やりたいことができたので長生きしてみた   作:ははもり

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第1話

 私はしがない会社員であった。

 小さな頃に見た漫画のロボットに憧れ、大きくなるにつれ医療漫画にはまりそして人生観を変えるほどの大きな災害に会い、夢を固くした。

 夢は医療系のロボットやデバイスなどの製作者だった。

 夢は一部だけ叶った。

 大学院を卒業し、医療器具系のベンチャー企業に入社、三年ほどして仕事も楽にこなせるようになり、上司の覚えも良かったのでとんとん拍子で出世。

 そうしてある程度の立場を得た俺は、いざ夢へと邁進しようといったところで朝、目が覚めた時には何故か子供の体であった。

 さらには時代的には中世時代……だったらどれほど良かったのだが紀元前くらいの、とても技術水準の低い世界が俺の目の前に広がっていた。

 正直、よくみた漫画のような現象のせいで理解は速かったし理解できたぶん絶望も早かった。

 夢は道半ばどころかスタート地点に立った瞬間終わっていた。

 神様ってのがいれば俺は何日にも渡って罵倒していただろう。

 前の世界での努力は無に帰った。

 別に異世界で無双だの内政チートだのに憧れを抱いたことはない。

 なにせ俺の夢は未来にしか向いていなかったのだから。

 だから転生しても嬉しくない。

 近未来なら喜んでいただろうが過去も過去である。

 それに飯も不味けりゃまともに食えるものも少なそうなこんな世界、現代っ子な俺には厳しすぎるであろう。

 と、思ってはいたが俺の家は裕福らしい。

 どうやら家は王様などが口にする野菜を作っているらしく、凄く生活は安定していた。

 技術的に飯は不味いが金はある。

 畑仕事に駆り出されはするが他の一般諸氏に比べれば幾分マシであろう。

 だけども技術水準の低い畑仕事はきつすぎる、草だの水だの全部人力。

 今生の体の記憶は全然この世界の親の事を知らないが、話を聞いてみるにどうにも高熱出して死にかけていたこの体に俺が乗り移ったらしい。

 まあたぶん死んだのだろう。それくらい体の弱いらしい俺の体に鞭を打たせて畑仕事をさせるとは時代ってのは怖いね。

 

 「農薬や車は偉大だな……人類の叡智カムバック……」

 

 せめて魔法だのがあれば楽もできるんだろうが……そんな便利なもんありはしないだろう……。

 

 

 ――――あった。

 

 

 というか調べてみればこの世界には魔物なり魔族なりが存在するらしい。

 わおファンタジー。

 

 「魔法あるじゃん……というか魔物だのなんだのもいる世界なのかよ……人生の難易度が跳ね上がったか?」

 

 まあ時代を遡ればそもそも人類が人類を食い物にするレベルが現代より圧倒的に直接的だから魔物がいる分同じ技術水準の地球より人に優しいかもしれない。

 その点を考えれば同じ技術水準でも逆にイージーの可能性もある。

 そうだったらいいな……。 

 いや、今はそんな事より。

 

 「魔法か……技術レベルを現代レベルにするのにある程度ショートカットできるか……?」

 

 そりゃ現代のレベルに、なんて俺が生きている間には無理だろうが技術水準を推し進めて今の俺の生活が楽になるだけでも最高であろう。

 目指せ明治くらいの生活水準!

 それでついでに人を救えればさらに最高であろう。

 やはり技術! 技術こそが人を救うのだ! 人を殺しもするがね!

 しかしまあそんなことを夢想するのもいいのだが。

 

 「とりあえず魔法を勉強しないといけないよな……」

 

 人力のみでも技術を進めることはできるが何年かかるねんってレベルだし。

 ドクターストーンは技術チートが何人もいて成り立つ漫画だからあれを真似しようなんてのはまず無理だ。

 それこそ魔法のような奇跡だよ。

 やはり魔法! 魔法がすべてを解決する!

 レッツ魔法! YES魔法! 善は急げだ!

 

 「パピー! 俺魔法習いたい!!」

 

 そんなこんなで俺はこの世界の父に魔法を習うために直談判をした。

 畑仕事にはいらないとか散々文句を言われたが。

 現代人のトークスキルで俺は魔法があることの有用性や生産効率がどれだけ上がるかをプレゼンし、無事魔法を勉強する権利を勝ち取った。

 まあ体が弱いらしいことを考慮してもらった節もある。

 体が弱く、生産効率が低いのならば魔法で補おうという発想はそこそこ好評だったのだ。

 俺の未来に投資をしてくれたこの世界の父には感謝してもしきれないな。

 

 

                  ★

 

 

 

 そうして半年後、俺は王都の魔法関連を勉強できる学校……は無かったので広く弟子をとっている高名な魔法使いへと弟子入りすることになった。

 まずは雑用なり身の回りの世話なりと色々な雑事から任されるのだろう。

 なんてこと考えていたのだが。

 

 「てめぇ! 言ってんだろ!! 魔力は繊細に、かつ大胆に! ぐーとぱーを同時に出す感じで使うんだよ!! 頭を使え!!」

 

 「感覚的には分かりますけど例えが意味わかんないっす師匠!!」

 

 「口答えすんじゃね!!」

 

 「ぐぇ! 痛いっすダンケル師匠!!」

 

 超スパルタだった。 

 確かに広く弟子を取っているとはいえ半年で入れるなんてえらく簡単だなと思っていた。

 まさか感覚派の暴力師匠だったとは、そりゃ弟子も逃げるわ。

 師匠の名はダンケル。

 王都では宮廷魔術師として勇名を馳せたそれはもう有名な魔法使いらしい。

 後進を育てるために引退したらしく、王の覚えもいいすごい爺の魔法使いらしい。

 

 「だからぐっとやってだりゃりゃりゃしてぐわーだ!」

 

 「師匠もっと分かりやすくお願いします!!」

 

 「うるせえ! 俺の教えは超わかりやすいだろうが!!」

 

 「感覚的にしかわかんねえよ!!」

 

 「やかましい!!」

 

 「ぐぅえええええ」

 

 全然すごくない。言ってることは分からんし、すぐ殴るしで全然尊敬できない。

 あれから一年、この人は、人に教えることが下手だということがよく分かった。

 天才にありがちな自分は分かるが他人が理解していないことが理解できないタイプの人間だ。

 そのうえで暴力振るってくるってそりゃ夢見て弟子入りしたやつらがどんどんやめていくわけだ。

 最初の一年なんて文字や言葉の暗記をミスをするだけで蹴りが飛んできたものである。

 毎日半泣きで勉強したものだ。

 そもそもここに来てから修行に休みなんてなく、毎日怒鳴られ毎日殴られ続けているので未だにこの王都周辺の事情すらさっぱり分からない。

 世間知らずもいいところである。

 まあ師匠の教えはともかく高名な魔法使いなだけあってこの時代には貴重な蔵書が山ほどある。

 知識を収集するだけなら困らないし、意外に才能があるのか覚えた魔法の使用自体はできるので魔力の増強(現在の攻撃魔法の有効射程は30m)と繊細なコントロールに修行の重点を絞ればいい。

 しかし、その修行の効率的な方法を知りたいのに師匠があれだからマジで感覚的にしか分からない。

 結局師匠にどやされながら魔力コントロールと増強に励むしかないのである。

 しかし魔力コントロールはあれだ。

 意外に隣で師匠にどやされているのが良いのか、騒々しい中で集中するという環境が相性に良かったのか伸びが非常に良い。

 だが魔力の増強に関してはこれが一番きつかった。

 

 「体を鍛えろ、体力が増えれば魔力も捻りだしやすくなる。健康な肉体こそが魔法使いには必要なものだ。拳で魔物を倒せるほど強くなればおのずと魔力も上がる。勿論肉体を使った後は魔力が空になるまで魔法を使え。出力が向上する」

 

 「師匠! それって死と隣り合わせでは!?」

 

 そもそも体力が空になってから魔力ゼロにするとか普通に自殺なんですが!?

 魔力放出も一応体力使うんだからね!?

 

 「死ぬ気になれないやつが強くなれるわけないだろ! いいからやれ! 強くなれないと辞めさせないからな俺の名誉のために!! 逃げたら王に言って捜索させるから覚悟しろ!!」

 

 「うわーん、もう夢には十分な実力がついたってのにやめれねーよ!! ちくしょー!!」

 

 「やかましい! 早く走ってこい!! それが終わったら俺とレスリングな!」

 

 「このクソ爺俺はまだ8歳だぞ! 死ぬわ!」

 

 「いいからいけ!」

 

 そうして俺は師匠の家を蹴りだされ、扉の前で文句を言いまくってたらブチ切れた師匠が扉を開けて魔法を連打してきたので俺はたまらず走り出した。

 こんな毎日だ。

 俺は! 走るのが! この世で! 一番! 嫌いなんだよ!!

 前の世界では超ガリ勉マンだぞ! 運動嫌いなんだよちくしょう!

 というか俺一応病弱(たぶん)なんですけど! この体になってからまだ一度も風邪ひいてないけど病弱なんですけど!

 もう少し気を使えやクソ師匠!!

 走り終わったら勿論ボコボコされ、その後へばった俺を抱えて森の中で魔力がもう一ミリも放てないほど魔力を使わされた。

 くそぅマジで死ぬ……児童虐待とか時代的に存在しないから人権無視の超スパルタにより俺はこの後十年はこの修行を続けさせられた。

 

   

                               ★

 

 親から早く帰ってこいと手紙で催促が来ている。

 俺も早く帰りたいところであるが親には師匠がヤバすぎて帰れない旨と、逃げると王様に通報が行って家がどうなるか分からないという旨の返信をすると『頑張れ帰ってくるのはいつでもいいからな』というありがたいお言葉を頂いた。

 やはり権力には勝てませんよね……。

 俺はこの十年で18歳になり肉体的にも魔法使い的にも大きな成長を遂げたといえよう。

 拳は岩を砕き、というか岩壁を粉砕し、魔法を放てば粉砕した岩を塵に変える。

 魔法の有効射程がkm単位になったと言えばどれだけ成長したかわかるだろうか。

 うーむ……これは俺、ただの魔法戦士では?

 俺の夢とか全然関係のない最強の戦士になろうとしてませんかこれ?

 最近では魔法の開発に重点を置いているのか師匠からはあらゆる課題をだされ生活魔法に攻撃、防御魔法の改良及び開発をするように言われている。

 これには流石にすぐに結果を出せとは言われなかったが一月に一度どれだけ研究が進んでいるのかの発表をさせられ全然進んでいないとぶん殴られる。

 あと体力が今までより落ちていると地獄のトレーニングをさせられるのでそこも気を抜けない。

 ハッキリ言って仕事が増えただけなのだが流石に体力づくりにも慣れたし、週に一度は魔物狩りに行かないと戦闘勘が鈍るので積極的に戦っていたため別にそれ自体は苦ではなかった。

 研究開発も俺がしたいことが多かったため非常に楽しい。

 のだが師匠の研究に必要な素材を取ってこいだとかで僻地にいかされたり、ドラゴンの巣穴にあるお宝をとってこいだったりと無茶振りも増えたため±0どころか-であった。

 まあそれでも魔法の開発は楽しい!

 とりあえず空気中の水を濾過しつつ固める魔法だろ? 土を掘り返す魔法に物を振動なく動かす魔法、炎を暫く滞空させて疑似的な太陽代わりにする魔法、あとは水なり食料なりを腐らせないようにする魔法だ。

 超便利! 寒いところでは炎魔法が凄い便利だし腐らせないようにする魔法は師匠のための素材収集の時に食い物も水も素材も腐らないので大いに役に立った。

 そんなこんなで俺はどんどん魔法の開発をしつつ師匠の命令で魔物がそこそこ出る森で素材の収集をしていると、ふと思いついて手慰みに魔法を作ってみた。

 魔法とはイメージが大事だと師匠は言っていた。

 イメージできないものは実現しないとも。

 つまりイメージできるのなら何でもできるということだ。

 俺がしたいことと言えば現在の技術水準を進めることだ。

 これは世界のため、というよりはこの世界に来て特にしたいことのない俺が生活のしやすさを求めているだけだ。

 ついでに人が救われるのなら最高だよねという、自分本位の目標なのだが。

 俺は元の世界の、それも医療分野やロボット分野に手を出す生粋のオタク的がり勉だ。

 イメージなんてのは結局知っていることやしたいことの塊なのでその点で言えば俺はこの世界の誰よりもイメージと言うものが豊富であろう。

 なので簡単に言えば寿命の克服というものを考えてみた。

 話すと長くなるので雑に言えば人間は細胞分裂の回数により寿命が決まる。

 細胞が老化し、細胞分裂が停止することにより人は寿命を迎えるのだ。

 なので寿命を伸ばすにはその細胞を老化し辛くすればいい。

 つまり他所から、寿命の長い生物(例えばドラゴン)の細胞を対外的に取り入れ、その細胞情報を自身の細胞にコピー転写し、寿命を無理やり伸ばそうという普通に考えればまあ無理だよねって方法だ。

 俺は魔法に無限の可能性を見ている。

 魔法と言えば前の世界ではハリーポッターだが日本には無数に魔法使いを題材にした作品がある。

 イメージなんてそこからいくらだって持ってこれるし、そもそもハリーポッターの時点で魔法とは無茶苦茶な性能をしているのだ。

 イメージの拝借先など無限と言える数ある。

 なので俺は前の世界での魔法使いのイメージをしつつ、先ほど言った『細胞を転写する魔法』を手慰みに作成してみた。

 

 

 

 できた。

 俺はとんでもないものを開発してしまったのではないだろうか。

 完成したのは『細胞を転写する魔法』ではなく『相手の寿命を覚えさせる魔法』だ。

 つまりは相手の寿命が長ければ長いほど俺も長く生きるということだ。

 この魔法を使うには術式もコントロールも魔力も非常に高度なものを必要とするのだがその程度だ。

 つまり非常にやばい魔法を開発してしまった。

 これを時の権力者なり圧制者に与えてしまえばこの世は地獄となるであろう。

 だっていつ耄碌するか分からないやつが権力握ってて死なないとか終わりの始まりって感じである。

 なんてものを手慰みに作ってんだ俺は!? と顔面引きつりそうになったがそれはそれ。

 俺は使うけどね。

 目指せ明治というには寿命が足りなすぎるし。

 どうせなら寿命が長いドラゴンとかに使いたいところであるが使ったあとに動けなくなってドラゴンに殺されそう。

 うーむどこかにいい獲物はいないものか……そう思いながら俺は師匠が求める『奇妙な茸』という希少なキノコを探しながら森を歩いていると、ふと前の方から白い髪のツインテールのエルフが歩いてきた。

 

 「エルフだ……初めて見た……」

 

 それが俺と未来で葬送のフリーレンと呼ばれるエルフの初邂逅であり、これからの長い付き合いを考えるとしょぼすぎる出会いであった。

 

 

 

                      ★

 

 

 美しいと言うには幼さを感じるが、前の世界での漫画ではエルフは総じて美男美女で描かれていた。

 このエルフもその例に漏れず美形であり、そして無表情な顔がどこか冷たさを感じさせた。

 ……確かエルフと言うのは人間に興味がなかったり敵対的であったり排他的であったりと色々な描かれ方をしていたが、この子もそうなのであろうか。

 

 「こんにちは、エルフさんもキノコ探しですか?」

 

 「うん、あなたも奇妙なキノコ? 群生地はここにしかないから探すのは難しいでしょ」

 

 普通に会話ができた。

 というか思ったよりフレンドリーな感じ。

 前に本で読んだ魔族は人の言葉を話し人を欺くという記述があったが、エルフは記述が少なかったため今一よく分かっていない。

 だがこの感じ、たぶん大丈夫であろう。

 しかも思ったより表情が変化するのか少し驚いたような表情であった。

 

 「はい、師匠の命令で取ってこないとフライングボディプレスからのジャーマンスープレックスで泣かされるんで」

 

 「大変だね」

 

 「…………はい大変です」

 

 いつか死ぬと思いながらもなんとかやってこれた自分をほめたい。

 せめてほんの一匙でも優しければなーと思いつつもエルフをみると、森の魔物とでも追いかけっこしていたのだろうかと思うほどには服が汚れていた。

 まあエルフなんて存在一生に一度会えるかどうかだし、これも何かの縁だ。善行でも積んでみようか。

 

 「これも何かの縁なので俺の開発した生活魔法でも差し上げましょう。ほらこれ、『汚れを取る魔法』こう使えばなんと服の汚れや体の汚れがあっという間に取れちゃう洗浄魔法なんです!」

 

 そう言って俺は自分の服の汚れを取ってみると、エルフは感心したように拍手した。

 

 「便利。そこまで複雑な魔法陣でもない上に魔力操作も雑でいいなんて良い魔法だね」

 

 「でしょ? 寝ぼけながらも適当に使える生活魔法! 怠惰なやつでもすぐに使えるあなたのお供! って感じのコンセプトで作ったんだ。ただ威力調整ミスると服がビリビリに破れます」

 

 「でも便利だね」

 

 「でしょ?」

 

 このエルフよく分かっている。

 このような生活魔法こそが人の生活を豊かにするのである。

 まあただたんに風呂が滅多に入れないので汚れをどうにかしたくて開発しただけなんだけどね。

 

 「じゃあお返し、って言いたいところだけどなにも渡せるものがないんだよね、何か欲しいものでもある?」

 

 なんて思っているとエルフさんはお返しをくれるという。

 なんだか押し付けて対価を貰おうとしている卑しい奴みたいになってしまったな。

 ただの気まぐれなんだが……。

 

 「いや別にあなたから何か欲しいから押し付けようとしてるわけじゃ……」

 

 ……あ、この人エルフじゃん。

 寿命長くてかつ、友好的で、攻撃してこない。

 非常に都合がいいじゃん。

 

 「あー嫌だったらそのー別にいいんですけど……話聞いてもらえます?」

 

 「? 別にいいけど」

 

 

 

               ★

 

 「寿命を覚えさせる魔法?」

 

 「はい、俺の寿命をあなたと同じにする魔法です。副作用無しの上にあなたの寿命をコピーするだけなのであなたになにかが起こることもなし! どうです?」

 

 まあ正直気色悪いから嫌って言われるかもとは思ってる。

 だって自分が死ぬとき大体同じタイミングで相手も死にますとか生理的嫌悪があるよね。

 というかこの魔法の製作者ではあるがぶっ壊れにもほどがあるな、NARUTOの穢土転生くらい壊れてる。

 

 「……いいけど」

 

 なんて思っているとあっさりと許可された。

 え?いいの? 気持ち悪くない? でもやったぜ。

 

 「よっしゃ! 我が野望に一歩近づいたぜ!」

 

 「野望?」

 

 「おう! 飯や住む場所、医療に魔法、あらゆる技術を未来へと進めるって野望だ! そうすりゃ色々な所で住みやすくなるし人も死ににくくなる。魔族なんていう脅威も別方向からの武器で退けやすくなる。どこをとってもいいことしかない!」

 

 そして俺は住みやすくなった世界で笑って上手い飯と趣味の開発にいそしむのさ!

 よくいう寿命が長いとその分苦しむとかなんとか漫画や創作物とかでよく言われるが死にたくなれば死ねばいいのさ。

 不死という訳でもないしね。

 そんな風に野望を語ると、エルフは少し笑う。

 

 「魔族を殺す武器。期待してる」

 

 「おおう、可愛い顔して物騒だな。まあいいや、とりあえずここじゃなんだから人気も魔物もいない場所に移動しよう。じゃないとぶっ倒れちまって迷惑かける」

 

 普通にこの魔法を使った後、魔力が空になるからね。

 

 「運んであげようか?」

 

 「そこまで迷惑をかけるのは……初対面なのに申し訳ないので……」

 

 「別にいいのに」

 

 とは言われても女の子にいい歳した男が運ばれるって絵面がなんともプライド的に許せないというか……。

 男の子のプライドと言うか……。

 

 「めんどくさい人なんだね」

 

 「ぐぅ……面倒くさい人ですいません……」

 

 そうして俺達は物騒な森から退避する……前にキノコ狩りをしてから移動をした。

 この奇妙な茸と言うのは服だけ溶かすポーションの作成に必須アイテムであり、師匠が嫌いな魔法使いに投擲する用素材だ。

 自分の憂さ晴らしのために弟子を使って取ってこさせるものではないだろうと言いたいところではあるがエルフさんとの出会いがあったため今回は感謝しよう。

 そんなこんなで人里からも遠く、魔物の生息域からも遠い場所にて俺は目の前のエルフさん、名をフリーレンというエルフさんと向き合った。

 俺は懐からビーカー状の木の器を取り出すと、フリーレンさんに渡す。

 

 「すいませんがこの器に体液、できれば血液を入れてもらえますか?」

 

 フリーレンさんは俺から距離を取った。

 ですよね。

 いきなり体液をくれとか気色悪いですよねー……。

 

 「すいません説明不足です。俺の魔法は相手の細胞……って言っても分からないか……相手の血に刻まれた情報を体に転写する魔法でして、相手の肉体情報を体に覚えさせる魔法なんです。ですのでそれを簡単に抜き出せる体液などが望ましいんですよ」

 

 「なんか気色悪い魔法だね」

 

 「まあ体液をくれなんて言う奴が最高に気持ち悪いのは分かりますが必要な手順なんです。すいません」

 

 「まあいいよ、あげるって言っちゃったし」

 

 そう言ってフリーレンさんは人差し指を魔法で少し切ると器に血液を入れる。

 顔は凄く嫌そう。

 生理的嫌悪を感じるかのような表情でばっちいものでも見るかのようなその眼差しになんとも言えない気分になる。

 

 「凄く嫌そうな表情で血液を入れてくれるの有難いんですけど。少しで大丈夫ですよ……って入れすぎ入れすぎ!! あんた貧血になるよ!!」

 

 うわー器たぷたぷだよ……あんた入れすぎだぜ。

 言わなかった俺も悪いけどまさかこんなに入れるとは……。

 

 「なんだ、少しでいいんだね」

 

 「まあ情報を抜き取るだけなんで……いくら魔法で怪我が治るとはいえ血液までは増血しないでしょうに……」

 

 増血の薬丸なら作ったことあるし、持ってるのでフリーレンにそれを一つ渡すが、意外に貴重な薬草を使うので、できるなら渡したくなかったなぁ……。

 

 「なにこれ」

 

 そう言ってフリーレンさんは摘まむように薬丸を見る。

 そして匂いを嗅いで嫌そうな顔をしている。

 

 「増血丸です。クソ不味いですが体内の血を作る機能を一時的に強化して新鮮な血液を体内で作る薬丸です。クソ不味いですが飲んでください。クソ不味いですが」

 

 「そんなに不味いなら飲みたくない」

 

 「あんたあんなにドバドバ血を流したんだから飲んどいてください。今のままだと魔物なり魔族なりと戦闘になって血を流したら死亡率上がりますんで」

 

 「飲みたくない」

 

 「飲んでください。そんなすぐに血なんて増えないんですから飲んどくのがベターです」

 

 本当に嫌そうな表情で丸薬を飲んだフリーレンさんは地面にうずくまり身もだえた。

 うん昔俺が飲んだ時と同じ状態だ。

 ゲロを拭いた雑巾を丸のみするほうがマシな味と言えばその不味さが想像できるだろうか。

 そりゃこうもなるよね。

 っとそれよりも血液が新鮮なうちに転写しなければ。

 俺は腕をナイフで少し傷をつけると、その傷口にフリーレンさんの血液を垂らす。

 そうして魔法陣を展開し『寿命を覚えさせる魔法』と詠唱をすると、するりと傷口に血液が入り込んでいく。

 体内へと循環させるイメージ、体内で細胞を覚えさせるイメージ、自分を別の存在へと作り変えるイメージ。

 その全てに魔力を循環させ、繊細な魔力操作でひとつひとつ工程を進めていく。

 自分が別物になっていくが完全に変わるわけではなく、自分が自分であることを維持させつつ、変容させる。

 

 「……もう二度と飲みたくないねこれ」

 

 フリーレンさんはそう言ってジト目で俺を見てくる。

 それは本当に申し訳ない。

 俺は苦笑いしつつ工程を進め、そのままぶっ倒れた。

 

 「失敗した?」

 

 そう言ってフリーレンさんは俺の顔を覗き込んでくる。

 が俺は成功の感触を得ていた。

 

 「……いや、成功です。魔力が空になったので一時的にぶっ倒れただけです」

 

 「の割には元気だね」

 

 「師匠がスパルタなもので……」

 

 体力がなくなってからが本番の超スパルタ鍛錬の毎日で、毎日が死と隣り合わせだったから、これくらいだと割と口くらいは開く。

 ただ体が動かないので暫く休憩が必要と言うだけで。

 

 「まあこれで俺はエルフの寿命を得たのでやりたいことをやりたいだけできる人生になったということですかね」

 

 「今更だけどやりたいことが無くなったら結構暇だよ、長生きできるって」

 

 「大丈夫です。俺のしたいことって限りがないので。千年たとうが五千年たとうが終着点なんてないですよ。まさしく人類が滅びるまでやり続けれる分野なんで」

 

 そういうものなんだ……というような表情でフリーレンさんは俺の話を聞き流すと、そのまま立ち上がる。

 

 「それじゃ用事も終わったし、私は行くね」

 

 「うっす、ありがとうございます。また会う日もあるでしょうが、その時はゆっくりと話しましょう」

 

 「うん、そんな日が来るといいね」

 

 そう言ってフリーレンさんは微笑みを浮かべると、どこかへと歩いていく。

 俺は綺麗な笑みだったなとフリーレンさんの笑みを思い浮かべて、そのまま俺は眠りにつくことにした。

 とりあえず体を回復させない限り歩けねえ。

 

 

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