→もうちょっとだけ続いたんじゃ。
僕にはきょうだいがいる。
二つ上の姉と、一つ下の妹だ。
姉は魔剣士として類稀なる才能を持っているようで、家族から大いに期待されている。このままいけば将来家を継ぐのは姉になるだろう。
僕の家のような魔剣士家系は実力社会であり、魔力さえあれば女であってもそこらのごろつきより余程強いので、女が家を継ぐことも珍しくないらしい。
一方の妹はと言えば、驚く程に病弱だった。たったの一歩、足を前に動かすだけで息切れを起こすため、大抵ベッドで寝込んでいるか、ロッキングチェアで甲斐甲斐しく世話を焼かれている。
筋肉が一切付くことのない細い腕は、剣を握ることを知らず、荒れることを知らない青白い指先は、もっぱら小さな本のページをめくるために使われている。とても脳筋魔剣士一家の子供とは思えない、深窓の令嬢のような女の子。それが、僕の今世の妹だった。
ストレッチという名目で姉の病気を治した頃に気付いたのだが、妹のこれも、どうやら一種の病気が原因らしかった。
魔剣士としては――――というより、魔力が存在するこの世界においては、致命的なそれ。
妹は、些細な動作ひとつで莫大な魔力を消費するのだ。
カロリーの代わりに魔力を消費していると考えれば良い。ダイエットに丁度良い~とか、そういうレベルじゃあない。本人の潤沢な魔力量でぎりぎり補えているだけで、本来ならば呼吸し続けるだけで過重労働となり死に至っている。
姉の病気を治した時のように魔力操作でどうにかできないか試してみたが、そもそも操作するための魔力を端から食われていくので、今の僕の技術ではどうやら完治は難しいらしい。
似たような事例が無いかと盗賊狩りついでに探してみるも、悪魔憑きと違ってそう簡単には転がっておらず、かと言ってこれ以上妹を実験台にするのはさすがに僕も気が引けた。
妹は今日も、自室の窓から僕と姉さんの稽古を見守っている。
アルファに妹の話をしてからは、アルファも時折こっそりと妹の様子を見に来るようになった。己とはまた異なる難儀な病気が気になっているらしい。
折角なので、妹の病気も呪いという設定にしてみた。正確には、既に悪魔憑きが魔人ディアボロスの呪いとされているので、ネタ被りを避けるため、逆張りで神の祝福ということにした。
傲慢な邪神エクリプスによる、祝福という名の呪い。うん、我ながら格好良い。
彼女に掛けられた呪いが解けるとき、真の意味で世界は解放される――――とか何とかそれっぽいことも付け足しておけば、アルファは真剣な眼差しで妹を見つめ、この子も必ず救わなければ……とか良い感じのことを言っていた。アルファは本当にノリが良くて最高だ。
ある夜のこと。経験値と資金稼ぎの盗賊狩りから帰ってくると、部屋で寝ていた筈の妹が廊下で息を切らしてへたり込んでいた。
咄嗟に血の付いた上着や金品を自室に放り込んで声をかける。
「セレナ、こんなところで何してるの?」
「お、お兄ちゃん!? 起きてたの……?」
「まあね。水でも飲みたいなら注いでくるけど」
「う、ううん。大丈夫。えっと……わたし、部屋に戻るね!」
と、言いつつ立ち上がろうとしているが、まともに力が入っていない。此処に来るまでに体力を使い果たしてしまったようだ。仕方ない、連れて行ってやろう。さすがにこれを放置しておくと死ぬやつだ。
妹をベッドに寝かせ、僕も部屋に戻ろうとしたところで控えめに服を掴まれた。
ぐったりとした様子で、それでも何かを伝えたい様子だったので、病弱な妹を持つ優しい一般モブ兄として、黙って妹が口を開くのを待つ。
「お兄ちゃん……お兄ちゃんも、毎晩修行してるんだよね?」
「えっ?」
「今日みたいに、お兄ちゃんが何時も夜に出かけてるの、本当は知ってたんだ。私も……夜にこっそり、歩く練習してたから……」
一瞬ドキッとしたが、成程そういうことらしい。妹は常に死にかけなので、一周回って気配が薄すぎて気付かなかったのかもしれない。
妹は、ゆっくり、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
「私、お兄ちゃんのこと、凄く尊敬してるんだ。もちろん、お姉ちゃんもだけど。お兄ちゃんは毎日ずっと、本当に沢山、頑張ってる人だから。私も……私も沢山頑張れば、皆みたいに、剣が握れるんじゃないかって……」
「特別な才能とかは、要らない。ただ、私も皆と一緒に、稽古とかしてみたくて……稽古じゃなくてもいいの。普通の、散歩とかでも」
「いっぱい頑張れば、出来るようになると思ったんだけど……全然、出来なくて。体が弱いとか、そういうの、言い訳にしたくないんだけど、でも、もっと頑張りたいのに……」
「――――お兄ちゃん、私、ずうっとこのままなのかな」
僕は、ただただ黙って、妹の言葉に耳を傾けた。沈黙が落ちる。
どんなに努力しても、理想とする高みに至れないまま終わった前世を思い出した。とはいえ、前世の努力の積み重ねで今の僕がある。終わりは通過点に過ぎなかった。
本当の意味で、努力が出来ない苦しみは、僕には解らない。
「セレナ」
だから僕は、妹の手を握って、涙が滲むその目を真っ直ぐ見つめた。
「努力は絶対に裏切らない。僕が保証するよ」
「本当?」
しっかりと頷けば、妹は嬉しそうに微笑んで、今度こそ眠りについたのだった。
僕は、努力する人が好きだ。
夢を叶えるためならば、どんな苦境にも負けず邁進する人間に、深く共感する。
だから、妹が今後も努力を重ねるというのなら、僕だって多少なりとも応えてやりたいと思うのだ。
身内のよしみってやつもあるしね。
▼セレナ・カゲノー
姉が光で兄が陰(のもじり)だからシドも好きな曲だし月にするか~って最初ルーナにしようと思ったらガンマさんの偽名と被ってた。転生者ではない。
兄が定期的に対処療法を施している影響で、傍から見たら兄が傍に居ると何故か体調が良いという現象が発生したため、特別に学術学園の聴講生として一年早く入学する。
▼シド・カゲノー
何か良い感じの病弱な妹がいるので、何を捨ててでもたったひとつ守りたいものがある(そして後々は「あった」に変化する)タイプの陰の実力者ムーブが出来たら楽しそう。今しか出来ないし。と、この作品では考えてる設定。なので妹相手だと時々モブを辞める。
努力しようと努力していること、姉と違って行動を制限されないことで妹への印象がまあまあ良いというのも加味されている。
シェリーとキャラ被るんだろうなって思ったけどそういうのが見たかった。
ミツゴシ商会の例の部屋でクララよろしく歩けるようになった妹をエスコートする兄ムーブシドが見たい。