陰の実力者には妹が居る。   作:うたかね あずま

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感想・評価等ありがとうございます。
総合評価が1000ptを超えてました!一つの大きいラインを超えて絶賛小躍り中です。
更新無いかもと言ったけど頑張りたかったので書きました。



陰の実力者には頼もしい身内が居る。

 王女と騎士達が去った後。

 セレナは冷え切った手を温めるように紅茶のカップを握りしめ、ぼうっと宙を眺めていた。

 

「はぁーっ、もう何度も口が出そうになったわ……」

 

 放っておけば口どころか手も足も出すような、とっても勝ち気な姉である。話し合いどころではなくなってしまうので、サポート程度に留めた後はほとんどこちらに任せてもらったが、ただ隣に居てくれるだけでも心強かった。

 すぐにとはいかないかもしれないけれど、じきに兄は解放されるだろう。たった一人、たった一日でこれだけの証拠を集めてくれた従者には、感謝してもしきれない。

 

 王女誘拐の罪で兄が拘束されたと聞いた時、セレナはすぐさま手紙をしたためた。証拠があるなんて書いてみせたけど、あの朝の時点では、ここ最近の噂を元に得られそうな証拠を想像しただけだったのだ。

 下手をすれば、王族を騙した罪でセレナの首も飛んでいた。それでも、大好きな兄が酷い目に遭っているかもしれないのに、ただ指をくわえて見ているだけなんて、そんなの到底耐えられなかった。

 第一王女が相手なら、予定を空けるのにも日数はそれなりに掛かるだろうと踏んでいたけれど、まさか翌日に訪問すると返事が返ってくるとは思わなかった。アイリス様もそれだけ必死だったのだろう。間に合って本当に良かった。

 

 本当に。良かった。

 

「……お姉ちゃん、」

 

 セレナはカップから手を離すと、おもむろにクレアを見上げた。

 

 ――――ふつ、と緊張の糸が切れる音がした。

 

「こ、こ、怖かったよぉぉ……!」

 

 とうとう、わっと泣き出したセレナに、クレアは慌ててその体を抱きしめた。何度も頭や背中を撫でてくれる温かい手が、すっかり冷え固まった心をゆっくりと溶かしてくれるようで、思わず嗚咽混じりに弱音を吐いてしまう。

 

「大丈夫かな、本当にお兄ちゃんを解放してくれるかなぁ……っ」

「ええ、きっと大丈夫よ、セレナ。アイリス様が聞き入れてくれたんだから」

 

 そう言ってクレアは、何時ものように微笑んでみせる。

 お姉ちゃんだって、きっとまだ不安なはずなのに。

 それでもこうして励ましてくれるのだから、セレナは何だか、ますます涙が溢れてしまった。

 

 

 

 ひとしきり泣いて、緊張がほぐれたからか、セレナの虚弱な身体はすぐさま不調を訴えた。

 ああ、これは酷くなりそう。茹だる頭の端でそう考えながら、隣で看病してくれる姉の、氷水に浸したタオルを乗せてくれる手先を、ぼんやりと見つめていた。

 剣ダコのある、皮の硬くなった手。美しい剣士の手だ。セレナはこの手が羨ましかった。

 

「あのね、お兄ちゃんが言ってたんだけどね。時にペンは、剣よりも強くなるんだって」

「へえ。あの子、本当に昔っからそれっぽいこと言うわよね」

 

 兄がくれた言葉の数々を、セレナは何度も反芻した。

 幼い頃から、数え切れないほど死にかけた瞬間があった。暴れる熱に苛まれて、心臓が引き攣れて、四肢が震えて、それでもセレナは、生きることを諦めたくはなかった。

 生まれる前から死ぬくらいなら、死んだって産声を上げていたかったのだ。

 

 心配性な家族にずっと隠していたセレナの意志を、兄は優しくすくい上げてくれた。

 そんな兄だから、そんな兄のためだったら、命を賭しても(ペン)を取れる。

 やっぱりちょっと怖いけれど、それでも。

 

「あんたは私とシドの妹なんだもの。セレナにだって、立派な剣士の素質があるんだわ」

 

 そうだったら嬉しいなあ。

 頬を撫でるクレアの指先に促されて、セレナはそっと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 留置場から解放されたのは、拘束されてから五日後のことだった。

 アリバイが見つかったとか何とかで、投げ付けられるように荷物を渡され、爪が剥がされた手をもたつかせながらどうにか服を着終えると、そのまま乱暴に追い出された。

 真犯人はまだ捕まっていないらしい。当然アレクシアの安否も不明のまま。アリバイとか言ってたけど、この扱いを見るに、僕の容疑が完全に晴れたという訳でもないのだろう。

 二人分の尾行の気配を確認すると、僕は憔悴しきったという演技をしながら寮へ戻った。

 

 自室の扉を開けると、その窓際でアルファが出迎えるように微笑んでいた。夕日に照らされて朱金に煌めく彼女の髪が、窓越しの風を受けてふわりと広がる。

 

「はい。食べるでしょ」

「ありがと」

 

 アルファが差し出したバーガーサンドを快く受け取り、僕は五日ぶりの食事にありついた。

 

 アルファと会うのは本当に久しぶりだ。ローテーションで回っている僕のサポート当番は、今はベータが担当していたはずだけど、そのベータから連絡を受けて王都に戻ってきていたらしい。

 夢から覚めた彼女達は、普段はごくごく普通の生活を満喫してるんだろうけど、僕の前では相変わらず陰の実力者の設定に付き合ってくれていた。今もこうして、教団の調査がどうの組織の強化がどうのと、良い感じに話を盛り上げている。持つべきものは親切な幼馴染だ。

 

 存分に腹を満たした僕は、だらりとベッドに仰向けになった。

 

「はー、生き返った」

「服ぐらい着替えなさいよ」

「無理、もう寝る」

「あなたねぇ、自分の立場解ってる? このままじゃあなたも犯人よ」

「だね。貧乏男爵家のパッとしない学生なら丁度良い。他の有力候補も増えたみたいだけど」

「あの雰囲気だと、時間稼ぎにしかならないでしょうね」

 

 何せ、王女様誘拐事件なのだ。騎士団はさっさと犯人を捕まえて事件を終わらせたいようだったし、本当に真犯人が見つかるかも解らない以上、高確率で僕は処刑台コースである。

 

「それでも、あの子。あなたを助けようと頑張ってたわ」

「ん?」

「それが解っていたから、あなたも指示を残さなかったんでしょう? 私たちが介入すると、変に拗れた状況に陥っていたかもしれない。立派な妹さんね」

 

 僕は思わず目を瞬いた。アリバイ提示ってセレナがやってたのか。突然解放されて速攻で追い出されたから、騎士団からは詳しい話を聞く暇も無かったのだ。

 アルファが言うには、第一王女と騎士団相手に妹は堂々と直談判し、見事勝利を収めたらしい。さすが頭良いとこ学園の聴講生。ちょっと見てみたかったな。

 

「あー……やっぱり起きる。そんな大立ち回りしたんなら、今頃熱でも出してるんじゃない?」

「ええ、その通り。お姉さんが看病していたみたいだけれど、焼け石に水ね」

「だろうね。一度様子を見に行くよ」

 

 妹の治療は僕にしか出来ない。僕はのろのろと身を起こして、制服の上着を脱いだ。適当に荷物の中に詰められていた所為か、すっかりシワだらけになっていた。

 替えの服を持ってきたアルファが、そのまま僕の着替えを手伝いながら、今回の事件の裏側を語った。騎士団には教団の手の者が紛れ込んでいて、王女誘拐の真の目的は、濃度の高い英雄の血を採取すること。だからアレクシアは、まだ死んではいないらしい。

 アルファの言うことだから、死んでないのは本当なんだろうけど……状況に応じて臨機応変に設定を合わせるのが本当に上手いな。

 

「詳しいことは、準備が出来たら伝えるから。またね」

 

 そう言って微笑むと、アルファはするりと窓の向こうへ消えていった。

 

 さて、僕も妹を労いに行くか。今頃寝ているだろうし、姉さんに見つかったら絶対に面倒臭いだろうから、気付かれないように慎重にいきたいところだ。

 妹が眠る傍らで物思いに耽る僕……のシーンのリフレインには、理想的なタイミングだしね。

 

 




▼土壇場で命をベット出来る妹
死にかけた経験が多すぎる&兄が応援してくれた影響で拍車が掛かり、努力と行動力の延長上でさらっと生き急ぎがち。死の恐怖が常に隣り合わせなので、それなりに肝が据わってて本番に強い。今回の件では最悪連座制も適用される可能性があると思ったので無茶出来たところもある。
(シドは結構擬態してるけど)あんな家族に囲まれて育てばそりゃあ少なからずバグる。きちんと恐怖を自覚出来るだけまとも。
ジョバンニが一晩でやってくれたので、首と胴体はお別れせずに済みました。


ついつい文字数多くなりがち。
ザクッとカットしてる話題は特に原作と変わりなかったんだな~と思ってください。

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