形となった竜巻の群れはもはや脅威ではない。

 そして、それと同時に二人の少女のチャージは終了した。

 

「ディバイン!」

「サンダー!」

 

 二人は息を合わせるように叫ぶ。

 

「バスター!」

「レイジ!」

 

 その一瞬、なのはからは桃色の閃光が、フェイトから金色の雷光が発射される。その二つの光は瞬く間に周囲を飲み込み、凄まじい衝撃波と轟音が海上を埋め尽くした。その衝撃により海水が巻き上げられ、大雨を降らす。だが不思議と海面の時化は沈静化しており、衝撃の影響か曇り空に僅かな光が差し込む。

 

「こいつはすげぇ……」

 

 海水の雨を受けながら、ダブルは空中に浮かぶ五つのジュエルシードを確認した。少女二人の膨大なエネルギーにも驚かされたが、年端もいかぬ少女二人があの大嵐を消滅させたのだ。

 そして、五つのジュエルシードを挟んでお互いを見据えるなのはとフェイト。ダブルもユーノも、そしてアルフもまた二人を見守る姿勢を取った。

 ほんの僅かな静寂が辺りを支配した。なのはもフェイトも何と言っていいのかわからないようで、お互いに唖然としたままであった。

 だが、なのはは、

 

(そうか……そうだよね……私は……初めてあった時から感じていた。なんて悲しい目をする子なんだろうって、何で自分を押し籠めているんだろうって、何でこんなにも頑ななんだろうって)

 

 なのはは、スッと腕を胸に当てる。

 

「友達になりたいんだ」

 

 それはつまり、そういう事なのだ。ジュエルシードを取りあう敵としてではなく、なのははフェイトに友達になりたい。それだけを思っていたのだ。こんな悲しい目をする少女をなのはは放っておけないのだ。かつての自分を見ているようで、それはとても辛く悲しい事だと分かっているから。

 だから友達になりたいのだ。

 

「もう一人、お転婆娘がいやがったな」

 

 ダブルはメタルシャフトを肩に担ぎながら、その光景を微笑ましく見守っていた。残る問題は封印されたジュエルシードの扱いではあるが、今はその事を考えるつもりはなかった。そしてそれを問う程無粋でもなかった。

だからこそ、誰もが油断をしたのだ。

 

『みんな、防いで!』

 

 レイジングハートを介して、広域通信で呼び掛けるエイミィの叫び声と共に上空がねじ曲がる。その穴から轟音を立てながら黒い稲妻が降りかかる。その稲妻と共にエイミィの通信画面は砂嵐を起こして途絶え、そして、なのはとフェイトの間に割って入るように落ちてきた為か、両者には随分と距離が出来た。

 

「母さん……!」

 

 その瞬間、フェイトがそんな言葉を吐いた。だが、それに反応する暇もなく第二撃が周囲を襲う。稲妻は無数に枝分かれし、まるで意志を持つように周囲の面々へと迫る。

 

「うお!」

 

 ダブルはメタルシャフトを振り、一撃を振り払うが、直後に無数の稲妻が迫る。

 

「こいつ!」

『完全に食らいつかれた! 振り払うしかない!』

 

 ハードタービュラーを巧みに操縦しながら、ダブルは稲妻を食い止める。それはなのはもユーノも同じでシールドを展開したり回避行動を取りながら、その稲妻を避けていた。そして、第三撃が走ると同時に、あろうことかその稲妻はフェイトへと直撃する。

 

「あぁぁ!」

 

 悲鳴をあげながら、気を失ったのか海へとまっさかさまに墜落するフェイト。それを追うのはアルフだ。アルフはオレンジ色の光に包まれると同時に、人間の少女の姿を取る。狼の時の印象を残す鮮やかな髪色と獣の耳、そして尻尾が見える。人間形態となったアルフは海面へ衝突する直前のフェイトを抱きかかえ、そのままの勢いでジュエルシードへと向かう。その場には誰もいなかった。全員が稲妻を避けるためにいったん距離を置いたのである。

 

「あいつ! うあっ!」

 

 一瞬、意識がジュエルシードとアルフへと向いたダブルだったが、その隙を狙うかのように稲妻がダブルの体を直撃する。

 

『うあぁぁぁ!』

 

 翔太郎とフィリップの悲鳴が重なる。ダメージを受けながらもなんとかマシンの操縦を手放さなかったのは運がよかった。ダメージ自体も大したことはないが、それが牽制となり、今すぐにアルフの元へと間に合わせる事は出来ない。アルフは既に手を伸ばせばジュエルシードに届く距離にいるのだから。

 だが、間一髪と言ったタイミングでアルフの手は転移してきたクロノによって遮られる。しかし、アルフは構わずクロノを蹴り飛ばす。容易に弾かれたクロノだったが、彼は抜け目がなかった。咄嗟の判断に三つのジュエルシードを確保していたのだ。残るジュエルシードは二つ、それを守りきるのは不可能であろう。アルフは唸り声をあげながら、オレンジ色の衝撃波を海面へと叩きつける。再び海水が巻きあがり、フェイトとアルフの姿を隠す。その一瞬の隙を突き、アルフはフェイトを抱えたままその場から転移、逃走を図るのであった。

 僅かな間であった。だがそんな僅かな時間で、事態は変わった。延々と降り続く海水を含んだ雨はダブルと魔導師の少年、少女たちを無情にも打ち付けていた。

 

 

 

 結果としては、ジュエルシード三つの確保は管理局側の思惑としてはプラスの意味で大きい。その分、アースラの被害も大きいが修理可能な範囲での破損はこの際無視するというのがリンディの判断である。最悪の事態だけは免れたわけであり、クルー及び協力者らの大きな被害はないのは合格と言った所であろう。

 だが、結果は結果としても、その過程ともなれば別である。仮面ライダーダブルと呼ばれる戦士、左翔太郎とフィリップの二人は正式な登録をすませた協力者でない以上、叱咤する事は出来ないが、なのはとユーノの場合は別である。明確な協力者としての立場もあるし、一時的には指揮下に入っている臨時クルーなわけで勝手な行動をとがめないわけにもいかなかった。

 だが、リンディとしては気が引けるのは、これもまた結果として部外者である翔太郎らを現場へと出した責任もある。彼らを現場に出した事が、形としてはなのはらの行動招いたと言ってもいい。リンディはそう考えているのだ。

 だからこそ、頭ごなしな否定はしなかった。棚にあげるような真似はしたくないのだ。

 

「今回の件に関して、本来なら色々と言いたい事もあるのだけれど……私の判断ミスもあるから、敢えて問いません。ですが、二度目はありませんよ。こちらの指示には従ってもらいます」

 

 ある意味驚くほど寛大な処置である事は、管理局という組織に疎いなのはや翔太郎にも理解出来た。だからこそ、なのははうつむきながらも返事を返したのだ。それほどまでにリンディの声音は尖ったものがあったのだ。

 これならまだ叱られた方がマシであるのだが、それはリンディなりの優しさの表れであることも理解はしていた。

 

「さて……この件に関してはこれぐらいでいいでしょう……次は」

 

 リンディはクロノへと目配せした。待機していたクロノはエイミィへと通信をつなぎ、何やら資料を提示するようにと伝えていた。彼らが囲む長いデスクの中央、球体のオブジェから画像が浮かび上がる。そこに映し出されたのは一人の女であった。

 

「目下我々がこの事件の黒幕と睨んだ人物、名はプレシア・テスタロッサ……我々と同じミッドチルダ出身の魔導師、かつては偉大な魔導師、科学者として評価された人物だよ」

 

 クロノはリンディよりも翔太郎やなのはに説明するように言った。

 

「専門は次元航行エネルギーの開発だったのだが、違法研究及び事故によって放逐、その後は地方に飛ばされ、そこでもいくつかの研究を行っていたようだが、ある日を境に消息を絶っている。そして、フェイト・テスタロッサは恐らく……」

「娘ってわけか」

 

 翔太郎が続くように答えた。クロノは無言でうなずく。

 

「まだ確定した情報ではない。今もエイミィに調べてもらっているがプレシア・テスタロッサの情報のいくつかはどうやら抹消されている」

「なるほどな……とはいえ、その女が依頼解決の糸口になる可能性は高いな……」

「あの……依頼って何ですか?」

 

 僅かに会話の内容についていけなくなったなのはが思わず質問を投げかける。

 

「ん? あぁ……そういや二人には話してなかったな」

「僕たちはとある人物から依頼の手紙を受けてこの街に来たんだ」

 

 翔太郎の言葉に付け加えるようにフィリップが説明する。

 

「依頼人の名前はアリシア・テスタロッサ、依頼内容は『迷子の妹を探してください』……僕たちはこの妹をあのフェイトという少女であるとにらんでいる」

「フェイトちゃんにお姉さんがいるんですか?」

「済まないがそれもまだ分からない。今エイミィが本局……我々の本拠地に問い合わせている最中なんだ」

 

 なのはの問いに答えたクロノはちらりと翔太郎とフィリップを見ると話のバトンを返す。

 

「だけどな……妹はわかるが、迷子ってのがどうにもな。フェイトって子はあの使い魔の狼とかと一緒にこの母親かも知れないプレシアって奴と一緒にいる事になる」

 

 どういう形でいるのかはわからないが、少なくとも逃げ果せる場所があり、そこには今回の事件の原因とされるプレシアがいる。世間でいう所の迷子ではないのではないかという疑問が翔太郎の中ではあった。

 

「迷子……フェイトちゃんが……」

 

 そう呟くなのは。ユーノが顔を伺うと、なのははちらっとユーノと視線を合わせる。そして、前を向き直すと、思った言葉を口に出した。

 

「多分……ですけど、フェイトちゃんが迷子っていうのは、なんとなくわかる気がします」

「そりゃ一体?」

 

 そんななのはの一言で翔太郎を含め、狭い会議室内の視線はなのはへと集中する。

 

「は、はい……」

 

 その状況の中で僅かに緊張するなのはだが、発言が出来ない程ではなかった。

 

「家族がいて、帰る場所があるのなら、傍にいてくれる人がいるなら、あんな悲しい目はしませんもの。それに……フェイトちゃんがお母さんって言った時……なんだか怖がっているようにも見えたんです」

「どちらにせよ、今はどの言葉も推測や憶測の類でしかない。視野には入れつつもね」

 

 そう話をまとめるクロノ。現状の理解としてはそれで十分なのだろう。

 

「フム……」

 

 会議の終わりを悟ったリンディは座席に持たれかかりながら小さくため息をついた。

 

「ともかく、プレシア女史もフェイトちゃんもあれだけの魔力を放出した後では、そう早くは行動を再開しないはずよ。その間にアースラのシールド強化もしておかないと……それに、なのはさんもユーノ君も休んだ方がいいわ。連日の疲れもあるでしょうし、今日も大きな事をやったあとだもの。それに、そろそろおうちの方や学校なんかにも顔を出さないと心配ですしね」

「はい……」

 

 なのはは素直に返事を返した。

 

「それと……左さん、フィリップさんは……」

「僕たちも情報を纏めたい。それに所長への経過報告もね」

「あ、あぁ……そういや亜樹子に連絡するのすっかり忘れてたな。また小言聞かされるのかよ……」

 

 思い出したくない、考えたくない事実を突きつけられる翔太郎はがっくりと肩を落とす。

 

「まぁ、その役目は君に任せるよ」

 

 そんな翔太郎をフィリップはどこか悪戯っぽい笑みを浮かべながらポンポンと肩を叩いた。

 

「なら、これを」

 

 クロノは二人に近寄ると携帯電話のような品物を手渡す。

 

「通信用のデバイスだ。何かあれば連絡する。そちらからも通じるようには出来ている」

「そして僕たちの居場所を感知する発信機」

 

 フィリップはまた悪い癖で事実をずけずけと言う。

 

「意地の悪い言い方をしないでくれ。事実だが、純粋に連絡手段として渡す。君たちの連絡手段と合うものがないんだ。こういうものでも渡さないといざって時に不便だ」

「まぁありがたく頂戴しておくぜ。俺たちとしてもこの事件、どうにも気がかりだからな」

 

 今だ漠然とする状況ではあるが、調査の初日にしてみればむしろプラスになる程の情報量なのだから。

 ただの迷子捜し、いや初めからそんな楽な仕事ではないと思ってはいたが状況は中々にハードであった。そして、依頼達成の為の糸口もおぼろげながらに見えてきたのだ。元より引き返すつもりもないのだから。

 




あれは嘘だ

すいません六話になります

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