たばこ   作:園田那乃多

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明けましておめでとうございます。

今回は時間がちょっと巻き戻ってます。
そして今回も難解を極めるサブタイ。



10.Vstars

 

 わたくしは西園寺京(さいおんじみやこ)。我が大学の最大出資者、西園寺財閥の跡取りです。西園寺家に女子として生まれたものの宿命として、将来の成功は約束されたも同然ですが、同時に自由があまりないこともまた必然。まあそのあたりは高校時代に割り切りましたし、今は最後のモラトリアムとして大学生活をそこそこ楽しんでますのよ。

 

 そんなわたくしにも秘密がございます。

 それは……家には内緒でVtuberとして配信活動をしていること!ですわ!!

 

 始めた理由は単に面白そうだったからと大したものではありませんが、続けるうちに次は何をしようかとか、動画の編集だったりと今ではすっかりライフワークになっています。

 しかし、こんなことが家の者に知られようものなら、「まあ京お嬢様ったら……お可愛いこと(満面の笑み)」だとか、「あらあら……お可愛いこと(満面の笑み)」なんて小馬鹿にされるに決まってますわ! わたくしもうあの生暖かい目には耐えられませんことよ!

 わたくしのチャンネルが幾ばくかでも数字を持っているならまだしも、そんなことはありませんし。……今は確か登録者数13人だったかしら?

 動画の世界から一歩出たわたくしは、腐っても西園寺家跡取りです。それが本音かはさておいて、基本的に称賛され、皆からは興味と羨望を受けてきました。それが、西園寺というドレスを脱いだ私に興味を抱いてくれる人は世界でたった13人。正直なところを申しまして、がっかりしました。落胆しました。自分ってこんなものなのだ、と現実を知ったと言い換えてもいいかもしれません。

 でも別にいいんですの。私がやりたいことをやっているという事の方が重要です。卒業したらこんなことは出来ないわけですしね。

 

 ……とはいえですわ!!

 

 わたくしは一つ席を空けて隣に座る男子学生を盗み見ました。

 前の席に座っているにもかかわらず、一向に視線を上にあげる気配が無いこのお方。教授のお話なんぞ興味が無いとばかりにスマホから視線を逸らしません。

しかも定位置かのように毎回毎回同じ場所に座るのです。わたくしも席はいつも同じ場所に座っていたいと思う人間ですので、ここで先に場所を変えると何だか負けた気がしてそれも癪です。

多様な人間がいる場所ですから、そういう不真面目な学生がいることは知っています。嘆かわしいですが。でも、そういう方々って大体後ろの方に座ってひっそりするものではないですの? 前の席に堂々と座っておきながらそれをする豪胆さといいますか、無神経さに、最初はややムッとしていました。お名前なんて存じ上げませんし、わたくしは皮肉を込めて内心彼を「高等遊民」と呼んでいました。

 そんな高等遊民が、隣で一心不乱にスマホを凝視し続けていますので、多少なりとも何をご覧になっているか興味が湧くのは当然の結果です。どんなに面白いものを見ているのでしょうと、やや高圧的にちらりと目線を高等遊民のスマホに移しました。

 

 それがどうでしょう。なんと彼が見ていたのはわたくしの動画ではありませんか。

 最初はね、もう困惑ですわ。頭の中が「????」だらけです。「え、それ……え?」みたいな。再生回数10数回程度の動画なのに、実際に見てる方が存在するなんて思いませんでした。あまりにも伸びないので、最近はYoutubeのAIがクリエイターに忖度して「0は可哀そうだしこのくらいは表示させといてやるか(笑)」と適当にカウントしてるのかと疑っていたくらいですわ。

 もちろん最初は偶然かと思いました。たまたまオススメに出てきたものを興味本位で、という可能性です。まあそれでも十分嬉しいですが。

果たして結果は違いました。毎週毎週あの時間に彼は私の動画を見ていたのです。わたくしは概ねいつも毎週日曜日の23時ごろに動画をアップロードするので、彼は前日にアップしたほやほやのものを見ていてくれることになります。

 

 限界まで盗み見た所、どうやらコメントやいいね等はしていない様子。

 でもそんなものいいんです。身近に、こんな身近にわたくしの動画を心待ちにしてくれている方がいたことを知ることができたのですから。わたくしは何だか胸の中に言いようのない気持ちが沸き上がってくるのを感じていました。それは、恥ずかしさであったり、こそばゆいような嬉しさであったり、何故その動画を見ているのかという彼への興味であったり。総じて、「再生回数などどうでもいい」という建前の裏にあった「本当は見て欲しい」という本音をくすぐるものでした。

 

 以降、月曜二限の授業ではわたくしの動画を見る彼を見るわたくしという些か怪奇な状況が生まれたのは当然の結果と言えます。ああ、自分の動画を目の前で見られることの恥ずかしさや期待感といったら他に比類なき快感ですのね……。

 そんなわけで、わたくしはわたくしのファン一号の為にもより一層動画づくりに励んでいくと心新たに誓いました。ふふっ、名前も知らない殿方のためにここまで温かい気持ちになれるなんて。案外、恋ってこんな感情なのかもしれませんわね。

 

 

 

 

 土曜日。とあるカフェ。

 

「ねえねえですわちゃん、今夜皆で映画行くんだけど、ですわちゃんもどう?」

 

 同回生のお友達である中川さんが、アイスコーヒーをストローでかき混ぜながらそう聞いてきました。ちなみにですわちゃんはわたくしの渾名です。この口調が珍しいからか、初対面の時からそう呼ばれています。なんだか可愛らしい響きで存外嫌いじゃありませんわ。ふふ、これもノブレスオブリージュってやつですわ!

 

「それは楽しそうですわね……」

 

 今夜かぁ、と暫し思案に耽る。出来れば動画の編集作業を終わらせてしまいたい。日曜日にきちんとアップロードしなければ、わたくしのファン一号である彼が悲しんでしまうだろう。できれば教室ではわたくしの動画を見る彼を見ていたいし。

 

「いえ、折角ですがやめておきますわ」

「ええ~残念……。やっぱ夜更かしは美容の大敵だから?」

 

 ぶうと口をとがらせて残念がる中川さん。あ、こら。淑女がストローでぶくぶくするんじゃありません。

 

「それもありますが……。わたくしを待っていてくださる方がおりますので、ね」

 

 流石に仲良しの中川さんといえど、動画配信をしていることは言えていないのでちょっとぼかして伝えるにとどめました。

 

「え、そ、それってまさか……」

「ふふふっ」

 

 さあ、この後も動画編集頑張りますわよ~!!

 

 

 

 

 二日後。

 なんて思っていた時期がありました。

 

 その日もわたくしは動画を前日の夜にアップロードし、私の動画を心待ちにしているファン一号の隣に腰を下ろしました。

 授業が始まり彼がスマホを取り出したのを確認し、どんな表情で見ているのだろうなんて思いつつ、こっそり盗み見ると。

 

「……あミスったまだ立直じゃないわ」

「……? ……?? ……????」

 

 ぼそりと聞こえた彼の呟き。

 リーチ棒を出すエフェクト。

 鳴かれて一発が消される様子。

 

 

 彼は麻雀をしていました。

 

……な、なななななんでですのぉぉぉぉぉ!!?

 慌ててスマホを取り出し、今日の日付と時間を確認しましたが間違いなく月曜日の午前10時45分です。というかそもそも彼と同じ授業がこの日のこの時間しかありません。

 わたくしは自身に何かしらの見落としやミスが無いことを確認すると、内心これでもかと「?」を浮かべつつ、平静を取り繕った顔を前に向けました。

 どうしたのでしょう一体何があったのかこれっぽっちも分かりませんわもしかして面白くなくなってしまったのかしら飽きられてしまったのかしらでも登録者の数は変化ないしでもでも最初から登録はしていなかったという説もあるしあぁもう意味わかんない!!

 

 はっ、いけないつい素が。

 気を取り直すように再度隣の高等遊民を見ますが、相も変わらずわたくしの動画よりも麻雀に熱中しているご様子。さぞ楽しいのでしょうね!

 恨めし気に視線を送るわたくしに気付く様子もなく、彼はそのまま麻雀をして授業を終えました。わたくしも今日に限っては教授のお話は微塵も耳に入ってきませんでしたが、そんなものは些事ですわ。我が西園寺財閥の総力をもって、あの高等遊民を特定し然るべき制裁を与えてやりますわ! まあ動画のことは伏せざるを得ないので制裁といってもたかが知れますけど。多分せいぜいが彼のレポートだけ教授がよく見るようになるとかそんなものですわ。

 

 わたくしは授業が終わると爆速で教室を出て行く彼の背中を一瞥する。

 西園寺家の令嬢を弄んだらどうなるか、思い知るといいですわ!!

 

 

 

 

「和さ、あの底辺Vtuberまだ見とんの? よく飽きんなぁ」

「底辺言うな。あれ90分の長尺動画ばっかだから授業中見るのにちょうどいいんだよ。たまに素が出るのがいい」

「さっきも見てきた?」

「いや昨日上がったのは何か知らんけど120分あったから、流石に家帰って見る」

「そんな長い雑談動画ばっかだから日の目を見ないんやろ……」

「よせ、それがいいんだそれが」

「わかったわかった。じゃ、パチンコ行こか」

「行かねえ」

 

 

 




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