「フィリップ〜、一緒に遊ぼう!」
「おや、妹様。フフフ、少し待っていてくださいね。」
彼が館に来てから一ヶ月ほどが経った。
彼は持ち前の社交性で早々にフランの信頼を勝ち取り、また彼自身も無意識に丁寧語に近い口調になるほどフランに心を許していた。
「あー!ほら、またよそよそしい感じになってるよ!それやめてって言ったじゃん!」
「部屋で走り回るなという私の注意をあなたも聞いてくれれば考えますよ。その無邪気なところも魅力的だとも思いますが。」
「っっ…話をそらさないで!」
「フフフ。レミリア殿によく似ていらっしゃる。」
そして普段私にやっているように彼は挑発が上手かった。
その特技を彼はフランの面倒へと応用していてやはり姉妹だからだろうか、フランも彼のペースに乗せられていた。
今となっては丸く収まったが、当初はフランの説得がすごく大変だったものだ。
無理もないだろう、起きたら見ず知らずの男が一緒に住もうと言い始めたのだから。
もちろん悪態をつくことは予想していたわけだが、それが
「誰よこの男!?」「お姉様をいじめたんでしょ知ってるわよ!(姉思い)」とかだったらかわいいもので、
こんな生粋の箱入り娘がどこで覚えてきたのだろう、姉の私でも聞くに耐えない罵詈雑言を浴びせ続けていた。
「レミリア殿、よろしければご一緒に」
「あら、良いわよ。何をするの?」
「うーん、どうしよっか…。
正直トランプはもう飽きちゃったんだよねー。
フィリップが来る前からやってるっていうのもあるけど、とにかくお姉様が弱すぎてさ。
ポーカーとかブラックジャックは本当に相手にならないんだよ〜。
「う、うるさいわね!
純然なカリスマたるもの不確定要素には囚われないのよ!」
「これカリスマ関係なくないし、なんなら某ギャンブルマンガみたいにカリスマにはつきものじゃない?」
「だってあれは底辺でしょ。」
「キンキンに冷えてやがる。」
「妹様のお年でそれは随分お早いですねぇー。」
どうやらこの小娘(500才)、彼と生活する中で小手先の挑発をおぼえたようだ。
だがそんなことでは私のカリスマは崩れない。
かりちゅま(自覚)の汚名返上のために彼女は必死だった。
「ちなみに何を賭けていらしたのですか?」
「うん?えっと、それはね…」
「あ、フラン!?それは絶対に言ったら駄目──「甘い物だよ!お姉様はたまに小さな動物の写真も持ってきてくれるけどね!んー、例えば犬とかかな。」
「………なるほど。」
「…………」
無類の甘党、小動物好き。
嗚呼無情、私のほとんど無いに等しかったカリスマ像が粉々に砕ける音が聞こえる。
咄嗟に彼の反応を見ると、彼は微笑んでいて、(いつも通りと言われればそれまでだが)
彼女は慌てて体裁を取り繕う。
せめて人間の血とかであれば雰囲気も出てかっこいいのだが、こうなってしまってはもう言い逃れようがなかった。
「……拝見させていただいても?」
「もちろん!ちょっと待っててね。」
「あ、………ああ」
だがもはや彼女に止める気力がないことは明白であった。
彼らに抵抗というものはないのだろうか。フランにはそういうのをちゃんと教えておくべきだったと彼女は唐突に妹への教育に振り返っていた。
「はい、どうぞ!」
「ありがとうございます。では失礼して………なるほど……これは想像以上ですね。」
そこにはウサギや猫、はたまた人間まで、様々な動物の写真がアルバムとなって蒐集されていた。
種族はもちろん動物たちの生息地に至るまで統一性はなく、さながら生物図鑑のようでありそれは彼女が悠久の時の中で手間暇かけて作製したことを物語っている。
「…ん……?」
そこで彼はふと、一体感を感じさせない種族を見つけた。
「何故、人間の写真が?」
「あー、なんかお姉様曰く人間もそうだけど人型の種族はある程度の知能とか教養?を持ってることが多いらしくてね。そのおかげで彼らからしたら何気ない所作でも、それがお姉様にとっては綺麗に見えるんだって。」
「ああ、確かに。」
低級の名もない妖怪などと対比すればそれは良い例だろう。
この国の治安であればそこら中の裏路地で見学することが出来る。
もちろん命の保証もないが。
「本当に面白い才能だよね〜。」
「………」
「まったく反応がありませんね…。」
そう、何を隠そう彼女は小動物によって日々、心を安らげていた。
吸血鬼だという理由だけで避けられてきた彼女、いや彼女を含めた
数多くの成熟した吸血鬼にとってそれは何も珍しいことではなかった。
この裏話を吸血鬼狩りに聞かせてしまえばもう毎夜毎夜襲われずに済むのではではないだろうか、
周りからすればむしろ微笑ましい光景であり
何なら人間観察であればそれこそ彼女の言う“らしい”はずなのだが
いかんせん彼女は件の小動物の暴露でキャパが限界になってしまっていたのである。
「本当にお姉様って面白いのよね〜。あ、復活してる。」
「あ、あなたたち…。まったく悪びれてないわね…。」
しばらくするとカリスマは起き上がり、またもや性懲りもなく自分の立場を誇示し続けていた。
「ハハハハハ。
……ところでレミリア殿。……先ほどのアルバムで吸血鬼の写真も拝見致しました。
男女問わず、数枚ほどでございます。
そこで少し、気になったのですが………」
「………何よ?」
どうしようか。今まで以上に嫌な予感がする。
私はそのコレクションとしていかがでしょうか?
この数奇なアルバムなら私も例外ではありませんからね。あなたのお眼鏡にかなえば嬉しいのですが。」
「………確かにあるけど………またすました顔でとんでもないこと言うわね。」
「おぉー。」
下世話でうるさい外野をとりあえず無視し、思考を巡らす。
私は数拍の後、その暴論に毅然として答えた。
アルバムといってもモデルを選ぶ自由は私にあるのだ。
「…残念ね。そんな文句で私はたじろがないわ。
あと答えは論外よ。初対面の対応っていうものを学び直してきなさい。」
確かに、彼の顔は整っている。片眼鏡で隠されているところはあるものの、
目、鼻、口、細かな部分まで繊細な美形を見たことは中々なかった。
彼が着こなしているスーツがそれを際立たせていて、もはや一種の芸術作品のようだ。
だがそれを彼が分かってるのか分かってないのかはともかく(たぶん分かってる)
単に彼の思惑にのるのはかなりムカつくから断ったのだ。
彼との出会いの中でそれは嫌というほど経験していた。
というわけで、すでに件の事はさほど怒ってはいないのである。
そんな私をフランは目敏く見透かした。
「まんざらでもないくせに。」
「そういう運命が見えないんだから何も起きようがないのよ。
何ならフランの方で何かあったりするかもね。」
「……お姉様って初心なのに変にロマンを求めないよね。」
「…あなた本当にどこでそういうの覚えるの?」
「まあそれはそれで面白いんだけどね。」
体よく私の能力のせいにしてなんとかフランを宥めていると、
彼は静かに口を開いた。
「それでも……あの夜から私はあなたのことをお慕いしておりますよ。」
「……そう。
じゃあこれからも私に大人しく従うのよ。」
「……はあ。ハハハ、従うのですね。」
「あら、何か不服なことでもあるかしら?」
「いえいえ一貫された方だな、と。」
「勝手に言ってなさい。」
能力にも頼らない直感だ。
「……フフフ。」
だがあの普段の薄っぺらい言動から一転した彼の内面を見た彼女は、
日常と化している軽口の叩き合いをいつの間にか受け入れている自分に気がつかなかった。
まじでフランが良い仕事してくれる。
多分ないけどもし魔が差して三つ巴にしても許してくれメンス。
でもそしたら純愛タグはどうなるのでしょうか(白目)