サトノの『道化役者』と『冠』は調う   作:つヴぁるnet

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これ短編で終わんのかな…




ととのう

 

 

 

 

例えば、エネルギードリンクとスポーツドリンクの二つをブレンドした、サウナドリンクと名付く飲み物が温泉業界に存在すると言ったらどう思うだろうか?なにそれ美味しいの?それよりおうどん食べたい。と、この未知なる組み合わせに身構えたり、興味すら持たなかったりするだろう。いやだけど待って欲しい!どちらも汗を流しに流したサウナ上がりの乾いた体に最適な飲み物であることは確か。

 

だから一度は騙されたと思ってキンキンに冷えてやがるその飲み物を片手に握りしめ、腰に手を当てながら一気に喉の奥まで流し込めば、乾いた身体に注がれる最強コンボに誰もが抗えずたちまち虜になるだろう。そして中毒になってしまうのさ。このオロポって名前のサウナドリンクに!

 

 

 

「ごきゅ」

「ごきゅぅ」

 

 

 

脳内の宣伝を済ませれば喉を鳴らす二つの音。

 

一つは自分の。

 

もう一つはとあるウマ娘の。

 

片耳に冠を嵌めて飾った名家の娘だ。

 

たしか、名前が…

 

 

 

「良い飲みっぷりだな、サウナクラウン」

 

「サウナじゃなくてサトノです!たしかにすっっっっごく魅力的なお名前にも感じられますが私はサトノ!貴方が未来で担当するウマ娘の名前をどうかお間違えないように!」

 

「まだ合格発表の一つも来てないだろサトノクラウン。気持ち早すぎかー?」

 

「桐生さんなら大丈夫です!」

 

 

 

サウナから授かりしフォースも無しにウマ娘の脚に逃げれるわけもなく、会場を出た所で捕まってしまい、掛かり気味な彼女から色々と問いただされた。誤魔化しも効かないので素直にこの半年間を彼女に説明すると目を見開き、耳も縦に伸び、口元を押さえながら色んな感情を眼の色に見せる彼女は面白くも同時に何かと怖かったが「私は貴方でジンクスを裏返せるのですか!?」と鬼気迫る勢いでコチラの両肩を掴んで『本気』になっていた。

 

だから俺はそんな彼女に「一度のみ親指で表裏を弾いてやる」と『本気』で返した。

 

すると掴んでいたコチラの両肩を離して一歩二歩とゆらゆらと下がり、急に足を曲げてその場に蹲り、再び口元を押さえて「ッ〜!!!」と声にならない声をあげながら、感情が行方不明な尻尾と耳があっちこっちに動いてたりと、まあ少しだけ奇妙だった。ただ感情豊かな令嬢ってジャンル分けすればスイーツ番組の度に登場するとあるメジロ家のウマ娘のようにおもしれー女だな思う。嫌いじゃない。

 

 

しかしこうは思わないのか?

 

中央入試のために挑むというのは立派な心意気だが、しかしそれが半年も満たない期間で東大レベルの知識を詰め込もうとする無謀はあまりにも現実が見えてない証拠であることは明白だろう。知識面である程度の地固めが完了していたとしてもそれ以上を要求される中央レベルの知識に対して半年の期間はあまりにも浅く、どう考えてもイコール勉強時間が重要だ。こんな浅さでよく挑戦しようと思ったものだと同じ入試者に軽視されても仕方ない。承知の上。

 

だけど彼女は俺の行いに賛同する。なんなら否定はしない。負の言動が一つも見当たらず、この挑戦が自分の本気を確かにすることを大いに喜ぶ。まだ結果も見えてないのにだ。しかし世間一般的に合格率が低いことは周知事実でありそこは彼女も分かっているはず。なのにこの選択を『無謀』だと言い退けず『本気』の先で既に待っている。俺が3%の虹のゲートを開けるまで。

 

 

 

「大丈夫、か………何故そう思っている?」

 

「お父様が認める桐生院の血筋を引く貴方なら間違いないことを」

 

「それはあくまで血筋だぞ。当事者が相応しくなければ引いてるモノなんて意味は__」

 

「今の貴方は『本物』なんです」

 

「 ____ 」

 

「相変わらずのサウナ好きな貴方に変わりありませんが、でも雰囲気が違います。あと眼。穏やかとは違う温度。それはなんというか身体の奥底には常に熱が沸き立つ。例えるなら温度が一切変わらないサウナ部屋であり、火傷するほどに設定された高温の空間に狂いない。でも中にいる貴方は___狂い人です」

 

「随分とした評価だな」

 

「私のドロー(手引き)は失敗です。私は貴方の手札(しかく)が見えてない。何故ならサウナに目が曇り熱に掛かっていましたから。もしコレが中央のG1レースなら入着できない急ぎよう。失態です。遅れて謝罪します。サトノクラウンは桐生さんには大変ご迷惑をおかけしました。申し訳ありませんでした」

 

「もう気にしないでくれ。俺もサウナに脳が焼かれて正常じゃなかったから。それに狂い人なのは…お互い様だろ?」

 

「…… ふふっ。あまり優しいとこのまま勘違いしますよ?私が貴方の『本気』に惹かれたこの心はジンクスが裏返ると期待する。実はその手引き(ドロー)がホールじゃないアップカードでこの先の結果が映し出されてるなんて…わたしは一人無防備ですよ?」

 

「それは脅しか?」

 

「骨の弱さどころか私の弱さも、お粗末な心身を見抜いたんです。ああ、こんなにも確かなら巻いていた布を(はだ)け、素肌と恥を熱に晒せば責任を取ってくれたのでしょうね」

 

「おいこら本気で脅すな。流石に桐生院家でも手に負えん。それに言ったろ。これは一度だけだと」

 

「一度だけではありません。その一度が始まりの合図です。私は見ているわ」

 

 

 

熱に浮かれた様に吐き出す。

 

そしてゆらりと踏み出して__耳を当てる。

 

 

「ああ、伝わります……伝わりますわ。 ココにある芯はとても熱いです。間違いない。私はコレに惹かれたんですね。ああ、そうです。いつもは涼しげな外気浴の肌触りで、陽気あふれる空の恵みと、その緩やかな温度に身を任せた様な葉音。ととのいをよく知る調和性。だがしかし今の貴方は常にサウナのような熱量に身を投じた情動にある。私は知っていますわ。耐えに耐え、沈みに沈みに、吐く時は深く、吸う時は細く、喉を焼く様な高熱の中でもされど呼吸を繰り返し、足元には努力と忍耐を重ねた結晶の雫が一つの面積になる。それだけの費やしがいずれ必ず訪れる解放のために『本気』が表れ、貴方の『本物』が現れる。これは枝分かれだ桐生の名に焦がさない『桐生院』の熱です。私は誤魔化されませんから。この貴方に。私は確信しますから。今の貴方に」

 

 

どうした急に__と言いたくなる様な長文が彼女か飛び出す。これには流石に俺も後ろへと身を引きそうになるが、しかし自販機に並ぶ壁が背中に聳え立つため後ろに退けない。

 

なら横に動くか?

 

いや、これができない。

 

何故なら。

 

 

 

「サウナ娘、掴んでる腕が痛いんだが?」

 

「わたしは……わたしは……わたしは…」

 

 

 

なんだこの階段はぁ!?と、両肩が締め付けでデスクリムゾンしそうな現状。なにが起きてるかって?これを簡単に説明すると、明らかに掛かり気味な彼女はコチラに密着すると胸元に耳を当てている。それと身長差は20センチほどか。顎下に彼女の耳がぶつかり、それと同時に石鹸の甘い香りがオロポの刺激に負けない勢いで広がる。

 

ん?…オロポ?せや!

 

 

「……催眠解除!」

 

「!」

 

 

キンキンに冷えてやがるオロポの瓶を熱した頬に当てがう。するとサウナの熱気に曇るが如く普通じゃなかった彼女の眼の色がスッといつもの眼の色に戻り、耳もピーンと伸びる。ぶつかった顎下を突いて痛い。

 

でもとりあえず解決しただろう。

 

このまま掛かりも引いてくれればと、様子を見ていたら。

 

 

 

「ヒソヒソ……湯船の様に熱烈わね……」

「ヒソヒソ……まるで覇王世代だわ……」

 

 

 

おいやめろやぁ!!

 

爛れ具合最強の覇王世代呼ばわりとかなんの罰ゲームやねん!!

 

そりゃ覇王代表ことテイエムオペラオーはすごかったし、元クラスメイトのデコ助代表ことナリタトップロードもかっこよかったし、ふわふわ代表ことダービーウマ娘のアドマイヤベガも強かったしで、覇王世代はレースの盛り上がりを引き続き見せつけてくれた黄金世代に引けを取らない素晴らしい世代であるのでは間違いないが、ヒソヒソされながら爛れてる呼ばわりはお断りだよ。

 

てかそろそろこの娘は離れんか!今ならのぼせてるところを受け止めたって認識に置き換えてやれるが流石にこの密着時間は危うい!てかサトノ家は有名だろうが!前世と違って世間と時代が追いついたせいでドリームキャストが爆売れしてしまった世界線だるぉぉ!?耳に飾られているサトノ家を象徴する冠から出所さん察されたら困るの!!まぁ半分は遅いと思うけども!!

 

 

 

「少し落ち着け!とりあえず離れんか!ロックマンDASHの新作が出ないくらい困るから!」

 

「ふぇ?新作…?あれ、わたし……ぇ?…ッッ!!!!ああああ!!す、す、すみませんっ!!」

 

 

現状を理解したのかやっとバッと離れなサトノクラウン。そして即座に頭を下げる。良いところの令嬢だけあって育ちが良いのか謝罪に移行するのも早い。コレには鱗滝先生もニッコリな判断力。お前もサトノ家にならないか?ならない。採用です。ドラクエ方式かよ。

 

 

「ヒソヒソ……やはり出来てるのよ……」

「ヒソヒソ……なんだか羨ましいわ……」

 

 

「!!!???」

 

 

ヒソヒソどもにふたばに帰れと俺は視線で牽制していると、お目目をグルグルさせるサトノクラウンは先程の失態に気づくとバッと離れ、誤魔化す様にオロポを垂直に立てるとグビっと飲んで「ぷはー!毎晩これですわー!」とスイーツをパクパクしそうな勢いでサウナドリンクの感想を叫ぶ。

 

側から見たらおもしれー女。

 

 

「どうやら、ととのうと血行が良くなりすぎて掛かりやすくなるみたいだな。覚えておくわ」

 

「ま、待ってください!今ならノーゲーム!ノーセット!ノードロー!このヒットは見ないでください!!」

 

「インシュアランスも無いのにノープランでスタンドするかよ。今の奇行は手札入りだ。不用意にアップカードした結果だな、クラウン」

 

「こ、こんな風にバストするなんて!」

 

「(サトノ家の)ディーラーがいなくて大助かりだ。ギャラリーはヒソヒソだけど」

 

「ぅぅぅ!!ううう…!!!」

 

 

 

俺も残りのオロポを飲む。

……まだ少し心臓がうるさい。

 

誤魔化すようにテレビの放送に目を向けた。するとそこにはダイジェストとして中央のウマ娘のレースシーンがタイミング良く流れる。やはりウマ娘のレースはこの世で最高の興行なのか温泉旅館の館内にいた客人もスタッフも一斉にテレビに視線を飛ばし、レースの様子に夢中になっていた。やはりこの世界ってのはウマ娘のレースが好きで好きで仕方ない人達で溢れているようだ。

 

しかし考えるとウマ娘のレースとサウナって関連性高いよな?

 

え?何故かって?

 

サウナでは全身を焼けるが、ウマ娘のレースは脳を焼いてくれるから。

 

つまりセルフロウリュが可能だ。

 

ととのうぞ、ウマ娘の走り見ると。

 

ただしあまりの脳の焼け具合でウマ娘のふともも触っては蹴飛ばされてた人いたけど。

 

しかも生きてる。

この世界の人間って丈夫やな。

 

 

 

「とりあえず今のうちに館内から出るか。そんで今日はお開きだ」

 

「そ、そうね!」

 

 

 

掛からない時はすごく素直でハキハキとしているんだけど、サウナの熱に焼かれるとこうも変わっちまうのか。これは恐らくだけど、さっきも言った通り血行が良くなるとサトノ家の血筋が調ってしまい、サトノ家特有の『そうでありたい』と夢焦がれる本能の純粋さに気持ちが強く傾いてしまうらしい。俺の『ガチ勢(ほんき)』に随分とお熱で惹かれてたようだし。

 

 

やれやれ、桐生院家がそんなにお好みか。

 

 

でも俺は桐生家の人間だよ。

 

 

大層なのは血筋だけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中央入試を終えて一ヶ月が経過。

 

季節は春で3月になった。

 

届いた封筒を開ける。

 

そこには…

 

 

 

 

 

 

「まあ、こういう結果か。いや、半年間精一杯頑張った方だよな」

 

 

 

 

 

 

良し__とは言えない残念な結果に今回は終えてしまう。

 

ハッキリという。

 

 

俺は【不合格】扱いだ。

 

それがわかる内容。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしもう一つの封筒。

 

同時に中央の管轄から届いた通知だ。

 

同じタイミングでポスティングされていた。

 

当然、それも一緒に開けた。

 

 

 

 

 

「人手不足に救われたと言ったらこれは運も実力の内か?それとも…」

 

 

 

 

 

裏返ったというべきか。

 

 

 

 

 

表の反対は___裏。

 

それは常識。

 

これは"実力通り"の結果。

 

 

 

 

 

 

 

しかし裏を向いたその先に『そうであって欲しい』との願望が働き、都合よく後押しされてもう一度裏返る場合…

 

その『裏』の【裏】とは____何になるか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____ 繰り上げ合格 。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は俺の行く道を否定しない。

 

俺が彼女の所に行き着くところも。

 

 

 

しかし、彼女は言わなかった。

 

俺に「合格」すると一言も告げなかった。

 

ただ、俺のことを「大丈夫」だと言った。

 

根拠のわからない、確かな頷き。

 

 

 

 

___今の貴方は『本物』なんです!!

 

 

 

 

それだけが俺に汲まれた熱。

 

だから合格しようが、不合格だろうが、その二択は関係なくて、根拠のない果てだろうが、桐生徳が中央に来る『結末』を彼女は分かっていた。絶対に裏返って来ることを。それとも熱に浮かされた偶然がご都合主義に拾い上げられたのか?

 

 

しかし、どうであれ、だ。

 

 

 

 

俺は中央に行くことになる。

 

この一度限りの『ガチ勢』として。

 

 

 

 

 

 

「君も紛いなく狂い人だな。サトノクラウン」

 

 

 

 

 

 

 

 

熱に浮かされたのは__サウナの所為だ。

 

 

 

 

 

 

つづく

 







中央「人手不足かぁぁぁ……質は重要だが、でも枠も増やさないとなぁぁぁ…」



合格はしなかったけど、繰り上げで選ばれるくらいの実力はあった。半年で充分な結果だろうと思う。あとはサウナで脳焼くだけや。簡単なお仕事。



ではまた

とくさんか?

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