「おーい」
「……」
セブンの喫煙所で気を失っている七星の眼前で手を振ったりしてみるが反応が無い。
七星が肖像と化している理由はいまいちよく分からないのでちょっと怖い。いきなり反応が無くなったから新手のいじめかと思った。俺をいないものとして扱う的な。
「どうすっかなこれ」
まあ多分そういうのではないので、肩を叩くなり揺さぶってみるなりすればいいだろうが、女の子に触るのとか緊張するので現実的じゃない。ほら、意識のないかわいい子に男が勝手に触るって、傍から見れば事案じゃん? ……あ、この世界じゃ違うのか。
「うーーん」
七星像の前でしばし考えた末。
「……仕方ない、置いてくか」
そうなった。だってほら、女の子って放置すると強くなるんでしょ? そういうゲーム広告で見た。
☆
俺は大学生なので今パチンコに来ているが(謎理論)、放置して絶賛強化中の七星のところに戻ったほうがいいのではという考えがよぎる。まだ駐車場だしそんなに時間は経っていない。戻ろうと思えば戻れる。一応ラインでメッセージは残してきたが、なんだか段々と忍びなくなってきたな……。そう思うなら最初からすんなという意見もある。
とはいえ、俺は大学生なので金が無い(謎理論)。なし崩し的に今夜飲みに行く流れになってしまった以上、どうにかして飲み代を捻出しなければならないのだ。しかしながら、あと数時間で金を用意するなど土台無理な話だ。パチンコで当てもしない限りは。なので女の子を放置してパチンコに来ても仕方のないことなのだ。なのだ!(強調)
手持ちにあるのは無くなれば割と命を削る感じの金だが、まあ当たれば問題ないのだ。それにさっきバイトしたので実質バイト代分は回せる計算である。ふっ、なんだ余裕あるじゃん。
自動扉を抜け、冷気と喧騒の中へ入っていく。この店は手前側にスロット、奥にパチンコ台があるため、奥の方へ歩いていく。
数千円だけならスロットの方が効率がいいような気がしないでもないが、あちらはあまり触れてこなかったので、順当に慣れたパチンコの台に座った。パチンコ屋の女性比率の高さにももう慣れたものだ。流石学生の街というだけあって、大学生らしき女が多い。皆死んだ目を一層腐らせてハンドルを握っている。世も末だな。
そういえば幸中の奴はもう帰っただろうか。流石にこんな時間まで打ってるなんて無いと思うが、まさかの大勝ちしていた場合はいつまでもやってる可能性が大いにある。そんで勝った分を溶かすまでがテンプレ。なんでパチンカスってやめ時が分かんなくなってしまうのん?
幸中の行方は少し気になったが、まあどうでもいいかと思い直して俺は台に向き直った。だって幸中だし。
何となく大当たりが結構出ている台を選んだが、実際どうなんだろうなこれ。オカルトと言えばそこまでだが、信じるものは救われるって言うしなぁ。
「き、きたぁぁぁぁぁぁっ!!!」
なけなしの千円を投入しようとすると、隣から店内の喧騒を掻き消すレベルの快哉の喚声が聞こえるが、パチンコ屋ではままあることだ。女の子の声でそう怒鳴られるとちょっとびっくりするのには慣れないが、まあラッシュ入ったんだろうな、続くといいねくらいにしか思わない。
しかし、いざ俺が打とうとした台の間隣で大当たり入られるとなんか運が吸われる気がするので違う台にしよう。
そう思い、台から離れ際に隣のカスをひと目見ようと顔を向ける。
「あ、ああぁぁあぁぁ待ってやめて噓まだ一回転目でしょなんでなんでなんでぇぇぇぇぇ……!」
「…………」
知り合いだった。
☆
千田麻衣と俺との関係は浅く、知り合い以外の何物でもない。今日みたいに会った時は「調子どうよ」的な会話はするが、パチンコ屋でしか会わないため今日勝った負けたみたいな話しかしてない。これはお互いバリバリ意識し合ってる男女が仲を冷やかされたときに出る「もぉ~ほんとに何でもないってぇ~」という照れ隠し的なあれではなく、ガチのやつだ。
その証拠に、互いに名前と歳が近いであろうこと以外の情報は持ち合わせていない。あ、吸ってるたばこの銘柄は知ってるか。千田はマイルドセブン…メビウスを相棒としてる。選んだ理由は知らない。多分パッケージがかっこいいからとかそんなん。
知ってる情報なんてほんとにこれくらいだ。そもそも互いにそこまで興味が無い。まあ胸はデカいけどな!(興味津々)
ちなみにこれはどうでもいい話だが、マルボロのアイスブラストをメビウスのオプションシリーズの一つだと勘違いしていてキレられたことがある。だってちょっと似てるじゃん……。
「ぐすっ、単発終了なんておかしいよぉ……」
「元気出せよ。また当たり出せばいいじゃん」
「もう手持ちが無い……持ち玉もない……食費もない……」
「……」
どうしようクズ過ぎてなんも言えねえ。
一旦外の喫煙所に出てメビウス8をぐったりと吐き出す様は、そのまま魂まで出て行ってしまうのではと心配になるほどだ。まあ食費までつぎ込んだ博打を外せばそうもなるか。しかもなまじ当たっただけに、彼女のメンタルブレイク加減は推して知るべしである。
というか、この光景すごいデジャヴなんだよな。最初会った時もこんな感じだった気がする。隣でやかましく打つ千田に切れそうになって横向いたら外しててなぜか慰める、みたいな。初対面なのに喫煙所まで付き添って慰める俺優しすぎる。まあ胸がデカくなければほっといてたけど。これが万乳引力の法則か……。七星にも胸があれば付き添っていたのかもしれないとかいう最低な考えがよぎった。
「平野さ……お金貸して」
「うわあ……」
俺に金を無心し始める限界パチンカスを見て思わず目を逸らしたくなるが、ここで金を貸す代わりに胸の一つでも触らせてくれと言うとどうなるだろう。
改めて千田を見るが、普通に顔はいいんだよな。胸もデカいし。ウルフカットにブラウンのインナー入っててかっこいいし、ジーパンに柄物のTシャツも自然な雰囲気で似合っている。彼氏がいても全然おかしくない外見してるのだ。まあ目が死んでてヤニカスでパチンカスな時点で人権は無いけど(ブーメラン)。
ともあれこの世界基準で考えるなら「全然いいけど」とか言われそうだし、俺なら言う。なのでついOKしてしまいたくなるが、残念ながら金を貸せるだけの余裕は俺には無い。残念ながら!
……いや待て。新田と別れ際、俺は何て言った?
確か、「お前の奢りな」と言い、向こうも了承しなかったっけか。
……あれ? これ胸触るチャンスでは??
俺が後輩の奢りを当てにする事と、生活費に手を出す二重のクズさに目をつぶるなら、これは胸を触れるチャンスではないだろうか。ど、どうするどうしたらいい……? 胸か、金か……。究極の二択過ぎる……。
「あー……嵐山行ってなければまだワンチャンあったのに……」
俺が性欲と金の狭間で葛藤している横で、千田は盛大にため息をついていた。
特に興味はないので聞き返したりはせず、俺も隣で煙を吐き散らかす。
煙と一緒に葛藤も吐き出した。
新田の奢りならもうそれにたかろう。そんで金は貸さない。流石にクズの重ねがけはまずい。罪悪感が半端ない。多分罪の重さ的にお年玉でパチンコ行くのと同じレベル。それは流石にだめだ。
最近後輩には奢られてばかりな気がするが、もういい。諦めた。いつか宝払いで返す。一つなぎの大秘宝見つけて海賊王なる。
「じゃ、俺行くわ」
たばこを灰皿に落とし、踵を返しながらそう告げる。体は駐車場を向いていた。
「あれ、打ってかないの?」
「ちょっと忘れ物した」
「お金は?」
「貸さない」
「そーかそーか、つまりきみはそういう奴だったんだな」
「はいはいエーミールエーミール」
なおも後ろでぐちぐち言ってくるパチンカスは努めて無視して、俺はまなみ号Ⅱへ向かった。
もちろん向かう先は先のセブン。まだいるかは分からんが、何故だか今は無性に罪を雪ぎたい気分だった。いたら謝ってセブンスター奢ろう。
次回は新田ちゃん視点