陰の実力者には妹が居る。   作:うたかね あずま

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感想・評価等ありがとうございます。
中途半端が過ぎるので、せめて幼少期が終わるまでは書ききりたいと思います。
よろしくお願い致します。



彼女には愛する弟妹が居る。

 カゲノー領から南西に存在する、知られざる遺跡。

 頼りない火の明かりが照らす、迷宮の如く入り組んだ地下道に、規則的な足音が響く。

 それは、ひとつの無骨な扉の前で止まった。

 

「クレア・カゲノーだな」

 

 石造りの牢屋の奥、鎖に繋がれた少女がゆっくりと顔を上げる。その瞳に鋭い光を宿らせて、クレアはこの誘拐の首謀者であろう男を見据えた。

 

「あの子は無事なんでしょうね」

「無論、丁重に扱っているとも。貴様が大人しくしていればな」

 

 妹は、クレアとは別の部屋に連れていかれた。こんな劣悪な環境に放置していれば、あの病弱な妹はすぐに死んでしまう。だから、一目で解る彼女の虚弱さをアピールして、人質として扱わせた。目の前の男はああ言っているが、少なくとも、クレアが殺されるより先に殺されることはないだろう。

 

 魔封の鎖に繋がれたクレアの身体は、常に比べて随分と重い。魔力とは言わば、もうひとつの血液のようなものだ。それが堰き止められているのは、魔剣士として身体を鍛え上げたクレアであっても窮屈なものがある。

 先天的に膨大な魔力を備えていながら、常にその魔力を枯渇寸前まで消費し、まともに体力を付けることすら適わない妹ならば、きっとこの比ではない苦しみを耐え続けてきたに違いない。今もなお冴えゆく思考の片隅で、クレアは、そんなことを今更ながら実感していた。

 

「……あなたの顔、王都で見たことがあるわ。確かオルバ子爵だったかしら?」

 

 ブシン祭でアイリス王女に無様に斬られていた、決勝大会一回戦負けのオルバ子爵。そう指摘すると、オルバのプライドは多少なり刺激されたようだったが、クレアにしてみれば、あれほどレベルの低い大会も無かった。

 己ならば。今は身体も技術も未熟な自覚があるが、慢心せずに鍛錬を重ねていけば、一年後には決勝の舞台に立てる。クレアはそう確信していた。

 

「残念だが、貴様にあと一年は無い」

「一年後生きていないのは、果たしてあなたか私か、試してみる?」

「試すまでもなく貴様だ。クレア・カゲノー」

 

 挑発的に笑うクレアの顔面目掛けて、オルバは目にも止まらぬスピードで足を振り抜いた。

 ガツン、と何かが砕ける音が部屋一帯に響く。眉ひとつ動かさないクレアの真横、最小限の動きで躱された蹴撃の先で、砕けた壁の残骸がパラパラと崩れ落ちた。

 

「ふん、高い魔力に振り回されるだけではないらしいな」

「魔力は量ではなく、使い方だと教わったわ」

「良い父を持ったな」

「あのハゲが? あいつに教わることなんて何も無いわ。教わったのは弟によ」

「弟……?」

「ええ、生意気な弟」

 

 弟と戦えば、クレアは必ず勝つ。けれど、クレアは何時だって弟の剣から学んでいた。一見、ただひたすらに弱い弟だが、あの子にはセンスが有る。殺されかけたと錯覚するような、何度対峙しても未だ計り知れないオーラを、時折薄っすらと感じている。磨けば眩く光る存在。極上の原石。クレアは弟のことを心底評価していた。

 なのにあの弟は、自分の剣からは何も学ばない。向上心が無いのか解らないが、とにかくそれが気に食わなかった。私はこんなにも、弟をよく見ているのに。

 

 弟は昔っから妹ばかりだった。身体の弱い妹を常に気遣う、優しい弟。それは良いのだ。むしろ立派にやっていて、姉として鼻が高い。ただ、クレアはカゲノー家の次期当主候補筆頭。何かと忙しいし、剣を通してコミュニケーションを取れる弟と比べると、妹にはあまり構ってやれないのがもどかしかった。

 本当は、妹ともっと遊んでやりたい。苛烈な気質のクレアに妹は着いていけないんじゃないかと周りは心配そうにしていたが、自分だって妹の調子に合わせてやることくらいは出来るのだ。昨日も中々一緒に過ごせない姉を独り占めできて、妹は滅多に無いほど喜んでいた。ああ、妹はこんなに素直なのに、弟と来たら。

 

 私と違って、弟は私を見ない。私の分も、弟は妹の傍にいられる。

 私より優れた点がいくつもあるのに、何時まで経ってもそれに気付かない、気弱で鈍臭くて、生意気な弟。

 だから、毎日いじめてやるの。クレアはくすりと笑みを零した。

 

「さて、無駄話はこのぐらいにして……クレア・カゲノー。最近体の不調は無いか? 魔力が扱いづらい、制御が不安定、魔力を扱うと痛みが走る、身体が黒ずみ始める……そういった症状は?」

「わざわざ私を連れ去って、やることは医者の真似事?」

 

 ようやく切り出された本題の、しかしその意図が掴めない内容に、クレアは首を傾げた。オルバの様子を見るに、本当に此方を殺す気は無いようだが、ならば一体どういうつもりなのか。睨み合う両者の間に沈黙が落ちる。

 

 ――――まあ、大したことではないのだし、妹のためにもさっさと終わらせてしまいましょう。

 

 クレアの形の良い唇が不敵な笑みを象る。そして、世間話でもするような声色で彼女は答えた。

 

「今は何ともないわ。鎖に繋がれてさえいなければ、快適そのものよ」

「今は?」

「ええ、今は。一年ぐらい前かしらね、あなたの言った症状が出ていたのは」

「なに? 治ったというのか。勝手に?」

「そうね、特に何も……あ、そうそう。弟に、すとれっち? とかいう運動の練習をさせてくれって頼まれて、それが終わったら、何故だかとても調子が良くなっていたわ」

「妹の方は?」

「言ったでしょ、あの子は病弱なの。指先一本動かすのも苦労する程ね。そんな症状が出てたらとっくに死んでるわ」

「……不可思議な言動をすることは?」

「はぁ? 妹はちょっと空想好きなだけの、大人しくて素直な子よ。弟ならさっき話したみたいに、たまに変なことを言い出すけど」

「……成程。いや、しかし……」

 

 オルバが何事かブツブツと呟き始めた。適合者がどうの、祝福がどうのと、半ば宗教じみていて訳の解らない、しかし確実に己と妹に関係している単語がクレアの耳に届く。どういうことかと詰め寄るより先に、オルバの方は用は済んだとばかりに踵を返そうとした。

 

「やはり念の為、弟も調べる必要が――――」

 

 刹那。オルバの顔面に強い衝撃が走る。

 たまらずたたらを踏みながら見上げると、クレアが両腕をだらりと垂らして其処に立っていた。

 長い黒髪の隙間から覗く、爛々とした両の眼が、青褪め硬直したオルバを射抜く。

 

「これ以上あの子達に手を出したら、絶対に許さない」

 

 クレアの手首から、ぼたぼたと血が滴り落ちる。片方の腕には未だに手枷が嵌ったまま。

 オルバは瞬時に理解した。この僅かな瞬間、彼女は魔封の鎖に繋がれながら、その筋力だけで鎖を引き千切り、そのまま遠心力を利用してオルバに叩きつけた後、もう片方の手の肉を削いで拘束を外してみせたのだ。

 

「お前も! 愛する家族も! 友人も! 全て殺して――――ッ」

 

 反射的に、オルバは全力でクレアの鳩尾に拳を叩き込んだ。

 あっさりと気絶した彼女を見下ろしながら、知らぬ間に詰まらせていた呼吸を整えていく。

 

 ――――まあ、良い。適合者かどうかは、その血を調べれば解る。

 

 気を取り直してクレアの血を採取しようと、オルバが身を屈めた時。

 一人の兵士が、オルバの下へ慌ただしく駆け込んできた。

 

「何事だ!」

「オルバ様、侵入者です!」

「何だと……!?」

 

 兵の話では、敵はおそらく七人の女性。正体不明の彼女等は、陰のように何処からともなく現れて、兵達を次々と屠っていったというのだ。

 まさか、有り得ない。此処には王都の騎士にも匹敵する実力を備えた兵を集めたというのに。

 

「くっ……私が出る!お前達は守りを固めろ!」

 

 オルバは舌打ちをすると、苛立ちの滲む足取りで牢を飛び出していった。

 

 

 




▼クレア・カゲノー
弟も妹も平等に可愛がりたいが、時間的にも妹の体調的にも難しく、弟はまるでそれに気付いてない様子なのが癪に障っている。そのため、妹関連では弟に対して羨望にも似た感情を抱いている。原作同様の理由に加え、妹に過激なことは出来ないのもあって弟を振り回しがち。
シド曰く、将来家を継ぐのは彼女らしいので、剣以外の教育も当然されているだろうと思った結果こうなった。


一話が大体2200字くらいだったのでそれに長さを合わせようとするも、ガバガバに溢れまくる。取捨選択って難しい。
ところでシドもクレアも、右側の髪の量が少し多いアシンメトリーなんですよね。
もしかしたらクレアが三きょうだいでお揃いにしたいと騒いだエピソードもあるかもしれない。
ついでにミツゴシ商会から貰った月見草の髪飾りを妹に付けてあげる兄ムーブシドが見たい。


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