陰の実力者には妹が居る。   作:うたかね あずま

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大体原作と変わらない部分はサクサクキットカットスタイルで行こうと思います。



陰の実力者には征くべき道がある。

 オルバは無力だった。

 悪魔憑きとなった娘の為なら、どんな非道な事にも手を染められた。形振り構わずに力を求め、教団の差し出す甘い毒に侵されていった。

 妻の忘れ形見でもあった娘を亡くし、オルバに残されたのは、もう戻ることも進む先も選べない一本道のレールだった。己を搾取するばかりの強者に頭を垂れ、無念と憎悪に苛まれながら、オルバは今も彼等の悪行をなぞっている。

 こんな世界など、深い絶望の闇に呑まれてしまえば良い。オルバは心底全てを呪った。

 

 

 漆黒の少年が剣を振るう。徹底的に磨き抜かれた一閃。オルバには辿り着けなかった境地。薄暗い地下道にも関わらず、際やかに描かれた軌跡を、極限状態で研ぎ澄まされたこの目ははっきりと捉えていた。

 オルバの身体は、あえなくその場に崩れ落ちた。直に己は死ぬ。だというのに、何故だか安堵が募っていく。きっと妻と娘と同じところへは行けないだろう。ならば、ようやくこの憎たらしい世界から解放されるが故か。

 

「貴様には……貴様が本当に守りたいものは、無いのか」

 

 喉奥から溢れる血で咳き込みながら、オルバは絞り出すように問いかける。

 

「貴様が、全てを持っていたとしても。その道を行けば、待つのは孤独と絶望だけだ。……いや、既に戻れないところまで来ているのかもしれない。だが、それでも……」

 

 血溜まりにうずもれた、壊れたロケット。

 気付けば随分と色褪せたように感じる最愛の娘は、今も変わらぬまま、そこで微笑んでいる。

 これまで数え切れないほどの罪を重ねてきたが、オルバにとっては、この笑顔を守れなかったことこそが、最も忌むべき罪だった。

 

 漆黒の少年は、凪いだ瞳で死にゆくオルバを見つめた。

 

「それが、我が覇道の歩みを止める理由には至らん」

 

 オルバは微かに息を呑んだ。

 

 ――――ああ。

 彼は、ただ持っているばかりではないのだ。

 まさしく全てを抱えようとする、途方もない覚悟。

 

 私には、出来なかった。

 

 もうほとんど霞んだ意識の中、オルバは無数の後悔とささやかな切望を抱きながら、そっと瞼を下ろした。

 

 ミリア。愛しい娘。私は愚かな父だった。

 心優しいお前に、恨んでくれと願うのは酷なのだろう。

 だからせめて、お前が生まれ変わった時は、今度こそ幸せに生きてほしい。

 

 地獄の底で、そう祈ることを、どうか、ゆるしてくれ。

 

 

 

 

 

 

 熱い。寒い。熱い。

 血液がぐるぐると巡る。目の奥が焼き切れる。脳味噌は溶けそうで、内臓はひっくり返りそうで、全身が心臓になったみたいに、鼓膜の奥からバクンバクンとがなり立てている。

 

 こういう時は、決まって夢を見る。恐ろしい夢。

 例えば、現代の技術からは想像も付かないような塔の群れ。不思議な機械で手紙を送り合う人々。高速で走り交う鉄の乗り物。聞いたことも無い音達が、そこらじゅうで引っ切り無しに不協和音を生み出している。

 それら全てを、瞬く間に蹂躙していく、ばけもの。

 

 次から次へと、目まぐるしく景色が切り替わっていく。四方八方から重力で引っ張られて、全身が引き裂かれるような苦痛が走る。延々とくるめく世界。何かと、何かが、繋がって、弾けて。消えて。

 

 ぱちん。ぱちん。

 

 朦朧とした意識の中、引き摺るように手を伸ばす。

 このままだと、何処か遠いところに迷い込んで、そしてもう、二度と戻ってこれない気がした。

 

 だれか。だれか。だれか。

 

 おねえちゃん。

 

 ……おにいちゃん。

 

 

「お前は、まだ死ぬべきではない」

 

 ふいに、柔らかな漆黒が全身を包み込む。

 焼けるような熱さも、刺すような冷たさも、優しく溶かしてくれるような手のひらが、そっとわたしの頬をなぞった。

 

 わたしは、この手を知っている気がする。

 

 強張っていた全身の力が抜けて、久方ぶりに呼吸の仕方を思い出したように、ゆっくりと息を吐き出した。もう、苦しくない。この人が居れば怖くない。だから、だいじょうぶ。

 

 夜の帳に深く沈んでゆくように、わたしの意識はそこでゆっくりと途切れていった。

 

 

「――――おやすみ。セレナ」

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと、今回の救出作戦は大満足の結果に終わった。

 盗賊団……じゃなくて教団との戦い。キーキャラクターたる妹とのファーストコンタクト。陰の実力者としての序章――――いや、零章を感じさせる、素晴らしい出来栄えだった。

 特に、遺跡で対峙したボス格らしき男は中々の逸材だった。僕も妹の写真を入れたロケットを持ち歩こうかと一瞬考えたが、陰の実力者はそんな浅はかな繋がりには縋らないか、と思い直して没にした。こういうのは、せめてもっとこう、さりげなく暗示させられるようなものが良い。

 

 セレナが本気で死にかけているのに気付いた時は少し焦ったが、土壇場の応急処置でギリギリ一命を繋ぎ止めることに成功した。

 そのまま一緒に連れて帰ろうかとも思ったが、後のことを考えると少し面倒臭そうな予感がしたので、気絶していた姉さんを近くに運び、七陰の一人を見張りに付けると、僕はその場からさっさと退散した。

 

 そして次の日、姉さんはしっかりと妹を背負って帰ってきた。怪我も一晩でほとんど治ったし、姉さんはやたらにしぶとい。そのしぶとさを少しでも妹に残してやれたら良かったのに。いやでも、妹も妹で根性はあるか。深夜の徘徊とかずっと頑張ってるみたいだし。

 

 療養やら事件の調査やらで一週間ほど騒がしい日々が続いたあと、姉さんは改めて王都へと旅立っていった。妹はその間ずっと熱を出して寝込んでいたが、少し経ってようやく意識が戻り、全てが無事に終わったことを知ると再び寝込んでしまった。この調子だと、しばらくはまともに身動きの取れない生活が続くだろう。死にかけたのだから当然だ。

 

 アルファ達はと言えば、教団の調査やら残党処理やらで、随分と忙しそうに走り回っていた。メインイベントは終わったというのに、彼女達は細部に渡って本格的で、僕としても目を見張るものがある。精が出て何よりだ。

 これほど皆が力を入れてくれているだけに、まともな観客が居なかった事実が悔やまれる。しかし、もう少しの辛抱だ。二年後には僕も王都に行く。こんな田舎の片隅では想像も付かないような大事件の数々や、陰の実力者として張り合いのあるネームドキャラが待っているに違いないのだ。

 

「シャドウ」

 

 僕の、裏の顔の名を呼ぶ声に振り返る。例の教団云々の調査報告があるとかで、僕の下には今、珍しく七影全員が勢揃いしていた。まあ、全部適当に聞き流すのだが、彼女達の遊びに付き合ってやるのも主としての立派な努めだ。

 きたる二年後に思いを馳せながら、僕はアルファの言葉に耳を傾けた。

 

「私達は、あなたの下を離れる時が来たわ」

 

 

 ……、…………えっ?

 

 

「お別れよ」

 

 

 えっ?????

 

 




▼セレナ・カゲノー
転生者ではない(念の為もう一度)

▼「お前は、まだ死ぬべきではない」
死ぬならもっと盛り上がりそうなシーンで死のうね。byシド


幼少期までが一章だとナチュラルに記憶違いしてました。
なんか書きたい蛇足が浮かばなければ、次で一旦終わりになるかと思います。


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