陰の実力者には妹が居る。   作:うたかね あずま

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シド拷問中の裏の殴り込み回。



彼女には救いたい家族が居る。

 ミドガル学園から、然程遠くない位置に建てられた屋敷。最近、特殊な事情を抱えた子供達のための寮として改装された其処に、来客が訪れた。

 

「セレナ・カゲノーさんで間違いないですね」

「はい。わざわざご足労頂きまして、ありがとうございます。アイリス様」

 

 夜明け色の髪を持つ第一王女アイリスと、その護衛として同行したゼノン、他複数名の騎士。彼等の目の前では、王女誘拐の罪で今話題となっているシド・カゲノーの妹、セレナ・カゲノーが、控えめに微笑みながら出迎えていた。

 

 ――――それから、彼等の姉、クレア・カゲノー。妹が座る車椅子を運んできた彼女は、こちらをじっと観察するように、鋭い視線を送っていた。

 確かに生徒は原則外出禁止、授業間以外は寮に待機しろとは言ったが、己の寮に、とまでは指定していなかった。此処まで堂々とした、あるいは開き直ったとも言える佇まいを見ると、宿泊許可もしっかりと得ていそうである。

 

 クレア一人で特待生の寮に帰らせていたら、頃合いを見てすぐさま飛び出しそうな勢いだった。将来有望な彼女が謹慎処分などといった話にならないように、妹が予防策を講じた結果がこれなのだろう。

 学園の上階から彼女の暴れっぷりを見ていたアイリスは、内心でそっと苦笑した。被害者と犯人候補の関係ではあるが、同じ姉として、彼女の気持ちは痛いほど理解出来たから。

 

「セレナさん。貴方の兄……シド・カゲノーの容疑を晴らす機会が欲しいと、手紙にはそうありましたね」

 

 案内された席に腰掛けると、早々にアイリスは切り出した。

 外出禁止令が敷かれた今、こうして直接招くしかアイリスと話をする方法は無かった。セレナも無礼を承知で呼び出した自覚があるのだろう、申し訳無さそうに眉を下げながら口を開く。

 

「はい。兄は今も尋問中なんでしょう。何時解放されるかも解らないし、このまま処刑なんてことになったら……わたしはきっと、騎士団を許せません」

「騎士団は間違いが無いよう、慎重に捜査を行っています。本当に彼が犯人でないのなら、貴方が危惧するような事態には至らないでしょう」

「それでも、わたしはただ黙ってこの状況を見過ごす訳にはいかないんです」

「っそうよ! 今頃不安で泣いているかも……! もしあの子の身に何かあったら――――っ」

 

 クレアが弾かれたように声を荒らげたかと思ったら、慌てて咄嗟に口をつぐんだ。一瞬向けられた殺気には気付かなかったふりをして、アイリスは出されていた紅茶に口を付ける。

 気不味そうにチラチラとアイコンタクトを取る姉に、セレナは少しだけ困ったように微笑んでみせた。どうやら弟のこととなると極端に直情的になるらしい彼女のことなので、今回の話し合いの場は妹に一任しているのかもしれなかった。

 

「君達の気持ちも解る。だがこれ以上は、騎士団に対する侮辱になるぞ」

「だとしても。カゲノー家は男爵家。曲がりなりにも、我等がミドガル国王陛下から爵位を賜った貴族の家系です。その家名を背負った一人の貴族として、わたしには、家族の冤を雪ぐ責任がありますから。今ここで沈黙を選ぶことこそ、巡り巡って陛下への……王家への背信に繋がることと存じます」

 

 ゼノンは思わず目を見張った。聴講生として在籍しているとは言え、まだ正式に入学すらしていない、社交界にもまともに出たことがないであろう14歳の子供が、ここまで口が回るとは思わなかったのだ。

 

「――――良いでしょう」

 

 そしてその気概は、第一王女たるアイリスにも伝わった。

 

「本題に入ります。セレナさん、シド・カゲノーに関する証拠があるというのは本当ですか?」

 

 セレナが頷く。動けない彼女に代わり、クレアは封筒の中にまとめられた小さな紙の束、それから複数枚のメモのような用紙を机に並べた。

 

「これは……」

「ここ数日兄が利用していた、使用済みの切符です。降車時に集札されたのを、駅員さんに事情を説明してお借りしました」

 

 切符には全て切り込みが入っていた。駅で使用されている改札鋏によるものだ。この切り込みの形は各駅によって異なるため、一目で使用された駅が解るようになっている。

 

「兄はアレクシア王女と一緒に汽車に乗っていました。アレクシア王女は一人で汽車を降り、兄はそのまま往復で寮近くの駅まで引き返しました。これは切符に印字された時刻と、駅員さんのお話からも証言が得られています」

 

 セレナは最後の日付の切符と、証言を書き取った用紙を順番に示していく。

 

「つまり、アレクシア王女の最後の目撃者は、兄ではなくて、駅員さんなんです」

 

 アイリスは思わずガタリと椅子を揺らした。普段の泰然自若な姿からは想像もつかないほど前のめりになりながら、セレナの指先が示すそれを食い入るように睨み付ける。

 

「少なくとも、見間違いということは無いでしょう。駅員さんが王女様の顔を見逃す筈が無いですし、兄はここ数日、放課後にアレクシア王女と王都に出掛けて、往復で寮まで帰るのを毎日繰り返していますから」

 

 仮にシドの顔が覚えられていなかったとしても、駅に務める人間からすれば相当目立つ行為である。無数の文字でびっしりと埋められた用紙がそれを如実に語っていた。

 アレクシアはわざわざ見せつけるように王都を練り歩いていたそうだし、まだ調査が進んでいないだけで、同乗客や王都の住人からも更なる証言を得られるかもしれない。

 

「二人は放課後、真っ直ぐに王都に向かうので、利用する駅とその時間帯はほとんど決まっています。そこから尾行して行動範囲や移動経路を概ね把握出来たなら、たとえ狙いが王女様であっても、犯行計画はぐっと立てられやすくなりますし」

 

 セレナは軽く目を伏せると、冷ややかに声を落とした。

 

「――――何より関係者である兄に、罪をなすりつけやすい」

 

 表情を消すアイリスの傍らで、ゼノンはゆっくりと息を呑んだ。

 

「……成程。しかし、これらの証拠は一体どうやって集めたんだい? シド君が拘束されたのは、つい昨日の話だというのに」

「わたしの側仕えは優秀なんです」

 

 セレナはそう言うと、にこりと可愛らしく微笑んだ。彼女の言う側仕えの姿は、始めから何処にも見当たらなかった。今でも有力な証拠が得られないか奔走しているのだろう。

 外出禁止令が出されているのは学園の生徒だけ。だから調査は信頼出来る従者に任せ、彼女が居ない分は姉を頼ることで埋めたのだ。ただ姉の行動を制御するためだけに共に居た訳ではなかったらしい。

 

「兄の疑いを完全に晴らすには、これだけでは証拠不十分かもしれませんが……他に有力な犯人候補がいる以上、一時的釈放とするには充分かと思います」

 

 実際、誘拐予定の現場まで手引きをしたのではないか、など色々言いようはあった。それでもアイリスは王女として、同じくきょうだいが危険に晒されている者として、こうして彼女達が集めた証拠を無碍にしたくはなかった。

 

 今ならシドに見張りを付けつつ、本命を調査するという手も取れる。

 どうすれば一刻も早くアレクシアを救えられるか。アイリスには、とっくに答えが出ていた。

 

「アイリス様。ゼノン先生」

 

 ――――初めて目に飛び込んだのは、車椅子に預けられた、頼りなさげな細い体。こちらを見上げる、まだやや幼い印象の顔がかたどったのは、それに違わぬ内気そうな微笑みだった。

 そんな弱々しい第一印象を覆すほどの、強い意志を伴った瞳で、彼女は凛とこちらを見つめた。

 

「兄を、解放して下さい」

 

 




▼騎士団に喧嘩を売る妹
アニメではカットされた姉の直談判を妹に代行してもらった。母親と言いカゲノー家の女性は中々にしたたかなので、姉が暴れ回るなら妹も暴れ回るやろなあと。
原作では五日間の拷問の末にシドは解放されるが、この作品では妹がアリバイを提示したので、事実確認の後に五日間で切り上げられたという設定。

▼アリバイ
切符に関してはとっても捏造。アニメで汽車が運用されているのを良いことに、パチンパチンやってる絵面が好きなので採用した。
アニメ版だと実際正確な最後の目撃者は駅員になると思う。このあと駅員はとばっちりで捕まるか殺されるか口封じの賄賂を渡されるかするんだろうなあと思います。

▼「わたしの側仕えは優秀なんです」
シャドウガーデンクオリティ。妹は一切知らずに活用している。


こういう展開が好きだけど書けるとは言ってない。あとこの時点でのアイリス様のキャラをそんなに掴めてない。なんかおかしいとこがあっても目を瞑ってやってください!!

少し忙しいので明日は更新無いかもです。年末年始は忙殺される民。

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