「……すぅぅぅ……ふー……」
噴き出る汗は、額から、頬を伝い、顎下まで流れ、一雫の水滴となり、膝の上に垂れ落ちる。
それが、何度も、何度も、何度も。
それは熱から俺を守ろうと体温調節。
気が昂まるぅぅ……
溢れるぅぅ……
「っ!」
堪えに堪えた体が新たな空気を欲して、大きく息を吐き、そして口を細めて空気を吸う。
そうするとほんの少しだけ空気が冷たくなる。
空気の圧縮。エアコンと同じ。
ああ、しかし良いな。
この檜の香り。年季を感じる。
それが鼻を付いて、頬を撫でる。
また同じように汗が噴き出る。
いいぞ、いいぞぉ!!
ブロリー!!
そのまま消し去ってしまえ!!
ダメだ。
サウナだけは残してくれ。困る。
「……良い感じだ…」
血行が良くなり体も次第に元気になる。
そうすれば脳も活性化する。
お陰で__これまで暗記したものが鮮明になる。
余計なモノは汗と共に流れ落ちた。
雑念すら俺に被らず。
なにせ心のブロリーが消し去ってくれた。ちなみに奴の賢さは26。ドラクエ5なら言うこと聞いてくれるし多分大丈夫やろ!うわへへ。
「再び中央の勉強を行なって二ヶ月目。過去問とか幾度なく書き殴ったけどやはり半分程度しか正解に漕ぎ着けれてない。てか文章問題多すぎなんだよ」
これの何が酷いって、一つの問題に対して解を得ようとすると知識容量が半端なく必要である点。例えば1+1が2の問題ってのは義務教育が行き届いていれば誰でも解ける問題になるのだが、しかし中央の試験はその『1』の中に莫大な情報量が込められている。しかもその莫大な情報量の半分は不要な情報が込まれているパターンも多々あり。
つまり、引っ掛け問題たる要素がその『1』に対して問答無用で注ぎ込まれており、それは指導者としての読解力と観察力、何よりそれらをリアルタイムで最適解に導かなければならないそんな対応力が毎秒要求される。だからその問題解く度その『1』だけに知識量を持っていかれる訳。賢さ26じゃ絶対無理だろこれ。
まあそりゃ、トレーナーというのは時速70前後を駆けることになるウマ娘生徒の命を背負う立場になる。文字通り命を
そりゃ難しいわ。
夢と熱量だけで挑めるほど容易くないね。
もちろん地方レベルの資格もなかなかの難しさだった。でもこっちは一般的義務教育がちゃんと済んでいれば誰でも分かる「走ったら足に乳酸が溜まる」と言った、基本的な知識をウマ娘のレースに当て嵌めるような感じだ。
栄養学とかもある程度は必要になるけど中央よりは知識要求量がそこまで多くない。でもやはり試験内容には当然のように引っ掛け問題も置いてあり、もし一部分の間違えに気づかずそのまま解き進めるとそこから正解がズレてしまい、仮に回答中の違和感に気づいても修正場所を最初から探さなければならないとかそんな沼が試験者に襲いかかる。測量士かな?
「だから俺にはサウナが必要だ」
コイツ頭サウナかよ?って思ったでしょうそこの貴方!
正解です。
いやでも待ってほしいッッ!!
これは中央の資格を得るに必要な事だ!!
だから断じて!この人はただサウナに入りたいだけだろ!ってことでもないことはない。
うん、隙あらば入りたいよ。
サウナ楽しい。
ととのう とか人生で最高のご褒美じゃねーか。
疲れた心と頭にサウナ。
そうして補給する。
しかし俺の場合周りと違う。サウナに入ると色々鮮明になってくる。これまでごちゃごちゃした問題を解いてきた頭から不要な要素が汗と共に流れ落ち、ととのう体に必要な要素だけが染み渡る。
練習が厳しい?ならサウナだ!!
練習が疲れた?ならサウナだ!!
練習が飽きた?ならサウナだ!!
練習が難しい?ならサウナだ!!
練習が苦しい?ならサウナだ!!
練習が楽しい?ならサウナだ!!
練習が楽しい?ならサウナだ!!
練習が嬉しい?ならサウナだ!!
練習が欲しい?ならサウナだ!!
ここまではぷよぷよの連鎖ボイス。
しかし難しいこともこうしてサウナに当て嵌めれば大体わかるようになる。
このような出来事が起きた場合、サウナならどうするか?
サウナならまずはこうするだろう!
やはりサウナ!
サウナは全てを解決する!
やはりサウナは良いモノだ!
マ・クベ大佐も言ってた(言ってない)
__杏寿郎!
__お前もサウナーにならないか?
__うむ!
__なるっ!
鬼滅の刃・無限サウナ編、完ッッ!!
「まあ半分は冗談だとしても、サウナで生まれた身としては、やはりココが原点だよな。サウナると血がよく流れる。するとこの桐生院家の血筋が俺を促進させる。やはり…」
身も心もオサレに卍解。
今日の水風呂は11秒フラット。
それまでがタイムリミット。
「っし!充分に温まった…!」
サウナに始まりと恵みを与えし赤叡智から託されたこの温かみ。当然ながら赤叡智の補正により全ての練習レベル最大になり、体力も50回復した。どの勉強をしても、どのレースに挑んでも、最大限にステータスが上昇できる。
更に加え、沖田トレーナーから譲り受けた菊花賞ウマ娘のナリタトップロードが卒業する最後までユメヲ駆けた5年分の軌跡。それはすなわち彼女の練習記録書の全てを机越しに噛み合わせる。友情トレーニング。与えられしこの1ターンに隙はない。
そして血行の良くなったこの体に流れる桐生院家の血筋は 金スキル を発動するだろう。
ああ。やってやろうじゃないか。
この血で中央の資格を獲ろうとする___
この【意志】は【鋼】の如く砕けない。
♢
生まれ付きのハンデ。
骨格がズレて体が軋む。
特に足腰。
一度本気で走ると身体中が重たくなる。
お陰で体が休まらない。
そんな日々が長く続いてしまう。
肉体の回復が遅れるなら、せめて心にはしっかり足した安らぎを得ようと考え、気分を変えるためも香港に拠点を持つなどした私は体の栄養補給をする。
それでも体が動かない日々が長く続くため、代わりに頭を使って自分を鍛えていた。特に香港はテーブル上の賭け事が多い国だから私もそこに
そして年月が過ぎると本格化を感じ取る。時の流れに任せた一歩前進にわたしは待ち焦がれてた。流石に歪んだ骨格は体が大きく成長してもどうにもならないが、しかし走り自体に問題はない。いつも通り疲労が取りづらいだけで少し厳しめな練習ができるようになった。
でも安心できない。体が大きくなるということは背負っているハンデの影響力も大きくなるということ。疲労をこれまで以上に背負う体質になってしまう。そのためただ体を休めるだけでは回復が足りず満足に走れない時間が更に長引くだろう。
そんなのは嫌だ。
サトノ家から学んだ栄養学やストレッチ以外に必要なものはなんだろうか?
この体にもっと欲するべき手段は…
……?
これは……スタンプカード??
道場に落ちている。誰のモノだろうか?
わ、すごい……!
温泉のスタンプがこんなにびっしりと!
あ、でも、コレ誰かの落とモノ?
ううん、わからないわね。
そんな人どこにも見当たらない。
どうしよう。これ。
でも温泉か。
疲労回復には良いよね。香港にもそれなりにあったけど温泉地域はやはり日本かな。小さな島国なのに温泉の数がとても多い。
ただし湯治療後のマッサージは香港のほうが良いよね。アチラはその手のプロフェッショナルがとても多い。よくお世話になった。
とりあえず拾ったこのスタンプカードはこのお店に預けよう。
そう考えて………大きな看板が、眼に入る。
__サウナ!!リニューアルオープン!!
私は___目を奪われる。
サウナ。もちろん入ったことがある。
だけど小さな子供が入るのは危険と注意書きされた施設は多く、あまり利用したことがない。
しかし効果は知っている。魅力的だ。
サウナ___今の私にはぴったりだろう。
本格化を迎え始めて体も成長した。
ならサウナに入るくらい許される筈。
あ、それならいっそサトノ家にもちゃんとしたサウナ部屋を作ってみようかしら。一応あるにはあるけど部屋が小さい上に利用者が少ないので基本的には無いモノとしての扱い。
しかしこれを期にもっとしっかりとしたサウナ施設として改装してみようかな。
いずれサトちゃんも誘ってサウナパーティみたいなのも開いて良いかもね___!!
楽しみだ!!
…
…
…
「………」
私のわがままによって既に改装が完了したサウナ施設を部屋の窓から眺める。
一番に喜んだ私はもうそこに…いない。
色々と思い出して少しだけ辛くなるから。
でも時も流れば少しは落ち着く。
あの時は未熟ながらも__私は掛かっていた。
ととのいが足りないのかもしれない。
それでも私にとって、心の底から始めて『運命の人』と思えたサウナ好きの彼のことをまだ時折、脳裏に過らせてしまう。
運命………人、か。
素敵な響き。
でも、なんだか少しだけ笑えない。
私の親友である幼い頃のサトちゃんは良く、年相応に焦がれた乙女のように「運命の方が現れる筈です!」と夢見て豪語していた。
何せ当時、中央にはカボチャ頭を被ったとあるトレーナーが三冠ウマ娘とクラシックを飾り、シニアも飾り、その者がカボチャ頭を外した後も担当した二人目のウマ娘がしばらく勝てなかったジャパンカップでエースの名に恥じない最強の逃げ切りを見せつけて、海外からやってきた刺客から勝利を奪い取った。
故に誰もがこの物語に惹かれた。そこにいたトレーナーはカボチャ頭で狂人を描いても、それを頭から拭い取り普通になっても、自由に駆け巡ったウマ娘と歩む二人に、それはどのウマ娘もが夢中に眺めていて、唐突に中央の世界から去ってしまおうとも、ガラスの靴と夢を与えようとターフに現れたカボチャのバ
私の親友はそれを聞いて運命の人は必要だと子供のように夢見る。何故なら彼女はココにいる誰よりもサトノ家のジンクスを破るために必要だと感じていて、同時にそんな人が現れたら素敵なんだと、ダイヤモンドのような純粋さを見せる。私はそんな彼女に笑って「現れたら良いね!」と願ってあげた。
でも、けれど、その時の、私は……
いや、今も同じかな。
………自分のことで精一杯だ。
このハンデを背負った体を引きずってでもこの家のジンクスを。
サトノ家のジンクスを破らなければならない。
G1レースの栄光。
それがサトノ家の願い。渇望。
私はそれをサトノ家として果たしたい。
だから、いつ現れるかも、どこで現れるかもわからない運命の人に惹かれることもなく、私はこの体に響き渡るハンデと、痛みを知るこの現実を見ている。
だからダイヤモンドのような純粋さは親友の彼女に任せる。
私は重たく重たく体にのしかかるこの不慣れな
運命なんてのは……ジンクスなんてのは…
それは 己 だけでも果た___
ガチャ。
……へ?
あの時はタイミングもタイミングか。
私はそこで巡り会った。
サウナの熱によって昂まった全身が、サウナの熱によって血行良く流れているサトノ家の血筋が、サウナを欲するこの体に受けた『サトノクラウン』という魂が、サウナの熱による汗と共に溢れんばかりとウマソウルが、なんてことないサウナで惹かれた。
「あ、貴方は!!…っ、待ちなさーい!」
何故か追いかけて、捕まえてしまった。
何故?自分でも良くわかっていない。
そういえば何故__追いかけてしまった?
こんなにも必死に、ウマ娘の脚で?
わからない。
わからない。
でもなんか、なんか……!
こう、こうっ!このっ!!
いや良くわからないけど!
でも彼と目があって!視線があって!もしかしたらそうじゃないのかなってサウナのようにフワッとして!あと昂まった温度でウマっ気が溢れていて!そしたら内側から「採用です!」と何故か繰り返していて!
ああもう!なんなのこの感じっ!
これは私がサトノだから!?
唐突すぎる。自分でもわからない。
シ、シンパシーなのかしら?
サウナが好きな同士のシンパシー。
よく分かっていない。
でも何故かこの者を離そうと思えなかった。
原因不明な情動。
だからサウナの熱に充てられたことにする。
けれど彼と会話を繰り返して、繰り返して、そしたら私の背負うハンデを見抜いて、事細かに説明して、同時にこの人がトレーナーであることがわかった。
___トレーナー。
それはユメヲカケルためのパートナー。
その『夢』にはジンクスを破りたい渇望が。
__カボチャのバ者のように!
__運命の人が現れたら良いですね!
…
…
本当に………本当に、あるの?
そんな夢物語を繰り返してくれる。
このためだけのご都合主義が?
…
…
ああ、気のせいなんかじゃない。
ジンクスを破りたい渇望を受け止めれるサウナのような広い人が間違いなくこの人なんだ。
…
…
………あ、あのね。
わたしは……本当は、ね。
私にも親友が望むような、ダイヤモンドのように純粋無垢で透き通ったような、このためだけのご都合主義があったら良いなとか、そんな都合の良い巡り合いがあるならとか夢見るくらいならある。口には出さないけど。だって引きずる体は呼吸するだけで精一杯だから。それ以外を吐き出せれない。
でも、血が、魂が、冠が、コレだと言うなら。
__採用です!!
と、手を引くくらい、私もやってみたい。
ええ、ええ……大丈夫。
サウナに入って少しだけ体は休まった。
今夢中になる分のエネルギーはある。
体は動ける。
脚は進める。
いける。
そして彼が『ホンモノ』なら。
親友にも負けない秘めたこの渇望を……!!
……は、ジンクスに並ぶことすら許されない。
「私ってほんとうに、こう言う時に必要なはずの勝負運がとことん無いわよね。ほんとうに笑っちゃう。ねぇ?コレすらもハンデなのかしら?まったく……勝負の掛け金にもならない歪な冠だわね……」
まだこれならカボチャ頭の方がマシだ。
そしたら私もそうするだけに投じれたかな?
いや、わからないな。そもそも何故あんなことをしていたかもわからない。衰退しそうな中央の世界を盛り上げるための発火材じゃないかと世間は言っていた。実際に二人の軌跡に対して夢中なのが回答になっている。それでいて成果も出した。やっぱり狂っていることだけしかわからないわね。
でも私はそうなる事すら、このハンデが許してくれない。
できない。
そしたらサトノ家のジンクスは……
あとは親友だけに許されている。
そう言う事なのかしら…
そうなのか、な……
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!どぢゃぐぞづがれだぁぁぁ!!もう二度とやらねぇわこんなクソゲー!!何が閃光のハサウェイや!!あんな倍速したみてぇな踊り教える方が一番難しいだろふざけんな!!これも全部ヤード・ポンド法ってやつが悪いんだろう!!ゆるざぁん!!」
「え?」
ウマ耳が声を拾う。
車道を挟んで奥、とある男性が駆け足で愚痴りながら街の中に消えていく。
「(気のせい…?)」
確信が持てない。
でも、ほんの少しだけ騒がしい。
この感覚は、なんだか久しい感じがする。
そして、ふと、私はさっきの声の主が出ていった建物に視線を移す。
近くの横断歩道を渡り、建物の前に。
そこはスタッフによって入り口と出口が管理されていた。
そして、端に架けられた___看板。
「ッッ!!!????」
私は走っていた。愚かだ。
まだ回復してないこの体が本気になる。
なのに、込める、込める、込めてしまう…!
走りに不向きなこの私服を揺らしながら…!
見つけたあの彼に向かって、私は叫ぶ!!
「見つけた…っ!」
「ぇ…?……うぇ!!?ちょ、お前は…!!」
「ッッ〜!!ま、待ちなさーい!!」
「いや、待ちなさーいィィ!?」
「私を置いてこのままサウナに行く気ね!」
「まさか阻止する気!?そんなの許さないわ!!」
東京都にある建物、それはとある試験会場。
中央の資格を取るために用意された場所。
「捕まえました!」
「なに、そんなバカなっ!!くそっ!!やはりヤード・ポンド法が一律じゃないからこんなことになるんじゃないか!!おのれマフティー・ナビーユ・エリン…!!」
ジンクスすら置き去りにするような彼女の一歩前進。
会場の看板を ガタリ と揺らした。
つづく
やっぱ赤叡智ってつえーわ(女神シナリオ脳)
ではまた
とくさんか?
-
違います
-
そうです