陰の実力者には妹が居る。   作:うたかね あずま

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評価ありがとうございます。
此処で一旦一区切り。



僕の隣には妹が居る。

 アルファ達の設定だと、ディアボロス教団は世界規模の超巨大組織らしい。悪魔憑き……ディアボロスの呪いが発現した人の捕獲と処分を徹底している上に、エクリプスの祝福を受けた、世界にたった一人存在する神の愛子の捜索も推し進めているという。それに対抗するためとか言って、彼女達は世界に散っていった。

 僕は察した。彼女達は大人になったのだ。教団なんて存在しないし、神話に隠された闇とか諸々も全部でっちあげ。もうこんな茶番には付き合いきれないから、自由にさせてもらいます――――つまりは、そういうことだった。

 

 英雄は女性だとか、ディアボロスの呪いの発現率だとか、あれそれがどうとか、こと細かい設定を練ってきたと思ったらこれである。わざわざそこまで理由付けしてくれなくても良いのに。悪魔憑きを治した恩だったり、少なからずこれまで友達として仲良くやってきた情があったからなのかもしれない。

 一応、僕の下には七陰の一人がローテーションで付いていてくれるらしい。それで我慢しろということなのだろう。仕方ないことだけど、やっぱりちょっと悲しかった。世界が変わっても人の意識が変わる訳ではない。僕だって、前世の頃からずっと変わらず、孤独に夢を追い続けている。

 

 僕は少しばかりの感傷に浸りながら、それでも彼女達を快く送り出すことにした。元々七人も集める気は無かったし、僕にはまだ妹という遊び相手が居る。人生の大半をベッドの中で過ごし、友達は本と言っても過言ではない彼女は、今でも空想好きな夢見る少女なのだ。

 それにしても、時々前世の日本っぽい夢を見ているらしいのは気になるけど。実はセレナもはっきりとした記憶が無いだけで、僕と同じ転生者だったりするのだろうか。

 

「お兄ちゃんの手、あったかいねえ」

「セレナの手は冷たいね。手が冷たい人は、心が温かい人らしいよ」

「そうなの? じゃあ、手が温かい人は?」

「心が冷たいんじゃない?」

「ええ? うーん……やっぱり、そんなこと無いと思うよ。だって、お兄ちゃんがこうして手を握ってくれると、手だけじゃなくて、心も一緒にぽかぽかしてくるもん」

「そう?」

「うん。きっとそうなんだよ。手が温かい人は、誰かの心を温かく出来る人なんだよ」

 

 唐突な僕のアドリブにも、程良くシリアスで程良くほっこりしそうな反応を返してくれる妹。こういう思い出が積み重なるから、何時か妹が死んだ時、それでもなお歩き続ける陰の実力者の格好良さが際立つのだ。

 

「ねえ、セレナ」

「ん、なあに、お兄ちゃん?」

「もし僕が……、……いや。セレナは僕のことを、応援してくれる?」

「……うん。お兄ちゃんがしたいことなら、勿論わたしは応援するよ」

「そっか。ありがとう。セレナは良い子だね」

「お兄ちゃんこそ、自慢の素敵なお兄ちゃんだよ」

 

 仲睦まじい兄妹のように互いの額をくっつけて、くすくす笑い合う。アルファ達も居なくなった今、王都で本格的な陰の実力者プレイが出来るようになるまでは、妹とのこういったさりげないやりとりが、僕の心の慰めになった。

 

「あ、もうこんな時間か……それじゃあおやすみ、セレナ。良い夢を」

「うん。おやすみなさい、お兄ちゃん」

 

 僕が求めるものは、これよりも遥か先に存在する。あと二年。待望の幕が上がるその時まで、ひたすら自己研鑽とイメトレと資金集めに励むのみだ。

 僕は心意気を新たにして、今日の獲物を探しに夜の闇を駆けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 邪神エクリプス。世界の狭間に封印された神。神話では冥界より飛来し、六つの月を食べた竜として伝えられている。

 七つ目の最後の月を食べようとした時、とある人々が奏でた美しい旋律によってその凶行は抑えられた。本来得ていたであろう完全なる力を手に入れ損ね、限りなく完全に近い力は制御を失って霧散した。その僅かな隙を狙って、邪神は封印されたという。

 

 邪神は今でも復活を目論んでいるのだとシャドウは語った。星の動きに合わせて狭間から世界を覗いている邪神は、世界の中から特別魔力量の多い者を一人選び、祝福を授けた。祝福を受けた人間は、邪神が復活するための養分として、死ぬまで魔力を蝕まれ続け――――完全に喰らい尽くされると、邪神はまた新しい人間を一人選ぶのだ。

 

 シャドウの妹――――セレナは、かの神の生贄として選ばれた。

 端から失われていく魔力も、彼女が見る不可思議な夢も、全て邪神の仕業だった。

 

 朦朧とした意識の中で、彼女は不思議なうわ言を呟いていた。星の動きで邪神が封印された狭間と世界の位置が近付く時、邪神の力が強まって魔力の吸収量も増え、代わりに狭間から見える様々な世界の記憶が夢として伝わるのだそうだ。シャドウが語る陰の叡智も、数ある世界のひとつから伝承されてきたものだろうとアルファは推測している。

 

 セレナが少しでも邪神の魔の手から逃れられるよう、シャドウはアルファにもしてくれたように、魔力操作で邪神の呪縛に対抗していた。けれど彼が施した僅かな変化も、時間が経つと元の形に戻されてしまう。あの作戦から一週間、彼女が目覚めるまでの間、シャドウは暇さえあればずっと彼女の手を握っていた。

 

 シャドウにこうして大切な人が居ると知った時、アルファは酷く安心したのを覚えている。彼女ならば、自分達を置いて遥か先を行こうとするシャドウを、ほんの少しでも近くに繋ぎ止めてくれると思ったのだ。

 でも違った。弱り果てた彼女を遺跡に置いていくと言い出した時、彼はもう、そんなことでは止まってくれないのだと痛感した。あんなに妹のことを慈しみながら、その妹すら切り捨てる覚悟が出来てしまっている。此方まで胸を締め付けられるような、壮絶な覚悟だった。

 

 月明かりが照らす夜。病弱な彼の妹が過ごす部屋、その窓際の樹に隠れながら、アルファは密やかに交わされる兄妹の会話を見守っていた。

 

「ねえ、セレナ」

「ん、なあに、お兄ちゃん?」

「もし僕が……、……いや」

 

 ふと零れてしまった言葉を飲み込んで、シャドウは困ったように眉を下げた。

 

「セレナは僕のことを、応援してくれる?」

「……うん。お兄ちゃんがしたいことなら、勿論わたしは応援するよ」

 

 聡い彼女は、シャドウが何かを言い掛けたこと、それを隠したことに気付いている様子だった。きっと彼を心配しているのだろうけど、彼女は何も触れずに、ただ微笑んで、頷いていた。

 

 シャドウはそっと己の額を妹の額に重ね合わせた。彼は親愛のキスなんてしない。まるでそれは許されないことだとでも言うかのように。代わりにああして、生きていることを確かめるように、互いの熱を測るのだ。

 ああ、あの二人はなんて寂しそうに、それでいて心底しあわせそうに、微笑み合うのだろう。

 

「それじゃあおやすみ、セレナ。良い夢を」

「うん。おやすみなさい、お兄ちゃん」

 

 兄妹の会話が終わる頃を見計らって、アルファもその場を後にした。

 しばらくは彼に会うことは無いだろう。彼の歩みに追いつくためにも、すべきことは山程ある。シャドウから離れると決めた今、最前線で指揮を取るのは己の役目なのだから。

 

 ねえ、シャドウ。私は必ず、あなたの背に追い付くわ。

 だから、……だから。私にもどうか、あなたを支えさせてほしい。

 天上の白らかな月を見上げながら、アルファは、そう願ってやまなかった。

 

 




▼邪神エクリプス
妹用のディアボロス枠を作るにあたって「蝕」を使いたかった。
具体的な元ネタはフィリピン神話の月食の化身バクナワ。

▼親愛のキスなんてしないシャドウ
元日本人なので、そういう文化の意識が根底に無いだけ。


幼少期編終わり。区切りが良いので、此処で更新は一旦終了とします。
需要がありそうなら、また続きを書きに来ようと思います。

それでは、此処までお付き合い下さりありがとうございました。
おやすみなさい。


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