人間でありながら見事な死に様を遂げた者など見たことがない。
ここは野蛮な西洋の地。
同胞によって血を吸い尽くされて干からびている人間や死にかけの人間など腐るほどいるのは周知の事実であった。
阿鼻叫喚する者、命乞いをする者、神に祈る者、稀に全てを受け入れて静かに最期を迎える者。
変わり映えのないつまらない死に方。…つまらないはずなのだ。
いつものように吸血鬼狩りを片付けた私は、まだ一人の男が立っていることに気づく。
仕損じたのか、とすぐに臨戦態勢に戻ったが身なりや気配から吸血鬼狩りではない。
そう分かると安堵したのか、思い出したかのようにお腹が空いてきて私はその男への吸血衝動に駆られていた。
「こんばんは。あなた、人間よね?私の名はレミリア・スカーレット。
最期に何か言い残すことはあるかしら?今とっても気分がいいから聞いてあげるわよ。」
本当のことを言うと私は干からびるまで人間の血を吸うことが出来ない。
理由は単純で、すぐにお腹いっぱいになってしまうからである。
しかし今の私は運動(鮮血)の直後なのでやろうと思えば吸い尽くし切れる自信があった。
つまらないことをほざいたら即ミイラにしてやろう、私はそれくらいのことしか考えていなかった。
彼は言った。”あなたに殺されるというのも中々悪くない。“
単に気でも狂ったのだろう、そんな人間たちはたくさん見てきたし
そういう者たちで遊ぶのも有り余る時間の暇つぶしになる。
ただ彼のソワソワとした雰囲気、爛々とした瞳から満更でもないのかもしれない。
そう考えた途端、とても気味が悪く感じた。
それになんだか初めて向けられた視線で落ち着かないのだ。切望のような慈愛のような。
だが真意はどうであれ彼の回答自体は中々に良い死生観を感じられる。
全てを受け入れる人間ですら珍しいのに、
さらに自分から喰われるのも選択肢の一つだと解釈する人間を見たのは初めてだった。
私はそんな面白い人間の運命が純粋に気になり彼の運命を覗いた、否覗いてしまった。
……しばらく時間が経ち、私の脳内に彼の運命が走馬灯の如く駆け巡る。
紅茶を飲みながら私と談笑する姿、フランに懐かれて嬉しそうな姿、
そして私に添い寝しているすが…って何よこれ!?
そう、彼の運命は異質なのであった。
その運命では私たちと男の仲睦まじい生活が描かれていた。
吸血鬼と人間の共生。
それだけでもイレギュラーな事なのだが、さらには仲睦まじいという形容では成り立たないような
運命まで見えたのも確かで私は軽いパニックに陥った。
私との会話やフランとの交流であれば、まだ百歩譲って想像出来る。
しかし私がほだされた時しかありえないその状況には唖然とするしかなかった。
「な、なななんで私がこんな…」彼女は初心だった。それ故に事態への理解が追いつかなかった。
無理もないだろう、男に対する処世術などこの500年父や同盟を結んでいた
男性吸血鬼相手にしかしていなかったのだから。
「面白い方ですねぇ。」
私が取り乱した途端、彼は早くも調子に乗り始めていた。
当の私はというと吸血鬼狩りでもない人間を殺す気は失くなりかけていて、
そんなことよりも先ほどの彼の運命が気になってしょうがなかった。
彼女は比較的温厚な吸血鬼なのである。
結局好奇心に負けた私は聞く機会をうかがいながらしばらく彼のしょうもない話に付き合っていたが
彼は唐突にとんでもないことを言いはじめた。
「………あ、そうだ。名案がございます。」
「デジャヴね。嫌な予感しかしないのだけれど。」
「是非あなた方とご一緒させて頂きたい。フフフ、新しい刺激を求められてはいかがですか?今となっては数少ない同胞ですからね。」
「…………は?」
何だろう、いまだに下に見られているような気がする。
こんな人間を殺してしまったら私の程度が知れるのでぐっとこらえ、
吸血鬼のプライドに関わるのも気にせずに当たり障りのない返答と少し踏み込んだ問いかけをした。
普通に突っ込むのが面倒だっただけだと言われたらおしまいである。
「生憎だけどお断りするわ。なんであなたみたいな得体の知れない男と共生しなきゃならないのよ。
……そ、そんなことよりあ、あなたってもしかして私のことが…」
「あぁ……。やはりそうおっしゃいますか。…そうですね…では交換条件と参りましょう。」
すると肝心なところで彼は私の言葉を遮ってしまった。
これがデリカシーに欠けるというやつだろうか。
どちらにしろ経験不足な少女には分からないことだった。
「引き換えにレミリア殿がお連れの少女、妹様ですかな?彼女をお助けして差し上げますよ。」
「……は………?」
横を見やれば、
傷一つなく気絶していたはずのフランは、身体中の出血によって虫の息だった。
レミィの独り言多くてゴペンネ