初めて10点を頂けたり別所でもいくつかコメントを頂けて嬉しかったので続きを書きました。
とりあえず学園編のプロローグ的な。
待ちに待った15歳。僕は晴れて、王都にあるミドガル魔剣士学園に入学した。
魔剣士の育成機関としては大陸最高峰であり、国内外から将来有望な若者達が集う超名門校――――とは言うものの、この世界は中世に倣った階級社会。片田舎の男爵家出身、優れた肩書も特筆すべき才能も何も無い、生粋のモブたる僕でも予定調和のように入れてしまう。
もっとも、下町の寮……もとい、格安集合住宅に雑に押し込められたりと、待遇に関しては完全にモブそのものだが。
僕は適当に朝の支度を整えると、早々に寮を飛び出した。何時もはモブ仲間と共に慌ただしく汽車に駆け込み、鮨詰め状態の中を揉まれに揉まれながら登校するのだが、今日は一人、早朝の空いている汽車に乗り込んだ。
目指すは学園近くの屋敷。特待生の姉さんが居る崖の中の寮とは別の、やや小規模だが衛生管理が行き届いた建物だ。
数年前に学園の寮として改装されたらしい、その屋敷の一室を尋ねる。部屋の住人は身内であり、定期的に訪れているのもあって、今ではほとんど顔パスとなっていた。
僕は無遠慮に扉を開けて、そのまま玄関から軽く声を張った。
「おはよう、セレナ。準備出来てる?」
「おはよう、お兄ちゃん! 今行くね」
返事が聞こえて間もなく、世話係によって車椅子に乗せられた妹が、部屋の奥から顔を覗かせた。僕は慣れた手付きで妹の頭を撫でる――――のを利用して魔力操作をする。傍に控えた世話係はカゲノー家のメイドであり、アルファが何時の間にか連れてきた元悪魔憑きなので気にする必要は無い。
「今日は体調良さそうだね」
「うん、久々に朝から授業受けられそうだよ!」
揃いの制服を身に纏った彼女は、二年前と比べて幾分か血色の良くなった頬を綻ばせた。
彼女の胸元では、聴講生であることを示すブローチがきらきらと輝いている。
妹は、僕の入学に合わせて、一年早く学園に通うことになったのだ。
入学までの二年間。姉さんもアルファ達も居なくなり、自由時間がぐんと増えた僕は、その一部を妹の治療に割り当てた。
結果解ったのは、僕がいくら治療を重ねても、妹の体質は時間経過によって元に戻ってしまうということ。妹は形状記憶合金か何かなのだろうか。
結局、今でも定期的に魔力操作をしないといけないのは変わらないし、いっぺんに操作するよりも、数日掛けて小さな変化を積み重ねていく方が負担も少なく、長期間安定するようだった。ともあれ、こうして通学出来る程度には妹の体調を維持出来るまでに至っている。
そうして妹が少しずつ元気になっていくのを見た両親は、家族会議の末に、学園に通えそうな今の内にと聴講生制度を利用することに決めたのだった。
妹のような特殊な事情を抱えた子供達が、通常のカリキュラムに置いていかれないように設けられた聴講生制度。正式に入学する訳ではないため15歳未満でも申請が可能で、生徒として籍を置くことで自由に授業を受けられる……といった感じの制度だ。
課題提出もあくまで任意なのだが、妹は折角だからと出来る範囲で頑張っているらしい。妹のそういう、ひたむきに研鑽を重ねる姿勢は昔から変わらなくて、僕は素直に感心している。
貴族の子供は学園に通う決まりがあるので、こういった制度の利用は実は特段珍しくもない。前世の医学では治療出来るような病気も、この世界では不治の病として扱われていたりするし、悪魔憑きでなくとも家族が病死した経験を持つ人間はその辺にごろごろ居るからだ。
妹が暮らしているのも、そういった訳有りの生徒達が入る寮である。姉さんが居る寮と比べると病院も近いし、王族貴族相手にいちいち気を遣う必要も無いので、男爵家の人間としては穏やかに過ごせる環境だ。
話がそれたが、そんなこんなで妹も王都に行くという話にまとまったので、僕は体調確認がてら一緒に登下校しようと提案した。これに姉さんも乗っかって、こうして交代制で妹に付き添うようになったのだ。
姉さんがやたらとやる気に満ち溢れていたので、僕が定期検診したい時や、姉さんの方に用事が入っている時以外はあちらに譲っている。折角学園近くの寮に住んでるのに、あの人はそれで良いのだろうか。確かに距離だけならあっちの方が近いし、通行費も掛からないので理に適ってはいるけど。
妹の身体に負担の無いように、自然が多く人通りの少ない道を選び、かなりのんびりとした足並みで通学路を進むので、校門に着く頃には他の生徒達でそれなりに賑わっていた。
妹は魔剣士学園に併設されている、ミドガル学術学園に通っている。魔力に関する研究やら何やら、小難しい学問なんかをやっているらしい。妹から少し聞いたけどよく解らなかった。まあ、何か頭良いとこってやつなんだろう。
「それじゃあ、セレナ。気を付けてね。いってらっしゃい」
「うん。お兄ちゃんも頑張ってね。いってきます」
僕は軽く手を振りながら、妹が学術学園の校舎へ向かうのを見送った。そしてその背が見えなくなる頃、僕もそろそろ教室に向かおうと踵を返す。
と。
「シっ……シ、シ、シド」
「シシシ、シ、シド君」
「あ、居たんだ二人共。おはよ」
まあ気付いていたのだが、素知らぬ振りをして挨拶をする。眼の前で謎の痙攣を披露するのは、僕のモブ仲間であるヒョロとジャガだ。ずっと校門の影を陣取っていたみたいだし、もしかしたら待ち伏せしていたのかもしれない。普段はこの二人と一緒に登校しているので、昨日の内に妹と登校することを伝えてあったのだ。
「おう、おはよう――――じゃなくてだなァ!?」
「ちょっとシド君!! あんな妹さんが居たんですか!?」
「そうだよそれだよ!! お前、今の今まで隠してやがったのか!!」
「いや、たまにしてたじゃん。妹の話」
「だ・か・ら!! その妹が!! お前に勿体無いくらい可愛いって話をしてんだよ!!」
「お姉さんも美人ですけど、妹さんはまさしく深窓のご令嬢って雰囲気でしたね~。さてはシド君の家系、美女だらけなのでは……どうなんですかシド君」
「えー……みんな大体似たような感じなんじゃない?」
物凄い剣幕で詰め寄ってくる二人を適当にあしらいながら校舎へと急ぐ。学園のアイドル相手とかならともかく、こういう話題はいまいちノリが解らないし、割とかなりどうでも良い。
とにかく軽薄で諦めの悪いヒョロが、大袈裟に肩を組みながら耳打ちした。
「なあシドよぉ……ちょいと紹介してくれねえか?」
「見てたなら解ると思うけど、妹は病弱だからそんなことしてる余裕無いよ」
「解るぞ。解るがしかしそこを何とか~~ッ!!」
「あと妹に手を出したら、もれなく姉さんが切り刻みに来る」
「ヒェッ」
「主に下の方を」
「ォワッハァ」
「……諦めましょう、ヒョロ君。
ヒョロはすっかり青褪めながら黙り込んだ。
▼シド・カゲノー
病気で人がガンドコ死ぬ中世風の世界観なので、病弱な妹が居る兄という役柄と一般モブとしての立場を問題無く両立出来ている。と本人は思っている。
家族会議で聴講生制度に熱いプッシュをしていた。なんせ一緒に王都に行けないと妹がほぼ確実に死ぬので。聴講生の話は帰省した姉から聞いてた。姉もノリノリ。
▼妹の世話係
名無しのシャドウガーデン。多分一年くらい前からカゲノー家に務めている。
▼聴講生制度
めちゃくちゃ捏造。実際こんな大学みたいなノリかは怪しいけど、超名門校なんだし学術学園の方ならまだ許されるかなと。ワンチャンシャドウガーデンが何やかんや発展に貢献してくれてる。
書籍版6巻で学園の医務室に勤務してるナンバーズが出てきてめちゃくちゃ詳細が気になってます。まじで何処にでもいるシャドウガーデン。
ところでシド曰く、ニューが変装で着てた制服は学術学園のものらしいけど魔剣士学園との差異が解らなかった……。シェリーの外套は多分オプションかなと思っている。
続きを書くにあたって最近カゲマスを始めてみたらキャラが色々と面白い話をしてくれるので、まだ全然知らない裏話とかも沢山ありそう。