サトノの『道化役者』と『冠』は調う   作:つヴぁるnet

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そして、ととのう

 

 

 

サウナで生まれ、サウナに焦がれ、サウナに焼かれ、その時間は20年と数年くらいか。

 

何かあるたびにサウナに足を運んでととのう体に幸福を感じている。それも仕方ない。

 

何せ、サウナの熱によって全身どころか内側にある脳まで焼かれてしまったんだ。

 

脳内メーカーとか使ってみろ。

絶対頭サウナやぞ。

 

 

え?どんな感じだって?

 

ちょうど今ノートパソコン開いてるから調べてみるか。

どれどれ……

 

 

 

 

熱 熱 熱 熱 熱 熱 熱

水 水 水 水 水

外 外 外 外 外

調 調 調

調 調 調

外 外 外 外 外

水 水 水 水 水

熱 熱 熱 熱 熱 熱 熱

 

 

 

 

 

な?サウナだろ?

 

しかも『ととのう』ためにちゃんと『』と『』と『』の三つで構成されている。

 

素晴らしいな。やっぱりマグロ食ってるようなのとはダメかもしれんが、サウナに生まれたようなのは違うよな、自分が誇らしい。

 

ただ真ん中にある『』に挟まれた『』ってこれ「とくさんか?」に怯えてしまっている証拠なのか?あああ… とくさんに取り憑かれているのだ。早くこの哀れなヒト息子を焼いて解き放ってやろう。いや、焼いてもととのうだけやぞ。あと日の呼吸か炎の呼吸でセルフロウリュとかできないかな?今度試すか。

 

それから角にある『』は何だこれ?

 

 

 

「それはサトノ家に染まるための要素ね。しかも重要な角取られているから貴方は詰みよ」

 

「脳内メーカーはオセロだったのか……いや、待て待て、おかしい。もしコレがサトノ家なら表記は『里』じゃないのか?何故『冠』になる」

 

「え?冠…?………………ぁ、わたしだ………」

 

「おいこら待て何故そこで掛かり始めようとする?落ち着け」

 

 

 

ヒソヒソ……またあの二人よ……

ヒソヒソ……羨ましい仲ね……

 

 

だぁぁぁあああ!!

誰が爛れ代表の覇王世代や!!

 

なんで学園のカフェテリアでもヒソられなければならんのや!

 

てかこの小娘…!

最近掛かり具合激しくないか?

 

普通はウマ娘が成熟すると共に自制心が付きやすくなる筈のだが、サトノクラウンに関しては日本ダービーでサトノ家を爆発させて以来なんか掛かる頻度が急激に上がった気がする。手をワキワキとさせながらジリジリ距離を詰めてくる回数も増えたりと段々躊躇いが無くなってきた。

 

おかしい。まるで成長してない。

寧ろ酷くなっている?

 

いや、そんなことないよな??

 

むしろ普段はとても落ち着いていて、歳を重ねると同時に大人の余裕とか、あと魅力とかも雰囲気から伝わるし、昔と変わらずお姉さん気質も健在で頼もしいウマ娘として目に映る。カードゲームで熱中してしまう以外はわんぱくとは程遠いウマ娘。それが皆の知るサトノクラウンだ。

 

なのに急な掛かり癖はなんだろうか?

 

一つだけ判明していることは大体、俺が引き金として彼女に掛かりを誘っていること。

 

なんで?

もしや今も桐生の血筋に反応して衝動が抑えられないとかそんな状態なのか?

 

なにその稀血概念。

サウナーは鬼殺隊だった…??

 

いやでもあれはジンクスに囚われてしまった故の焦りが引き金だ。

 

あと彼女とのファーストコンタクトはサウナの熱に焼かれてそうなっていただけ。

 

しかし今は半年前の日本ダービーで見せた劇的の勝利と共にジンクスも過去にしたし、なんなら先々月も秋の天皇賞でシニア級下剋上の盾も手に入れたり、今までの弱い自分とはお別れをした!とガンプラ特有の前向き精神でジンクスなんかとっくに忘れて今も元気に走っている。

 

 

 

__私が!サトノ家のジンクスを!!

 

 

彼女の叫び、また嘆き。

もう過去3年前の話だ。

まだまだ今より小さかったウマ娘。

 

大人の産み出した負の概念(ジンクス)に引っ張られていたサトノクラウン。未熟な子供が背負うには重すぎる筈の悲願を打ち破ろうと彼女は痛む体を引きずり走っていた。

 

しかしそれは所詮ジンクスとして終わりを告げたから、その重みも無くなり、また実感も湧かないまま終えてしまったホープフルステークスの時とは違って、日本ダービーという確かな格式の中で得た唯一無二の勝利は自分が令嬢であることも忘れるとこちらに飛びつき涙を涸らしたりもした。そうして全て流れ落ち、大人のフリをして気丈に振る舞っていた彼女はそこで終わった。

 

そうしてジンクスに囚われていた頃と違い、今の彼女は心に余裕ができた。そんな彼女は香港のG1レースを勝ち取ろうと来年の目標を立てたり年相応なハリキリ具合で夢に向かおうとする。彼女の友達からもより一層明るくなったと評価を頂いているほどに。それと同時に大人になってきた。心の余裕。落ち着いてきたとも言う。

 

 

なのに…

 

なのに!

 

なんか掛かるんだよな!この小娘!!

 

 

やっぱり賢さ足りてないんか!?

頭が良いのに頭が悪いんか!?

 

しかも、こう!

何というか…さぁ!

色々と困るんだよなぁ!

 

視覚的に情欲をくすぐるような手付きでワキワキと迫ったり、誤魔化す気もない感情のまま尻尾をブンブンと揺らしたり、鼓動激しい様を寧ろ楽しむように耳をピコピコと動かしたり、令嬢である事を忘れた口元からはたらりと欲求が垂れ落ちたり、ほんのりと失った眼のハイライトは一途に視線を向けたりと、あらゆるベクトルが突き刺してくる。

 

お陰で俺の意識関係なしに桐生院の血筋が彼女に向けて騒ぐ始末。

こちらも頻度増えてきた気がする!

 

待て待て。

 

確かにこの贅沢な血筋を活かしたガチ勢として中央に踏み込んだが、いやここまでなるか?

 

もしやそんな彼女に焼かれてるとでも?

 

それは桐生院として?

それともサウナー故に焼かれ慣れた魂が?

 

んなわけあるかいな!

この体には鋼の意志があるだろ!

 

 

「ねぇ、トレーナー!今日はお暇かしら?」

 

「え?暇?……そうだな、時間はあるが」

 

「ならサトノ家に行きましょう」

 

「サトノ家?トレーニングはお休みだぞ?」

 

「そうじゃないわ。今日はお勉強の続きよ」

 

「勉強?……ああ、広東語か」

 

 

 

香港に行く予定が生まれた今、現地に行くことを考えて広東語を覚えようと現在勉強中。

 

仕事しながらでも日常会話程度なら桐生院の頭脳である程度覚えれそうなので特に急いでもないが、広東語を勉強中の俺を知ったサトノクラウンが「あら?もう仕方ないわね!ふふっ!教えてあげる!」とそれはもう嬉しそうに教えてくれてた。

 

別にお頼みしてないのだが、尻尾をブンブンさせながら身を乗り出してくる彼女は随分と楽しそうで、その姿を見て拒む選択は俺に無い。だから彼女から定期的に学んでいる。あと教えるの上手でわかりやすい。

 

ただ俺としてはコレまで同年代の友達と遊べる時間をあまり設けれなかった分、今のサトノクラウンには学生らしく遊べる余裕もあるので友達とショッピングでもなんでも楽しんできて欲しい、そんな気持ちがある。

 

 

「トレーニングはしばらく休みなんだぞ?わざわざトレーナーに時間取られる必要は…」

 

「ぁ……め、迷惑だったかしら?」

 

「いやいや、バカ言うな。迷惑なんか思ってない。現地語を知る君から学べるなら頼もしいって」

 

「なら、オーケーね!だったらほら!ここでは少し教え辛いからいつも通りにサトノ家に行きましょう、ね!」

 

「え、あ、うわっ、ウマ娘の力強い!って待て待て!ノートパソコンくらい閉じらせろ!画面が折れる!」

 

「早く!終わったらサウナも入るわよ!」

 

 

 

 

ヒソヒソ……あのままサトノにされるのよ……

ヒソヒソ……二人の愛の巣になってるわね……

 

 

 

んなわけあるか!と、周りにツッコミを入れる間も無くカフェテリアから連れていかれる。

 

 

「ツーマンセルが目的なら一応トレーナールームもあるんだけど…」

 

「サトノ家なら学ぶための資料がいっぱいあるわ。それにサウナもある」

 

「そりゃサウナあったら覚えやすいが、休みの日までサトノ家に行くかねぇ…」

 

「私もサトノ家のターフで少しだけ走りたい気分なのよ。だから行きましょう!」

 

 

 

ご機嫌に笑う彼女。やはり日本ダービーを終えて以来良く笑うようになったな。

 

彼女の友人であるサトノダイヤモンドってウマ娘からもそう聞いている。

 

お陰で元々あったサトノ家特有の強引さは更に強まった気がするが。

 

 

 

「やれやれ。コレではいつもと変わらないな」

 

「ふふっ、そうかもね」

 

 

 

諦めてアクセルを踏む。

 

サトノ家を目指すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前にあるのはサトノ家のターフ。

 

吐く息を白く染める真冬の空からは月光が降り注ぎ、淡い青色に芝を染め上げている。

 

夜ですこし見えづらいが、彼女が地面を踏みしめて凹ませてきた部分がチラホラと窺える。

 

もちろんサトノ家お抱えの職人たちが芝を植え直して修復してるが俺にはわかる。幾度なくその走りを見て来た。サトノクラウンの証。

 

この芝を使ってサトノクラウンは文字通り走って来た。目指すべきモノのために。

 

 

 

「もう12月も終わるな」

 

「ええ、今年もあっという間だったわね」

 

「一年って短いんだよ。一日だって短い」

 

「でも私は長く、前までそう感じられたわ…」

 

「なら、今はどうだ?」

 

「……っ、足りない!足りなくて困るわ!」

 

「そうかい」

 

 

これまでの追憶か、または記憶か、担当ウマ娘のクラシック級に合わせて歩んできたこの一年間はあっという間だったが、でもそれなりに分厚く、証拠に今年の後半は世間全体を焼き尽くしたような、そんな気がする。

 

まあ、それもそうだ。

 

ジンクスを過去にした日本ダービーでサトノ家を爆発させたあと、彼女の距離適正を考えて秋の天皇賞に出走するとシニア級下剋上の1着で走り切り、無敗のクラシック二冠を達成したことでサトノ家が爆発し、更に来年は海外のG1レースに出走することを表明してサトノ家が爆発した。いや可燃物多すぎだろこの世界。

 

それから取材やら、特集やら、あとテレビ出演も行い、なんなら俺がサウナ好きってことで温泉旅行の番組に出演すると、二回目はサトノクラウンもサウナ好きってことを世間に明かして一緒に番組に共演するなどサウナで焼き、ウマッターのトレンドに俺たちの事が載るとそのままサウナブームが到来した。

 

すると中央出身の名物トレーナーとして認知された俺は周りから「(あの)とくさんか?」って聞かれるようになった。

やめろぉ!

だから脳内メーカーで怯えた結果が出たんだろうが!

もう本当にオセロみたいに裏返らないかな?

中央に来れた時のように結果裏返ってさぁ。

 

 

と、そんな感じに名物化しながら世間の盛り上がりに貢献すると、いつぞやのマフティーブーム以来だとそりゃ大層盛り上がっていた。

 

俺はただサウナが好きなだけなのに何故こうなったし??

 

 

 

「でも私。とても楽しかったわ。テレビ出演の数々。色んな経験ができた」

 

「中央からは加減しろって言われたけどな」

 

「ふふっ、そうね。だって私達の本職はレースだもの。タレントじゃないわ。それは卒業してからの道ね」

 

「タレントか……もしトレーナーに飽きたらセカンドキャリアとして選んで良いかもな」

 

「!!……もしかして、なるの?」

 

「なんで?今のはただの冗談で…… いや、これはどうなのかな。俺ってよく考えたら中央に足を踏み入れた動機ってのが君だからな。まだ来年はシニア一年目で時間はあるけどその先はあまり考えてないな」

 

「中央なんて難問を乗り越えて、それでポイするなんて、贅沢ね…」

 

「仕方ないだろ。だって俺はサトノクラウンしか考えてなかったから」

 

「!」

 

 

 

サトノクラウンしか考えてない。

 

言葉に出せばそうだ。

俺は彼女のために来ている。

 

あまりそう考えなかったがジンクスを破り落ち着いた今、俺が中央にいる理由を改めて考えればサトノクラウンがいるから。そう答える。

 

では、サトノクラウンを担当する日が終わったら桐生徳は何を理由にするか?

 

とりあえずトレーナーは続けている……と、言い切れる自信がそう言えば無いな。

 

そういや俺、そのあとどうするんだろう?

 

今を夢中になっているから先のことサウナ以外考えてなかったが、サトノクラウンが原動力である以上、次の原動力がない限りトレーナーの意味を失うことになる。もしコレを続けるなら彼女の代わりを探す必要がある。つまり新たな担当ウマ娘。それがトレーナーとしての役割。

 

 

でも桐生徳としての役割は?

 

 

職に就くというのは稼ぐこと。

生きるために人は働く。

 

俺には都合よく裏返って手に入った中央の資格がある以上はコレをすぐ辞めるにもったいない。

 

収入だって良い。

ついでに欲しければ名誉も手に入る。

 

この世界では特にやり甲斐を感じる仕事だ。

 

しかし俺はそこに意識が無い。

元々地方でトレーナーやる程度の意識。

 

大層な思い抱えてきたことはなかった。

 

ならサトノクラウンの現役が終わった時、生きるためにトレーナーという職業を続ける選択をするだろうか?早めのセカンドキャリアに手を出す選択だってある。可能性として全然あり得る。ならその冠を。被せる役割を。未来先で失うとしたらこの身体は何処に向かって行くのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

「 _______ 採用 です 」

 

 

 

 

 

 

 

耳に通る。彼女の鋭く強い声。

 

あの頃に嘆いていた声はもう彼女に無い。

 

 

 

「サトノクラウン?」

 

「もし私が走らなくなったら、私と共に来てくれませんか?」

 

 

 

急な告白。

 

夜風が頬を撫でる。

 

同時に彼女の黒鹿毛も揺れ動く。

 

 

 

「共にって……何処に?」

 

「もちろんサトノ家よ」

 

「俺が?」

 

「ええ」

 

 

 

彼女はイタズラ好きな面があるからたまに冗談を言って雑談を楽しむ時がある。

 

その時はコロコロと喉を鳴らしている。

 

でも喉は鳴らさず、代わりに心臓が鳴る。

 

 

 

「サトノクラウン走らなくなったら、か……」

 

「ええ、言葉の通り」

 

「じゃあ…もし明日から走るなと俺が言ったら?」

 

「ならもう走りません」

 

「どうして?」

 

「私は桐生徳が欲しいから」

 

 

 

その眼は真剣そのもの。

 

必要あらば、必ずや、そうする。

 

ああ、知ってる。知っているさ。

 

サトノ家で産まれたウマ娘の眼だ。

 

強固で、頑固で、意志を譲らない。

 

まるで『鋼』のような『意思』だ。

 

彼女を通して俺はそれを知った。

 

 

 

「君はまだ、そうやって欲張るか」

 

「サウナと同じ。夢焦がれることに今も焼かれたいと思っているから」

 

 

 

彼女もサトノ家のターフを眺める。

 

そこには悲願を叶えるための日々がある。

 

既に焼き終えた使命。

 

けれど、焼いた芝から新たに芽吹く。

 

この冬が終わればそれが一気に広まるだろう。

 

 

 

「なら俺を選び得て、君は何をする?」

 

「サトノ家はまだ不純物が多い。まだ鋼じゃないの。だから熱で焼いて。それで叩いて。時には冷やして。そしてまた焼く。これを繰り返すの」

 

「まるでサウナだな」

 

「熱、水、外、を繰り返し、体はととのう。それを知っている貴方ならサトノ家はもっと至高へと繋がる。だから選び取る。鋼の意志である貴方を」

 

 

 

金スキルの『鋼の意志』なんてただ評価点を上げるだけの素材で、期待値なんて『円弧のマエストロ』に比べたら低くて堪らなく、選ぼうとは思わないはず。なのに彼女は評価点を上げる目的のために使わずに、ただサトノ家の至高のために、またサトノ家の至高のため選ぶ。

 

それは勝るということ。

 

それはつまり勝つということ。

 

鋼の意志を使って、勝ちたいと言うこと。

 

 

 

「なら、一つ問わせてもらう」

 

「ええ、何かしら?」

 

 

 

ターフから目を離し、横にいる彼女を見る。

 

あの頃よりも彼女は背が伸びたな。

 

 

 

「鋼の意志は桐生院の方だ。トレーナー白書に刻まれた業物。しかし枝分かれた桐生の方には本家の鋼の意志は存在しない。ただ"らしい"ものがあるだけ。これまでの俺は体に流れる桐生院の血筋を使ったから、周りが認識する鋼の意志があった」

 

 

見えないな精神論。

 

しかし中央では桐生院と言えばトレーナー白書に刻まれた鋼の意志という言葉はそれなりに有名であり、実際に桐生院家のトレーナーが担当したウマ娘で眼のモノ見せている。レースで絶対に折れない鋼の意志。それは担当したウマ娘を手放さず最後まで必ず走らせる力。それが名家桐生院の手腕。だから…

 

 

 

「君は本家と紛い物。どちらが良い?」

 

「……」

 

 

 

どちらかのカードを引けとカードゲームが好きな彼女に選択させる。

 

選ぶ時、眼は動く。

 

右か、左か、揺れる。

 

でも彼女は……鋼の如く、動かない。

 

もう選んでいたから。

 

 

 

「愚問ね、トレーナー」

 

 

 

そう言って彼女は一歩前に。

ストンと、こちらの胸元に頭を押しつける。

 

 

 

「決めてたわ。ずっと、ずっっっと、貴方に初めて出会ったあの時から、ずっっと決めてた」

 

 

 

改めて、サトノ家の人間というのは夢焦がれる生き物だと認識する。

 

これはそういう血筋か、またはジンクスの中で生まれてしまった要求の果てか、それとも彼女だからか、定まりのない中でこの熱量を感じる。

 

外は寒いから、これはより熱く。

 

 

 

「貴方しか居ない。もう貴方だけ。だって…熱を帯び続けるこの身体が、痛みを堪えるだけの未熟だった肉体が、それでも背伸びを諦めれない歪んだ骨骼が、サトノクラウンとして背負ったこの冠名までもが!私のために現れてくれた貴方ならと今も夢焦がれる。それはジンクスが終わった今でもっ…! 桐生徳である貴方にこの意志は譲れないから……」

 

「…」

 

 

こちらの頬に触れる彼女の耳。

 

最初は伸びていて、最後は萎れる。

 

目を下に配れば尻尾もわかりやすく動く。

 

感情に素直な、ウマ娘の仕草。

 

この世で一番嘘が下手な生き物。

 

そこだけは唯一、ヒトが優っている。

 

俺たちヒトは隠し事の中で生きるから。

 

 

 

 

「そういや、こんな話をしてないな」

 

「?」

 

 

 

彼女の頭をひと撫でして両肩を優しく掴み、ゆっくりとその場から離すと、俺はポケットからハンカチを取り出してその布を折り畳む。

 

 

 

「桐生院本家は昔から幸福(ジンクス)にあやかろうと考え、サウナで産まれる子供は熱にも耐えれる『鋼の意志』を得てもらうとしていた。しかし、それ以上に理由があった」

 

「理由…?」

 

「駆け落ち防止だってさ。どうやらサウナを封印の儀式として扱ったらしい」

 

「え?…ぇ」

 

「桐生家は、本家の桐生院の人間が他所と駆け落ちして産まれた血族だ。その華族は家名と血を守りたい。だから何を考えたのか、無茶苦茶な対策としてサウナを使った。駆け落ち防止のために」

 

「か、駆け落ち…」

 

 

呆れたように俺は笑う。

 

だってサウナやぞ?

サウナでなんとかなるとか頭サウナかよ。

 

まあ、その結果で俺はサウナ狂い。

 

ここら辺は桐生院かもな。俺ってのは。

 

 

「そして俺が産まれた頃は本家と分家で蟠りも無かったから、仕来りに従う形でサウナで出産した。産まれる子が幸せを求める形として。それでも血筋が桐生院だからか鋼の意志がこの体に刻まれてね。故に騒がしい時あるんだよ……ほれ、君のためにできた」

 

「!!」

 

 

折り畳んだハンカチを手に乗せて見せる。

 

___ハンカチで作った、冠だ。

 

 

 

「俺は名家と関係なくただのサウナ好きとして産まれたかった。でも桐生院である以上はこの血筋と付き合うことにした。まあでも地方ならそう関係ないだろうと思ってたから適度に勉強して、無事に資格を取って、それでひと段落付いたからサウナに足を運んでみたらその先でどうなった?サウナに焼かれようとする君がそこにいて……そして、俺も始まった」

 

 

 

そっとサトノクラウンの頭の上に乗せる。

 

驚く彼女に俺はからからと笑う。

 

 

 

「その冠、どうだ?」

 

「っ………ええ、とても……ふふっ、少しだけふにゃふにゃね」

 

「そうだな。鋼とは程遠いだろ?」

 

「ええ、そうね………でも…でも…」

 

 

 

彼女は にへら と笑い。

 

__ とてもあったかいわね。

 

吐く息を白く、頬はほんのりと赤く。

 

素直な冠が、与えられた冠に喜ぶ。

 

 

 

 

「俺の鋼の意志は『鋼』のように強固な代物じゃない。けれど鋼を作り上げるための『熱』はサウナのようで、それは紛れもなく俺がよく知っている。故に…」

 

 

 

___()()()()()()()()鋼の意思。

 

 

それは…

 

桐生院としての『意()』であり。

桐生徳としての『意()』である。

 

コレが俺の持つ賜物。

それを抱ける俺の金スキル。

 

 

 

「これが桐生徳の、鋼の意思かな」

 

「素敵ね、トレーナー」

 

「ありがとう。でもサトノクラウン。俺はまだ二年目のトレーナーで、そこに至るにはいつぞやの如く、日本ダービーを獲るくらいの証明が無ければサトノの熱を帯びるに足りない。今はまだハンカチを使わなければ目に見えない言葉を揃えるに鋼は2%の炭素を含めない。だから君がコレを確かにしろ」

 

「!」

 

 

 

頭に飾られたハンカチに指を刺す。

 

彼女は耳をピクピクとさせながら頭のハンカチに手を伸ばし、それを崩す。

 

するとハンカチは___()()()()

 

 

 

「!!!」

 

 

 

見えたのは『花瓶』のプリント。

 

良くありげな可愛らしい絵柄。

 

 

そして…

 

 

二文字で『花瓶(ヴァーズ)』と書いてある。

 

それがサトノクラウンに目に映る。

 

溶鉱炉の中に沸る熱の如く、色に染まる。

 

 

 

「俺が熱を込める。そしたら君が鋼にしろ」

 

「ぁ、ぁぁ、っ!」

 

 

 

見てわかる。

 

嬉しさのあまりに掛かり始めている。

 

やっぱり桐生院の血筋に焼かれてるのか。

 

それとも………いや、なんでもない。

今はそう言い訳しておこう。

 

 

 

 

「できるか?サトノクラウン」

 

「………っ!」

 

 

 

 

その声に彼女はハンカチを握りしめる。

 

ふるふると震える。

 

細切れる呼吸が静かなターフを揺らす。

 

でも、負の感情は何処にもない。

 

ただ、ただ、熱を帯びているだけ。

 

耳飾りの冠を揺らす。

 

眼の奥に秘められたサトノの意志を奮わす。

 

夢焦がれることを許された幸福(ジンクス)

 

それがまだサトノに続いている。

 

そうなってしまったサトノに与えられる。

 

だから…

 

彼女はあの時のように___言った。

 

 

 

 

 

 

 

「______ 採用です!!

 

 

 

 

 

 

 

顔を上げた彼女は満面の笑みでほんの少しだけ涙をこぼし、ターフを湿らせる。

 

そのハンカチで俺は彼女の涙を拭い、そしていつか、その嬉し涙が『ヴァーズ』に触れるだろうその時が訪れて欲しいと、彼女に夢焦がれることにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、聞いたかな?」

 

「どうした?」

 

「獲ったらしいよ、あのトレーナー」

 

「なんだ、ニュースを見たのか?珍しいな」

 

「たまたまだよ。でもすごいね、海外」

 

「そうだな。でも…君の方が凄かったよ」

 

「過去形?それはなんか寂しいなー」

 

「なら被り物を持って思い出すか?」

 

「しないよ、そんなの。窮屈は嫌い」

 

「なら、覚えてるだけに留めるさ」

 

「それが良いね………ねぇ、あの二人さ」

 

「?」

 

「小さいけど、とても大きいよね」

 

「…………ああ、そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

___良い()()()を見つけたからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サトノの『道化役者』と『冠』は調う

 

おわり

 

 

 

 

 

 

 










不真面目なあとがき。

砕いた方の先駆者にあやかってコチラも黒いバックでうまぴょい伝説を流しておきます。


さて、ここまで1か月間のお付き合いありがとうございます。

前書きの通りプロット不明なままノリと勢いとパスタだけで書き殴った作品ですが無事に終えれたと思います。多分これでいい。マフティーの時もそうだった。

まだまだ掴み切れないサトノクラウンですがそれだけ魅力が隠されていると言うことで実装楽しみにしてます。やっぱり想像に収めたままキャラ書くのたのしいわ。ミスターシービーの時もそうだった。てかアレ2年前なのか…

それからご存じの通り、ごまだれ醤油様の『トレーナー試験難しすぎワロタwwwww』を切っ掛けに始めた作品ですね。なにか軽く短編を書きたいと思ってた時に『読者♡書いて♡』はまさに「やってみせろよマフティー」でしたね。よく喋る!更新の度にボクが見張ってるからな♡もう逃がさないよ♡


長々とした、あとがきはココまで。

なんてことない作品ですが数々の感想と評価。
また誤字脱字報告ありがとうございます。

1か月間、とても楽しく書けました。








え?なんか物足りない?
なら良い方法がありますよ。














読者♡書いて♡



とくさんか?

  • 違います
  • そうです
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