たばこ   作:園田那乃多

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需要があれば続きます。無くても書きたくなれば続きます。


1.ヤニから始まる逆転生活

 

 それは喫煙所から始まった。

 

 俺がいつものように二限の講義にぎりぎりで遅刻しそうな時間に起床し、シャワーを浴びコンタクトを付け、最低限の身だしなみを整えて大学に行き、そして案の定遅刻するという半ばルーティン化した日常の、ふとした時。

 基本的に孤高を貫いてきた俺にとって、代わりに講義のレジュメや出席を取って来てくれる友人はいない。一人で大学に行き、誰とも喋らずまた一人帰ってくる、そんな毎日で、講義の合間に行く喫煙所だけが俺のキャンパスライフに潤いを与えてくれている。

 

 そんな折のことだった。

 

 ……なんか今日はやけに視線を感じる。

 まあ、ぼっちとは大概自意識過剰な生き物なので、誰かに見られているような気がしていてもそれは大体気のせいである。とはいえ、今はなぜだか視線を集めているのは事実。なんかやったか俺? あ、ほらまた目が合った。

 というか、今日ここ(喫煙所)女子率高くないか? なんなら俺しか男いないんだけど。

 いつもならこの大学隣のコンビニの喫煙所は、講義終りにヤニを補給しに来る男子学生や教授の吐き出す有害物質で、さながらこの世の掃きだめの様相を呈しているが、今はどうだ。(俺目線で)見目麗しい女子学生が吐き出す副流煙は、まるでアルプス山脈の新鮮な空気かと間違えてしまうレベルで澄んでいるではないか。ここがユートピアか?

 

 目線を感じる理由はそれで、喫煙所に吸い込まれてくる女子達がまるで珍しいものを見たと言うように俺に一瞥をくれ、その後もちらちらとこちらを窺ってくるのだ。いやいや逆だろうと。それは俺らクソヤニカス男が喫煙所にいる女子に対するそれであって、マジョリティは俺たち男側であるはずなのだ。

 二限終りという事もあって、時間があるためいつもなら昼飯をぱくつきながら二、三本吸って戻るところだが、流石に今はいたたまれない。いくら可愛い女の子が全自動空気清浄機でマイナスイオンが出ているからと言って、これでは針の筵だ。俺はそそくさとたばこをもみ消し、さっさと戻ろうとリュックを担いだ。あーこうやって退散しちゃうから彼女できねーんだろうなあ……。

 

 と、

 

「あの、平野君、だよね? 次の家族社会論取ってる……」

 

 声を掛けられた。

 三限の家族社会論を取っている平野君がこの場にどれだけいるかは知らないが、一応俺もその条件に該当する人物なので振り返ってみる。

 

「あ、やっぱりそうだ。いつも前の席に座るから覚えてたんだー」

 

 当然のことながら、この場に男は俺しかいないため話しかけてきたのは女である。

 無意識に作動する巨乳判定センサー(大きいと鳴る)が鳴らなかったことを少しばかり残念に思いつつ、その子に向き直るタイミングで外見を見やる。

 

 黒髪のハーフツインに薄いピンクのインナーカラー、これまた薄ピンクのチュニックと黒色に随所にハートとフリルがあしらわれたミニめのスカート。顔を挙げればぱっちりお目めは泣きはらしたようなメイクが映える。

 まあ所謂地雷系女子がそこにいた。

 

「あー、えっと?」

 

 もしかして逆ナンか!? と一瞬胸が弾むが、冷静に考えてそんなはずがない。この平野和(ひらのまどか)、逆ナンされるほどイケメンではないことは自分が一番よく分かっている。おばあちゃんにはかっこいいとか言われるんだけどなあ……。

まあ向こうにどんな思惑があるにせよ、女子との会話は心躍るもの。それがかわいい子であればなおさら。地雷系?メンヘラ? むしろウェルカムだね!

 

 とはいえ名前が分からないので初手から会話に詰まるのがぼっちクオリティ。

 

「あ…そうだよね、ごめん。私の名前なんか知らないよね……。私、七星希(ななほしのぞみ)って言うんだ。よろしくね」

「七星さんね、よろしく。……てかいい名前だな七星希って」

「あ、で、でしょ!? そうなの私も気に入ってるんだ、七つの星に願いをってね!」

 

 存外に名前が素晴らしすぎて思わず感心してしまった。この子の親御さんセンスあるな。

 そんなの言われ慣れてるだろうに、何がそんなに嬉しいのかことさらに喜色を露わにする七星さん。これが陽キャのノリなのか? 分からん過ぎるので取り敢えず本題に入りたい。たばこに火はつけない。すぐ終わるんだったらもったいないし気まずいので。

 

「で、なんか用だった?」

「あ、えと、そうそう! わ、私も次同じの取ってるからさ……よかったらライン交換しない!?」

「うお、逆ナンだ」

 

思わず声に出てしまった。こんなこと有り得るのか。普通にすぐ近くに人いるのに。ほら何人か見てるよこっち。

 

「逆……? で、でででも、ナンパなのはそう……!」

 

どことなくテンパる様子ながらも、よろしくお願いしますとばかりにスマホをずいと寄せられる。画面を見ると、友達追加のQRコードが表示されていた。

 

「だ、だめ……?」

 

俺が人生初逆ナンの感動に酔いしれていると、その沈黙を否定と受け取ったのかおずおずと言った様子で聞かれる。上目遣いで、その瞳はうるんでいるようにも見えた。

あーだめだなんかこの子すげえかわいく思えてきた。やだ、俺ちょろすぎ……?

 

「全然いいよ。はい追加」

「え“っ!? いいの!? ほんとに!? やったー!」

 

えっこの子俺のこと好きなんじゃね?(そんなわけない)

 普通に考えて逆ナンをしてくるような女は遊び慣れているものだが、目の前で嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる七星さんは無邪気そのもので、どうか俺のことが好きであって欲しい(強い願望)。

 というか人前でこんな目立つことしてたら……ってあれ? 全然人いなくなってる。

 腕時計を見れば、三限が始まる時刻指していた。ちなみにこの喫煙所から教室までは5分かかる。

 

「やっべ七星さんもう授業始まる!」

「えっやば」

「急げあの教授遅刻に厳しいぞ!」

「わっわ、まってまって~!」

 

 慌ただしく駆けていく俺は気付かなかった。

 七星さんが俺の名前を知る機会はないはずだ。発表とかない講義聞いてるだけの授業だから。

 そうなれば彼女は、一体なぜ俺の名前を知っていたのだろうか……?

 

 

 

 

 あのあと授業には普通に遅刻したが5分過ぎだったので何とか許してもらえた。

 普段から授業なんぞろくに聞いちゃいない。なぜならネット麻雀で忙しいからだ。はやく雀豪になりたい。

 本日もアプリを開いたところで、流れで隣の席に座った七星からメッセージが来るわ来るわ。お蔭で麻雀出来なかったし七星についての知識が上がったし何故か今度飲みに行くことになった。本当に何故だ。流れって怖い。

 そこで得た知識によると、七星は俺と同回生で同学部同専攻であり、進学を機に一人暮らしをしていて自炊はしない派のセブンスターを愛飲する彼氏いない歴=年齢のヤニカス女らしい。大学デビューしたんだとか。地雷系は果たして成功なのかと思うが、七星によると割とスタンダードな感じなのだそうだ。そうなのか……。

 社会の中の家族の役割に関する話よりも七星に詳しくなってしまった俺は、講義終了と同時に帰路に就いた。七星は四限もあるらしく、名残惜しそうに次の教室に向かっていった。その際に飲みに誘われ、快諾してしまったというわけだ。知り合ったばっかりなのに!?とびっくりしたがチャンスは拾う。当たり前である。

 なんだか今日はゆっくり歩いて帰りたい気分だったので、来るときに乗ってきた愛車のまなみ号(自転車)は大学にお泊りさせることにして家路に就く。きっと明日絶対後悔するが、こういう適当な性格をしてしまったのでもう仕方がない。俺は自分のことに関しては諦めが早い男だ。すまんなまなみ号……。

 

 寄り道は好きだ。普段通らない道を歩いてみるのは、存外に楽しいものである。新しい発見とかあるし。ほらこうやって男性の性的搾取を叫ぶポスターとか初めて見る。逆だろ逆。どうやって搾取されんだよ。むしろご褒美だろうが。

 道中、行きつけのたばこ屋のばあさんからたばこを買う。なんかおまけくれた。ラッキー。たばこ屋の軒先の灰皿で一服しつつ、隣の隣にある幼稚園に迎えに来るパパさん達を見て、ぼやっと先の講義の内容を思い返す。なんか性別役割分業だとか男性の社会進出だとか言ってた。全然聞いてなかったが小レポートあるしレジュメ見返しとくか。

 

「はー……男の社会進出なー……あ?」

 

 

 …え?

 ……なんかおかしくね?

 ……てか、男女逆じゃね?

 




・主人公
 平野和→平和→ピース→Peace

・ヒロイン1
 七星希→七星→セブンスター→Seven Stars
 
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